アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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315×???回!


Lesson491 翼を見守る者たち 3

 

 

 

「ねーねー、みのりサーン、ハヤトー」

「んー?」

「なんだい?」

 

 とある日、事務所で作曲作業中の俺と雑誌を読んでいたみのりさんに悠介が声をかけてきた。ペンをクルクル回しながら生返事をする俺に対し、みのりさんはしっかりと手を止めて会話の体勢に入った。

 

「二人は『W.I.N.G』で誰か応援してるの?」

「えっ」

 

 悠介の問いかけに驚くみのりさん。俺も声には出さなかったものの、その手の話題がみのりさんからではなく悠介から出てきたことに驚いていた。

 

「そりゃ勿論、こんなに大きいアイドルのイベントなんだから俺が注目しないわけないけど……意外だね、悠介君も興味があるの?」

「んー、興味があると言えばある……のかな?」

「なんかあったの?」

 

 俺が尋ねると「この間さー」と悠介は話し出した。

 

「享介と一緒にりっクンやシンイチとサッカーしてたんだけどさー」

「シンイチ?」

 

 初めて聞く名前に思わず首を傾げてしまった。そんなアイドルはこの事務所にいないから、悠介のプライベートの友人だろうか。

 

「あぁ、りょーたろーサン経由で知り合った子。まだ小四なんだけど結構サッカー上手くてさぁ……って話が逸れた」

「あ、ゴメン、話の腰折っちゃって」

「そんときにしほから聞いたんだけど、『W.I.N.G』に出場してる新人アイドルに、オレと享介みたいな双子の新人アイドルがいるんだって」

「双子のアイドルかぁ……」

 

 みのりさんが「ふむ」と顎に指を当てながら考えている一方で、俺は別のことを考えていた。

 

(しほって……123プロの北沢志保さんのことだよな……)

 

 合同ライブのときも親しげに話していたし、確か『りっくん』というのも北沢さんの弟さんのことだったはずだ。もしかして家族ぐるみで仲が良いのでは……!? と思わず変な勘繰りをしてしまう。

 

「『W.I.N.G』に出場している双子のアイドルだったら、俺の知る限りでは一組だけいるよ」

「おっ、ホントですか」

「では早速プレゼンを始めようか」

「「えっ」」

 

 一体何のことかと尋ねるより先に、みのりさんが伊達眼鏡を装着している姿を見て察してしまった。

 

「えっと、軽く教えてくれるだけでいーんだけど……」

「つまり一時間コースってことだね。頑張るよ」

「授業より長いんですけどそれは……」

「大学の講義は九十分だよ」

 

 軽く抗議したつもりだったけど軽くあしらわれてしまった。もしかしなくても俺も頭数に入ってるんだろうなぁコレ。

 

 いや、別にみのりさんのアイドル談義を聞くのが嫌ってわけじゃない。なんだかんだ為になる話も多くて実際勉強になる。ただ純粋に時間を取られるって言うのが……ね。

 

 遠い目をしながら「巻き込んでゴメン」とソファーの隣に座って来た悠介を「いつものことだよ」と迎え入れる。

 

「さて。このアイドル春の時代においても双子のアイドルとなると結構珍しい。そんな中でも765プロの『双海姉妹』が一番代表的な双子アイドルと言っても過言ではないね」

 

 一体いつの間に用意したのかとか何処から取り出したのかとか、色々とツッコミどころが詰まった双海姉妹のブロマイドをみのりさんがホワイトボードに貼り付けた。いやホワイトボードも何処から出してきたんだ。ツッコミどころもう一個あった。

 

「あと最近有名なのは346プロの『miroir(ミロワール)』の久川姉妹だね。マンションポエマー系不思議キャラな姉『久川(ひさかわ)(なぎ)』ちゃんと、ポジティブコギャル系な妹『久川(ひさかわ)(はやて)』ちゃんの二人が織りなす絶妙な掛け合いがとても良くて」

「みのりさん、一時間の尺で別のアイドルの紹介してる余裕あるんですか?」

「おっとそうだった、失敬失敬」

 

