アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ちょっと珍しい形式での日常回。


Lesson498 はねやすめ

 

 

 

 『W.I.N.G』第二次選考、通称『W.I.N.Gフェス』は盛況の内に幕を閉じた。

 

 普段ならばさほど注目されない新人アイドルたちのパフォーマンスを多くのアイドルファンの人たちに見てもらうことが出来ただけでも、今回のフェスの目的の大半を達成したと言っても過言ではないだろう。

 

 『W.I.N.G』の前身となる『ゴールデンエイジ』も、元を辿ればそれが目的のオーディション番組だった。すなわち『新人アイドルの成長と躍進』。既に三十組以上の新人アイドルたちを、フェスという大きなステージに立たせることが出来た。

 

 けれど、オーディションである以上……彼女たちの合否を決めなければいけないのだ。

 

 

 

「全員合格にしたい」

「投げやりになるな」

 

 こんな愚痴を遠慮なく溢せる相手筆頭である恭也からの苦言に翠屋のカウンターで項垂れつつ、エプロンを着けて恭也の隣に並んで最近常連さんから『翠屋の若奥様』として認知されつつある月村に視線を向ける。

 

「おたくの彼氏さん厳し~」

「でもそういうところが良くって~」

「なんの会話をしているんだお前たちは」

 

 月村と揃ってバカを見る目で恭也に睨まれた。

 

「……しかしなんだな、お前がアイドルのライブの翌日にそんなにテンションが低いのも珍しいな」

「そうね、立場が立場だから仕方がないとはいえ、心の底からライブを楽しめなかったんだものね」

「いや、そこはしっかり楽しんださ。美男美女に囲まれながら、ステージ上の新人アイドルたちが頑張っているところを応援出来てこの上なく満足してる」

「美女はともかく美男はなんだ」

「実はたまたま俳優の星野アクアと一緒になったんだよ。ほら彼女の黒川あかねちゃんも一緒」

「あらホントだ」

 

 ふゆちゃんを含めて四人で記念撮影したものが残っていたので、月村に見せると横から恭也も覗き込んできた。

 

「いいのか、俳優の恋人の存在を簡単に触れ回って」

「え、恭也知らないの?」

「この二人は恋愛リアリティショー内で成立したカップルだから公認カップルなんだぞ」

「恋愛りありてぃしょー?」

「お前嘘だろ」

「いくら普段からテレビを見なくて、見てもアイドルの番組を便乗して見るぐらいしかしないとはいえ、まさかそこまで疎いだなんて」

「余計なお世話だ」

 

 話を『W.I.N.G』に戻すが、そんな世間に疎い恭也ですら新人アイドルの名を知らしめることが出来たという点でも大成功と評価してもよいのだが、そこから僅か八組まで絞らなければいけないのである。

 

「……仮に今回のオーディションになのはたちが出場していたとして」

 

 俯いていた顔を上げると、カウンターの向こうの恭也は乾いた布でグラスを拭いていた。その何気ない仕草がとても士郎さんによく似ていた。

 

「なのはたちがオーディションに落ちたとしても……少なくとも、なのははお前を恨んだりしない。断言する」

「勿論私たちも。応援してるアイドルが勝てなくて悔しいとは思うけど、少なくともオーディションの審査員を恨んだりしない。周藤君は違うの? オーディションの審査員、恨んだりする?」

 

「……悪い、オーディション落ちたこと無いから分かんない」

「そういえばコイツそうだった」

「忘れてるつもりないんだけど、デビュー以来ずっとトップアイドルだったという事実を再認識したわ」

 

「でもまぁ……そうだな」

 

 残り少なくなったコーヒーカップを持ち上げ、中身を飲み干す。少し冷めていても翠屋のブレンドは変わらず美味しい。

 

「そういう役目も含めて『王様』だもんな」

 

 カップをカウンターに戻してグッと背伸びをする。

 

「二次選考の合否を決める会議は三日後。それまでは俺もちょっとのんびりして気分転換するよ」

「それがいい」

「変にネガティブな状態で選ばれても、アイドルちゃんたちも嬉しくないだろうしね」

 

 仕事の時間が近付いてきているので、合間のコーヒーブレイクもここまでのようだ。

 

「ご馳走様」

「あぁ」

「お仕事頑張ってね~」

 

 将来この店を継ぐことになりそうな若夫婦(仮)に見送られながら、俺は翠屋を後にするのだった。

 

 

 

「……ねぇ恭也」

「なんだ?」

「今周藤君『三日後の会議まではのんびりする』って言ってたわよね」

「概ねそんなことを言っていたな」

「確か明日って周藤君の……」

「ファンミーティングだな。なのはや美由希も楽しみにしていた」

「……アリーナでのライブって、のんびり出来るものなのかしら」

「ドームでのライブよりは出来るんだろ、アイツにとっては」

 

 

 

 

 

 

 将来、自分は剣を握って生きていくのだろうと思っていた。

 

 戦いの中でしか生きていくことが出来ないと思っていたというのに、今ではこうして将来を約束した女性と喫茶店のカウンターの中で並んで接客をしているのだから、やはり人生というものは不思議なものである。

 

 剣を握らなくなったわけではない。父さんや美由希との剣の鍛錬は続いているし、流派の跡継ぎはいないものの道場で体力づくりの稽古に参加するアイドルも増えた。

 

