アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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最近増えてきた良太郎不在回。

ただ主人公が自粛するのはこの貴音回までだ(予告)


Lesson62 人の噂も…… 3

 

 

 

 仕事帰りに縁日へと立ち寄った私達。そこで偶々周藤良太郎さんの友人である高町恭也さんと月村忍さんに出会い、折角だからと言って一緒に縁日を回ることになった。

 

 

 

「きょーにーちゃん! アレ取ってアレ!」

 

「ん? どれだ……って、あのゲーム機か?」

 

「ちょっと真美、流石にあんなに大きいのは……」

 

「はっはー! 兄ちゃんコレを狙うつもりかい!? 可愛い女の子たちに良いカッコ見せようとして失敗するだけだから、大人しくこっちの簡単なのにしときな!」

 

「……そこまで言われて引き下がるわけにもいかないな」

 

「きょ、恭也さん!?」

 

 

 

 真美に射的の景品のゲーム機を落とすようにせがまれていた恭也さん。初めは難しそうな表情を浮かべていたものの、店主の挑発的な物言いが(忍さん曰く)負けず嫌いな性格に火を点けたらしく、鋭い目つきになって射的に挑み始めていた。

 

 射的の銃を構えてゲーム機に狙いを定める恭也さんとそれを応援する真美、春香、我那覇さんの四人を、私と四条さんは少し離れたところから眺めていた。

 

「……随分と馴染んでますね」

 

「良太郎殿のご友人というだけあって、よほどの人徳があるのでしょうね」

 

 真美もいつの間にか恭也さんのことを「きょーにーちゃん」と呼んでおり、すっかりと馴染んだ様子だった。

 

「……みんな、不安がっています」

 

 そんなみんなの後姿を見ながら、四条さんに話しかける。

 

「不安?」

 

「目を離したら、四条さんが何処かに行ってしまうんじゃないかって」

 

 今でこそ楽しそうに縁日を楽しんでいるみんなであるが、内心で不安がっていることには間違いないのだ。

 

「……なるほど、そういうことですか」

 

 これまで仕事帰りや移動の際に他のみんなが傍に居続けた理由に納得がいったのか、四条さんはほほ笑みながら頷いた。

 

「どうやら、余計な心配をかけてしまったようですね。申し訳ありません」

 

 そう素直に謝罪の言葉を口にする四条さん。

 

「四条さんには、私達には分からないことが沢山あって……だから」

 

「誰にも、他人に言えないことの一つや二つあるものです」

 

 振り向くと、四条さんは白い狐のお面を被っていた。先ほど購入していた、何のキャラクターなのか分からないような白い狐のお面。そのお面は四条さんの顔をスッポリと覆い、彼女の顔を隠す。四条さんの表情は見えなくなり、まるで彼女の本心そのものを隠してしまっているかのように思えてしまった。

 

「千早にもあるのではないですか?」

 

「………………」

 

 その四条さんの言葉に、私は口を噤んでしまった。

 

 私が、みんなに話していないこと。他人に言えないこと。ひた隠しにしていること。

 

 あの夏祭りの日の出来事が――。

 

 

 

「『A secret makes a woman woman…』」

 

 

 

「え?」

 

 突如聞こえてきた流暢な英語に呆気に取られてしまった。

 

「『女は秘密を着飾って美しくなるもの』、ですか。いい言葉ですね」

 

「でしょー? 私の好きな女優の座右の銘なのよ」

 

 どうやらそれは、いつの間にかいなくなっていた忍さんが発した言葉だったようだ。別行動で何をしていたのかは、忍さんが右手に持つ林檎飴が物語っていた。

 

「……忍さんは、秘密は秘密にしたままにしておけとおっしゃりたいのですか?」

 

「まさか。女の子なら秘密の一つや二つあって当然って言いたいだけよ」

 

 でもね、と忍さんは林檎飴を一口齧る。

 

「本当に『大切な人』には、いつか必ず秘密で着飾らない本当の自分を見せる日が訪れるわ」

 

 そう言って笑う忍さんの口元からチラリと八重歯が見えた。

 

「忍殿は、その秘密を既に恭也殿に打ち明けているのですね?」

 