 ホワイトボードに久川姉妹のブロマイドを張り始めたみのりさんに先を促す。このまま「興が乗っちゃったから二時間目始めようか」なんて言われたら堪ったものではない。

 

「今回『W.I.N.G』に出場している双子となると、該当するのは一組だけだね」

 

 そう言ってみのりさんが新たにホワイトボードに張ったのは、()()のアイドルが写ったブロマイドだった。

 

「283プロダクション『アルストロメリア』。メンバーは桑山千雪さんと、双子の大崎甜花ちゃんと大崎甘奈ちゃんだ」

「おぉ、この子たちが」

「……ん?」

 

 悠介が大崎姉妹に反応している一方で、俺が気になったのは双子に挟まれるようにして写っている女性の方だった。

 

「……はい、みのりさん」

「はい隼人君」

「この桑山さんって人、もしかして元雑貨屋さんって経歴があったりする?」

「え?」

「おっ、惜しい。正確には現役の雑貨屋さんだよ。アイドルデビューの際に一回仕事を辞めたらしいんだけど、その後もう一回復職したんだって」

 

 授業っぽかったので挙手をしてからみのりさんの質問をすると、殆ど俺の予想通りの返答が返って来た。

 

「そっか、それじゃあまだあの雑貨屋さんで働いてるのか……」

「その口ぶりから察するに」

「ハヤト、この人と知り合いなの!?」

「い、いや、そんな大げさなもんじゃないよ」

 

 二人は驚いているが、本当に大したことじゃないんだ。

 

 ただちょっと、プレゼント選びを助けてもらったっていうだけの話。

 

 

 

 

 

 

 ――隼人君、最近誕生日だったんだってー?

 ――はいコレ、ちょっと遅いけど誕生日プレゼント。

 

 

 

 それは俺にとっては晴天の霹靂と呼んでも過言ではないような出来事だった。

 

 ハイジョとリップスの合同カラオケを経て、ほんの少しだけでも仲良くなったと俺は思っている美嘉さんから、可愛らしくラッピングされた小袋を渡されたのだ。

 

 

 

 ――いやホラ、この前はウチの子たちがお世話になったお礼も兼ねて……みたいな?

 ――それ、アタシも愛用してるハンドクリームなんだ。

 ――乾燥する時期だし、ギタリストは指先のケア大事って聞くから。

 ――もし良かったら、使って?

 

 

 

 気が付いたら自室にいた。それぐらい頭の中が真っ白になったことだけは覚えている。

 

 まさか、あの『城ヶ崎美嘉』から個人的な誕生日プレゼントをもらうなんてイベントが発生するとは思わず、自分の頬を思いっきり抓り上げるなんてベタなことをしてしまったほどである。普通に痛かった。

 

「……そ、そうだ! お返し! お返ししないと!」

 

 俺も美嘉さんに誕生日プレゼントのお返しをするべく、慌てて346プロのホームページで美嘉さんの誕生日を調べる。

 

「……す、過ぎてる……!」

 

 偶然にも美嘉さんの誕生日は俺と同じで十一月だったが、残念ながら俺よりも早かった。

 

「い、いやでも美嘉さんも『ちょっと遅いけど』って言って誕生日プレゼントをくれたんだから、今から俺がお返しにあげても問題ないはず……!」

 

 何を渡す? 何を渡せばいい? 寧ろなんだったら渡しても大丈夫?

 

(こういうことを、相談出来そうな人は……!)

