アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ユニット×4ブランドの個別回!


Lesson489 翼を見守る者たち

 

 

 

「うーん……」

 

 その日、劇場の控室で未来が唸っていた。腕を組み、机の上に置いたスマホに視線を落としながら難しい顔をしている。

 

「……あれ、なにしてると思う?」

「さぁ……」

 

 たまたま一緒に控室に入ってきた翼と共に首を傾げる。

 

「学校の授業で分からないところがあったとか」

「未来が学校の外でまでそんなことを考えるわけないと思うわ」

「私もちょっとないなとは思ったけど、静香ちゃん結構未来にキツいよね」

「愛よ」

「真顔で言われるとコメントに困るんだけど」

 

 それはさておき、本当に何に対して未来は唸っているのだろうか。そんな疑問を解消したのは、私たちが声をかける前に未来に声をかけた亜利沙さんだった。

 

「おや未来ちゃん、何かお悩みですか?」

「あっ! 亜利沙さんいいところに! 私の悩みを聞いてください!」

「はて? どうしたんですか?」

 

 首を傾げる亜利沙さんに、未来は机の上に置いてあったスマホを手にして亜利沙さんに突きつけた。

 

「『W.I.N.G』でどのユニットに投票しようか悩んでるんです!」

「……未来ちゃん、投票は一人一票ではないので気になるユニットは全部投票してもいいんですよ?」

「そうなんですか!?」

 

 秒で解決した。

 

 『W.I.N.G』は、かつてあの『周藤良太郎』を輩出し二年前に私も出演した『ゴールデンエイジ』の後継となるオーディションである。出場条件はデビューして一年以内の新人アイドルたちのみで、『周藤良太郎』が審査委員長を務めるということで話題になった。

 

 生憎私たち765プロにはその条件を満たすアイドルが在籍していないため出場は見送ることになったが、それでもアイドルとしては無視することは出来ないイベントだ。未来が気になっているのも頷ける。

 

「だから未来ちゃん、気になるアイドルちゃんがいたら気にせずドンドン投票しちゃってください! 未来ちゃんの一票が、新人アイドルちゃんたちの輝ける明日への一歩となるんですから!」

「んー、でも手当たり次第に全部のアイドルに投票するのも、私なんか違うと思うんだ。全員特別なのは誰も特別じゃないのと同じって、何かのドラマで言ってた気がするの」

「未来ちゃん偉いです!」

 

 突然滂沱の涙を流し始めた亜利沙さんだが、劇場ではいつもの光景なので今やそれに驚く人はいない。

 

「だから尚更、誰に投票すればいいのだろうって悩んじゃってー」

「そういうことであれば! 是非私に注目アイドルちゃんをプレゼンテーションさせてください!」

 

 胸を張る亜利沙さん。未来はチラリと部屋の壁にかかっている時計に視線を向けた。

 

「……一時間で終わる?」

「頑張って納めます!」

 

 亜利沙さんは返答するよりも早くホワイトボードの用意を始めていた。あと遠目から見守っていた私たちに対しても手招きしていた。バレてる。

 

「あ、静香ちゃんと翼もいたんだ!」

「えぇ、折角だから一緒に聞かせてもらうわ」

「よろしくお願いしまーす!」

 

 三人並んでホワイトボードの前に着席したところで、亜利沙さんは「では始めていきましょう!」と赤い伊達眼鏡を装着した。

 

「……あれ、亜利沙さん、それって良太郎さんがいつも付けてる眼鏡と似てますね」

「……始めていきましょう!」

 

 あ、なんか珍しく照れてる。

 

「一時間という短時間でのプレゼンとなるため、今回は涙を呑んでイチ押しのアイドルユニットを一組だけ紹介させていただきたいと思います」

「逆に言えば、一つのユニットを紹介するのに一時間かかるってこと……?」

 

 平常運転ではあるけれど、それはそれとして亜利沙さんの末恐ろしさを再確認する。

 

「今回私が紹介するユニットはこちら! 283プロダクションに所属する『放課後クライマックスガールズ』です!」

 

