アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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残り一組! 876×???回!


Lesson492 翼を見守る者たち 4

 

 

 

『投票、よろしくお願いしま~す!』

「投票!」

 

「……あの子、気軽に投票しすぎなんじゃない?」

「あはは……」

 

 ジト目で愛ちゃんに視線を送る夢子ちゃんに、思わず苦笑してしまう。

 

 事務所のソファーを陣取って愛ちゃんが何をしているのかというと、スマホで『W.I.N.G』に出場する新人アイドルたちのPR動画を見漁りながら気になったアイドルに投票しているのである。

 

 普通の女子高生の休日の過ごし方としては割と普通のことではあるのだけれど、()()()()()()()の端くれとしてその行動はどうなのだと、きっと夢子ちゃんは苦言を呈したいのだろう。

 

「でも複数投票自体は推奨されてるわけだし、悪いことしてるわけじゃないんだから」

「だからって、あんなの手あたり次第に投票してるようなもんでしょ」

「まぁまぁ……」

 

 不服そうな夢子ちゃんを宥めていると、ソファーに座る僕と夢子ちゃんの間に割って入るように後ろから絵理ちゃんがひょこっと顔を出した。

 

「ピピー。まるで娘の教育方針で言い争う夫婦のような会話は禁止しまーす」

「いきなり何を言ってるのさ絵理ちゃん……」

「……妹のことを思うのであればお姉ちゃんは黙ってなさい。今年はあの子、大学受験なのよ」

「夢子ちゃんも乗っちゃうんだ!?」

「冗談はさておき」

 

 ソファーの後ろから回って来た絵理ちゃんは、夢子ちゃんとは反対の僕の隣にポスンと腰を下ろした。

 

「私はどっちの意見も分かるかな。全員応援したい気持ちもあるし、自分が投票することの意味をしっかりと持ちたい」

 

 でもまぁ、と絵理ちゃんは机の上に広げてある書類に視線を落とす。

 

()()()()()のデビューがまだ正式に決まっていない以上、876プロから『W.I.N.G』に出場する新人アイドルはいないわけだし。その分、愛ちゃんは他のアイドルを応援してあげたいんじゃないかな?」

「……気持ちは分かるけど」

 

 それは先ほどまで僕と夢子ちゃんが目を通していた書類。そこに社長から言い渡された『876プロ新人アイドル候補』と、彼女たちが携わることになる『新規アイドルプロジェクト』の詳細が書かれていた。

 

「ようやく僕たちにも後輩のアイドルが出来るんだね」

「ちょっと、私の事忘れてない?」

 

 夢子ちゃんは移籍だから新人アイドルって感じじゃないし……。

 

「……あれ、もしかして私が移籍してきたから、この子たちのデビューが遅れたとかそういうわけじゃないわよね?」

「流石にそれはないと思うけど」

「そうだとしても、比重としては去年の合同ライブの方が大きいと思うよ?」

 

 話がまとまったのはつい先日。そこから一年間の研修の後、合否の判断をすることになっている。

 

「どのみちタイミング的に『W.I.N.G』への出場は厳しかったと思うけどね」

「そんなことないですよ!」

「「「うわビックリした」」」

 

 スマホに夢中になっているとばかり思っていた愛ちゃんが突然会話に参加してきたことに驚く僕たち。

 

「あと私も涼さんの娘よりも妻がいいです!」

「今はその話掘り返さなくていいからね!?」

 

 それで一体何が「そんなことない」のだろうか。

 

「『W.I.N.G』出場アイドルのこと色々調べてたんですけど、なんと応募締め切り一週間前にデビューしたアイドルがいるみたいなんです!」

「そんなギリギリに……」

「プロデューサーの能力を疑うわね」

「計画性の無さが露呈してる?」

「あれぇ!? 辛辣な評価ばっかり!?」

 

 愛ちゃん的には「そんなアイドルが!?」みたいなリアクションを求めていたのだろうけれど、残念ながら僕を含めて現実的な視点でしか見れなかった。

 

「そんなに滑り込みにデビューしたアイドルを参加させても結果なんて無謀もいいところじゃない」

「そう思うじゃないですか! これ見てください!」

 

 夢子ちゃんに反論した愛ちゃんが「デビューイベントの映像です!」とスマホを突き出してくる。

 

