「おはようございます、プロデューサーさん」
「あ、おはようございます、音無さん」
ついに迎えた
「いいお天気ですねぇ」
「えぇ、ライブ日和ですね。……音無さんは、あっちに行かなくてもいいんですか?」
「はい。今日は社長も現場でお手伝いしてくれてますから」
病室に備え付けられたパイプ椅子に座り、リンゴの皮を剥いてくれる音無さん。
「あ、そう言えば、昨日良太郎君のお兄さんがお見舞いに来てくれたんですよ」
「え、幸太郎さんが、ですか?」
音無さんは驚いた表情で手を止めて顔を上げる。
「はい、何でも良太郎君の代わりに、ということで」
以前から何度か仕事の現場でお話をさせてもらったことがあったので面識はあった。少々アレな物言いではあるが、良太郎君のお兄さんとは思えない真面目な、それでいて良太郎君のお兄さんなんだと思えるユーモアのある人だった。
「そうだったんですか」
「それでですね、帰り際に幸太郎さんから『小鳥さんをよろしくお願いします』って言われてしまったんですが……」
あれは一体どういう意味だったんですか、と尋ねようとして……音無さんの表情を見て、固まってしまった。
「………………」
音無さんは微笑みながらも、悲しそうな表情をしていた。
「えっと、お、音無さん……?」
も、もしかして、何か失礼なことを聞いてしまったのでは……。
「……あ、すみません、プロデューサーさん。何でもないですよ」
「……だ、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
――幸太郎さんは、それより前にちゃんと面と向かって返事をしてくださいましたから。
「……え?」
「はい、剥けましたよ、プロデューサーさん」
「あ、ありがとう……ございます」
再びいつもの笑顔になってしまった音無さんに、何の言葉もかけることが出来なかった自分が。
何故か知らないが、自分でも腹が立つぐらい歯がゆかった。
「美希も、お水?」
「うん」
ストレッチを終えて水分補給をしようと別室に向かうと、私と同じように水分補給に来た美希と一緒になった。
「はい」
「ありがとーなの」
「……いよいよ、だね」
「……うん」
水の入ったペットボトルを美希に渡しながら、そう話しかける。
「……ねぇ、美希。美希は、アイドルってどういうものだと思う?」
「……アイドルってどういうもの……?」
腕を組みうーんと首を傾げる美希。
「ミキ的には、キラキラーって輝いて、見る人みんなを眩しーってドキドキさせちゃう存在なの!」
りょーたろーさんみたいな! としっかり付け加える辺りが美希らしくて、思わずクスリと笑ってしまった。
「……私はね、つい最近までそういうハッキリとした考えが無かったんだ」
既に叶ってしまっていた私の夢。惰性で続けていたわけでは決してなかったけど、それでも何処か靄がかかっていた私の夢。だから、アイドルとは何なのかという根本的なところがあやふやだった。
「でも今は、自信を持ってこうだって言えるよ」
――お客さんがいて、765プロのみんながいて、ステージの上で楽しく歌って踊っているこの瞬間が、私にとってのアイドルなんだって。
「あは、実に春香らしーの!」
「えへへ……」
新年ライブ。それは文字通り新年の初めに行うライブである。既に二月に入ってしまってはいるが、それでも年が明けて一番最初のライブなので新年ライブでも間違いはない。
それに加えて、765プロにとっては二回目の単独ライブでもある。竜宮小町メインだった一回目の感謝祭ライブとは違い、今は全員が竜宮小町に負けないぐらいの知名度を誇っているので、前回よりも盛況になるのは間違いないだろう。
――今日は全力で美希ちゃんを応援するぞー!
――俺は千早ちゃん!
――バッカおめーら、大正義わた春香さんを忘れんなよ!