 亜利沙さんが勢いよくホワイトボードに張ったA3のポスターには、赤い髪の少女を中心にまるで戦隊ヒーローのようなポーズを取った五人のアイドルユニットが映っていた。今更『いつの間にこんなポスターを用意したのか』というツッコミはしない。

 

「このユニットの特色は、ズバリユニットメンバー全員の個性がぶつかり合うことで生み出す絶妙なハーモニーですね! 個性的という点で言えば我が事務所のアイドルちゃんたちでも負けてはいないでしょうけども!」

「「「それはそう」」」

 

 その筆頭が亜利沙さんなんだよなぁ。

 

「ユニットリーダーはこちらの小宮果穂ちゃん! メンバー最年少の十二歳ながらも全力で突き進む姿勢がとても支えてあげたくなるような、そんなアイドルちゃんです!」

「十二歳!? 同い年くらいにしか見えない!」

「ユニットメンバー全員が彼女のことを溺愛している様子から、ファンの間では『果穂護』なんて言われていたりしますね」

「……あれ?」

 

 なんだか既視感があるような気がしてきた。赤い髪の女の子。大人びた風貌に反して小学生。周りのお姉さんから溺愛されている。そんな五人組を、何処かで見たことがあるような……。

 

「……あっ」

「どうしたの静香ちゃん」

「その人たち、最近劇場に来てたわ」

「「えっ」」

「なんですとぉ!?」

 

 驚く三人。特に亜利沙さんは「聞いてませんけど!?」と目を剥いている。正直怖いしアイドル的には黒よりのグレーだから落ち着いて欲しい。

 

「あれは確か……私がモギリで表に出てて、未来が出演メンバーで裏にいて、翼が別件のお仕事で、亜利沙さんはオフの日だったかしら」

「あの日かぁ!」

 

 凄い悔しそうな亜利沙さんを尻目に、私はその日のことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

「今更だけど、なんで桃子たち未だにモギリやってんだろ」

「ま、まぁ『アイドルを身近な存在に』が劇場のモットーなわけだから」

 

 765プロ劇場の特徴の一つとして、現役のアイドルがモギリとしてファンの人たちと触れ合うというものがある。元々私たちが無名の新人アイドル時代からやっている活動で、その頃はまだ「貴方たちもアイドルなの?」とか「これから頑張ってね」みたいな反応ばかりだった。

 

「でも静香さんなんて、あの八事務所合同ライブに出たぐらいなんだよ? もうちょっと自分の名前のプレミアム感は大事にした方がいいと思うよ」

「そう思ってもらえるのはありがたいけど……」

 

 そんな会話を中断し、小さな女の子が差し出してきたチケットを受け取ると、半券を千切って女の子に返す。

 

「今日は来てくれてありがとう」

「うん! お姉ちゃんもアイドル頑張ってね!」

 

 彼女の両親からもチケットを受け取って半券を千切り、親子三人仲良く手を繋いで会場に入って行く後ろ姿を見送る。

 

「こうして直接ファンと触れ合える機会を、私はいつまでも大事にしたいと思うから」

「……ふーん、まぁいいんじゃない」

 

 そうそっけなく言う桃子だったが、その表情は「言いたいことは分からないでもない」と言っていた。

 

「ちなみに言っておくけど、桃子だってさっきの静香さんみたいにファンの子から応援されることがあるわけで、別に嫉妬とかそういう感情で言ったわけじゃないんだからね!」

「ふふっ、分かってるわよ」

 

 

 

「あー! 桃子ちゃんです!」

 

 

 

「うわ何未来さん!?」

 

 事務所内で大声が聞こえると真っ先に未来が容疑者になるが生憎今回は冤罪で、どうやら声の主は劇場の入り口でこちらをキラキラした目で見ている赤髪の少女のようである。

 

 少女は一目散にこちらに駆け寄ってきた。その様子がまるで突撃してくる犬のようで、そんな少女を「ちょっとカホ!」「走っちゃダメだよ~!」と追いかけてくる四人の女性がさながら飼い主のような光景だった。

