『W.I.N.G』の最終選考はファン投票および審査員投票によって行われる。
ファン投票は勿論、審査員投票にも明確な審査基準というものは存在しない。採点項目なんてものも存在せず、あるのはただ一つ……どちらの方が良かったか』という単純な二択。
故に『選ばれた』勝者に対して……敗者は『選ばれなかった』ということになる。
「「「……………」」」
「……なにやってんだ?」
たまたま立ち寄った公園のベンチで見知った女性と二人の少女がポケーッとしていたので思わず声をかけてしまった。
「え? あ、私たちは……って、えっ!?」
「ちゆきさ~ん、何をそんなに慌てて……えっ!? 冬馬さん!?」
「ふぁっ……!? な、なんで冬馬さんが……!?」
「だからこっちが聞いてんだっての」
あと一応変装してるんだから大声で名前を叫ぶんじゃねぇ。
「アンタら真っ昼間からこんなとこで何やってんだよ」
周りに人は少ないが、一応変装用のサングラスをしっかりと掛けなおし、以前283プロの女子寮の引っ越し作業で知り合ったアルストロメリアの三人に改めて問いかける。
「えっと、その……」
「最近色々と忙しかったから、ちょっと三人でのんびりしてるんです」
「今日の用事は……夕方から、事務所で応援するだけだから……」
「……あー、そっか」
そして三人からの返答に対して、俺は思わず口ごもんでしまった。
今日の夕方から行われるのは『W.I.N.G』最終選考決勝戦。昨日行われた一回戦と二回戦を勝ち進んだユニットのみ立つことが許される最後のステージ。
アルストロメリアは、そこに立つ権利を得ることが出来なかった。
「まぁ、なんだ。残念だったな」
「お気遣いありがとうございます」
「もしかして冬馬さんも観てくれてたんですか?」
「たまたま目に入っただけだ」
その日は仕事だったがどの現場に行っても『W.I.N.G』の話題で持ち切りで、色んな奴らがタブレットで配信を見ていた。なので意識せずとも情報は入ってきてしまうのだ。
「……とはいえ、お前らのステージは、一応見た」
「あ、ありがとうございます……」
「どーでした!? 甘奈たちのステージ!」
大崎姉が目を輝かせながらまるで自分の隣に座れと言わんばかりにバンバンとベンチを叩いてアピールしてくるが、シッシッと手の甲で払って拒否する。
「甘口と辛口、選ばせてやるよ」
「……えっと……」
「……あま……や、やっぱり辛口でお願いします!」
心意気は買うが、大崎姉妹がそれぞれ桑山さんの両手を握っていて、まるで今から余命を宣告するような雰囲気は醸し出すのはやめろ。
「まず初めに言っておくが、俺はお前たちの曲と振り付けを完璧に把握しているわけじゃない。把握しているわけじゃないが……大崎妹、お前振り付け間違ったな?」
「う゛」
「んでもって大崎姉、お前は歌詞だ」
「わ、分かるんですね……」
「たりめーだ。最低限顔には出さなかったみたいだが、関係者なら一目見て分かるようなミスしやがって」
「「うぅ……」」
最終選考のシステム上、ミスというのは直接的な減点要因にはならない。それでも両ユニットが『同じぐらい良い』と評価された場合、それが分水嶺になった可能性だってあるのだ。
「……にへへ」
「ん?」
ダメ出しをされたというのに何故か大崎妹はニヨニヨと笑っていた。
俺が訝し気な目で見ていることに気付いた大崎妹は少しだけ気まずそうに、それでも笑顔は隠しきれない様子で「えっと……」と桑山さんの手をギュッと握った。
「昨日、ライブが終わった後、今みたいにミスを思い出して、もっとうまく出来たのかなって泣いちゃったのに……今は不思議と、悔しいって気持ち、あんまりない」
「……いつまでも引きずるようなもんでもねぇんだから、別に普通のことだろ」
「え? でも冬馬さんってそういうことずっと根に持ちそうなタイプに見えるけど」
「おいそれギリ悪口だぞ」
とはいえ否定はしない。俺はいつまでも良太郎にコンテストで負けたことを根に持ち続けるし、妥当『周藤良太郎』の目標を下ろすつもりはない。
「
「……甘い、とか言わないんですね」
「昔の俺なら言ってただろうな」
765や、346や、315。仲間との絆で成長するアイドルもいると、今の俺は知っているから。
……少し立ち話が長くなった。
「それじゃあな」
「あ、あの! また甘奈たちのステージ、観てくれますか!?」
「つ、次は、間違えないから……!」
「……そうだな。自然と俺の目に入るような、そういうレベルになったら観てやるよ」
俺は良太郎のように優しくない。そういう役割はアイツ一人で十分だ。
それでも。
「分かりました!」
「頑張ります……!」
「ありがとうございました」
俺にしては、結構気を遣った方だろう。
『W.I.N.G』最終選考 第一回戦 第一試合
『アルストロメリア』敗退
「ワン! ツー! スリー! フォー!」
