アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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346×???回!


Lesson490 翼を見守る者たち 2

 

 

 

「うひひ……やっぱりいいなぁ……」

「何が~?」

 

 

 

「ぐぎゃあああぁぁぁ!?」

 

 

 

「うわ何今の事件性のある悲鳴は」

「ど、どうしたんですかぁ!?」

 

 未央が先に入室したはずの会議室から、悪しき存在が払われた際の断末魔のような叫び声が聞こえてきた。一体何事かと卯月と共に早足で向かう。

 

 そこで私たちが目にしたものは、ソファーから落ちて上下逆さまになってひっくり返るりあむと、両手を上げて「私は何もしていません」とアピールする未央の姿だった。

 

「被告人」

「だから何もしてないってぇ!?」

「あー、凛サン、大丈夫デス、いつも通り勝手にりあむサンが大袈裟なリアクションを取っただけなので」

 

 何をしたのかと未央を問いただそうとする私を、同席していたあきらがやんわりと諫める。

 

「……そうなの?」

「信じてよ!?」

「はい。ただ未央サンの『後ろから近付いて肩越しに顔を出して手元を覗いてくる』という、やられた男子が百パー勘違いするようなムーブは控えていただけると幸いかと」

「判決を言い渡します。被告は被害者のオタク心を弄び……」

「主文後回しというの名の〇刑確定演出!」

 

 とりあえず未だにパンツ丸出しの状態でひっくり返ったままのりあむを起こすところから事態の収拾を始めようと思う。

 

 

 

「いやぁ、私はただりあむんが何かを見ながら楽しそうにしてたから、何を見てるのかなーって後ろから覗き込んだだけだよ」

「さっきあきらも言ってたけど、そういうの普段から大学でやってないよね?」

「やってないってば!」

 

 高校の頃ならいざ知らず、大学生になった今それをやったら色々とシャレにならない。それ以前にアイドルなんだからもっと自重すべきである。

 

「そ、それでりあむちゃんは何を見てたんですか?」

「え、えっと、その……」

「人様に言えないようなえっちなものでも見てたんですカ?」

「そんなわけないだろぉ!? コレだよコレ!」

 

 卯月に尋ねられたりあむは、自身の身の潔白を示すために自分のスマホの画面を全員に見えるように掲げた。

 

 そこに映っていたのは『凄く大きな胸』がドアップになって映っていた。

 

「やっぱりえっちなやつじゃん」

「えっ!? あ、ちがっ、ソウジャナクテ!?」

 

 どうやら動画らしく、りあむは慌てて再生ボタンを押した。

 

 改めてそこに映っていたのは、どうやらアイドルのライブ映像のようだった。五人組のアイドルユニットで、先ほどの映っていた大きな胸の持ち主がセンターで歌っている。

 

「今のぼくのイチ押しアイドルユニット、283プロの『L'Antica』! ぼく調べでは今回の『W.I.N.G』で優勝候補筆頭と言っても過言ではないと思うんだ!」

「わぁ……」

「へー……なんというか、らんらんが好きそうなビジュアルしてるね」

「実はこのユニットの……あ、この子! 実はこの子がアイドルになる前から知り合いなの!」

 

 そう言いながらりあむは画面に映る片眼鏡(モノクル)の少女を指差した。

 

「っていう設定の夢小説でも書いてるんデスか?」

「んなわけあるかい! 夢小説書くんなら同性じゃなくて『周藤良太郎』君とのやつを書くよ!」

「あ゛?」

「ひぇ」

「凛サン流石にそれぐらいは許してあげてくれませんか?」

「しぶりんブラコンも大概にしておこう?」

 

 別にブラコンじゃないし。

 

「……あれ」

 

 283プロといえばフラワーフェスティバルで一緒に仕事したアルストロメリアの事務所だよなぁなんてことを考えながら映像を見ていると、ユニットメンバーの内の一人に見覚えがあった。

 

 そんな私の様子に気が付いたらしい卯月が、コテンと首を傾げた。

 

「どうしたんですか、凛ちゃん」

「……そっかこの子、確か……白瀬さん、だったっけ」

 

 丁度黒髪をポニーテールにしたカッコいい美人が画面に映ったタイミングで動画を止める。

 

「何々? もしかしてしぶりんも知り合いだったとかそーゆーやつ?」

「それも間違いではないんだけど、正確には知り合いの知り合いだった……っていうのが正しいのかな」

「ん?」

「この子、良太郎さんと奏の高校の後輩らしいの」

 

 

 

 

 

 

 それはとある日、現場の移動で私と奏が二人きりになるという珍しい状況での出来事だった。

 

「奏先輩、お久しぶりです」

 

 信号待ちをしているところを奏の名前を呼ぶ声があり、思わず二人揃って振り返る。そこにいたのは、にこやかな笑みを浮かべる美人だった。長い黒髪でなければ一瞬男性と見間違えそうになるぐらいイケメンで、しかし視線を下げると絶対に男性とは見間違えようにないぐらい大きな胸だった。

 

「あら、咲耶じゃない」

「知り合い?」

「高校の後輩よ。でも今は貴女も卒業したんだったかしら?」

「おかげさまで」

 

 奏の高校の後輩……ということは。

 

「良太郎さんの後輩でもあるってことね」

「流石凛ね、すぐそっちと結び付けちゃうんだから」

「むっ」

 

 我ながらその自覚はあったため、奏の揶揄いに対して言い返すことが出来なかった。

 

「初めまして、渋谷凛さん。白瀬咲耶です」

「……どうも」

 

 年下のはずなのに、身長や雰囲気のせいで年上の女性と会話しているような気分になってくる。別に私も背が低いわけではないのだけれど、なんだろうこの感じ。

 