 

「ちょっと! 劇場は走っちゃダメ!」

「あう、ごめんなさい……」

 

 桃子が眉根を釣り上げながら少女に注意すると、華が咲くような笑顔だった少女は途端にシュンとしてしまった。それもまた飼い主に怒られる犬のようで、思わず笑ってしまいそうになるのを「ゴホン」と咳払いで誤魔化す。

 

「私、ずっと桃子ちゃんのことが好きで、初めて本人に会えて嬉しくなっちゃって……」

「もう! そういうのは嬉しいけど、ちゃんとマナーは守ってよ!」

「はい……」

「……その、分かってくれるなら握手ぐらいしてあげる」

「っ~!」

 

 桃子に注意されて落ち込んでいた少女の表情があっという間に華が咲いた。本当に犬のような子でブンブンと振られる尻尾を幻視してしまうほどである。後ろで少女のことを見守っていた四人の女性もホッコリとしていた。

 

「よかったわね、カホ」

「しっかり写真撮ってやるからな、カホ」

「カホが嬉しそうで私たちも嬉しいよ!」

「本当に……良かったです……」

 

 なんだろう、凄い少女のことを大切に思ってるんだろうなってことは分かるんだけど、それ以上の何か別の圧を感じるような気がする。

 

「桃子ちゃん、私と同じで小学生なのにすっごいアイドルで、私も桃子ちゃんみたいなアイドルになりたいんです!」

「むっ、桃子はもう中学生なんだからそこんところ……え?」

「わ、()()()()()()()()……?」

 

 まさか聞き間違えかと桃子と二人で思わず動きが止まってしまう。

 

 いやいやまさか、私と同じぐらいの背の高さでスタイルの良いこの子が小学生だなんて、確かに言動はそれっぽいけどまさかそんな。

 

「はい! 小学六年生です!」

 

「……そ、そう、桃子みたいなアイドルになれるように、頑張ってね」

「はい! ありがとうございます!」

 

 ニパーッと笑う少女と笑顔で握手する桃子。五人のチケットを私たち二人でモギると、五人は会場の中へと入って行った。

 

「「……………」」

 

 私は桃子に声をかけることが出来なかった。きっとどんな言葉をかけてもそれは正解にはならないから。何より私自身結構ダメージを受けていて……。

 

「おーい桃子ちゃんパイセンちーっす! 久々に劇場に遊びに来てあげたよ~身長伸びた~?」

 

「きえええぇぇぇ!」

 

「うわなになに桃子ちゃんパイセンその奇声何今まで一度も聞いたことないんだけど!? 静香ちゃんコレどういう状況!?」

 

 突如現れて盛大に地雷を踏み抜いていった良太郎さん(トップアイドル)に、思わずグッと親指を立ててしまった。

 

 

 

 

 

 

「……とまぁそんなことが」

「「「良太郎さんマジパネェ」」」

 

 三人の口調がおかしくなってしまったが気持ちはよく分かる……じゃなくて。

 

「あのときの人たち、本当にアイドルだったんだ……」

 

 それも『W.I.N.G』を目指す新人アイドル。

 

(……頑張って欲しいな)

 

 きっとこれも何かの縁だと思い。

 

 私は『放課後クライマックスガールズ』の投票ボタンを、トンとタップした。

 

 

 




・「愛よ」
お忘れかもしれませんがアイ転の静香は未来ガチ勢です。

・全員特別なのは誰も特別じゃないのと同じ
他にも誰か言ってるかもしれませんが、一応ヒロアカ最終巻moreのかっちゃんの言葉。

・「おーい桃子ちゃんパイセンちーっす!」
雑に扱える便利な主人公。



 各ユニットを他者視点で見る個別回です。現在登場済みなのは学マスを除く五ブランド、その内シャニを除いた四ブランド、そして283プロには四つのユニット。つまりそういうことです。

 さて次回はどんな組み合わせになるでしょう?
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