今日も今日とて、346プロのレッスン室に美波の元気な掛け声と手を叩く音が聞こえる。アイドルの数が多ければそれだけレッスン室を利用するアイドルも多い。勿論レッスン室は一つだけではないので、別の部屋を利用すればいいだけなのだ。
それでも私たちが入り口近くでコソコソと中の様子を窺っているのは……どうしても『彼女たち』のことが気になってしまうのである。
「どう?」
「どんな感じ?」
「うーん……普段と変わらないように見えますけど……」
レッスン室のドアの小さな窓から卯月に中の様子を確認してもらっているのだが、私と未央はそれ以上に気になることが出来てしまった。
「おいおいおい」
「ケツがでかすぎるでしょ」
「二人とも何言ってるんですかぁ!?」
しゃがんでいる私と未央の真横で卯月がつま先立ちをしたため、彼女のお尻が私たちの顔の真横にあって思わず心の声が漏れ出てしまった。真っ赤になった卯月が慌てて自分のお尻を手で隠しながら抗議してくるが、私と未央は「しーっ」と人差し指を立てた。
「しまむー、声大きい」
「中に聞こえちゃうでしょ」
「私だって怒るときは怒るんですよ?」
「三人とも、なにやってるにゃ……」
割と本気で引っ叩かれた頭を押さえていると、呆れた様子のみくがやってきた。
「見ての通り、みくと同じ理由だよ」
「みくには三人で新たにお笑いの道に進もうとしているようにしか見えなかったにゃ」
「みくにゃん的にはどうだった?」
「せやね、鉄板ネタにするにはちょっと性的なネタは過剰……やのーて、じゃない、そうじゃにゃくて」
一瞬大阪の前川さんが顔を出していたが、コホンと咳払いをして元に戻った。
「昨日の今日でいきなり美波ちゃんにレッスンをお願いするとは何事かと思ったけど、特に変わった様子はない感じにゃ?」
「うん」
改めて中を覗く。
「はーい、ちょっと休憩」
「ま、まだまだ……!」
「も、もーちょっと……!」
「お、お願いします……!」
「ダメでーす、休憩しないとお姉さん怒っちゃいまーす」
美波が休憩を宣言しても尚、レッスンを続けようとするニューウェーブの三人の姿がそこにあった。
「……落ち込んでるようには見えないんだけど」
「うーん……となるとあの熱意は……」
渋々といった様子で休憩を受け入れた三人。しかしただ休憩するのではなく、三人でどこが良かったかどこが良くなかったかを真剣に話し合っている。
「もうこうなったら直接聞く以外道はないんじゃない?」
「でも、今更入りづらくないですか?」
「よし、それじゃあジャンケンで負けた人が、ドアを開けて『あれ? ごめんごめんこのレッスン室使ったたんだね気付かなかった』って入って行く役ね」
「そんな白々しく入って行くんですか!?」
「え、待ってみくもそれやるの!?」
「コラ! 騒ぐぐらいならさっさと入ってきなさい!」
ついに美波に怒られてしまった。このまま退散するわけにもいかないので、促されるままに四人で入室する。
「あっ!」
「お疲れ様です!」
「いらっしゃってたんですね」
ニューウェーブの三人も私たちに気付いて立ち上がる。そのままでいいよと促すが、彼女たちはそのまま私たちの下へ駆け寄ってきて――。
「「「すみませんでした!」」」
――三人並んで頭を下げた。
「……え」
「な、なになになに!?」
「ど、どうしたんですか!?」
どうやら私たちニュージェネの三人に対して謝罪をしているらしく、みくは気配を消してスーッと後ろに下がった。
「わ、私たち、その」
「先輩方の曲をお借りしておきながら、その曲を披露することも出来ず……!」
「ご、ごめんなさい!」
「「「……………」」」
言葉が詰まる、というのはこういうことを言うのだろう。
「それで、あの、まだ私たちは持ち歌が少ないので、次のミニライブの場で今度こそ先輩たちの曲を歌わせて欲しくて……きゃっ!?」
「ひぇ!?」
「あ、あの……!?」
気が付けば私は泉を抱きしめていた。隣では卯月がさくらを、未央が亜子を同じように抱きしめていた。
「……そんなにかしこまらなくていいよ」
「先輩後輩なんてのは、ただアイドルを志したタイミングが早かったか遅かったかだけなんだからさ」
「私たち、みーんな仲間です! 私たちの曲は、いくらでも歌ってくれて大丈夫です!」
「「「……………」」」
泉の身体が震えている。きっとさくらと亜子も。
私が彼女たちの出来ることなんて、きっとこれぐらいだから。
頑張れ、駆け出しアイドル。
『W.I.N.G』最終選考 第一回戦 第二試合
『ニューウェーブ』敗退
・アルストロメリア敗退
・ニューウェーブ敗退
本当に申し訳ない……。
・冬馬とアルストロメリア
Q 共通点あった?
A 女子寮引っ越しのときに実は普通に話してた。
・「ケツがでかすぎるでしょ」
元ネタは男性だがあまりにもネットミームと相性が良すぎた……。
別名『ナレタヒ回』となっております。本当にすまない。
ちなみに対戦カードはちゃんと組んであります。文中で分かるように書くつもりですが、どのユニットが勝ったのかは出来るだけ伏せるように書いていきます。
……こんな調子であと三話も書くのか()