『さぁ、ついにこのときがやって来ました』
『記念すべき第一回「W.I.N.G」、「Wonder.Idol.Nova.Grandprix」、百を超える参加ユニットの頂点に立った……!』
その瞬間は、なんというか、意外とあっさりと訪れた。
――961プロダクション!
――アルバノクト!
湧きたつ歓声。薄暗い会場に灯されたスポットライトが、ステージの上のただ一点を照らし出す。
私たちの足元は、薄暗いままだった。
アルバノクトのインタビューが始まり、私たちは薄暗い中スタッフに誘導されてステージを降りる。このまますぐに楽屋に戻り、そのまま着替えたらすぐに帰宅……というわけではない。
ステージ上でのインタビューこそなかったものの、この後応援してくれたファン向けのメッセージ動画を撮影する予定になっている。実は傷心に浸っている暇はなかったりするのだ。
「「「「「………………」」」」」
……それでも、私たちは、しばらく言葉を発することが出来なかった。
こがたんも、さくやんも、きりりんも、まみみんも……勿論私も。楽屋の椅子に崩れ落ちるように腰を下ろしてから、みんな無言だった。
誰もが誰かが最初に言葉を発することを望んでいた。
『いやー! 完敗やね!』
『あぁ、やはり一筋縄ではいかなかったね』
『ざ、残念だったね』
『まー私たちにしては頑張った方じゃなーい?』
そんなことをみんなが口にしてくれることを願ってしまった。きっと誰かが口火を切らなければ、楽屋の空気はずっとこのままだろう。
結局、私たちはその後のインタビューをどのように乗り切ったのか、分からなかった。
気が付けば、私は自分のベッドの中にいた。
『やっぱり悔しいです。それでも応援してくれたファンの方々には、しっかりと準優勝という結果に胸を張りたいと思っています』
「……三峰、こんなこと喋ってたんだ」
自分のベッドの上に寝巻で仰向けに寝転がったまま、私はスマホで昨日のインタビュー動画を観ていた。確かにそんな感じのことを言ったような気はするのだが、なんだか他人を見ているみたいだった。
「……負けちゃったなー」
改めて口にするが、未だに実感が湧かない。もしこれが『アイドルとしての最後のコンテスト』とか『私たちが優勝したら手術をするという約束をした子どもがいる』とか、そういうドラマチックな勝ちたい理由があったのであれば、多分もっとダメージを受けていたのだろうけれど。
『W.I.N.G』に優勝出来なくても私の……
寧ろ『W.I.N.G』はあくまでも『新人アイドルにスポットライトを当てる』ための企画であり、今回のコンテストを通して283プロの名前は世間に大きく浸透した。何せ最終選考に残った八組の内半数をその名前で埋めたのである。コンテスト優勝という実利は逃したものの、事務所全体の知名度を高めたという点においては私たちの方が勝っていると言っていいだろう。
「『試合に負けて勝負に勝った』ってところだね」
元々それを目的に283プロ全員で参加したのだ。確かに悔しいことには悔しいが、目的は達成出来たのだから、コレで良かったのだ。
「ん?」
メッセージが届いたことを告げるポップアップが画面上に表示される。それは私のオタク仲間たち……通称『集会』のメンバーで利用するグループメッセージだった。
私は特になにも考えずそれをタップしてアプリを開いた。普段から利用しているグループメッセ―ジに対して身構える必要なんて一切なかったからである。
だから。
『結華ちゃん! 昨日のステージとても良かったです!』
『タイミング見計らってたら先越された! 俺も見てたよ! 良かった!』
『結華ちゃんのウインク、アレぼくに向けてだよね?^^』
『本当に凄かったよ。アイドルって良いなって改めて思えた』
そんなメッセージが、まるで不意打ちのように私の心を揺さぶった。
きっとみんな、ライブ直後ではタイミングが悪いと一晩経ってからメッセージを送ってくれたのだろう。目を輝かせるありりん、早口で捲し立てるみのりさん、謎のドヤ顔を浮かべるりあむん、頬を上気させながら微笑むふゆゆ、全員の様子が易々と想像出来た。
私の返信を待たずにいつものレスバを始めたメンバーに苦笑しつつ、さて私はどう返そうかとメッセージの内容を考えている間に、更なるメッセージを受信する。
「……あ」
『同情票でも身内票でもなく俺自身は結華ちゃんたちに入れたよ』
『それぐらい良かった』
『少しだけ相手が悪かったね』
今度こそ本当の不意打ちだった。
『W.I.N.G』開催期間中の『周藤良太郎』は審査委員長という立場故、誰が良かったとかどのグループに投票したとか、そういった発言をしてこなかった。だから、まさかリョーさんからそんな言葉をかけられるとは思っていなかった。
「……も、も~なんだよなんだよみんなして、三峰のファンか~?」
いつもの調子で呟いたつもりでも、声が震えていることが自分でもよく分かった。
「………………」
ジワリと視界が滲む。
「……勝ちたかったなぁ……!」
一度でもそれを自覚して認識してしまっては、もう駄目だった。眼鏡を外して、これ以上涙が零れないように目元を手で抑えるが一向に止まる気配はない。
