アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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デレマスもいよいよ大詰めですね。今から二期が始まる夏が楽しみです。


Lesson74 夢を見るということ

 

 

 

 曲が流れず、そしてそんな状況で(その場で作った)新曲披露、さらにそのままぶっ倒れて病院行きという流れるようなコンボがあったものの『アイドルJAM』は概ね大成功に終わった。

 

 懸念していたように新曲に関する問い合わせが続出したものの、どうやら兄貴が全て捌ききったようだ。一体どんな理由付けをしたのやら。

 

 さて、年忘れライブが終わった後はみんなが浮かれるクリスマス!

 

 

 

 ……は、既に通り過ぎた。

 

 いやー、二十四日・二十五日と翠屋の手伝いで忙しかったけど、二十六日の周藤家と高町家の合同クリスマスパーティーは楽しかったなー。士郎さんたちにシレッと交ざって久しぶりにシャンパンを飲もうと思ったが速攻でバレて兄貴の全力のチョップを喰らったり。フィアッセさんと二人で無駄に豪華なクリスマスソングを熱唱したり。母さんとなのはちゃんと美由希ちゃんとフィアッセさんにプレゼント渡したりプレゼント貰ったり。あと詳しい話はその場にいなかったので知らないが恭也と月村はクリスマスイブに無事ハッピーエンドを迎えたらしい。末永く爆発しろ。

 

 それにしても本当に久しぶりに美由希ちゃんに会った気がする。何でだろうなぁ、色々とタイミングが合わなかったんだろうなぁ。

 

 そしてクリスマスが終われば一年の締め、大みそか! さらに一年の計、元旦!

 

 

 

 ……も、更に通り過ぎた。

 

 いやー、今年は休業中で紅白にも出場しなかったから久しぶりにのんびりと出来た年末年始だったなー。受験生だけどこれぐらいはなー。大晦日には久しぶりに紅白は年越し蕎麦を食べながら視聴者側になったり。元旦には初詣に行った神社でシレッと列に並んで久しぶりにお神酒を飲もうと思ったが再びバレて兄貴の全力のチョップを喰らったり。人混みに紛れて迷子になったリトルマミーを捜索したり。あの人背が小学生並だから本当に何処にいるのか分からなくなるんだよなぁ。

 

 ちなみに年末年始は父さんが帰ってきていた。美由希ちゃん程ではないけど父さんに会うのも久しぶりだったなぁ。三が日終わったらすぐにとんぼ返りだったが。

 

 で、現在。俺と恭也と月村は朝早くの寒空の下、防寒対策バッチリの格好でテクテクと歩いていた。

 

 

 

「よし恭也、月村、問題出し合ったりしようじゃないか」

 

「あら、いいわね」

 

「別に構わんぞ」

 

「それじゃあ……『たかまちさんちのきょうやくんは、おかあさんに500えんをもらってくだものやさんにリンゴをかいにいきました』」

 

「その問題が本当に出ると思っているんだったら今回は見送った方がお前のためだぞ」

 

「『その途中、公園の木に猿がぶら下がっていたので猟銃を取り出して発砲したところ、発砲音に驚いた猿が木から落ちました。恭也君と木の距離をA、木の高さをH、弾丸の高さをha(t)、猿の高さをhb(t)、弾丸が猿に命中した時間をt、弾丸の速度をvとした時、恭也君が構えた猟銃の角度を求めなさい。ただし重力加速度をgとする』」

 

「御神の剣士は銃など使わん。近寄って切る」

 

「御神なら飛針(とばり)鋼糸(こうし)を使えよ」

 

「何で猿がいるのかとか何処から猟銃を取り出したのかとか、そういうツッコミは無いのね」

 

 

 

 今の会話で察してもらえるかどうか微妙なところであるが、旧名称『大学共通第一次学力試験』、現在の『大学入試センター試験』である。高校三年生、つまり受験生が挑む第一関門の日をついに向かえてしまったわけだ。

 

「いやぁ、本当にこの日が来てしまったな」

 

「この日のために勉強してきたんだから大丈夫よ。周藤君も恭也も、みんなで一緒に勉強してきたんだから」

 

「ソーデスネー」

 

 苦手な数学の面倒を理数系が得意な月村に見てもらえて大変有難かったのだが、正直恭也と月村と三人で勉強とか場違い感が半端じゃなかった。いや、クリスマスに引っ付く前からそんなに変わらないような気もしたが、それまで以上にデレる月村と満更でもなさそうな恭也の様子を目の当たりにして首筋と背中が痒かった。それでいてお暇しようとすると二人して「遠慮するな」と……拷問か! 俺は一人で家に帰らせてもらうぞ! いや本当に帰らせて! ぶっちゃけ辛い!

