『ずっと見ていたいって思うような風景をイメージすると』
『眩しい光を探していたんだ』
『青く』
『深い』
『高い』
『遠く』
『『空』』
『……………』
私たちは舞台裏に用意されたモニターに視線が釘付けになっていた。それまでも他のユニットの応援をするためにずっと意識は向けていたのだけれど、それまでとはまるで雰囲気が違った。
私たちと同じデビューして一年未満という条件の新人アイドルユニットであるにも関わらず、まるでそうとは思えないほど堂々とステージに立つ姿に私は目を離せない。
『W.I.N.G』優勝最有力候補。それが私たちが事前に聞いていた『アルバノクト』というユニットの評判だった。
「……W.I.N.Gで優勝するためには、ファンの皆さんに『このユニットよりも凄い』って、思ってもらわないといけないんですよね」
そうポツリと呟いたのは果穂ちゃんだった。
「大丈夫よ、果穂」
「あぁ、アタシたちなら大丈夫だって!」
「そうそう! 勿論、他のみんなだって!」
「ともに、励みましょう……」
「……はい!」
放クラのメンバーの励ましの声に、顔を明るくする果穂。そんな光景に私たちも思わず頬を綻ばせる。
(……頑張ろう)
私たちだって、そのために『W.I.N.G』に出場しているのだから。
「『アルバノクト』……961プロでしたっけ」
「あぁ。黒井社長が今一番力を入れてる新人アイドルユニット」
ふゆちゃんとあかねちゃんが『アルバノクト』の二人のステージに夢中になっている一方で、アクアは何かを探るような目でステージを見ていた。
「961プロはあまりいい噂を聞きませんけど、この二人はどうなんですか」
「つっても最近は比較的大人しいよ」
以前は高木社長及び765プロを目の敵にして色々とやっていたこともあったけど、ジュピターの一件からはスッカリと鳴りを潜めていた。恐らく、ジュピターに匹敵する原石を探すことに手いっぱいでそれどころじゃなかったのだろう。
ついでに近頃は十王の爺様にも喧嘩を売ろうとしているらしく、水面下でアイドルの養成学校を設立しようとしていることが東豪寺の調べによって判明している。「他のことに気を取られて情報のガードが甘くなってるのよ」と麗華が悪い笑みを浮かべていた。
「……どういう人なんですか、黒井社長って」
「ん? なんかやたらと食いつくじゃん」
「別に、ちょっと気になってるだけですよ」
「ふーん?」
一体どこに琴線が触れたのか分からないが、とりあえず気になっているらしい。
「そうだな……悪い人だよ。いい人ではない」
それでも。
「良くも悪くも、多分日本で一番『アイドル業界』のことを考えている人だ」
黒井社長は、かつて日高舞が引き起こした『アイドル冬の時代』を生き抜いた人だ。彼女が引き起こした圧倒的不遇の時代を、どんな手でも生き延びようと足掻いた強い人だ。
「アイドルの原石を見つけ、そしてアイドルの可能性を開花させることに関しては、きっと日本でも五本の指から外れることはない」
アイドルを見る目は間違いなく本物だ。何せ普段は結果を重視しているくせに、アイドルデビューすることなくレッスン狂いになっていた美琴を長年手放そうとしなかったのだから。そういう価値観だけは、俺や高木社長と同類と言ってもいいかもしれない。
「ただ、それ以外が致命的にアレなんだよなぁ……」
こんな若造にこんなことを言われて黒井社長もきっと業腹だろう。しかし見つけて磨いて輝きを放ち始めた
「俺の黒井社長に対する評価はそんなところかな。何かの参考になったか?」
「えぇ、それなりに」
微塵も『それなり』とは思えないような表情でアクアは「ありがとうございます」とお礼の言葉を口にするのだった。
(黒井崇男は、アイドルを
ちなみに、そういう事情もあって今回二次選考に進出したアイドルユニットの中で唯一まともに会話を出来ていなかったりする。ならこんなところで油売ってないで裏でちゃんとスタッフらしくしてろ? ご尤も。
「気になってはいるんだよね、特に心白ちゃん」
「……多分だけど、プラチナブロンドのおかっぱの方じゃないですか」
「よく分かったね。おっぱいが大きい方だよ」
「おいやめろ俺をそっち側に引き込もうとするな」
心底嫌そうな顔をするアクア。
「そうだよねーアクア君は胸よりもおかっぱの髪の方が気になるんだもんねーかなちゃんみたいな。かなちゃんみたいな」
「あかね落ち着け」
「声の圧が強い」
流石大女優あかねちゃん、眼のハイライトオフもお手の物。ホラーに耐性がある俺でも思わずゾクっとしてしまうほど迫真の演技だ。
「冗談はさておき」
「いや冗談じゃなかっただろ」
