アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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新章スタート!


第十一章『Dye the sky.』
Lesson510 The day will come


 

 

 

 これは、『私』が『トップアイドル』になるまでの物語だ。

 

 

 

 

 

 

「周藤君。私ね、アイドル辞めることにしたんだ」

「……そっか」

 

 テレビ局の廊下。久しぶりに顔を合わせた友人から発せられたその一言を、俺は静かに受け止めた。

 

「もしかして結婚するとか?」

「そーゆー浮いた話が出来れば良かったんだけどなぁ」

 

 廊下の壁に背中を預けてケラケラと笑う彼女に悲痛な面持ちは一切見られない。しかしその瞳だけはしっかりと覚悟を決めた強い意志が光っていた。

 

「……この間の『W.I.N.G』、凄かったね。みんなデビューして一年未満とは思えないぐらい。特に私のイチ押しは15プロのB小町の三人かな~! 特にルビーちゃん! あの子滅茶苦茶可愛い!」

「相変わらずの可愛い子好きなようで」

「ふへへへぇ。ホント可愛くてステージも凄くて、今の段階でこれなら来年にはもう信じられないぐらいのトップアイドルになってるんだろうなぁって思わず確信しちゃって、その瞬間思ったんだ――」

 

 

 

 ――アイドル辞めるか、って。

 

 

 

「………………」

「……なんかさ、自分の中の何かがぷつっと切れちゃったような気がしたの。『私もこうなりたかった』『私じゃこうなれない』って思っちゃったから。ほら、特にウチは百人以上の大所帯な上に、私は目立つようなアイドルじゃなかったから」

「俺はそうは思わなかったけどなぁ」

「ふふっ、周藤君ぐらいだよ、そんなこと言ってくれるのは。最近は私の数少ないファンからもオワコン扱いされてるのに」

「オワコンて」

「その点、周藤君は優しいよ。こんな中途半端な胸の大きさの私なのに」

「おいやめろよ俺がそこでしか判断してないみたいに言うのは」

「それじゃあ聞くけど、ウチのメンバーの中で一番の推しは?」

「カザハナさん。……はっ!?」

「語るに落ちたな」

「不覚……」

 

 彼女が所属するアイドルユニットの中で一番仲が良いわけではない。歳は俺の一つ上。芸能界歴は六年で実は春香ちゃんたちよりも先輩。可愛い女の子好き。俺が知っているのはそれぐらい。それでもこんな軽口を叩き合える程度の仲ではあった。

 

「……こんな私でも、アイドルとしては成功した方なんだよね。それなりにステージに立たせてもらって、バラエティや演技の仕事もさせてもらって、そこそこファンも付いてくれて……それでも私には『この先のステップ』に進むための才能も気力もない。程よく満たされた今の気持ちのまま、この世界から去った方が幸せかなって思ったの」

 

 そう語る彼女の顔は、確かに満足そうだった。ひょっとしたら、年末の著名な歌番組へ出演したときよりも満足そうな表情をしていたかもしれない。

 

 もしくはこ(・)の(・)世(・)界(・)か(・)ら(・)解(・)放(・)さ(・)れ(・)る(・)ことを喜んでいたのかもしれない。

 

「ゴメンね、今のアイドル業界の繁栄を願ってる『アイドルの王様』に言うようなことじゃないとは思ったんだけど……やっぱり周藤君には言っておきたかったんだ」

「寧ろ何も言わずに引退された方が悲しかったよ。ありがとう、最後に話してくれて」

「……嘘、たまたま見かけたから伝えただけ。ここで会えなかったら黙って引退してた」

「それなら尚更ありがとう。寧ろ気を遣わせたみたいで悪いね」

「……うん、本当にゴメン」

 

 彼女が廊下の壁から背を離す。

 

「今日が最後のテレビのお仕事なんだ。あとはユニット卒業用の写真撮影して、お知らせのメッセージ書いて、それでおしまい。……周藤君ともこれでお別れ」

「俺のライブに来てくれたら、アリーナだろうがドームだろうが見つけてやるぞ」

「ふふっ、周藤君なら本当に見つけてくれるんだろうね。……でも残念、それはもう今の『私』じゃないから、やっぱりお別れだよ」

 

 彼女は振り返ると、普段プライベートのときにかけている伊達眼鏡を外(・)し(・)た(・)。

 

「じゃあね、周藤君。私が言うまでもないことだとは思うけど――」

 

 

 

 ――貴方は、ずっとアイドルでいてね。

 

 

 

 MBIプロダクション『セキレイ108(ワンオーエイト)』所属、鈴城(すずしろ)まな。二週間後に芸能界を引退した彼女と顔を合わせたのはこれが最後で、その後彼女と出会うことは二度となかった。

 

 

 

 

 

 

「………………」

「や」

「おう」

 

 ぼんやりと天井を見上げていた俺の隣に誰かが立つ気配。ともみだった。

 

「珍しいね、物思いに耽るなんて」

「俺だって色々と考えたりするさ。例えば今日の番組で共演する女性アイドルはどんな感じに胸を強調する衣装を着てきてくれるかなぁとか――」

「――こ(・)う(・)い(・)う(・)の(・)は何時まで経っても慣れないなぁ、とか?」

「……話、聞いてた?」

「聞こえちゃった」

「そっかぁ」

 

 はぁと思わずため息を吐く。こういうときに便利な無表情なのに、長い付き合いである彼女には容易く貫通されてしまうのは嬉しいやら悲しいやら。

 

「また呪(・)わ(・)れ(・)ち(・)ゃ(・)っ(・)た(・)ね」

「言い方よ」

「ホントのことじゃん。あんなの呪い以外の何物でもないよ」

「……もしかしてともみさん、割と怒ってらっしゃる?」

「まさか。でももしここにいるのがりんだったら割と怒髪天だったと思う」

「目に浮かぶなぁ」

 

