アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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お覚悟は、よろしくって!?
(シリアス突入&プリンセスプリキュア面白かったですの意味)


Lesson66 俺がアイドルになったワケ 3

 

 

 

「……歌えなくなったって……本当なのか?」

 

『……えぇ、本当よ』

 

 携帯電話の向こうから聞こえてくるりっちゃんの声は、いつもよりも重いものだった。

 

 

 

 例の買い物の日から数日。あの時の千早ちゃんのおかしな様子と彼女たち765プロの番組『生っすか!?サンデー』のMCを体調不良の名目で休んだことが気になり、りっちゃんに連絡を取ってみることにした。

 

 その結果、帰って来たのは『千早ちゃんが歌えなくなってしまった』という衝撃の事実だった。

 

「原因は……もしかして、あの事故?」

 

 思い当たる原因は、千早ちゃんの様子がおかしくなる直前に起きた事故。

 

『その時の様子は、春香やあずささんから聞いたわ。男の子が車に轢かれそうになったのを、アンタの友達が間一髪のところで助けたんですってね』

 

「あぁ。だから怪我人もいなかったし、歌えなくなるほどのショックを受けるような出来事じゃ――」

 

『……千早、八年前に弟さんを交通事故で亡くしてるらしいの』

 

「っ!?」

 

 もしかしてと考え、まさかと否定していたそれを告げられ思わず言葉に詰まる。

 

「でも千早ちゃん、あの時『自分に兄弟はいない』って……あぁくそ、そういうことか」

 

 『今の自分にはいない』っていう意味だったとは。

 

『千早の目の前で、その、車に……』

 

「……なるほど、今回の事件でその時のことがフラッシュバックしたってことか……」

 

 今回の事故による被害者は幸いにもいなかったが、男の子に車が迫る場面がその瞬間と重なってしまったのだろう。

 

 話によると、千早ちゃんはその弟君によく歌を歌って聞かせてあげていたらしい。歌を歌うと喜んで手を叩く弟君、そしてそれが嬉しくて更に歌を歌う千早ちゃん。

 

 きっと、彼女にとっての『歌』とは『弟君との思い出』と深く繋がったものだったのだろうと、容易に想像することが出来る。

 

 

 

 しかしその結果、千早ちゃんはショックで歌声を無くしてしまった。

 

 

 

『お医者さんは喉や発声に問題は無いって……』

 

 心の問題、というやつだな。

 

「ちなみに、そのことは千早ちゃん本人から?」

 

『……うん。事故の話自体は、千早の両親から話を聞いていた社長からだけど……千早の口からも、話してくれたわ』

 

「……そうか」

 

 多分、頭では割り切れていたのだろう。だから今まで歌ってこれたし、日常生活でも問題はなかった。しかし、目に見えない心はしっかりと傷付いていた。

 

 そこまでの事情を聞いておいてふと思ったのだが。

 

「俺としては事情が知れてありがたいけど……いいの? 話してくれて」

 

 メディア側にはしっかりと体調不良ということになっているから、千早ちゃんの過去を含めた話は全部オフレコのはずだ。それを完全に部外者の俺に話してしまっても良かったのだろうか。

 

『………………』

 

「?」

 

 無言。もしもーし。

 

『……は、ははっ』

 

 突如電話の向こうのりっちゃんが笑いだした。

 

『はははっ、そうよね、普通に話してたけどアンタ部外者なのよね。本当に普通に話してたわ』

 

「お、おう」

 

 本当にどうしたの突然。

 

『……千早ね、歌えなくなった以上この仕事を続けていくつもりはありませんって……連絡も取れなくて』

 

「……うん」

 

『何回も家に行ってるんだけど出てきてくれなくて……で、でもね! 今春香達が頑張ってくれてるの!』

 

「春香ちゃん達が?」

 

『えぇ! あの子達、今全員で作詞をしてるのよ! 千早のために、千早のための曲を作ろうって!』

 

「……そうか」

 

 動き乏しい表情筋が口元に笑みを浮かべるために動くような、そんな気持ちになった。

 

 あぁ、春香ちゃん達だったらきっとそんなことをするんだろうな、と。

 

 こういう時、俺も『事務所の仲間』というものが羨ましくなる。

 

『今作曲の先生にも頼んでて、次の定例ライブまでには間に合わせるつもり。……プロデューサーも、みんなも、千早はきっと来てくれるって信じてる』

 

「そうか。……そうだ、りっちゃん」

 

『ん?』

 

「アイドルのプライベートを聞くようで悪いんだけど……」

 

 

 

 ――俺も千早ちゃんのお見舞いに行きたいんだけど、ちょっと手伝ってくれない?

