アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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息抜きの恭也編ラスト!


Lesson501 はねやすめ 4

 

 

 

「あー昨日のライブ本当に良かった……」

「ですよね! 凄くいいライブでした!」

「やっぱりさ、ライブっていうのはアイドルとファンの交流であり対話の場なわけだよ」

「分かります! 私たちがアイドルの声を聞いているのと同じぐらい、アイドルも私たちの声を聞いてくれてるんじゃないかって」

「さ、流石に思い上がりですかね?」

「そんなことないって。しっかりとステージの上のアイドルに届いてるよ」

 

「……お前たちは何をしているんだ?」

「ん? そりゃ見ての通り、オフ会だよ」

「そうだよ、お兄ちゃん。昨日出来なかったライブの感想を語り合ってるの!」

「私もなのはも、今は勤務時間じゃないからいいでしょー?」

「いやそれは分かってる。分かっているが……」

 

 何故か恭也は難しそうな表情で自分の眉間を揉んでいた。

 

「出演者と観客が一緒に語り合うことをオフ会と言っていいのか?」

「別にいいんじゃないか?」

「深く考えすぎなの」

「恭ちゃんは頭が固いなぁ、そんなんだから……って、なんで私だけー!?」

 

 美由希ちゃんの言い方が癪に障ったらしく、恭也の右手が彼女の顔面を鷲掴みにした。堪らずタップする美由希ちゃんを全く意に介すことなく、恭也ははぁと溜息を吐いた。

 

「この二日間でアイドルのことについて少し理解した気になっていたが、どうやら気のせいだったようだ」

「ん? どゆこと?」

「一昨日、周藤君が帰ってから色々あったのよ」

 

 かくかくしかじかと話を聞いてみる。

 

「恭也、そういう愉快なことはちゃんと俺のいるところでやらないとダメじゃないか」

「やかましい」

「アイドルの気配かー。良太郎さんもそういうの感じ取れたりするの?」

「んー、まぁなんとなくだけど」

「あるの!?」

 

 美由希ちゃんからの問いかけに肯定すると、なのはちゃんが驚きの声を上げた。

 

「二人は恵美ちゃんがウチに所属するきっかけって覚えてる?」

「えっと……確か、良太郎さんと幸太郎さんが街中でスカウトしたって……」

「あれ!? まさかそういうことなんですか!?」

「気配というか直感というか、そんな感じだけどね」

 

 俺を含めて現在123プロに所属するアイドルは九人。その中で唯一スカウトによってアイドルになったのが『所恵美』である。まぁ志希と美優さんもスカウト組に近いものはあるが、正真正銘街中で声をかける形でのスカウトは恵美ちゃんだけだった。

 

「たまたま街中でスレ違ったときに思ったんだよ」

「『この子はアイドルになれる』って?」

「兄貴はそうだったらしいけど、俺はちょっと違うかな」

 

 あの日、恵美ちゃんを見たときに感じたものは、そういう直感めいたものではなく。

 

「『この子がステージに立つところを見てみたい』……ただそれだけだったよ」

「良太郎さん……」

「「「……………」」」

 

 あれ、なんかなのはちゃんはほっこりしたリアクションをしてくれるのに、他の三人の反応が微妙。美由希ちゃんは苦笑してるし、月村は懐疑的だし、恭也に至っては視線が冷たい。

 

「周藤君、私たちは貴方が嘘を言ってるだなんて思ってないの」

「サツキとメイのお父さんみたいに『証拠を出せって言ってるんだ』とでも?」

「サツキとメイのお父さんはそんなこと言わない」

 

 じゃあなんだと尋ねると、月村は「普段の言動を振り返りなさい」と溜息を吐いた。

 

「私たちは『恵美ちゃんの胸に釣られたんじゃないか』って疑ってるのよ」

「肯定する!」

「せめて『否定しない』って言いなさい」

 

 周藤良太郎はいつだって自分に正直に生きているのである。

 

 

 

「それより恭也、アイドルのオーラが見えるようになったって言ってたけど」

「見えはしない。気配を感じているだけだ」

「そこに何の違いもありゃしねぇだろうが!」

「違うのだ!」

「いや同じよね……?」

 

 珍しくネットミームに乗ってくれた恭也はさておき、一つ試してみようと思う。

 

「俺やなのはちゃんを除いて、()()()()()()()()()()()が誰か分かるか?」

 

 

 

 

 

 

「なに?」

「「「えっ」」」

 

 突然の良太郎からの問いかけに、俺だけではなく忍やなのはや美由希も驚愕する。

 

「い、今この店内にアイドルいるの?」

「全然気付かなかった……なのは、分かる?」

「わ、分からないの……」

 

 三人は分からない様子で店内をキョロキョロと見回している。他の客の迷惑になるからやめなさい。

 

「で? どうだ?」

「……一人だけ、強いオーラを纏っているのは感じた」

「気配ではなく?」

「そこはもうどっちでもいいでしょ」

 

「っていうかお兄ちゃん分かったの!?」

「オーラ見れるの本当だったんだ!?」

「オーラではなく気配だ」

「今さっきオーラって言ったじゃん!?」

「その辺ゴチャゴチャしてるからもうどっちでもいいの!」

 

 『あの長い黒髪の少女』を店内に案内したのは確か父さんだったから、忍も気付かなかったのだろう。いや、あの銀縁眼鏡で変装をしていて忍が接客していても気付かなかったのかもしれない。きっとあの髪型も普段のものとは違うのだろう。

 

 どちらにせよ、ここは他のアイドルも大勢お忍びで来店する喫茶『翠屋』だ。変装しているアイドルの正体を積極的に暴くような真似をするわけにはいかない。

 

