アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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五百回でも変わらぬ日常。


Lesson500 はねやすめ 3

 

 

 

「良太郎君、昼公演お疲れ様です」

「お疲れ様でした」

「ありがとうございます」

 

 しっかりとアンコールも終えてステージ裏に戻って来た俺は、タオルとミネラルウォーターを用意してくれていた留美さんと風間さんによって出迎えられた。手渡されたタオルで汗を拭きつつペットボトルに口を付ける。

 

 脳内の俺が「お水おいしー?」と尋ねてくる中、ふと留美さんからの視線が気になった。

 

「トラブルか何かありました?」

「あ、いえ、そうではなく……改めて不思議に思ったことがありまして」

「?」

「良太郎君は普段どれだけ激しいレッスンも涼しい顔でこなしているのに、ライブの後はいつも汗だくになっているなぁと」

「それはつまり……留美さんは汗フェチと?」

「誰もそんな話はしていませんが!?」

 

 性癖の開示による本気かと思ったが違うらしい。

 

「全く……純粋にそう思っただけです」

「自分も同感です。決して汗に対してそういう興味はありませんが」

「その前置き絶対に不必要ですよね!?」

 

 風間さん、真面目なふりして結構悪ふざけする恭也タイプである。

 

「自分はこの事務所では新参者で、アイドルのライブの現場にご一緒させていただいた回数はまだ数えるほどです。ですが、アイドルの皆さんはいつも何時間も行われるレッスンのとき以上に疲弊しているように見受けられます」

「そういうものだから……というのはちょっと雑な解答ですかね」

 

 風間さんの言う通りで、運動量だけを見るとライブ本番よりもレッスン中の方が多い。俺や冬馬を筆頭に、基礎トレーニングを重視している123のアイドルは基礎体力が高くレッスン中にへばるようなことは殆どないと言っていいだろう。

 

 しかし、そんな俺たちでもライブとなると汗もかくし息も切れる。僅かな時間でも座って体力の回復を図ったりもする。

 

「そうですね。それだけ俺たちアイドルがステージに『魂を懸けている』ということなんだと思います」

 

 同じダンスでも、同じ歌唱でも、同じパフォーマンスでも、鏡の前とファンの前では何もかもが違う。それを届けるべき相手が目の前にいるといないのでは全く違う。

 

「例えば『愛してる』という言葉も、虚空に向かって言うのと誰かに向かって言うのでは、やっぱり思いの込め方が変わってくると思いません?」

「分かります。写真越しの猫ちゃんと実際の猫ちゃんでは、胸の高鳴りが全然違います」

「それはアレルギー反応が出ているだけなのでは?」

 

 猫アレルギーの猫好きほど不憫な存在はそうそういないと思う。

 

「ちょっと話は逸れましたが……やっぱりアイドルの本質は『ファンに想いを届ける』ことなんだと思います」

 

 誰も見ていないアイドルは、果たしてアイドルなのだろうか。

 

 逆に誰か一人でも見ていてくれるのであれば、それはアイドルなのではないだろうか。

 

「最後ちょっと哲学チックになっちゃいましたね」

「……やっぱり凄いですね、アイドルというものは」

「今からでも遅くないですよ。留美さんや風間さんもやりません?」

「お誘いは嬉しいですが、生憎私は皆さんをステージの裏から支える今の立場が好きなんです」

「留美さんに同じく。裏方の仕事が性に合っています」

「それは残念」

 

 きっと何処か別の世界や未来では、二人がアイドルとしてステージに立っていたこともあったに違いない。

 

「でも、少しだけアイドルのことを知れたような気がします」

「自分もです」

 

 

 

 

 

 

「アイドルのことなんも分からん」

「ついに匙投げちゃった……」

 

 小休憩の間、父さんと母さんにコッテリと絞られて再び店に戻って来たのだが、つい先ほど案内した五人がアイドルだったことを知った。しかも昨日案内したアルストロメリアと同じ事務所らしい。

 

 アイドルかと思えばアイドルじゃないし、ならば自分の勘が外れているのかと疑ってみればアイドル。

 

「俺は一体、何を信じればいいんだ……!」

「恭也が言うとサスペンスアクションの終盤のセリフみたいね」

 

「私、知ってますよ。そういうときに何を信じればいいのか」

 

「なにっ」

 

 そんな俺たちの会話を聞いていたらしい声がカウンター席から聞こえてきた。

 

 声の主は、俺たちが休憩中に入店していた765プロの春日未来ちゃんだった。一緒に来ていた最上静香ちゃんが困惑した様子で彼女の肩を揺すっている。

 

「ちょっと未来ってば、いきなり何を言い出してるのよ」

「ふふっ、こんな風にカウンター越しにアドバイスをする役、やってみたかったんだ」

「なにかの影響受けてるっぽいけど、それ普通は店員がお客さんにするものよ」

「信じるもの、あるよ」

「多分HEROねコレ」

 

 初めて翠屋へ来店したときはまだまだアイドルの卵だった彼女たちも、今ではすっかり一人前のアイドル。良太郎たちほどではないもののちゃんと身バレ対策の変装をしている彼女たちからも、しっかりとアイドルとしての雰囲気は感じ取れていた。

 

「それで恭也さん、何を信じるべきかお悩みとのことですね!」

「あぁ。自分の感覚がイマイチ信用出来なくなっていてな」

「ふっふっふ……そんなこと恭也さん自身が一番良く分かってるんじゃないですか?」

「なに?」

 

 自信満々な様子の未来ちゃんは、自分の胸に手を当てた。

 