「私もちょっとだけ気になってたんだよね、
ジト目のアクアをサラッと受け流しながら、あかねちゃんは心白ちゃんのことを苗字で呼んだ。
「もしかして知り合い?」
「一方的に知っているだけです。
『奥空眞弓』は名前を知らない人はいないほどの大女優。しかし変なところで律儀な黒井社長は彼女のネームバリューを使用することなくアイドルとして活動させている。本当に変なところで律儀なんだよなぁ。
そんな会話をしている間に『アルバノクト』のステージが終わった。喋りながらもしっかりと意識はステージに向けていたが……やはり頭一つ抜きん出ているといった印象だ。
観客たちの大歓声に合わせて、俺たちも拍手を送る。
「なんにせよ、彼女たちが『W.I.N.G』における優勝候補だ。明確な壁と言っていい」
審査委員長として公平な目でアイドルたちを評価しなくてはいけない。それでも尚、彼女たちの後にパフォーマンスすることになっている残り数組のアイドルに少しだけ同情してしまった。
「今日はありがとうございました」
「いや、こっちこそありがとう」
フェスも無事に終了し、一緒に会場を退場しつつふゆちゃんが笑顔でお礼の言葉を口にした。ちなみにアクアとあかねちゃんは既に離脱している。
「結華ちゃんから話は聞いてましたけど、リョーさんがとても親切で
絶対にルビが変だったような気がするけれど、可愛らしいふゆちゃんの笑顔の前では些細な問題である。
「今度は是非他の集会メンバーにも会ってもらいたいな。みんな俺や結華ちゃんと同じぐらいアイドルに対して強火な連中ばかりだから」
「でも結華ちゃんも含めて、皆さんアイドルなんですよねぇ? ふゆ、ちょっと緊張しちゃうなぁ……」
「大丈夫大丈夫、俺も一般人だから」
「……ホントにですかぁ?」
後ろで手を組みながら俺の顔を下から覗き込んでくるふゆちゃん。どうやら疑われているようだが、生憎俺に顔に出るという概念は存在しない。
「それに、気が付いたらふゆちゃんもアイドルになってるような気がするしね」
「え~? も~リョーさんってばぁ」
照れたように笑うふゆちゃんにペチンと肩を叩かれた。うーんオタサーの姫仕草が堂に入っている。
駅前でふゆちゃんとさよならした俺は、そのまま踵を返して会場へと逆戻りする。これから運営スタッフたちと合流して今日の出演アイドルたちの簡単な総評を出すことになっていた。
勿論最終選考への選出はしっかりとした会議で決めるため、これはどちらかというと出演アイドルたちのことを語り合う二次会に近いかもしれない。
投票数によって足切りをした一次選考とは違い、
「……オーディションをする側の人間っていうのは、こういう気持ちだったんだなぁ」
123プロでまゆちゃんや志保ちゃんのときにオーディションをしたが、それとはまた違うような気がした。
「……頑張ろう」
出場アイドルたちはみんな頑張っているのだから、俺だけが挫けるなんてことは許されるわけがない。
それに、そもそも
『W.I.N.G』二次選考終了。只今より審査期間に入る。
ちなみに。
「え? 絵里ちゃんも?」
「えぇ、何処かでリョーさんと会ったことある気がするの」
「私もー。多分、ウチの和菓子屋に来てたんじゃないかなーとは思うんだけど……」
「あんな奴のこと気にする暇あるんなら練習しなさいよね」
「ニコちゃんがちゃんと説明してくれれば、みんな気にならなくなるにゃ」
「なぁんでにこがそんなことしなくちゃならないのよ!?」
練習の合間に謎の遊び人の正体について話し合うJKがいたりするらしいのだが。
それはまた、別のお話。
・『アルバノクト』
アイドルマスタースターリットシーズンに登場するアイドルデュオユニット。
元961でゲームでは後に別事務所で再結成する。
亜夜の苗字が明かされていないので二人とも名前のみ表記。
・黒井社長
ジュピター級のアイドルが見つからなかったから大人しかったんじゃないかな、っていうのがアイ転の設定。
・アイドルの養成学校を設立しようとしている
極月のフラグ立てておく。
・アクア@疑っている
まだ犯人の目星がついていない時期。
・心白ちゃん
・おっぱいが大きい方
トップとアンダーの差が花海佑芽ちゃん以上のプロポーションの十五歳!?
・奥空眞弓
心白の母親。スターリットシーズンで心白をアイドルにし、さらに一度アイドルを辞めさせた張本人。
・ちなみに。
実は二人とも『番外編14 青の短編集』に伏線があるのである!
……え、リアルで11年前???
アルバノクトが全部持っていく形になりましたが二次選考終了です。
果たして283プロのアイドルたちは彼女たちに勝つことが出来るのか……?