「ええ。それはもう綺麗サッパリ。包み隠すことなく全部暴露しつくしたわ」

 

 四条さんの問いかけに清々しい表情で即答する忍さん。

 

「……怖く、なかったんですか?」

 

「ん?」

 

「怖くなかったんですか? 自分の秘密を打ち明けることが。秘密を打ち明けることで、周りからの自分を見る目が変わることが」

 

 そして、『自分自身』が変わってしまうのではないかということが。

 

「……そりゃあ、怖かったわよ」

 

 そっと目を伏せ、再び開いた忍さんの視線を辿ると、そこには春香達の応援を受けつつ射的に集中する恭也さんの後姿があった。

 

「本当の自分を明かして、嫌われないか、拒絶されないか。何日も何日も悩んだわ。でも、そうやって悩むっていうことは自分の中で『きっとこの人なら大丈夫だ』って思っている証拠なのよ」

 

 話すべきか、話さないべきか、ではなく。たった一歩。話すための『勇気』の問題。

 

「だから私は話した。きっとこの人なら、私の全てを受け止めてくれると信じた男の子に」

 

「……それが、忍殿と恭也殿の馴れ初めですか?」

 

 忍さんはによによと口元を歪めるだけで答えなかった。

 

 

 

「ゆ、揺れてる! すっごい揺れてるよ!」

 

「恭也さん! あと一息です!」

 

「ば、バカな!? ほ、本当に落とすというのか!?」

 

「……これで、止めだ」

 

 パンッ ドサッ

 

「「「お、落ちたぁぁぁ!」」」

 

「御神の剣に……不可能は無い」

 

 

 

「……剣の要素一切無かったと思うんですけど」

 

 射的は私のその発言そのものが間違っているのではないかと思ってしまうほど異様な盛り上がりを見せていた。

 

「ふふ、ホント、普段クールな癖して変なところで子供っぽいんだから」

 

 ガックリと意気消沈した店主からゲーム機を受け取っている真美を、満足げに眺めている恭也さん。そんな恭也さんに忍さんは近づくと、自身が持っていた林檎飴を恭也さんの口に押し付けた。

 

「はい恭也。お疲れ様」

 

「む、いきなりなんだ忍」

 

「いいからいいから。はい、アーン」

 

 ニコニコ笑顔で林檎飴を差し出す忍さん。そんな忍さんに恭也さんは「何だか妙に上機嫌だな」と訝しげな表情をしながらも差し出された林檎飴に噛り付いた。……忍さんが口を付けたところに噛り付いていたにもなんのリアクションも無かったのは、ただ気付かなかっただけなのか気にしていないのかどちらなのだろうか。

 

 ……忍さんがやや遠い目をしているところを見ると、どうやら後者に近いようだ。

 

 恋愛というものは未だによく分かっていないが、とりあえず忍さんが前途多難なのは今の私にも十分理解できた。

 

「……千早。いつか、私達も話せる日が来るといいですね」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

「……収穫無しか」

 

「なんだかおかしなことになってまして。いつも他の連中がベッタリ付きまとってるんですよ」

 

「……ん? この男は誰だ?」

 

「あぁ、縁日で会った知り合いのカップルみたいです」

 

「ちっ、一般人の、しかも他の大勢と一緒に写っている写真ではゴシップにもならんではないか。……ん? 待て、だがこの男女には見覚えがあるぞ……?」

 

「ってことは、まさか芸能人ですかい?」

 

「いえ、違いますね」

 

「む、和久井君」

 

「その二人は周藤良太郎の同級生ですね。以前、彼のドキュメンタリー番組に映っていました」

 

「す、周藤良太郎の!?」

 

「……本当に前々から思っていたのだが、貴様のその周藤良太郎への怯えようはなんなのだ?」

 

「お、俺の口からは言えねぇ! 言っちまったらまた俺はあの日の悪夢を見ることになる!」

 

(……確か、この記者は良太郎君のゴシップ記事の写真を撮った記者でしたか。あの時良太郎君自身は何もしていなかったと聞いていますが……?)

 

「くそっ! まさか周藤良太郎め! こうなることを予想してわざわざ自分の関係者を送り込んでいたというのか!?」

 

「流石にそれは考えすぎではないでしょうか」

 

「ぐぬぬっ……!」

 

(いくら良太郎君と言えど、それを見越して友人を縁日に送り込むなんてことは出来……ません、よね?)

