アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

657 / 664
彼女もまた星を冠する者。


Lesson487 星を冠する者たち 3

 

 

 

 ティーダ・ランスターは俺の友人だった。勿論現在でも友人のつもりだが、()()()と過去形で表現したのは今まで彼と一切連絡を取っていなかったからである。

 

 ティーダと出会ったのは俺がまだ新人アイドルと呼ばれていた僅かな期間。演技の練習をするためにとある劇団に参加させてもらったときに、俺の教育係として付いてくれたのがティーダだった。

 

 そして……現在の『周藤良太郎』の演技の礎を作ってくれた存在でもある。

 

『良太郎は表情での感情表現が出来ない分、それ以外のところで補うしかないね』

 

 それぞれ『トップアイドル』と『名優』を目指してお互いに頑張ろうと約束して別れ、いつしか俺もトップアイドルなんて呼ばれる存在になった。ティーダもすぐに名の知れた役者になると信じていたのだが……。

 

 

 

「久しぶりだな、ティーダ」

「……あぁ、久しぶり、良太郎」

 

 喫茶店にて約八年ぶりに再会した友人は、随分と様変わりしていた。

 

「方向性変えた? 今の陰のあるイケメンも悪くはないけど、俺は前の爽やかイケメンの方がいいと思うぞ」

「再会して真っ先に言うことがそれか?」

 

 苦笑するティーダ。笑い方は昔と変わっていないようで少し安心した。

 

「ティアナちゃん、凄い美人さんになったな。ビックリしたよ」

「あぁ、自慢の妹だ。いくら良太郎でも易々とあげられないぞ」

「悪いな、俺今婚約者いるんだ」

「えっ、ホントか?」

「ホント。誰だと思う?」

「……お前の好み的に考えると『魔王エンジェル』の朝比奈さんだろ」

「そんな昔から俺の好みって筒抜けだったの……?」

 

 そんな他愛もない会話をダラダラと続けていても良かったのだが、どうしても今のティーダの様子が気になってしまう。

 

「それで、何があったんだ」

 

 ティアナちゃんの態度が気になった俺は、ネットでティーダのことを調べてみた。どこかの劇団に所属して舞台に出演していれば、どんな端役だったとしても名前ぐらい出てくるだろうと考えた。

 

「まさか、役者辞めたのか?」

 

 俺に演劇を教えてくれて、ともに将来の成功を誓い合った『ティーダ・ランスター』の名前は、何処にも見つからなかった。

 

「……少し、人間関係のトラブルがあって。それで……ちょっと()()()()るんだ」

「っ」

 

 思わず拳に力が入る。

 

()()()()()()()?」

「良太郎は一切俺のことを疑わないんだな」

「疑うもんか。ティアナちゃんが関係しないことでお前がそんなヘマするもんか」

「それは嬉しい評価だ」

 

 ポツリポツリとティーダが話してくれた内容によると、何故か全く無関係の男女関係に巻き込まれて、それが刃傷沙汰にまで発展してしまったらしい。

 

「まだ脇腹に傷跡が残ってるよ」

「……とりあえず、今無事で良かったよ」

「ありがとう、良太郎」

 

 しかしその結果、ティーダは一切舞台に昇ることが出来なくなってしまったらしい。

 

「……………」

 

 もしこれがアイドル業界の話だったら……せめてテレビ局が絡むような話だったら、俺でも介入出来たかもしれない。いや、数年前までならば無理矢理にでも関わることが出来ただろう。しかし()()()には、逆に手を出すことが出来なくなってしまった。

 

 喉の奥まで出かかった「すまない」という謝罪の言葉を、俺は静かに飲み込んだ。

 

「今は『劇団ララライ』ってところで細々と雑用をさせてもらってるよ」

 

 ティーダはそう何でもないように言うが、演劇畑に詳しくない俺でも名前を聞く程度には有名な劇団である。ついでに悪友のような知り合いがいるところでもあった。あとでついでにこちらからも話を聞いてみることにしよう。