 それはさておき。

 

「呪い……呪いかぁ」

 

 確かに『ずっとアイドルでいてね』という言葉は、捉えようによっては呪いなのかもしれない。けれどそれが呪いなのだとしたら、俺はずっと呪われている。それこそ、アイドルになったときからずっと。

 

「わたしたちは数えきれない屍の上に立ってるからね」

「それはもうアイドルじゃなくて戦人(いくさびと)なんだよ」

 

 とはいえ実際似たようなものではあるという考えは拭い切れなかった。

 

「でもアイドルを辞める子がいれば、逆に新しくアイドルになる子もいる。さらにアイドル業界が活発になって、リョウの目的は達成したわけじゃない?」

「その点に関しては俺も満足してる」

 

 知り合いの事務所で言えば、例えば315プロにも何人か新人アイドルが入ったらしく、涼が「ついに自分もこっちの事務所でもユニットが組める!」と鼻息を荒くしていた。その一方で咲ちゃんと「酷い! あたしとは一夜限りの関係だったの!?」とちょっとした修羅場になっていたりするらしいのだが、コレに関して言えば全くの余談である。

 

「1054の方はどうだ?」

「んー、とりあえず『A-RISE』の方が結構仕上がってきたかな。このまま順当に行けば今度開催される『ラブライブ』でも優勝出来るだろうから、それが終わったら本格的に1054で活動してもらうって感じ」

「そうだな、順当に行けばアライズで堅いだろうな」

「……なんか含みがある言い方だね。何か知ってるの?」

「別に~?」

「これは確実に何かを知っている反応。吐け」

「ごっくん」

「飲み込みやがった」

 

 実際どうなるかは分からない。けれど俺は『強い想いを秘めた九人』を知っている。このままならばやはりアライズが優勝するだろうが……まぁ、後は彼女たち次第だろう。

 

「そういう123はどうなの? 美優さん以降新しいアイドル入れてないけど、今後もこのまま少数精鋭で行くの?」

「所属アイドルの質的な意味でも、スタッフの数が数だからこれ以上増やすとなると……ってちょっと考えるんだよ」

「幸太郎さんいるなら大丈夫でしょ」

「いやいくら兄貴と言えど……」

「まあウチの事務所のマネをしようなんてバカな考えはよすんだなハハハハ」

「出来らあっ!」

「いまなんていった?」

「今と同じ体制で新しいアイドルをプロデュース出来るっていったんだ!」

「こりゃあおもしろい小僧だぜ。こりゃあどうしても123プロには新しいアイドルをスカウトしてもらおう」

「え! 新しいアイドルを!?」

 

 スーパー食いしん坊の詠唱はさておき、新人アイドルを入れることを全く考えていないというわけではない。一番新人であるところの美優さんも今では立派なトップアイドルだし、そろそろ新しいアイドルのプロデュースに手を伸ばす余裕は出てきている。

 

「ここだけの話なんだけどな」

「ふんふん」

「『ここだけの話』っつったのにノータイムでボイレコ取り出すんじゃねぇよ」

「大丈夫、麗華にしか聞かせないから」

「ほなええかぁ」

 

 どうせ遅かれ早かれ麗華の耳には入ることにはなるだろうし。

 

「一応新人アイドルの件は現在進行形で進んでる」

「なーんだ、やっぱり……え? でも募集かけてないよね?」

「条件があるんだよ」

「条件?」

「あぁ――」

 

 俺がその条件を口にすると、俺に負けず劣らずな鉄面皮のともみが「……んん?」と怪訝そうに眉根を潜めた。

 

「なんというか……随分と挑戦的な条件だね」

「俺が兄貴に提案したんだ」

「……あーそーゆーことね完全に理解した」

「そのセリフは分かってないときに使うものだけど本当に理解したのか?」

「ふふっ、わたしが何年リョウと一緒にいると思ってるのさ」

「やだイケメン」

 

 そんな会話をしている内に、そろそろ時間である。

 

「気を遣わせたみたいで悪かったな」

「んーん、気にしないで。わたしも暇潰しのお喋りがしたかっただけだから」

 

 ヒラヒラと手を振りながら去っていくともみの背中を見送ってから、俺も移動を再開する。まなやともみと立ち話をしていたら随分と時間を食ってしまった。

 

 

 

 ――貴方は、ずっとアイドルでいてね。

 

 

 

(……悪いな、鈴城)

 

 多分その約束は、守れそうにない。

 

 

 




・鈴城まな
『推しの子』四巻に登場したアイドル。JIFに出場したB小町のステージを目の当たりにしてアイドルの引退を決意した。
この世界ではオリジナル事務所の所属。

・MBIプロダクション『セキレイ108』
『セキレイ』を元ネタにしたオリジナル事務所。セキレイ108人全員が所属している……とここまで書いていて「そういえばセキレイって男もいたな……」と思い出す。まぁいいか(適当)

・カザハナ
一番おっぱいが大きいセキレイ。漢字で書くと風花ちゃんと被ったのでカタカナ表記。

・315プロにも何人か新人アイドルが
とりあえず予定では五人。

・『強い想いを秘めた九人』
多分しばらく触れない()

・スーパー食いしん坊の詠唱
無限ループほんまおもろい。



 ついに再開した本編はシャニマス二期編となっております。章タイトルは章全体の雰囲気(予定)にマッチしているため採用。

 基本的な流れはアニメ二期ですが、漫画版や『推しの子』辺りが絡み合って面倒くさいストーリー進行になります。誰だこんなゴチャゴチャしたプロット組んだ奴は。

 これまた長くなりそうですが、よろしくお願いします。
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