先日美琴から聞いた283プロのイルミネの三人が抱える悩み……あれ、なんだっけ。
……そうだ持ち曲数の少なさだ。その日に連れ込まれた佐竹飯店での出来事の印象が強すぎて頭から抜けかけてた。あわやこれまでかと諦めかけたが、たまたま315プロの翼さんが来店しなかったことにより全てが解決した。本当にありがとうございます。
またしても話が逸れて忘れかけたが、新人アイドルには持ち数が少ないという悩みがある。イルミネの三人は『そりゃそうするよな』という手段も用いたようだが……ここにもまた一組、定番の方法でその悩みの解決を図ったアイドルユニットがいた。
「ワン! ツー! スリー! フォー!」
レッスン室に美波の掛け声と手を叩く音が響く。最近ではめっきりシンデレラプロジェクトの後輩の指導役が板についてきたようで、本人も「引退したら裏方の仕事に専念しようかしら」なんて冗談を言っていた。なおその発言の「引退」の部分だけが耳に入ったらしいプロデューサーが血相を変えて飛んできたのはちょっと笑った。
そんな彼女がレッスンを見てあげている相手は、現在進行している『シンデレラプロジェクト三期生』の中で唯一『W.I.N.G』に出場し、そして最終選考にまで進出した新人アイドルユニット。
「その名も『ニューウェーブ』。シンデレラプロジェクトにおける新たな信号機トリオである……!」
「なにそれ」
私と一緒にレッスンの様子を眺めていた未央がいきなり変なことを言い出した。
「知らない? 123プロチャンネルの動画で『アイドルは三色に分けることが出来る』って良太郎さんが言ってたんだけど」
「あー、なんか見たことがあるかも」
第何回だったかは忘れたけれど、佐久間流周藤良太郎学講座の中でそんな話をしていたような気がする。
「赤青黄の色の三原色だっけ?」
「マゼンタを赤って言うと警察来るって良太郎さん言ってたよ」
「良太郎さんの言葉を鵜呑みにしちゃいけませんって注釈あったでしょ」
動画主であるまゆさん、ゲストの良太郎さん、特別ゲストのみのりさんの三人によるアイドル談義においてそんな話をしていたことを思い出した。
「意見が食い違った良太郎さんとみのりさんのプロレスが見ごたえあったね」
「着眼点が違う……って言えないところが123プロチャンネルなんだよなぁ」
『周藤良太郎』の年相応なリアクションを観ることが出来るのもこのチャンネルの見どころである。みのりさんの卍固めが良太郎さんに綺麗に極まったときは思わず拍手してしまった。
「青色と黄色と赤色で丁度信号機と同じ色合いじゃん? だから信号機トリオ!」
「ネーミングセンスが良太郎さんみたい」
「それ色々な方面に喧嘩売ってない?」
「言いたいことは分かったんだけど『新たな信号機トリオ』ってどういうこと?」
まるで以前にも信号機トリオがいたかのような言い方だと首を傾げると、未央は「何言ってんの」と言いながらちょいちょいと自分と私を交互に指差した。
「私たち『ニュージェネレーションズ』がシンデレラプロジェクト一期生の信号機トリオだよ」
「……赤と赤と黄は信号機として成り立ってないんじゃない?」
「嘘でしょ、しぶりん自認赤なの……!?」
冗談だって。
「それじゃあ二期生の信号機トリオが『#ユニット名募集中』ってこと?」
「そーです。そしてついに現れた三代目信号機トリオ、それが『ニューウェーブ』ということです!」
未央の言葉に、改めて三人に視線を向ける。
「二人とも、まだ頑張れるでしょ」
「わたし、ちょっと無理かも~」
「いずみ、ちょっとだけ一人で頑張っとってくれへん……?」
「ほらつべこべ言わず立つ!」
「も~、厳しいわ~」
「……あの、二人とも、流石にこの場面でわたしの頭を撫でるのはタイミングが違うと思うんだけど~?」
「「撫でやすい頭だから、つい」」
自身も息を切らしながらも二人に発破をかける青みがかった黒髪の
改めて見ると、確かに信号機のような色合いの三人である。
「実際ニュージェネもユニ募も各世代のシンデレラプロジェクトを代表するようなユニットだし、あの子たちも346期待の新人ってことだね」
「そーなります」
私たちもそうだけどユニ募の三人にもその看板はちょっと重い気がする……と思ったところで気が付いた。
「ところで未央、さっきから誰と話してるの?」
「え?」
いつの間にか私と未央の会話の中に謎の三人目が。具体的には私の左隣にいる未央とは逆、私の右隣にいる誰かと話していた。
(って、こういうタイミングで現れるのって大体……!?)