 

 ただそんな環境で勉強してたおかげで、どんな状況でも動じない精神は身に着いたような気はする。アイドルとしてステージに立っている癖にと言われそうだが、それとこれとはまた別の話だ。

 

「ホント、一万人の観客の前に立ってた方がまだ気が楽だよ」

 

「普通逆だろう」

 

「『ヒグマと対峙した時の方が楽』とかぬかすお前にだけは言われたくない」

 

「私からしてみれば二人とも一般人とはほど遠いわ」

 

 そんなどうでもいい会話をしながら試験会場に向かう俺たち。リラックスしているという点で言えば問題ないだろう。

 

「……あっ、あれって765プロの美希ちゃんよね?」

 

 信号待ちをしながら見上げる月村の視線を追うと、そこには美希ちゃんが宣伝するコスメ用品の街頭広告があった。

 

「……相変わらず中学生には見えないわね」

 

「まぁ、確かに」

 

 黒いワンピースにいつもよりも大人っぽいメイクをして、妖艶な妖精のような恰好をした美希ちゃん。いや本当に貴女中学生ですか? 中学生が出していい色気じゃないよアレ。

 

「それにしても、最近本当に765プロの娘たちをよく見るわね」

 

「そうだなー」

 

 月村の言葉に同意しながら、その横に視線を移すとそこには真ちゃんが出演する進学塾のCMを映す街頭ビジョン。その下に視線を移すと貴音ちゃんが宣伝するカップ麺の広告トラック。今はテレビのチャンネルを回せばすぐに765プロの娘たちを目にすることが出来るという状況だ。

 

「彼女たちが絶賛売り出し中で人気上昇中っていうのもあるけど、時期が時期だからな」

 

「どういうこと?」

 

「冬だから、ってこと」

 

 年末年始というのは特番が多く、アイドルがゲストとして呼ばれる機会が多い。さらに普段は基本的に学校があり放課後にしか仕事をすることが出来なかった彼女たちも冬休みは朝から晩まで仕事をすることが出来る、つまりスケジュールを空けることが出来るのだ。

 

 売り出し中で人気上昇中の事務所のアイドルのスケジュールが空いていれば、仕事が入るのは当然のことだった。

 

 ちなみに人気上昇中どころか既に頭打ち状態の俺は平日休日問わず仕事が入るので結構学校は休みがちだった。ぶっちゃけ単位がギリギリだったのはナイショ。

 

「まぁ冬休みは終わったけど、新年特番は当分続くからな。あと俺がいないってのもあるだろうし」

 

 俺が休業に入ったことで他のアイドルの皆さんのお仕事が増えるのであれば何よりです。あ、自惚れじゃないよ?

 

「自信満々だな」

 

「ことアイドルの仕事に関しては他の誰にも譲る気はないよ」

 

「その自信をそのまま試験にまで継続したいわね」

 

「『継続(コンテニュー)』するには、ワンクレジットを投入してください」

 

「『新しく始める(ニューゲーム)』」

 

「つづける がんばる」

 

「止めさせる気ゼロか」

 

「ついでに緊張感もゼロね」

 

「ゼロが二つでゼロツーだな」

 

 そんなくだらない会話をしながら歩く俺たちを、果たして誰がセンター試験前の受験生だと思えるだろうか。

 

 

 

 

 

 

「……おや?」

 

 反対側から歩いてくる目深に帽子を被り眼鏡をかけた少女の姿が目に入った。変装をしているので周りの人間は気付いていない様子だったが、今しがた話題に出ていた事務所のアイドルだった。

 

「や。おはよー、春香ちゃん」

 

「え? ……あ、良太郎さん!」

 

 挨拶をしたことで春香ちゃんがこちらに気付いたので、道の脇に逸れて足を止める。

 

「恭也さんと忍さんも、おはようございます」

 

「おはよう」

 

「おはよう、春香ちゃん」

 

「久しぶりだね、春香ちゃん。『アイドルJAM』の時以来になるのかな?」

 

「はい、そうですね」

 

 休業中は普通の学生としての生活を続けていたので、春香ちゃんだけでなく業界の人と会うのが久しぶりである。

 

「最近忙しいみたいだね。今日も今から仕事? 随分と早いね」

 

「あ、えっと、はい。ラジオの収録です。良太郎さんたちもお早いみたいですけど……」

 

 首を傾げる春香ちゃん。おや、春香ちゃんが気付かないとは。

 

「今日はセンター試験なんだよ」

 

「……あ! センター試験! そうでした!」

 