 

 

 

 

 

 

「ふう」

 

 りっちゃんとの通話を終了し、俺は待ち受け画面の時計で時間を確認してからスマフォをポケットの中に仕舞った。まだ次の出番までは時間があるが、もうそろそろ楽屋に戻っておいた方がいいだろう。

 

 物置となったスタジオ廊下の一角から抜け出すと、自分の楽屋に向かって歩を進める。

 

(……弟君のために歌を、か……)

 

 その話を聞いて、俺は胸の奥にストンと何かが納まるのを感じた。

 

 俺が初めて千早ちゃんと出会った時に感じた印象の原因は、これだったのか。

 

 

 

 ――彼女は、薄い。

 

 

 

 『弟のために歌を歌う』ということ自体を否定するつもりはさらさらない。

 

 でも、いくら意志が固くても、薄ければ『敗れて』しまうのだ。

 

(……本当は、部外者が出しゃばるようなことでもないんだよなぁ…)

 

 真美ちゃんの時も、美希ちゃんの時も、響ちゃんの時も。全部それは『アイドル』についてのアドバイスや、助言。今回の千早ちゃんは、そのアイドルよりも更に根っこの話、さらにプライベートに踏み込んだ問題。他事務所からの妨害行為ならいざ知らず、本来ならば肉親でもなければ同じ事務所の人間でもない俺が関わるべき問題じゃないのかもしれない。

 

 でも、黙って傍観するには――。

 

 

 

 ――あまりにも、千早ちゃんは俺と『似すぎて』いた。

 

 

 

 

 

 

「や、春香ちゃん」

 

「……こんばんは、良太郎さん」

 

 とある日の仕事終わりの夕方。俺はとある駅で春香ちゃんと待ち合わせをした。もちろんデートなどと言う甘酸っぱい物ではなく、りっちゃんにお願いした千早ちゃんへのお見舞いである。女の子が一人暮らしをしているマンションの部屋を教えてくれとは流石にお願いすることが出来ず、定期的に千早ちゃんの家に様子を見に行っている春香ちゃんのお供をするという形になったのだ。

 

 俺と春香ちゃんは挨拶もそこそこに、千早ちゃんの部屋へと向かって歩き始める。

 

「……大体の事情はりっちゃんから聞いてるよ。ごめんね、この間俺達が買い物に巻き込んじゃったせいでこんなことになっちゃって」

 

「そ、そんな! 良太郎さんのせいじゃないですよ!」

 

「……そう言ってもらえるとありがたいよ」

 

 ふと、春香ちゃんが手にした紙袋から覗く小さなスケッチブックが目に入った。

 

「そのスケッチブックは?」

 

「あ……これは、千早ちゃんのお母さんから預かったものなんです。千早ちゃんに渡してくれって……」

 

「千早ちゃんのお母さんから?」

 

 そう言いながら手渡してくるそれを春香ちゃんから受けとると、パラパラと数ページ捲ってみる。

 

「もしかしてこれって……」

 

「……亡くなった千早ちゃんの弟さん、(ゆう)君が描いた、歌っている千早ちゃんだそうです」

 

 そこには髪の長い笑顔の女の子がマイクを手にした姿が何枚も描かれていた。子供が描いた拙い絵ではあったが、それはちゃんと千早ちゃんだと認識することができ、そしてどれも『とても楽しそうに歌う千早ちゃん』の姿だった。

 

「……凄く楽しそうに歌ってたんだね、昔の千早ちゃんは」

 

 思わず呟いてしまったその言葉は、暗に「いつも千早ちゃんは楽しそうに歌っていない」という意味の言葉になってしまったが、それを否定するつもりはなく、春香ちゃんも「はい」と頷いた。

 