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、俺はこれで」

 

「ん?」

 

 次の仕事の打ち合わせのために社長室を目指していると、誰かが社長室から出てくる場面に遭遇した。

 

 その人物は俺達に見られていることに気付くと帽子を目深にかぶり直してそそくさと去っていってしまった。

 

「あいつは……?」

 

「確か……例の移籍騒動の写真を撮ったパパラッチだね」

 

 何処かで見たことがあったような気がしたが思い出せず、代わりに翔太が答えてくれた。

 

「何……!?」

 

 どうしてそんな奴が社長室を出入りしていたというのか。

 

(まさか、おっさん……!)

 

 頭を過ったその考えを確かめるべく、俺は社長室の扉を開けた。

 

「おいおっさん!」

 

「天ヶ瀬君、目上の人間の部屋に入室する時はまずノックをするべきですよ」

 

「うぐっ、す、すんません……」

 

 しかしおっさんの秘書である和久井さんに注意を受けてしまい出鼻を挫かれてしまった。

 

「全く、なんなのだ一体」

 

 だがここで引くわけにもいかない。気を取り直して再びおっさんに問いただす。

 

「さっき出てった奴はどういうことだよ!? まさか、例の記事はおっさんが指示したんじゃないだろうな!?」

 

「だとしたら何だというのだ」

 

 おっさんは否定しなかった。むしろその言葉は肯定に近いものだった。

 

「そんな小細工はもう必要ねえ!」

 

 前のテレビ雑誌の時は俺たちも進んで協力しちまった。

 

 けど、もうそんなことはしない。

 

 いつだって努力して自分の力だけで昇り詰めた良太郎みたいに、俺たちだって自分の実力だけで――!

 

 

 

「駒の分際で思い上がるな!」

 

 

 

 しかし、俺の言葉はおっさんには届かなかった。

 

「お前たちはただ黙って私の指示に従っていればいい!」

 

「……なんだよ、それ――!」

 

「だってさ、冬馬」

 

「仕方ないよ、とーま君」

 

 思わず拳を握りしめておっさんに詰め寄ろうとした俺の両肩に、北斗と翔太の手が置かれた。

 

「お前ら――!」

 

(今社長にどうこう言ったところで何も変わらないよ)

 

(気持ちは分かるけど、ここは下がるべきだよ)

 

 両脇の二人から聞こえてきた小声に、頭に上った血が下がってくるのが分かった。

 

 確かに二人が言う通り、今ここでおっさんに文句を言ったところでどうこうできるとは到底思えない。

 

「……邪魔したな」

 

 ならば今は引くしかない。悔しいが、今の俺たちの仕事の手引きをしているのはおっさんに間違いないのだ。

 

 

 でも、俺も北斗も翔太も。

 

 引き下がるつもりはなかった。

 

 

 

 

 

 

「ふん、全く。最近ちょっと好きにさせてやったからって調子づきよって」

 

(……ごめんなさい、天ヶ瀬君、伊集院君、御手洗君。もう少しだけ、待っていてください……)

 

 

 




・『A secret makes a woman woman…』
名探偵コナンの登場人物クリス・ヴィンヤード/ベルモットの名台詞。
多分この世界でも女優をやってるんじゃないでしょうか(適当)

・忍の秘密
今回恭也と共に忍が出張って来た最大の理由。
ちなみにその「秘密」というのが『夜の一族』のことなのか、そもそもこの世界の彼女は『夜の一族』の体質なのかとかその辺のお話はぼやかしておくことにします。



 というわけでバカップルが出張って来た理由です。

 ぶっちゃけ転生という誰にも言えないような『秘密』を抱えている良太郎に「いつか秘密を明かせる日が来るといいね」なんて到底言わせることができませんので、別人に出張ってきてもらった次第です。

 そして地味に原作改変。ちーちゃんは墓参りでの母親との邂逅を写真に取られませんでした。

 「じゃあ千早回はないの?」と思われるかもしれませんが、とりあえず「アニメと同じような展開にはなる」ということだけ回答しておきます。

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