『……………』
その日、いつも基本的にゆるふわとした空気が漂っている283プロの事務所に緊張感が漂っていた。Pたんやはづきちさんだけではなく、私たち『アンティーカ』や『放課後クライマックスガールズ』や『アルストロメリア』や、つい先日無事にデビューを果たした『イルミネーションスターズ』も揃った全員が一堂に集結していた。
「……いや多いな!?」
「もしかして全員集まるのってこれが初めて……?」
先ほどから私が思っていたことをじゅりちーが代わりにツッコミしてくれた。チョコちゃんの言う通り、事務所のアイドルが全員揃うのは初めてのような気がする。
「うぅ……ギチギチ……」
「甜花ちゃーん、甘奈のお膝にどーぞ!」
「果穂! 狭かったら私の膝の上に座るといいわ!」
「大丈夫です!」
『W.I.N.G』参加アイドル十六人、そこにPたんとはづきちさんも含めると総勢十八人の大所帯は流石に手狭である。
ちなみに、今回唯一『W.I.N.G』に参加しない我らが先輩アイドルたる緋田美琴さんは不在。この後生放送される歌番組に出演するために今頃テレビ局だ。
……あれ? 美琴さん以外にも誰かを忘れているような……?
「みんな、そろそろ時間だぞ」
「っ」
Pたんの言葉に全員が息を飲んで壁に駆けられた時計に視線を向ける。現在時刻は十四時五十九分三十秒。カチカチと音を立てて秒針が頂点に向かって進み、そして。
「っ! 時間だ!」
十五時。
『W.I.N.G』第一次選考『ファン投票』、開始。
「ってサイト落ちた!?」
「だろうね!?」
「だから俺はブラウザじゃなくてアプリにしようって言ったんだ」
『ふん、私のところだったらこんな失態起こさせないわよ』
「自社サーバー抱えてるところと比べられてもなぁ」
『W.I.N.G』第一次選考開始の瞬間を、俺は麗華との通話中に迎えた。予想通りというかなんというか早速サーバーが落ちたものの、とりあえず十分後には復旧してくれた。
「なにはともあれ、これで正式に『W.I.N.G』開催だ」
第一次選考は公式サイトを利用したファン投票。開票までの一週間、それぞれアイドルはファンへの投票を呼び掛けるアピールタイムとなる。
「結局1054やUTXから参加はさせなかったんだな」
『私、勝てる勝負以外にベットするの嫌いなのよ』
「それ聞いたら生徒泣くぞ」
『アイドルの王様』的な意見を言えば、是非全員勝ち上がってもらいたい。とはいえ現実問題それは難しく、
「……頑張れよ、みんな」
出場登録アイドルの一覧をスクロールして眺めると、
『……あ、そろそろじゃない?』
ともみの言葉に意識を部屋の壁にかけられたテレビに戻す。現在とある歌番組が生放送中で、そこに珍しく美琴が出演すると聞いていたのでみんなで見守ろうというのが今回のビデオ通話の目的だった。
『……今更だけど、なんで私たちはこんな新人アイドルに対してするようなことをしてるのかしらね』
「そりゃみんな心配してるからだろ」
『美琴、「うちの新人アイドルたちの応援をする」って言ってたけど……それっていいの?』
「実際の選挙の応援演説みたいなもんだよ」
第一次選考期間中における出場アイドルたちが用いることが出来る戦術の一つとして挙げられるのが、この『先輩アイドルによる応援』である。出場可能な新人アイドルよりも長く活動して知名度がある先輩アイドルにマーケティングしてもらう、という実に単純明快な戦術だ。
先輩アイドルの活躍に依存するため全ての新人アイドルが取れる戦術ではなく、立ち上げたばかりの事務所や無所属のアイドルから見れば不公平に思われるかもしれないが、逆にそれら全てを禁止する方が難しいのである。
『本日のゲストはこの方! 現在人気上昇中! あの『周藤良太郎』や『魔王エンジェル』の同期としても有名なアイドル! 283プロダクションの緋田美琴さんです!』
『随分とまぁ持ち上げられるじゃない』
『事実ではあるけど、普通はこんな風に紹介されると嫌がるよね』
「美琴はそういうこと気にしないだろ」
とはいえ、あんまり良い進行じゃないことも事実。既に今の美琴は
今後この番組とのお付き合いの仕方をちょっと考えさせられる。多分ビデオ通話中の画面の向こうの麗華も同じようなことを考えていると思う。すっごい眉間に皺が寄ってる。
そんな日本のトップアイドル二人からの評価がマイナスからスタートしているなんてことを当然知らない司会者が美琴にマイクを向けた。
『美琴さん、本日はよろしくお願いします』
『はい。……えっと』
『美琴さん?』
『今日から『W.I.N.G』が始まったけど、ウチの283プロの新人アイドルたちへの投票、よろしくね』
「『『いやトーク下手くそか』』」
思わず三人揃って目元を覆って天を仰いでしまった。