頭では分かっているのに。ここで悔しがる必要なんてないはずなのに。
私は。
アンティーカの五人で、優勝の喜びを分かち合いたかった。
『W.I.N.G』最終選考 決勝戦
『L’Antica』敗退
「………………」
亜利沙ちゃんとみのりさんとりあむちゃんのいつものプロレスに混ざりたい気持ちもあったのだが、グッと堪えて真面目なメッセージだけを残してアプリを閉じる。
「敗者に対して慰めの言葉? お優しいことね」
「そういう意地悪い言い方するなって」
スマホをポケットの中にしまい、改めて対面に座る麗華と向き合う。
「それで? 『W.I.N.G』はちゃんとアンタの
「そういう言い方も止めろって」
「ふん、この期に及んでいい子ぶるわけ? わざわざアンタが話しやすいように人払いしてあげたんだから」
麗華の言う通り、ここ東豪寺本社の応接室には誰もいない。麗華のホームグラウンドともなれば他に聞き耳を立てている人間もいないだろう。
「アンタにとってりんが『心を許した愛しい人』、ともみが『気心知れた友人』なら、私はさしずめ『気を遣う必要がない悪友』……ってところでしょ? そういう建前はいいから、さっさと話しなさい」
「………………」
ジロリと睨むつもりで視線を麗華に送るものの、優雅に紅茶を飲む彼女は何処吹く風。
「……はぁ、別に想定していたわけじゃないけど」
諦めた俺も出された紅茶に口を付ける。
「俺は『
これは他のアイドルを『下』に見たわけではなく、B小町を『上』に見た評価である。新人アイドル故に荒さや拙さは勿論存在したものの、その上で15プロの三人は他の新人アイドルよりも頭一つ抜きん出ていた。
「そうね。私も最初はそう考えていたわ」
麗華も同意したこの意見は、あくまでも一つの前提によって成り立つ想定だった。
それは『アルバノクトが参加しない』というもの。彼女たちが『W.I.N.G』に参加したこと自体が、極端に言えば全くの想定外だった。
「ちなみに『アルバノクト』が優勝したことについて、黒井社長は何か言ってた?」
「完全にノーコメントだった」
これも予想外と言えば予想外だったが、多分黒井社長にとっては『勝って当然のコンテスト』という扱いだったのだろう。実際その通りになってしまったのだから何にも言えない。きっと彼はこれを『勝った』どころか勝負としてすら捉えていないのだろうが、個人的には『負けた』感が半端ない。
「とはいえ、これで
「……そう結論付けるのは時期尚早だろ」
「私が何を言おうとしてるか気づいてる時点で同じ穴の狢じゃない」
「………………」
ぐうの音も出ない。どうやら今日は何一つ麗華に言い勝てない日らしい。
「私たちが勝つと予想していた『B小町』、そして実際に優勝した『アルバノクト』。その共通点は何か?」
「……いや、『B小町』はともかく『アルバノクト』の方は……」
「
「チクショウ……!」
本当に言い勝てない。
「『B小町』は『星野アイ』の、『アルバノクト』は『玲音』の、それぞれのアイドルユニットが『
アルバノクトの二人のパフォーマンスを見たときからなんとなくその片鱗を感じてはいたが、マジでこっそりと帰国して指導してやがったかアノヤロウ。元同じ事務所だからって面倒見のいい先輩みたいな行動してんじゃねぇぞ。
「アンタはそのつもりはなかったって言うんでしょうけど、私にとっては興味深い結果だったわ」
「………………」
「いい加減アンタも認めなさい。私たちにはそういう影響力があるのよ」
知ってる。それはもう痛いぐらい。
「………………」
「……アンタが何に遠慮してるのかは知らないけど、アンタ以外は誰も気ぃ使ってくれないわよ。星野アイや玲音だけじゃない、私を含めた『
「……あぁ、そうだったな」
迷うのも怯えるのも、そういう段階の話はとうの昔に過ぎ去った。
ならばせめて、俺は『何も持ちえない人物』に、俺の全てを懸けてみたい。
そう、例えば――。
「……は? 弊、社? 弊社って何?」
「お姉ちゃんがいつも言ってる『事務所』って……」
「――
――神様に『選ばれなかった』人物に。
アイドルの世界に転生したようです。
第十章『Spread the Wings!!』 了
・『L'Antica』敗退
283勢は勝てませんでした。その理由が……。
・暗躍パート
悪いことをしていたわけではありませんが、裏では色々と黒めな思惑が飛び交っていました。
・『
それはあまりにも絶大な……。
・りんが止めてくれなかったら
未だに引っ張るIEのお話。多分書くとしたらアイ転を完結させるとき。
・神様に『選ばれなかった』人物に。
サブタイトルが『選ばれなかったアイドルたち』じゃない理由。
クッソ重いままの幕引きとなりましたが、これにてシャニマスアニメ1期編終了となります。言い訳をするならば……こう、シャニマスって公式で敗北IFとかそういうのを採用するタイプなので……。
色々と書き切れていないこともありますので、次章ではさらに力を入れて書いていきますので、これからもお暇なときに読んでいただければ幸いです。
永遠に続け! アイドルマスター!