 きっと俺は今、充実しているのだろう。

 

 

 

 さて、俺の両親が経営するここ喫茶『翠屋』は自他ともに認める隠れた名店である。とある事情によりテレビの撮影だけは全て断っているものの、雑誌の取材を受けた回数は数知れず、最近ではネットでの口コミも相まってさらに客足が伸びている状況だ。

 

 そのとある事情というものが『アイドルが数多く来店する』というものである。

 

 『高町なのは』の実家であり『周藤良太郎』が昔から贔屓にしているという話が業界内で広まっており、気が付けば『アイドルがこっそり訪れる隠れ家』的な存在になってしまっていた。

 

 来店する他の客もそれをよく理解してくれており、来店したアイドルに気付いても彼女たちに声をかけたりサインをねだったりすることはない。

 

 ……まぁ、そういう客はとっくの昔に()()された結果なのだけれど。

 

 そんなわけで、今日も『翠屋』には多くのアイドルが来店する。

 

 

 

「……あ、ここだよ二人とも! 喫茶『翠屋』!」

「わぁ、すっごいおしゃれ……!」

「ゆ、有名アイドルが通う名店……!」

 

 良太郎が退店してから数分後、店の外からそんな声が聞こえてきた。女性三名。お冷とおしぼりの準備をする。

 

 チリンというベルの音と共に入り口が開き、聞こえてきた声の通り三人の女性が来店した。

 

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

「三人です!」

 

 長い紫の髪を一つに結んでまとめた忍が対応し、三人をボックス席へと案内する。昔はアルバイト扱いだった彼女も、今では正式な店員。あの『月村家』のご令嬢に何を差せているんだと一部界隈からは言われそうではあるが、そんなもの楽しそうな忍と比べてしまえば些細な問題である。

 

 新たに来店した三人の女性の案内を済ませた忍に、今度はお冷とおしぼりを任せる。

 

「ご注文がお決まりになりましたら、お声をおかけください」

「はーい」

「どれも美味しそうねぇ」

「シュークリームは絶対に食べたい……!」

 

 楽しそうにメニューを覗き込む三人の女性。……それなりに多くの『変装をしているアイドル』を見てきてた俺の勘が、彼女たちもまたアイドルだと告げていた。

 

「うーん、絶対に何処かで見たことあるのよねぇ」

 

 カウンターまで戻って来た忍が、チラリと三人に視線を向けながら顎に指を当てる。どうやら忍もまた、彼女たちがアイドルであると確信している様子だった。

 

「無理に詮索はするなよ」

「分かってるって。でもアイドル御用達のお店の店員として、気付いてあげれない方が失礼じゃない?」

「その理屈はよく分からん」

「というか寧ろ恭也の方が、こういう人の変装とか見破るの得意じゃない?」

「見破ったところで該当するアイドルの知識が無い」

 

 昔からウチのリビングのテレビはなのはや美由希の要望でアイドルの番組ばかりが映されていたものの、それで俺のアイドルに対する知識が増えたかと言われれば当然そんなことはない。

 

「一度見たことあるアイドルならば分かるが……少なくとも合同ライブに出演したアイドルではないな」

「合同ライブに出演したことがあるライブだったら私にだって分かるって」

 

「注文お願いしまーす」

「はーい」

 

 そんな会話をしている内に、注文に呼ばれて忍が三人の女性の下へ。

 

 先ほどから眼鏡をかけた赤茶色の髪の少女が率先して動いている印象。そんな彼女とよく似た少女は、キョロキョロと店内を見回していて少し落ち着きがない。そんな彼女のことを、眼鏡をかけた栗色の髪の女性が優しい笑顔で見守っている。

 

 ……恐らく、赤茶色の髪の少女二人は姉妹。それも双子だろう。三人を代表して忍に注文をしている少女が姉……いや、勘だが妹。おっとりとした姉にしっかりもののの妹といったところか。

 

 注文を取って戻って来た忍のオーダーがキッチンに通る。俺も飲み物の準備をしつつ、忍に尋ねてみる。

 

「忍、最近デビューしたアイドルで双子のアイドルを含む三人組ユニットはいるか?」

「へ? なにその限定的な条件は? なんで新人アイドルだって思ったの?」

「入店前の会話がチラッと聞こえてきてな」

「普通入店前の会話は聞こえないのよ」

 

 そのとき、双子の姉が『有名アイドルが通う名店』と口にしていた。経験則的に、こういう物言いをするアイドルは大体新人だと思ったのだ。

 

 新人。双子。三人組ユニット。これだけあれば十分アイドルを特定出来るとは思うのだが……。

 

「如何せん、知識不足でな」

「やっぱり見破るの得意じゃない……」

 

 結局忍も答えが出なかったため、彼女たちの退店後に調べるのだった。

 

 

 




・「おたくの彼氏さん厳し~」
厳しい(抜刀)

・「オーディション落ちたこと無いから分かんない」
ビギンズナイトのときは出演取り消しだったため、また別の話。

・ファンミーティング
描写してないだけで、ちょくちょくライブはやってる主人公。

・恭也視点
これまでもちょくちょく書いた気がするけど、これだけガッツリとしたのは初めてかも。



 少し変則的な『恭也視点による日常回』となります。と言いつつ多分恭也以外の視点も出るけど。

 W.I.N.G決勝前の最後の息抜きじゃけぇ……。
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