「聞いたわよ。貴女もアイドルになったんだって?」

「はい。283プロダクションというところに所属させていただいてまして、最近デビューしたばかりなんです」

 

 信号が青に変わって歩き出したのだが、並んで歩く奏と白瀬さんの二人がどう見ても大人の女性。いや確かに奏も今年成人するのでほぼ大人の女性ではあるのだけれど、年齢差は一つしかないはずなのに五つぐらい年上に感じる。

 

「それにしても、良太郎さんの高校って最近ずっとアイドルを輩出してるみたいだけど、そんなにアイドル活動が盛んだったりするの?」

「いえ、そういうわけではないのですが……」

 

 『周藤良太郎』を筆頭に『姫川友紀』『鷹富士茄子』『速水奏』など続々とアイドルを輩出しているのだから、きっと良太郎さんが何かそういう下地のようなものを作ったのだろうと思ったのだが、白瀬さんの反応を見る限りどうやら違うらしい。

 

「最近だとスクールアイドルっていうのも流行ってるし、てっきりそういう方向に力を入れてるんだと思ってた」

「寧ろ逆よ」

「事務所に所属してアイドルになるのはいいけど、スクールアイドル活動はしないっていう風潮になっていました」

 

 なんでも『周藤良太郎の出身校だというネームバリューを使ってアイドルになっても誰も得をすることはない』という暗黙の了解が生徒たちの間で広まっているらしい。

 

「それでも偉大なる先輩方の影響でアイドルを志す生徒は多かったです」

「先生たちも芸能活動に対して理解があって、おかげで私も活動しやすかったわ」

「……話には聞いてたけど、本当に良くも悪くも変な生徒が多い学校だったんだね」

 

 それでも、ちょっと楽しそうだなと少し思ってしまった。

 

「ちなみに、ウチの高校では『渋谷凛』がダントツ人気でしたよ」

「何故!?」

 

 いや本当に何故。そこは母校なんだから『周藤良太郎』が人気なのではないか。アイドルとしては人気だということに喜ぶべきなんだろうけれど、どうしても困惑の方が先に来てしまった。

 

「『周藤良太郎』は逆に『まぁ人気なのは当然だよね』ぐらいの評価でしたね」

「人気なのは確実なんだけど、それをいちいち公言する人がいない……って感じかしら」

「あぁ、そういう……」

 

 既に殿堂入りレベルだったというだけの話か。

 

「いやそれでも私が人気な理由に心当たりがないんだけど」

「凛、貴女は周藤良太郎の?」

「……妹分」

「それです」

 

 は?

 

「『あの周藤良太郎の妹ってことは、きっと苦労してるんだろうなぁ』って」

「同情票!」

 

 アイドルとしては喜ぶべきだと言ったことを撤回しよう。全然嬉しくなかった。

 

「人気だったことはホントですから。『ニュージェネレーションズ』派と『トライアドプリムス』派に分かれて派閥戦争が起こったぐらいです」

「なにそれ!?」

「それ私が卒業した後の話よね。結果は?」

「それぞれの派閥内でさらに『王道クール』派と『妹キュート』派に分かれた結果、両陣営瓦解して自然消滅しました」

「さっきからツッコミどころしかない!」

 

 少し楽しそうだと思ったことも撤回する。そんな高校に進学しなくて良かった。

 

 

 

 

 

 

「……………」

「ど、どうしたんですか、凛ちゃん」

「急に黙ったかと思ったら、なんかしぶりんの眼が死んだ……」

 

 白瀬さんは全く悪くないというのに、思い出さなければよかったと思ってしまった。おのれ、良太郎さんめ。いやこっちも多分冤罪なんだろうけど。

 

「よーし! 折角だからぼくもSNSで『L’Antica』を応援してあげよーっと!」

「……それは良い心がけデスけど……りあむサン」

「ん? なに?」

「他事務所のアイドルの応援SNSを投稿する前に、当然自分の事務所から出場してるアイドルの応援SNSを投稿してますよね?」

「……………」

「おバカ!」

「だ、だって……うわ嘘でしょなんかもう燃え始めてるんだけど!?」

「うわー、本当に『他事務所応援する前に自分のところのPRちゃんとやれ』って言われてる……」

 

 なんか向こうでりあむが伝統芸能(いつもの)をやっていた。

 

「あれも一種の才能ってことでいいのかな」

「あはは……でも、事務所の垣根を越えて応援することはいいことだと思いますよ」

 

 卯月は「順番に関しては擁護できないですけど……」と苦笑した。

 

「現に私たちも、冬馬さんや良太郎さんたちにいっぱい応援してもらったんですから」

「……そうだね」

 

 アイドルに懸ける想いに事務所の垣根はない。それが叶わぬ願いだと分かっていても、全てのアイドルが活躍出来る世界を実現するために頑張っている王様(おにいちゃん)を私たちは知っている。

 

 だから、きっとこれも何かの縁だし。

 

 私は『L’Antica』の投票ボタンを、トンとタップした。

 

 

 




・「ぐぎゃあああぁぁぁ!?」
ウチのりあむいつも叫んでんな……。

・主文後回し
なんでちょっと劇的にするんだろうって思った。

・「『あの周藤良太郎の妹ってことは、きっと苦労してるんだろうなぁ』って」
同じ理由+恭也の妹ということで、最近は『高町なのは』がトレンドな模様。

・自分の事務所から出場してるアイドル
一応名無し新人アイドルが所属&出場しているという設定。



 今回は346×アンティーカ(咲耶)回でした。田中と田中って言うてもあったけど765はもう書いちゃったので……。
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