「私も同じことを思いました。そのスケッチブックに描かれた昔の千早ちゃんみたいに、笑顔で歌っている千早ちゃんを見たことないって……」

 

 歌っている千早ちゃんの姿を思い出す。歌っている時の千早ちゃんは、確かに充実しているような、満足しているような。

 

 けれど、楽しそうではなかった。

 

「でも……いや、だから私は、また千早ちゃんに戻ってきて欲しいんです。今度は、一緒に楽しくステージの上に立ちたいから」

 

 そう言いながら、春香ちゃんが紙袋を握る手にギュッと力を入れたのが分かった。

 

 きっとその紙袋の中には彼女の、彼女達の『想い』が入っているのだろう。

 

「……そっか」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

「ここです」

 

「……うん」

 

 とあるマンションの、如月という表札が掲げられた一室。極々一般的なマンションの扉。けれど、今はそれが開くことが無くなった天の岩戸のように見えてしまった。

 

 春香ちゃんがインターホンのスイッチをグッと押し込むと、室内から聞こえてきたチャイムの音が中の住人に来客を告げた。果たして今の俺達が望まれている来客なのかは分からない、が。

 

「千早ちゃん、こんばんは。春香です」

 

 扉の向こうにいるであろう人物に向かって話しかける春香ちゃん。しかしそれに対して何の言葉も返ってこなかった。

 

「今日は心配した良太郎さんも一緒に来てくれたんだよ」

 

「こんばんはー、千早ちゃん。最近見ないから心配したよ」

 

 二人で声をかけるが、やはり無言。言葉は返ってこない。

 

「あ、あのね、今日は渡したいものがあるの。ここ、開けてくれる?」

 

『……今は何も欲しくないの』

 

 扉越しに聞こえてくるややくぐもった声。ようやく聞こえてきたそれは、紛れも無く千早ちゃんのものだった。

 

「で、でも!」

 

『もう、私のことは放っておいて……』

 

 それは、明確な拒絶の言葉だった。

 

「それはちょっと酷いんじゃない、千早ちゃん」

 

「りょ、良太郎さん?」

 

 思わず声を挟んでしまったが、元々千早ちゃんと話をするために来たので構わず進める。

 

「春香ちゃんは……いや、春香ちゃんだけじゃない、赤羽根さんやりっちゃん、765プロのみんなが千早ちゃんを心配してくれてるんだ。顔ぐらい見せてあげたら――」

 

 

 

『放っておいてって言いました!』

 

 

 

「っ……!?」

 

 扉の向こうから聞こえてくる怒声に、隣の春香ちゃんが身を強張らせる。

 

『歌もダンスも一流の貴方に、唯一の歌を無くした私の気持ちが分かるんですか!? 弟のための全てを無くした私の気持ちが分かるんですか!?』

 

 きっとそれは、仲間の春香ちゃんには決して漏らすことが出来なかった千早ちゃんの本音なのだろう。予想はしていた。千早ちゃんは、大切に思っている相手だからこそ吐露することが出来ない思いを抱えているのだろうと。

 

「分かるよ」

 

「……え?」

 

 

 

「俺と君は……よく似てるんだよ」

 

 

 

 そしてその気持ちは、痛いほどよく分かった。

 

 

 

「……良太郎さんと、千早ちゃんが……?」

 

「……ちょっとだけ、昔話に付き合ってもらっていいかな」

 

 

 

 さて、ほんの少しだけ語ることにしよう。

 

 俺が『アイドルを始めるきっかけ』でも『アイドルを続ける理由』でもなく。

 

 

 

 ――周藤良太郎が『アイドルになろうと決意』した話を。

 

 

 




・体調不良の名目でお休み
この世界では弟のことが記事になっていないので、世間的には本当にただの病欠ということになっております。

・歌えない理由
アニメとは違う理由ですが、弟に関することで強いショックを受けたという点で同じのためこの展開で問題ないと考えております。



 重い(ちょーネタに走りたい)

 今回語るべきことは全部次回の後書きに回させてもらいます。



『デレマス4話を視聴して思った三つのこと』

・これは作画にロリコンがいますわ(定型文)

・熊本弁(初級編)

・「どすこい雪歩」って書き込んだ奴、怒らないから出てきなさい。
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