 そこに映っていたのは三人組のアイドルユニットだった。なるほど、デビューイベントらしく目に見えて緊張しているし、ほんの少し動きや表情がぎこちないようにも見える。

 

 それでも、三人は()()()()()()()だった。

 

「……ふーん」

「結構いいんじゃない?」

 

 夢子ちゃんと絵理ちゃんの反応も悪くない。

 

 拙い新人アイドルのデビューイベントであることには間違いないだろう。それでも一目見ただけで『この子たちはポッと出では終わらない』という予感がした。

 

「なんて子たち?」

「えっとですね……283プロの『イルミネーションスターズ』っていうらしいです!」

「283プロというと……」

「美琴さんのところだね」

 

 去年の合同ライブにて選抜ユニット『D@VID』として共演することになった、良太郎さんと同期のトップアイドルの姿を思い出す。

 

「ウチとは違って向こうの事務所は合同ライブから上手く軌道に乗せることが出来たみたいだね」

 

 そう呟いてから「あれ?」とそれに気付く。

 

「……それじゃあ、今年新人アイドルをデビューさせられなかったウチって……」

「……いやいやいや」

「それだけじゃないって結論付けたばっかりだよ?」

「そういえば310プロも確か『W.I.N.G』に出場する新人アイドルがいるって言ってたような」

 

 やめよう! この話題! ウチの新人アイドルたちはちょっと事情が特殊なんだから!

 

 

 

 

 

 

「……本当に、街を歩けばそこら中にアイドルを見かけるようになったわね」

「これが良太郎さんたちが見たかった光景なんだよ」

 

 夕方から個別の仕事があるという愛ちゃんと絵理ちゃんが(涙を流しながら)事務所を後にし、今日一日特に用事がなかった僕と夢子ちゃんはデートをすることになった。

 

 夢子ちゃんと並んで駅前の繁華街を歩くと、至る所にアイドルのポスターやPR動画などを見かけることが出来る。『W.I.N.G』の投票期間中ということを加味しても、去年までとは比べ物にならないぐらいアイドルという存在が世間に浸透していることを実感する。

 

「ほら、あそこにも」

 

 とあるCDショップの店先に、真っ白なステージ衣装を身に纏ったアイドルが三人。どうやら彼女たちのCDを買ってくれたファンと握手をしているらしい。新人アイドルならではのミニ握手会と言ったところか。

 

「……あれ?」

 

 自分たちにもあぁいう時代があったなぁとホッコリしていると、なんだか三人のアイドルに見覚えがあるような気がした。いや見覚えどころかつい先ほどまで動画で見たアイドルだった。

 

「283プロの……」

「『イルミネーションスターズ』……」

 

「おや、お二人ともお目が高い。彼女たちをご存じとは」

 

「「っ!?」」

 

 突然声をかけられて夢子ちゃんと二人でビクリと肩を跳ね上げる。二人ともしっかりと変装をしていたのだが、すわ誰かに身バレしてしまったかと恐る恐る振り返った

 

「「りょ、良太郎さん!?」」

「よ」

 

 赤い伊達眼鏡をかけたいつもの変装姿のトップアイドルがヒラヒラと手を振っていた。

 

「いや二人揃っていいリアクションをしてくれたのはこちらとしてはありがたいんだけど、お約束の展開なんだからそろそろ察してくれてもいいんじゃないか?」

「じゃあわざわざ声を変える小細工しないでもらえますか!?」

 

 今の声も完璧に女性だったから油断していた。

 

「二人はデート中か? 愛ちゃんと絵理ちゃんだけでなく、仲が良いようでなにより」

「おかげさまで」

「それで良太郎さんはこんなところで何を?」

「たまたま通りがかったところで知り合いを見つけたから……ちょっとだけ見守ってただけだよ」

 

 そういう良太郎さんの視線の先には、今も笑顔でファンたちと握手をしている『イルミネーションスターズ』の三人の姿。

 

「……彼女たちも良太郎さんの知り合いだったんですか?」

「一番大乳の子以外とは知り合いだよ」

「そういうこちら側も巻き込もうとする言い方止めてもらっていいですか!?」

 

 あの金髪の子かぁと認識してしまい、僅かに芽生えた罪悪感に頭を抱える。

 