その証拠に、ライブ会場の最寄り駅広場のベンチに座っているとそのような声があちらこちらから聞こえてくる。
そんな評判を耳にし、彼女たちも成長したなぁとしみじみと思う。以前は昔馴染みの
いや、『成長した』では語弊があるな。今尚躍進を続ける彼女たちに対しては『成長している』という表現の方が適切だろう。
……本当に――。
「――成長してるなぁ……」
「水着グラビア見ながらのそのセリフは変態臭いわよ」
つまりまだ変態ではないからセーフと心の中で勝手に決めつつ顔を上げる。
「おっす三人とも」
見れば、それぞれ変装をして普段とは印象の違う魔王エンジェルの三人が俺の読んでいる漫画誌を覗き込んでいた。
「えっと……星井美希ちゃんのグラビア?」
「そうそう」
黒のビキニを着て蠱惑的なポーズをとる美希ちゃんのグラビアが漫画誌の巻頭カラーになっていた。そろそろファッション誌などでは春物が出始める時期ではあるが、こういう漫画誌のグラビアは年がら年中水着である。
「いやでも本当に成長してると思うよ」
「……アイドルとしてってことよね?」
「それもあるけど、ほら、腰回りとか胸とか胸とか」
「胸を二回言った理由は既に理解してるから聞かないわよ」
情状酌量の余地無く麗華のグーパンチが俺の頭頂部を襲う。すごく痛かった。多分雷のエフェクトと共に『げんこつ』と大文字で表示されたことだろう。たんこぶ出来てないだろうか。
「むー……」
「ん? りん、どうかしたか?」
伊達眼鏡にサイドテールの変装中のりんが、大きく仰け反って胸を強調するセクシーポーズをとる美希ちゃんのグラビアを睨んでいた。
「りょ、りょーくん! 実はアタシも今度水着の写真集出すよ!」
「マジで? 発売日いつ? 初回特典何?」
「え、えっと、サンプル出来たらりょーくんにあげるよ?」
「いや、そこはりんファンとして自分のお金で買わないと」
その好意は有難いが『保存用』『鑑賞用』『使用(?)用』の三冊買いは
「……楽屋に挨拶に行くならそろそろ行った方がいいんじゃないかな」
「……いや、俺は楽屋行かないから、行くんなら三人で行って来い」
「え? 行かないの?」
ともみが不思議そうな表情で首を傾げる。
「こういう時はファンとして参加するから楽屋には行かないって決めてるんだよ」
「アンタ散々ライブ前に私たちの楽屋来てたじゃない」
「アレは仕事があって観に行けない時だけだ」
イチイチ細かいようだが、そこら辺の線引きは大切だと考えている。
さて、ここまでの会話で察してもらえるように、今日の新年ライブは魔王三人娘も観客として参加である。ライブ開催の告知がされた時点で俺が三人を誘っていたので今日は全員完全オフになっているのだ。
お前受験勉強はいいのかという声が聞こえてきそうだが、ライブが終わった後にちゃんとやるから。
楽屋には行かないにせよ、そろそろ開場するだろうということで移動することになった。
「そういえば良太郎、新しく事務所を設立するらしいじゃない」
道すがら、麗華がそんなことを言ってきた。
「何で知って……って、そうか、流石は東豪寺ってことか」
別に最高機密とかそういうわけじゃないので別にいいのだが。
「元々兄貴の夢だったらしいからな。まぁ、そろそろ一国一城の主になるのもいいんじゃないか」
当然俺もその事務所に所属することになるので、ついに俺もフリーアイドルの肩書きが外れることになるのだ。
「事務所の名前とかは決まってるの?」
「当然」
しかしこれは教えていいのだろうか。
「『
「……へー」
「あはっ、大きく出たねー、お兄さん」
「流石はリョウのお兄さん」
「それはどういう意味なのだろうか」
そこはかとなく兄弟共々馬鹿にされたような気がした。
「ちなみに一番二番三番ってのは『周藤良太郎』すらも越えてっていう意味らしいぜ」
「やっぱり、リョウのお兄さん」
だからどういう意味なんだって。
……しかし、新事務所、だ。ジュピターが所属するのはほぼ確定だが、それ以外にも新たにアイドルになろうと志す若者がやって来るのだろう。
晴天の青空を見上げ、この空の下にまだ見ぬ数多のアイドルの卵がいるのだろうと少しカッコつけたことを考えてみる。
「ん? ……あ、いや、何でもないよ。それより今からどーするー? とりあえずファミレス行こっかー!」
「……ふふふ、良太郎さぁん……待っててくださいね……いずれ、貴方の元に……」
「………………」
楽しみだと、純粋に思う。
「「「っ……!!?」」」
「ん?」
何故か横を歩く三人が口を酸欠気味の金魚のようにパクパクとさせながら戦慄していた。『何? レベルを持たないならレベル0ではないのか!?』という勢いで戦慄していた。
「どーした三人とも」
「……い、今……」
「……アタシたちの角度から見たら……」
「……リョウが……」
「「「笑ったように見えた……!!」」」
「……嘘ぉ!!?」
えっ!? ナニソレイミワカンナイッ!?