 

「……もう、舞台に立つつもりはないのか?」

「まさか。どんな目で見られることになろうとも、俺は舞台にしがみついてやるよ」

 

 弱々しく、しかし真っ直ぐな瞳でティーダはそう宣言した。

 

 そんな彼の姿に一安心しつつ、思い出すのは先日顔を合わせたティアナちゃんのこと。

 

 

 

 ――兄のような俳優志望ですが。

 

 ――やれというのであればアイドルでも何でもやります。

 

 

 

(もしかしてティアナちゃん……)

「なぁ、良太郎」

「っ、なんだ」

 

「ティアナのこと、頼むよ」

 

「……………」

「別に贔屓しろとか下駄を履かせろとか、そういうことを言いたいんじゃない。可能な限りでいい。良太郎の目の届く範囲で、手の届く範囲でいい。どうかティアナを……守ってやって欲しいんだ」

 

 ティーダが何を言いたいのかはすぐに分かった。

 

「あぁ、任せろ」

 

 少なくとも俺の目が黒い内は。

 

「そういう悪意からアイドルを守るのが、俺の役目だ」

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした」

「「「お疲れ様でしたー!」」」

 

 ミニライブは無事に終了した。特に大きなミスもなく、確実にステージは成功だったとプロデューサーさんも言ってくれた。

 

「本当はスバルちゃんたちにも挨拶したかったのにな~」

「バタバタしてたら、あっという間に帰っちゃってたね……」

 

 そんなことを言いながらめぐるちゃんが唇を尖らせる。次のスケジュールの関係上、私たちが楽屋を出るよりも先に310プロのみんなは次の現場へ向かってしまった。

 

「でも連絡先はしっかり交換したし、今度一緒に遊びに行こうねって約束もしたよ~」

「いつの間に……」

 

 現場を後にしながら、私は先ほどの『ライトニングスターズ』のステージを思い返す。

 

 元気一杯なスバルちゃん、一生懸命なキャロちゃん、そしてクールなティアナちゃんの三人組ユニット『ライトニングスターズ』。自分で言うのもちょっとアレだけど、少しだけ私たち『イルミネーションスターズ』と似ているような気がして、勝手に親近感が湧いてしまっていた。

 

 ただ、そんな中で一つだけ気になることがあった。

 

(……ティアナちゃん、凄く必死だった)

 

 それが悪いことだとは言わない。寧ろ必死だったのは私も同じだし、きっとめぐるちゃんも灯織ちゃんも、そしてスバルちゃんやキャロちゃんだって必死だったはずだ。まだまだ駆け出しアイドルである私たちはみんな必死だ。

 

 しかしそれを加味したとしても……ティアナちゃんの歌とダンスからは鬼気迫るものを感じてしまったのだ。きっとそれだけ真剣で本気なのだろう。

 

 余計なお世話だと思いつつも……私は、どうしてあんなに必死なのかが気になってしまうのだった。

 

 

 

 その日の予定が全て終わり、私たちは帰路へと着く。近くの駅までプロデューサーさんが車で送迎してくれて、そこでめぐるちゃんや灯織ちゃんともバイバイする。

 

 同じく帰宅する人で賑わう駅で改札を通るためのパスをカバンの中で探していると、その隣からカシャンという音が聞こえてきた。

 

「あっちゃー」

 

 殆ど無意識に音の方へと視線を向けると、何やら車椅子の女性が座ったまま前屈みになっていた。その手の先にはスマートフォンが落ちていて、どうやらそれを拾おうとしているらしい。

 

「あ、危ないですよ」

 

 咄嗟に私は女性の方に駆け寄ると、落ちているスマートフォンを拾い上げた。

 

「はい、これですよね」

「わぁ、ありがとー! いやー、これぐらいなら取れると思ったんだけどねー。横着しちゃった」

 

 多分大学生ぐらいの眼鏡のお姉さんは、そうケラケラと笑っていた。

 