 グッと拳を握りしめながら「頑張ってください!」と春香ちゃんからの激励。現役アイドルからの激励とか幾ら取れるんだろうと思わず考えてしまう我が思考の下衆いこと下衆いこと。

 

「あれ、でも真ちゃんと雪歩ちゃんも高三だよね? 彼女たちは受験しないの?」

 

「えっと、二人は卒業したらそのまま765プロに就職する……って言ってた気がします」

 

 あー、そっかーそうだよなー、そういう手もあるよなー。自分で大学受験をすることを決めておきながら、ちょっとだけいいなーとか考えてしまった。

 

「あ、そうだ、えっと……こんなものしかないのですけど」

 

 そう言いながら春香ちゃんが手提げ鞄から取り出したのは、包み紙に包まれたキャラメルだった。

 

「甘い物を食べると頭が回転するって聞きました! これを食べて頑張ってください!」

 

「お、ありがとう春香ちゃん」

 

「ありがとう」

 

「ありがとう。ふふ、アイドルから貰ったキャラメルなんて、ご利益がありそうね」

 

 春香ちゃんから一つずつキャラメルを受け取る。まぁ実際には逆効果って話らしいけど、ここでそれを言うのは野暮すぎる。折角の好意なのだからありがたく受け取ろう。

 

「春香ちゃんも頑張ってね。最近忙しいみたいだけど、無理だけはしないように」

 

「ありがとうございます。でも大丈夫です。他のみんなと一緒に頑張ります」

 

(……ん?)

 

「それじゃあ、失礼します」

 

「あ、うん。収録頑張ってね」

 

「はい! 良太郎さんも、試験頑張ってください!」

 

 

 

「………………」

 

「……ん? 良太郎、どうかしたか?」

 

「あぁ、いや、何でもない」

 

 春香ちゃんの後姿を見送り、俺たちも試験会場へと向かう。

 

 

 

(……考えすぎだよな)

 

 別に『事務所の仲間と一緒というのを嬉しそうに語る』ぐらいどうってことないじゃないか。

 

 961プロとのあれこれや受験勉強のせいで思考が若干ビターモードになっていたのだろう。

 

 こりゃ糖分が必要だなと包み紙を剥がし、春香ちゃんから貰ったキャラメルを口に入れた。

 

「……うん、甘い」

 

 

 

 『それ』はとても『甘かった』。

 

 

 




・久しぶりに美由希ちゃんに会った
やったね! ようやく会えたね!
……以上だが、他に何か?

・父さんが帰ってきていた
さらにこちらもニアミス。本格的な登場は第三章かなぁ。

・『公園の木に猿がぶら下がって』
「モンキーハンティング」と呼ばれる物理の有名な問題。センター試験にも結構出てくるので物理を選択する人は是非覚えておこう。

・飛針 鋼糸
御神流で使用する暗器。簡単に言うと苦無みたいなものとピアノ線みたいなもの。

・『大学入試センター試験』
アニメ内での時系列が不明だったため、この作品では23話内で春香と千早が歩道橋の上で会話した日がセンター試験だったことにした。

・俺は一人で家に帰らせてもらうぞ!
お部屋にお戻りの際は同施設の宿泊者名簿に船越・金田一・毛利などが無いことをキチンとご確認下さい。

・「つづける がんばる」
星のカービィ64のラスボス『ゼロツー』戦でのポーズ画面。
初めて見た時は凄い頑張れる気になった。

・真ちゃんと雪歩ちゃんも高三だよね?
アニメではどう見ても受験している様子が無かった。
その辺アニメの時系列が謎なんだよなぁ。亜美真美が中学生ってことは2の時系列のはずなので、その翌年の時系列に当たる劇場版では真と雪歩は大学生になっているはずなのだが……。まさかのサザエさん時空?

・『それ』はとても『甘かった』。
滲 み 出 る シ リ ア ス。
おかしい、こんなシリアス感を出すつもりはなかったのだが。



 というわけでアニメ23・24話に当たる春香回編スタートです。

 今回アニマスでもトップレベルにシリアスなお話ですので本腰を入れようとアニメ本編を見直し、さらにとある方の考察ブログも参考にさせていただきました。お父さんありがとう!

 そうやって改めて内容を考えた結果……これ本当に良太郎介入させていいのかなぁと本気で心配。いやまぁ、前々から結構無茶な絡ませ方してましたけど。

 原作の春香自身の成長の妨げにならない程度に介入させたいと思います。



『デレマス十二話を視聴して思った三つのこと』

・まさかの劇場版の民宿で合宿。

・何なんだこのあふれ出る人妻感は……!

・き、聞こえた! 俺にも熊本弁の副音声が聞こえたよ!

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