「ただいま~。あ、ちょうど美琴の出番だ、いいタイミングだね」
「そうだな……ある意味いいタイミングだったよ」
「?」
たまたま離席していたりんが状況を理解出来ず、可愛らしく小首を傾げていた。
「本日はよろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします!」」」
「おっ、君たちが昨日美琴ちゃんが言ってた新人アイドルちゃんたちだね? 今日はよろしく~!」
『W.I.N.G』が正式にスタートした翌日、私たち『イルミネーションスターズ』は早速ミニライブのお仕事へとやって来た。本番前にイベントの責任者の下へプロデューサーさんと共に挨拶に向かうと、早速『昨日のテレビ見たよ』と笑ってくれた。
「い、一応昨日の美琴のダイレクトマーケティングは成功したってことかな……」
「ネットでもちょっとした話題になってたもんね~」
プロデューサーさんは苦笑しているが、めぐるちゃんはニコニコと笑っていた。そして一方で灯織ちゃんが何故か顔を青くしていた。
「正直私は美琴さんのこととやかく言えない……私もいつかあぁいうのやらかしそうな気がする……」
「そのときはちゃんとわたしたちがフォローしてあげるって! ね~真乃!」
「うん、大丈夫だよ灯織ちゃん、心配しないで」
「めぐる……真乃……!」
あの日、灯織ちゃんとめぐるちゃんの三人でいっぱいお喋りをした。それぞれが胸に抱えていたこと。『これはきっという必要のないこと』だと決めつけていた胸の内を打ち明けた私たちは、以前よりももっと仲良くなれた。
そしてお互いの気持ちが分かり合うことで、不思議と三人のリズムが揃うようになった。そうして迎えたデビューイベントも無事に成功して、こうして今私たち三人は『イルミネーションスターズ』として活動している。
「それで、今日のミニライブは他の事務所のアイドルと一緒なんだよね?」
「あぁ、そうだ」
控室に向かう道中、めぐるちゃんからの質問にプロデューサーは首肯した。
様々な事務所のアイドルが活発に活動する現在、昔よりも『別所属のアイドルが同じイベントで一緒に仕事をする』という状況が多くなった……らしい。あくまでもプロデューサーさんからの受け売りではあるが、確かに言われてみればなんとなくそんなような気がする。
「昔は『バーター』って言って、有名な芸能人へのオファーを受ける代わりに同じ事務所の知名度の低い芸能人を共演させることが多かったんだけど、最近ではあんまり聞かなくなったんだ」
「その言葉自体は聞いたことがあるような気がします」
「正確には『アイドル業界では』だけどね。『周藤良太郎』や『東豪寺麗華』が色々頑張ったらしい」
「それっていいことなんですか?」
「んー……俺は良し悪しだと思ってる。この辺のことを話すと長くなるから、気になるようならまた機会を作るよ」
「うーん、なんか難しそうだなぁ」
「それなら分かりやすく解説してる動画がある。123プロ公式の『佐久間流周藤良太郎学』っていう動画シリーズがあるんだけど……」
そんなことを話している内に控室に到着したが……その部屋に入る前に、プロデューサーさんは
「それじゃあ……まずは、今日共演する人たちに挨拶しようか」
先ほど、既に『彼女たち』が到着していることは聞いていた。
「
「ううん、私が一方的に知ってるだけだから、向こうは知らないと思う」
コンコンとプロデューサーさんがドアをノックすると、中から「はーい」という女性の声が聞こえてきた。
「どちら様ですか~」
「本日ご一緒にお仕事をさせていただく283プロダクションのものです。ご挨拶に参りました」
「はーい」
ドア越しにやり取り後、楽屋の中からドアが開かれて中から優しそうな眼鏡の女性が姿を現した。
「どうぞ、お入りください」
「失礼します」
「「「失礼します!」」」
女性に促されて楽屋に入り、そこで私たちは『三人の少女』と対面する。
「は、初めまして。283プロダクション所属『イルミネーションスターズ』、櫻木真乃です」
「八宮めぐるです! よろしくお願いします!」
「風野灯織です、よろしくお願いします」
「こちらこそ初めまして!」
私たちの挨拶に、青い髪の少女が快活な笑みを浮かべた。
「310プロダクション所属! 『ライトニングスターズ』の中島スバルです!」
「同じく、ティアナ・ランスターです」
「きゃ、キャロ・ル・ルシエです……」
・誰かを忘れているような……?
お忘れはCVツダケンですか?
・応援演説
デレP的にはタイムリーな話題になっちまったぜ……。
・310プロダクション『ライトニングスターズ』
詳細は次回!
アニメからも漫画からも逸脱したオリスト入ります。一応ライバルユニットは『三組』ほど想定しております。