「胸の中にある剣に従えばいいんですよ……そう、心という名の剣に」

「未来、貴女本当に何言ってるの?」

「そうか……そうだったな……それだけでよかったんだな……」

「恭也、貴方本当に何言ってるの?」

 

 どうやら俺は随分と簡単なことで悩んでいたらしい。まさかこんな少女に教わることになるなんて。

 

「まだまだ俺も未熟だということだな」

「恭也さんの力になれたみたいで、光栄です!」

 

「ウチの未来のおバカが恭也さんにうつってしまったみたいで、本当にすみません……」

「こちらこそ、ウチの恭也のおバカが悪ノリしちゃったみたいで……」

「でもそういうところが可愛くて……」

「分かる……」

 

 

 

「深刻なツッコミ不足!」

 

 

 

「むっ」

「あ、ごめんなさい、いらっしゃいませ……って」

 

 大きくはないが圧が強いツッコミの声に忍と二人で我に返って振り返る。

 

「あら結華ちゃん、お久しぶり」

「お久しぶりです。すみません、あまりにもボケの無法地帯だったもので思わず」

「いえ、こちらこそごめんなさいね」

 

 忍と親し気に話す黒髪ツインテールの眼鏡の女性は、俺も知っている常連客だった。よく良太郎と一緒に来ていたアイドルオタクの集会メンバーの一人……だったな。最近は少し見かけなかった。

 

 ……そういえば初めてこの店に訪れたときと比べると、大分アイドルの気配が強くなっているような気がする。これは、まさか……。

 

「三峰さん、一つ確認させて欲しいことがある」

「え? なんですか?」

「今このタイミングでこれを尋ねるのは失礼かもしれないが……もしや君は、アイドルになったのか?」

 

 そんな俺の問いかけに、三峰さんは「あ、そっか、言ってなかったけ」と手を打った。

 

「はい、改めまして。三峰結華、今年の春よりアイドルとして活動させてもらってます」

 

 

 

「……勝った」

 

 

 

「何が!? 何に!?」

「ごめんなさい結華ちゃん、今ちょっとこの人迷走してて……」

 

 

 

 

 

 

 未来ちゃんと静香ちゃんが退店し、そして三峰さんと連れの合計五人を改めてテーブルに案内する。

 

「あの、高町恭也先輩、ですよね」

「む? あぁ、そうだが……先輩、というと」

 

 その内の黒髪ポニーテールの女性が声をかけてきた。

 

「はい。高町先輩たちが卒業した高校に入学させていただいた、白瀬咲耶と申します。と言っても、私も既に卒業してしまった身ですが」

「そうか、君が……良太郎から話は聞いている」

 

 以前良太郎が『ウチの高校からまた一人アイドルが誕生した』なんてことを言っていたことを思い出した。恐らく彼女のことを言っているのだろう。

 

「えっ、お兄さんも『周藤良太郎』さんと知り合いばい?」

「あぁ、幼馴染だ」

「ほえ~……!」

「ね? 言ったでしょ? ちゃんと縁も所縁もある喫茶店だって!」

「別に疑ってはなかったじゃーん」

「う、噂、本当だったんだ……」

 

 今回は彼女たち五人が283プロ所属の『L’Antica』というアイドルユニットだとしっかり教えてもらった。

 

 やはり未来ちゃんの言う通り、俺は俺の(こころ)に従うことにしよう。

 

(なーんか恭也が変なことに目覚めてしまったような気がする……)

 

 俺と入れ違うようにお冷とお絞りをテーブルに持ってきた忍が何か変なものを見るような目で見られたような気がする。良太郎じゃあるまいし。

 

 

 

「ふぇー……さっきのお兄さん、ばりカッコよかとね~」

「こがたんまたぁ?」

「ま、またってなんとよ結華!? そげん惚れっぽい女みたいに言わんでくれる!?」

「いや良太郎さんのときも言ってたじゃん」

「カッコよか人にカッコよかってゆーて何が悪いとね」

「恋鐘ってー、結構面食いだよねー」

「摩美々ー!?」

「だ、大丈夫だよ、恋鐘ちゃん……カッコいい人をカッコいいって言うのは、普通のことだから……」

「霧子までー!?」

「ちょっと妬いちゃうな」

「咲耶がそれ言うと色々とマズいから止めんね」

「でも残念だけど、高町先輩には既にフィアンセがいるからね」

「あ、さくやんも知ってるんだ」

「良太郎先輩と同じぐらいの有名人だったからね。それこそ卒業後の高校でも名前を聞くぐらいさ」

「す、『周藤良太郎』と同じぐらいの有名人と!?」

「寧ろ結華は良く知っていたね」

「三峰は良太郎さんの紹介で結構前から常連でー」

 

 

 

 三人寄れば姦しいというのだから、当然五人ともなればそれなりになる。

 

 しかし、それは決して嫌な喧騒ではない。彼女たちと同じぐらいの声量で話すグループはいくらでもいるし、なんだったら先ほどの俺たちの方がうるさいぐらいである。

 

「とはいえ、アイドルというのであればもう少し会話の内容に気を遣うべきだとは思うんだがな」

「もう、恭也ってば何目線なのよ」

 

 

 




・「お水おいしー?」
早苗ねーちゃんの中の人「水は水です」

・性癖の開示による本気
アニメ三期後編まだかなー?

・「信じるもの、あるよ」
にじゅうごねんまえ……?



 番外編挟みまくってるから全体では六百話超えてるけど、本編はこれで五百話!

 ここまで来るとアイマスというコンテンツが長く続きまくって、千話まで書かせてほしい(強欲)
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