「お一人ですか? もし何かお手伝い出来ることがあれば……」

「あーだいじょーぶだいじょーぶ。今子どもたちがそこのコンビニに買い物に行ってて、それを待ってるだけだから」

「そうですか、なら……えっ、子ども……」

 

 思わず声に出てしまった。

 

「ご、ごめんなさい」

「気にしてないからいいよ、よく言われるから」

 

 お姉さんは人差し指と親指を立てて顎に当てると、不敵な笑みを浮かべた。

 

「こー見えて私、高校生二人の母親なの」

「こっ……!?」

 

 思わず口を手で抑えてしまった。それぐらいビックリしてしまった。

 

 二十歳で産んだとしても三十五歳。二十歳前後と言われても驚かないぐらい若く見える女性に、私と同年代の子どもがいるという事実に驚きを隠せなかった。

 

「ママー、お待たせー」

「ん、何かあったのか?」

 

 そんな声に振り返る。

 

「わっ……!?」

 

 美人。そう表現する他ないぐらい、とても整った顔立ちの男女だった。

 

 同じ色の金髪。まるで吸い込まれるぐらい大きくパッチリとした瞳。一度目にしたら視線を外すのが惜しくなってしまうぐらい、とても綺麗な人たちだった。

 

「お帰りー。スマホ落としちゃってさー、この親切な子が拾ってくれたの」

「そうなんですね! ママを手伝ってくれてありがとうございます!」

「ありがとう。どうせまた横着して、そのまま手ぇ伸ばして拾おうとしたんだろ」

「ひゅーひゅー」

「相変わらず口笛下手だな」

 

 礼儀正しく頭を下げる女の子。男の子もお礼の言葉を口にしつつも、言動に若干の棘が見え隠れしているようだった。

 

「って、あああぁぁぁ!?」

「煩い。往来で叫ぶな」

 

 突然、女の子が私の顔を見て叫んだ。隣に立つ男の子に後頭部をチョップされていたが、そんなことも意に介さず女の子は「もしかして!」と私に詰め寄って来た。

 

(283プロの、櫻木真乃ちゃんですよね!?)

「っ」

 

 そんなことをこっそりと耳打ちされて、私は思わず叫びそうになってしまった。

 

「おい、そういう話しかけ方すると逆に警戒されるだろうが」

「えー? 私なりに配慮したつもりだったのにー」

 

 一歩距離を離そうとする私を見て男の子が女の子に注意をすると、女の子は「大丈夫です安心してください」と両手を振った。

 

「私も()()()です」

「えっ」

 

 一体私は今日何回驚かされればいいのだろうか。

 

 女の子は「初めまして」とニッコリ笑った。

 

 

 

「『15プロダクション』所属、『B小町』の星野(ほしの)瑠美衣(ルビー)です」

 

 

 




・ティーダ・ランスター
ティアナの兄。原作では故人、イノセント時空では健在。
この世界では役者の上に良太郎の友人兼先生という設定が生えた。

・「干されてるんだ」
・「誰に嵌められた?」
既にお察しの方もいらっしゃるでしょう。ヤツです。

・『劇団ララライ』
『推しの子』に登場する劇団。ヤツが所属していた。

・(……ティアナちゃん、凄く必死だった)
着実にこの世界でもファントムブレイザーキャンセルフラグが立っている模様……。

・大学生ぐらいの眼鏡のお姉さん
とある事件に巻き込まれて歩くことが困難になってしまったらしい。

・星野瑠美衣
『推しの子』に登場するメインキャラ。
Lesson436で兄と共にひっそりと登場していましたが、ついにメインストーリー合流です。
シャニマス本家にも登場しているから、実質アイマスキャラ!



 ライバルユニット二組目の登場です。アイドルマスターとリリカルなのはと推しの子がクロスオーバーしている作品はここだけ!(多分)

 ちなみにヤツに関しては更生ルートも考えましたが、普通に嫌いなキャラなので最終的に報いを受けさせる予定です。ご安心を。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。