 

「助けて良太郎さん!」

『そこで俺をチョイスする辺り、ガチでテンパってるんだろうなぁお前……』

 

 アイドルの事情を含めて女性関係の相談を出来そうな唯一の人物に、俺は助けを求めるのだった。

 

 

 

「こ、こことかよさそうだな……」

 

 合同ライブ前の滅茶苦茶忙しいタイミングだったというのに変なことで連絡をしてしまった俺に、良太郎さんは僅かな時間で簡潔なアドバイスをくれた。曰く『知り合いの女性への贈り物だったら雑貨屋さんの女性店員に相談した方がいい。個人経営のお店だと尚良し』とのこと。

 

 そのアドバイスに従ってバンド練習もアイドルとしての活動も一切ない放課後に、俺は一人でとある雑貨屋さんを訪れた。以前チラッと見かけて雰囲気良さそうだなと思っていたところだったのだが、まさかこうして女性へのプレゼントを買うために足を運ぶことになるとは思いもしなかった。

 

「あ、あの、すみません」

「はぁい」

 

 幸いなことに他のお客さんもいなかったため、俺は早速店内の棚の整理をしていた女性店員さんに声をかけた。亜麻色の髪を三つ編みにした美人のお姉さんで、一目でプレゼントの相談をしても真摯に乗ってくれそうだと確信した。

 

「えっと、女性への誕生日プレゼント選びの相談に乗って欲しいんですけど……」

「まぁ素敵。いいですよ……あら?」

 

 予想通り優しい笑顔で了承してくれた女性は、しかし俺の顔を見るなりキョトンとした表情になった。

 

 そしてキョロキョロと周りを見回した後、何故か急に顔を寄せてきた。

 

(『High×Joker』の方、ですよね)

 

 綺麗な女性に耳元で囁かれてドギマギするよりも早くヒュッと背筋が凍った。まさかこんなに一瞬で身バレするとは一切考えていなかった。

 

「あっ、いや、その、これは、が、学校の先輩への、あの!」

「ご、ごめんなさい! そういう変なつもりじゃなかったんです! 有名人が来られるのが初めてだったので、思わず……!」

 

 必死に言い訳をする俺に対して、店員さんも慌ててペコペコと頭を下げてきた。

 

「大丈夫です。詮索しません。他言もしません」

 

 頭を上げた店員さんの目は、とても優しい目だった。初対面にも関わらず「あぁ、この人は本当に喋ったりしないんだろうな」と信用に値する、そんな優しい目だった。

 

「……誕生日プレゼントをくれた女性に、お返しをしたいんです」

「分かりました。……一緒に、素敵なプレゼントを見つけましょう」

 

 ……俺にはそんな権限とか見る目とか、そういうのはないとは分かっていても。

 

(この人がアイドルになったら、凄い人気出るんだろうなぁ)

 

 思わず、そんなことを考えてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

(まさか本当にアイドルになるなんて……)

 

 あながち俺のアイドル識別眼も悪くないのではと、思わずそんなことを考えつつ。

 

 俺は『アルストロメリア』の投票ボタンを、トンとタップした。

 

 

 

「「……………」」

「……な、何?」

 

 ブロマイドに写る桑山さんの笑顔を見ていると、いつの間にかみのりさんと悠介が無言で俺を見ていることに気が付いた。

 

「大丈夫だハヤト、オレには分かってるよ」

「な、何が?」

 

 訳知り顔で肩を組んでくる悠介。一体何が言いたいのだろうか。

 

 

 

「桑山さん、おっきいもんな」

「……ちゃうねんて!?」

 

 

 

 

 

 

「ん? 隼人からメッセージ……『良太郎さんのせいで俺に深刻な風評被害が起こってるんだけど!?』とな? なんのことだ? ……とりあえず、最近おススメの大乳アイドルの紹介でもしといてやるか」

 

 

 




・シンイチ
未来の名探偵は現在小学四年生。

・『miroir』
・久川凪
・久川颯
アイドルマスターシンデレラガールズに登場する双子アイドル。
りあむたちと同じ所謂追加組で、アイ転では彼女たちと同じプロジェクトメンバー。
……のはずだったのだけど、まだ未登場だったってマジ???

・はいコレ、ちょっと遅いけど誕生日プレゼント。
最近良太郎でも冬馬でも不足し始めたラブコメ成分をここで補填していく。

・「桑山さん、おっきいもんな」
うーんこれは間違いなくラブコメ主人公。



 315×アルストロメリア回改め隼人ラブコメ回でした。

 ……いや書き始めるまでこんな予定じゃなかったんだけど、ライブ感で思わず……。
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