 当の本人は夢子ちゃんからの白い視線も何のそのといった様子。婚約者が出来ようが何しようが、この人のコレは一生変わらないのだろう。

 

「……………」

 

 ふと、何となく良太郎さんの視線が優しいような気がした。無表情である良太郎さんは、割と目が口以上に物を言う。夢子ちゃんもそれに気が付いたらしく、意外そうに「ふーん」とイルミネの三人に視線を向ける。

 

「あの子たちが『W.I.N.G』審査委員長のイチオシってことですか?」

「意地悪い言い方するなぁ、夢子ちゃんは」

 

 しかし良太郎さんは否定しなかった。

 

「……良太郎さんのことだから、アイドル全員に平等に接すると思ってました」

「それも間違ってないよ。審査委員長を任された以上、平等に評価する。りんの胸に誓ってもいいよ」

 

 ほんの少しでも『それは絶対に破られない誓いなんだろうな』って思ってしまったことがなんだか嫌だった。

 

「それでも……りんと約束したんだよ」

 

 また何を言い出すのかと身構えた僕たちだったが、続いて発せられた良太郎さんの言葉に良い意味で肩透かしを食らうことになる。

 

「俺は『我儘な王様』になるって」

 

「……我儘な王様?」

「それって、どういう……?」

 

 言葉の意味がイマイチくみ取れず、夢子ちゃんと二人揃って首を傾げる。

 

「王様として公平にアイドルを愛するだけじゃなくて、しっかりと『周藤良太郎が好きなアイドル』も大切にするっていう意味」

「それは……」

 

 わざわざ宣言するまでのことじゃないのか。口から出かかったそんな言葉を、僕は静かに飲み込む。良太郎さんがりんさんとそんな約束をする。そこに至るまでの過程を想像してしまったから。

 

「……いいことだと思います」

「良太郎さんだけが、我慢することないですよ」

「あ、やっぱり? もっと自由に生きるべき?」

「こんなに早く前言を撤回させないでください……!」

 

 苦虫を噛みしめたような表情になってしまった夢子ちゃんを「まぁまぁ」と宥めると、夢子ちゃんは「はぁ~……」と重く深い溜息を吐いた。

 

「……でも、私もちょっとだけ考えを改めるわ」

「え?」

「良太郎さんが我慢をしないっていうのに、私たちが好きを出し渋りするなんて馬鹿らしいものね?」

 

 そう言いつつ夢子ちゃんはスマホを取り出すと、投票画面を開いた。

 

「……そうだね」

 

 それは、ただ好きなものを好きと表現するだけの簡単な行為。頑張って欲しい新人アイドルに頑張れと言うだけの簡単な想い。

 

 笑顔で頑張っている彼女たちを応援したいとそう思ったことは、間違いないから。

 

 僕は『イルミネーションスターズ』の投票ボタンを、トンとタップした。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに。

 

 

 

「ねぇニコちゃん、結局あのリョーさんは何者なの?」

「知らない」

「無表情なのはちょっと怖いですけど……アイドルに詳しいんですよね……」

「知らないって」

「歌やダンスのアドバイスが的確すぎます」

「知らないってば」

「あと絵里ちゃんや希ちゃんの胸ばっかり見てるにゃ」

「だから知らないって言ってるでしょぉぉぉ!?」

「知り合いなんでしょ?」

「知り合い判定されること自体がもう嫌なのよ!」

 

(ウチも知り合いだってことは黙っとこ……)

(どこかで会ったことがあるような気がするのよね……空港?)

 

 

 

 俺のいないところでJKたちがそんなやり取りをしていたりしなかったりするのだが。

 

 それはまた、別のお話。

 

 

 




・夢子ちゃん
前回の登場がsideM編の序盤という相変わらずの登場頻度ですが、この世界ではしっかりと876プロ&涼ハーレムの一員。

・「今年はあの子、大学受験なのよ」
愛ちゃん高校三年生。
ちなみに涼と絵理と夢子は二十歳。

・『876プロ新人アイドル候補』
coming soon……?

・ちなみに。
実はニコと希を含めて九人中四人と面識がある模様(リョーさん=周藤良太郎と認識しているかどうかは別)



 最後は当然イルミネ回です。この子たちだけ過去ではなく今なのは、現在進行形で縁を結んでいる的な意味だからです。今考えつきました。

 いよいよ本選が始まる……!
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