「ヤァ! リョーサンダヨ!」
「「っ!?」」
咄嗟に自分の口を押えて大声を出すことを堪えた私と未央は褒められるべきだと思う。
確かに良太郎さんのことを『どこにでもいる』とかそんな風に表現したことはあるけれど、まさかここまで神出鬼没だとは思っていなかった。いや本当に何処から現れたんだこの人は。
「……はぁぁぁ本当に口から心臓出るかと思ったぁ……」
「……なんでいるの、良太郎さん……」
私たちからジロリと睨まれるというのに、いつもの伊達眼鏡をかけた良太郎さんは何処吹く風。私の隣に並んで壁に背中を預けながら、レッスン中のニューウェーブの三人を眺めていた。レッスン中の三人どころか美波すら気付いていないとか、本当に気配を消してきたというのだろうか。
「そんなに警戒しないでよ。ただ最終選考に進出した三人の様子を見に来ただけだから」
「普通に部外者が当たり前のように事務所内にいたら警戒しないわけないんですけど」
「もしかして例の通行許可証?」
「あれは大分前に美城さんに返しちゃったから持ってないよ」
とりあえず良太郎さんの言葉に嘘はないのだろう。先ほどから視線がレッスン中の三人に固定されていた。
「ところで、あの三人がレッスンしてるのってユニ募の『Brand new!』だよね」
「え、音源流してないのによく分かりましたね」
「合同ライブのときにユニ募のレッスンを見てたからね」
『W.I.N.G』の最終選考は最大三つのステージに立つことになる。しかし残念ながら『ニューウェーブ』にはまだデビュー曲の一曲しか持ち歌がなく、それも二次選考の『W.I.N.Gフェス』のときに披露してしまった。一応同じ曲を披露してはいけないなんてルールはないらしいのだが……それでも折角ならば別の曲を、と考えてしまう。
「そこで先輩アイドルのユニット曲を貸してあげようってことになったの」
「もしかして、それがさっき言ってた信号機トリオの話に繋がってくるわけ?」
「そーです! 私たちニュージェネからも『できたてEvo!Revo!Generation!』と『流れ星キセキ』を提供したんですよ!」
これで最終選考の全てのステージで披露する楽曲は決まった。
……後は、実際に三つのステージ全てに立つだけである。
「それで? 本当に顔見に来ただけ?」
「んー、やっぱり折角だから声かけようかな。他のアイドルユニットには『頑張って』って声かけてるのに、この子たちだけそれは無しっていうのは不公平だし」
「逆に『W.I.N.G』終わるまでトップアイドルの夢を見せておくっていうのは?」
「そんな、激励するだけだって」
なおこの後、汗だくの亜子の姿を見て「うわデカっ!」と声を上げてしまいあっという間にフラグを回収した模様。
『最終選考』までの間に出場アイドルに声をかけておこうという試みは、ほぼ接点のなかった『ニューウェーブ』の三人と接触出来たことでほぼ完遂したと言っていいだろう。
何せ残る一組が『アルバノクト』、つまり961プロなのである。一応打診はしたものの「検討させていただきますので少々お時間いただきます」という事務的な対応から既に三日経っていた。これはこのままシカトする気満々だろう。
黒井社長の俺への対応に対して、俺からは別に思うところは殆どない。寧ろうっすら嫌われてた方が黒井社長も生き生きとアイドル業界のために働いてくれるだろうし。しいて言うならば、一回ぐらい酒でも飲みながらアイドル業界の先人としての話をしっかりと聞いてみたいことぐらいか。
(でも一回ぐらいは直接話してみたかったな)
こうなったら俺の『アイドルエンカウントぢから(笑)』に頼るしかないだろう。適当に街中を歩いていたら、なんかこういい感じに出会えたりしないだろうか。
……なんてことを考えたのは、本当に出来心の冗談のつもりだったのである。
「な、なんだあの子!?」
「大道芸人にアシスタントを頼まれて飛び入り参加したかと思ったら、なんか滅茶苦茶上手にジャグリング始めたぞ!?」
「奇人ね!」
この辺でよく見かける路上パフォースが何やら騒がしいと思ったら、白みがかった金髪の少女がやたらと器用にジャグリングをしていた。
「……何やってんだあの子」
『アルバノクト』の心白ちゃんだった。マジでエンカウントするとは思わないじゃん。
本当に自分はそういう星の下に生まれてきたんだなぁと改めて実感しつつ、本当に上手にジャグリングをする心白ちゃんに感心する。ボールじゃなくてクラブでのジャグリングに手慣れている様子から察するに、どうやら彼女は経験者のようだ。
「違いますよ」
「えっ」
俺の口から漏れ出ていたらしい独り言に、傍のベンチに座っていた少女が反応した。
「あの子、ダンスもパフォーマンスも全部
「……そういえば、そんなことプロフィール欄に書いてあったね」
俺もすぐにダンスを覚えることが出来る才能を持っていればよかったのだが、残念ながらこれでも回数をこなして覚えるタイプである。
「……それで、もしかして今日はユニットでお出かけだったのかな?」
俺は伊達眼鏡をズラして自分の正体を明かしつつ、話しかけてきた黒髪の少女――。
――心白ちゃんのユニットメンバーである亜夜ちゃんに声をかけた。
・『ニューウェーブ』
・大石泉
・土屋亜子
・村松さくら
@顔見せ。亜子とさくらも声付いたら絶対化けると思うんだよなぁ。
ちなみに一番『おもち』なのは亜子。
・「ヤァ! リョーサンダヨ!」
ケンイチ2連載中!
・「奇人ね!」
多分立派な眉毛の彼氏とデート中の人気歌姫だったりしなかったり。
・「見ただけですぐに出来ちゃう」
天然もののギフテッド。
今さらですが第十章最終局面に入ってます。