「い、いや、光の加減かもしれないんだけど……!」
「こ、こう、口の端が上がったように……み、見えたよね!? ね!?」
「リョ、リョウもう一回! 写メ! 写メ撮るから!」
「出来るなら俺だって見てぇよ!」
え、嘘、マジで!? 俺、笑ってたの!? どうやって笑うの!? 笑うって何!? 笑顔ってなんなんですか!?(哲学)
きっとこれは。
「今日は全力で頑張ろうね!」
「もちろんなの!」
変わりゆく日々の中で、それでも変わらぬ絆を持ち続ける少女たちと。
「デュエルで……みんなに……笑顔を……!」
「訳分かんないこと言ってないで、ほらもっかい!」
「アタシも写真撮るから! 引き延ばして部屋に飾るから!」
「高町家に譲れば翠屋の年間パスポートぐらい貰えそう……!」
「地味にともみが俗物的だなオイ!」
変わらぬ思いの中で、それでも少しづつ変わり始めた少年の。
エピローグ的な何か。
アイドルの世界に転生したようです。
第二章『CHANGE!!!!』 了
・面と向かって返事をしてくださいましたから。
実は地味に兄貴の方の恋愛話は進行していた模様。しかし文章化はしない。
・「アイドルってどういうものだと思う?」
原作ではアイドルJAM終了後にはるちはみきの三人でしていた会話内容ですが、この作品では良太郎が病院に運ばれた云々の騒動で無かったのでここに追加しました。
・『げんこつ』と大文字
つい最近劇場版でメキシコにお引越ししたそうで。
・三冊買いは決闘者の基本
副産物として我が家には三枚のベジータが……来るぞ、カカロット!
・インなんとか
イカちゃんかな?(すっとぼけ)
・『123プロダクション』
一応ググったりハーメルン内で検索して被ってないと判断。掲示板内のSSまでは把握出来ません。
・「とりあえずファミレス行こっかー!」
アフタースクールパーリータイム
・「いずれ、貴方の元に……」
エヴリデイドリーム
・『何? レベルを持たないならレベル0ではないのか!?』
何? wikiの学年表記が違うのだから、春香と真は別学年ではないのか!?
・ナニソレイミワカンナイッ!?
次回の真姫ちゃんのイベント、石を溶かしてでも走る覚悟は出来ているぞ!
・「デュエルで……みんなに……笑顔を……!」
ノルマ達成。
くぅ~疲れましたwこれにて第二章終了です!
実は、適当に主人公が無双する話が書きたいと思ったのが始まりでした。
本当はここまで長編になるとは思っていなかったのですが←
ご声援を無駄にするわけにはいかないので流行り(執筆開始時アニメ終了二年後)のネタで挑んでみた所存ですw
以下、良太郎達のみんなへのメッセジをどぞ
良太郎「みんな、見てくれてありがとう。ちょっと変態なところも見えちゃったけど……気にしないでくれ!」
りん「いやーありがと! アタシのかわいさは二十分に伝わったかな?」
ともみ「見てくれたのは嬉しいけどちょっと恥ずかしいかな……」
麗華「見てくれありがとう! 長らく出番が無かった時もあったけど、一応私たちもメインキャラだからね!」
恭也「……ありがとう」フカブカ
では、
良太郎、りん、ともみ、麗華、恭也、作者「皆さんありがとうございました!」
第三章に続く。
良太郎、りん、ともみ、麗華、恭也「って、なんで作者が!? 改めまして、ありがとうございました!」
本当は外伝に続く。
コピペネタっていいね、楽できるから(白目)
今後も変わらず、緩く続けていくのでよろしくお願いします。
それでは。
新年度を迎え、活動を始めた123プロダクションに新人アイドルがやって来た。
「突然だが、二人には765プロに出向してもらうことになった」
「「え?」」
しかしいい経験になるからと、765プロのアリーナライブにバックダンサーの一員として参加することになった新人アイドル二人。
「123プロ所属、所恵美でーす!」
「佐久間まゆです。よろしくお願いしまぁす」
――アイドルたちの熱い夏(から冬にかけて)の物語が始まる。
アイドルの世界に転生したようです。
第三章『M@STERPIECE』
coming soon…