「全員そこまで。このお店でそういった詮索はご法度だ」

「そ、そうね」

「反省なの」

「うーん、後でこっそり教えてね?」

「そうだな、後で身体に教えてやることにしよう」

「それってエッチな意味ですか!?」

 

 後回しにするのが面倒くさくなったので、余計な口を挟んできた良太郎諸共美由希にげんこつを落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 アイドルとファンの組み合わせという変則的なオフ会が終わり、良太郎は仕事へと向かった。どうやらオフなどではなく普通に仕事の合間だったらしい。

 

「学生の頃からそうだったけど、周藤君って時間の使い方が無駄に上手よね」

「アイドルとして活用しているのであれば無駄ではないだろう」

「着替えてきたの」

「ここからはちゃんと店員やるよー」

 

 そんなことを話している内に、なのはと美由希も翠屋の制服に着替えてきた。

 

 310プロを代表するアイドルの一人として名前が売れている『高町なのは』は、今でもこうしてオフの日は店員として翠屋に勤務している。父さんも母さんもやんわりと無理しなくていいと言っているのだが、当の本人が「これは私がやりたいことなの!」と意地でも譲ろうとしない。

 

「全く、誰に似たんだか」

「しいて言うならば高町家全員だと思うわよ」

 

 そんなことを話している内に新規の客が来店した。

 

「いらっしゃいませ」

「えっと、三人です」

 

 一目見た瞬間に分かった。彼女たちがアイドルであるか以前に()()()()()()だ。

 

「なのは、お友だちが来てくれたぞ」

「え?」

「こんにちは、なのはちゃん」

「わっ! 真乃ちゃん! いらっしゃいなの!」

 

 なのはのクラスメイトであり、283プロでアイドルとしてデビューした少女、櫻木真乃さん。一緒にいる他の二人からもアイドルの気配を感じることから、恐らくユニットメンバーだろう。

 

「は、初めまして、風野灯織です……!」

「初めまして! 私、八宮めぐる! よろしくね!」

「初めまして! 高町なのはです! 今日はご来店いただきありがとうございます!」

 

「ほ、本当にあの『高町なのは』さんが接客してる……!」

「制服かわいー!」

「凄いね、なのはちゃん、アイドルとしても活躍してるのに、ご実家のお仕事まで……」

「にゃはは、これは私の趣味みたいなものだから全然大したことじゃないの! それよりW.I.N.Gフェス観たよ! 真乃ちゃんにはもう言ったけど『イルミネーションスターズ』のステージ、良かったの!」

「ああああありがとうございます! た、高町さんにそんなことを言っていただけるなんて……!」

「ありがとー! W.I.N.Gフェスは私たちもすっごく上手くいったと思っててー!」

 

 同年代のアイドル同士随分と盛り上がっている様子だが、生憎まだここは店の入り口である。

 

「なのは」

「っ! し、失礼しました! 三名様ですね、お席にご案内します」

「あっ」

「ご、ごめんなさい、ご迷惑を……!」

 

 声をかけてようやく気付いたらしく、なのははバツが悪そうにチラリとこちらに視線を向けた後、三人を席へと案内しに行った。

 

「全く」

「なのはちゃんが楽しそうで何よりじゃない?」

「せめて従業員としての責務を果たしてからだな……」

 

 若干自分のことを棚に上げながら忍に注意しようとすると、忍は何故か慈しむような目でなのはたちのことを見ていた。

 

「どうかしたのか?」

「こんなことを考えること自体が失礼なことなのかもしれないし、お前ごときが何様なんだって話になるかもしれないけど」

 

 そう前置きしてから、忍は目を伏せた。

 

「二日前からウチに来てくれた『アルストロメリア』も『放課後クライマックスガールズ』も『L’Antica』も、そして『イルミネーションスターズ』もみんな『W.I.N.G』に出場していて……最後に勝つのはただ一組」

「……アイドルというのは得てしてそういうものだろう」

 

 なのはや、それこそ良太郎だって通ってきた道だ。

 

「そしてそのたった一組を選ぶのが……周藤君なのよね」

「………………」

「分かってるわよ、周藤君一人が選ぶわけじゃないって。それでもきっと『周藤君は私たち以上に彼女たちと仲が良いんだろうな』とも考えちゃって」

「……そうだな」

 

 それはきっと、良太郎がこれまでに経験したことがない困難であり苦難なのだろう。二日前、このカウンター席で良太郎が管を巻いていた理由をようやく理解出来た。

 

「次来たときは、もうちょっとだけ優しくしてあげる?」

「アイツのことだ。『いきなりどうした』と気味悪がるだろう」

「確かに」

「だから……話ぐらいならば、いくらでも聞いてやろう」

「……そうね」

 

 

 

 ここは喫茶『翠屋』。多くのアイドルたちがお忍びで訪れる隠れた名店であり……『周藤良太郎』の第二の実家。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに。

 

 

 

「穂乃果……!?」

「穂乃果ちゃん!?」

「ちょっ、穂乃果!?」

 

 

 

 とある高校のスクールアイドルの物語が、最終局面を迎えようとしているのだが。

 

 それはまた、別のお話。

 

 

 




・オフ会
アイ転世界だと割とよくあること。

・『証拠を出せって言ってるんだ』
個人的ボケてのレジェンド。

・『あの長い黒髪の少女』
趣味:トレンドを追いかけること

・ちなみに。
こちらも一先ずの佳境を迎えている模様。



 変則的な番外編のノリの本編でした。次からいよいよ最終選考……!



『どうでもいい小話』

 IWSF最終日現地でした。感想は色々あるんだけど、一番思ったことをここに記します。

 朱雀、セクシーだったぜ!
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