(soonにcomingするとは言っていない)
以前話していた過去語り、はっじまーるよー。
Episode01 テレビ出演、そして始まりの悪意
今回語ることになるのは、今なお躍進を続け止まることを知らない『覇王』周藤良太郎の始まりの物語であり――。
――とある『一人の少女』と初めて邂逅する物語。
時は四年前まで遡る……。
その日、俺はガラにもなくウキウキしていた。当然それが表情に出ることはないのだが、かれこれ小学校入学からの付き合いとなる幼馴染は何となく俺が浮かれていることに気付いたらしい。
「テレビ出演が決まったらしいな」
「あぁ、今日テレビ局でその打ち合わせだ」
ウキウキしていたので恭也に問われたらホイホイと答えてしまう。朝の登校中故に周りには他の級友もいたのだが、各々の会話に集中していたのか俺たちの会話は聞こえていない様子だった。
「……あれ? 俺、お前にそのことまだ話してないよな?」
これから話題にしようとしていたことを先出しされてしまい首を捻る。いくら幼馴染とはいえ、言いたいことを先読みすることは出来ないだろう。ヒテンミツルギスタイルじゃあるまいし……いや、御神なら可能性が微レ存……?
「昨日なのはに話しただろ」
「あぁ、なのはちゃん経由ね」
深夜枠とはいえ、ようやく決まったテレビ出演だ。家族以外で一番最初にこのことを伝えるべきはなのはちゃんだと考えて真っ先に報告したんだった。小さい体をぴょんぴょんさせながら喜んでくれていたなのはちゃんを思い出し、あの様子だったら自分のことのように家族に話したのだろうと容易に想像できた。
「母さんや美由希も楽しみにしていたぞ。……ビデオに録画しておいて、帰ってきたら父さんにも見せてやろうと思っている」
「……そういや士郎さんの様子はどうだった?」
昨日なのはちゃんを高町家に送っていった時に聞けばよかったのだが、やはりなのはちゃんの目の前だと聞きづらいし。
「意識が戻ってから驚くぐらい早く回復してる。この調子なら来月には退院出来るらしい」
「そうか」
意識不明の重体で不在だった高町家の大黒柱がようやく帰って来るということか。
「長らく飲めなかった士郎さんが淹れてくれるコーヒーをやっと飲めるようになるんだな」
「退院したら、周藤家全員に是非お礼がしたいと言っていたぞ」
「そいつは楽しみだ。それじゃあ、その時にいい報告が出来るように頑張らないとな」
まずは目前に迫っているテレビ出演だ。
「まぁ、その前に今日は数学の小テストだな」
「……おうふ」
『アイドルとしての才能』のついでに学業も楽にこなせる才能に目覚めてくれないものか。
てな訳で放課後である。授業が終了し一度家に帰ってから兄貴と共にテレビ局へ向かう。
小テスト? ……あぁ、ちゃんと受けましたよ? 受けたから問題ないでしょ?(半ギレ)
「ん? どうした? 緊張してるのか?」
運転席でハンドルを握る兄貴が横目で助手席の俺の様子を窺いながらそんなことを尋ねてきた。
「……いやまぁ、そりゃあね」
昼間はウキウキ気分だったのだが、いざテレビ局へ向かう段階になると若干緊張してきた。
誰だってテレビ出演なんてことになれば緊張ぐらいするだろ。何せ、今の人生でも前の人生でもテレビ出演なんて経験は無いのだから。
神様から転生した特典として貰った『転生する世界で最も武器となる能力』が『アイドルとしての才能』だと(ほとんど)確信を持ったとはいえ、それが本当に世間に通用するのかどうかというのは分からないのだ。いや、オーディションの審査員が手放しに褒めてくれたんだから、よっぽどのことが無い限りは大丈夫だとは思うのだが……。
「緊張するな……と、言うのは無理な話かもしれんが、少なくとも心配する必要はないさ」
何せ、とハンドルを切りながら兄貴は続ける。
「オーディションでぶっちぎりの高得点、さらに実力を認めてくれた作曲家の先生がわざわざ新人であるお前のために曲を書いてくれたぐらいだ。そのお前が世間に認められないわけがないさ。自信を持て」
「……自信、か」
無いわけではないが。
「そーいう兄貴は緊張しないの?」
「俺?」
「まだ学生なのに俺のプロデュース業もするんだろ? 緊張と言うか、何と言うかそんな感じの奴」
別に今どき学生起業は珍しいものじゃないが、流石にプロデュース業と言うのは特殊だろう。……うん、特殊特殊。提督業とかメメタァは一先ず置いておく。
「そうだなぁ……学生とはいえ、後何回か講義に出れば卒業出来る単位は修得できるし、卒論の目途も着いている。今頃就職活動を頑張ってる他の学生よりは時間的に余裕がある。その点で言えば『まだ学生なのに』というのは、あんまり当てはまらんな」
「いや、俺もそうだけど、兄貴もプロデューサー歴たった一ヶ月だぜ?」
予備知識無しでそう簡単に出来るものじゃないと思うんだが。
「『たった一ヶ月』じゃない。『一ヶ月も』あったんだ。色々書籍で勉強もしたし、就職活動っていう名目で色んな芸能事務所へ話を聞きに行ったりもした。調べたことを自分なりに纏める時間は十分にあったさ」
後はそれが通用するのかどうか実践するだけだ、と語る兄貴は余裕綽々の笑顔だった。
「けっ。これだから天才は……」
普通の人間にそれだけのことが一ヶ月で出来るわきゃないっつーの。
「何を言ってるんだ? お前は」
「?」
「お前も既に、その『天才』の一員なんだよ」
「……天才、かぁ」
確かに神様から貰った才能ならばまさしく『天賦の才』、つまり『天才』なんだろうけど……。
何と言うか、そういう実感は湧かなかった。
「それでは、しばらくここでお待ちください」
「はーい」
テレビ局に到着すると俺と兄貴は控室に案内された。控室には既に三人の女の子がいて、備え付けられたパイプ椅子に座っていた。
(……ここで一緒に待つってことは、多分この子達もアイドルなんだよな)
見たことが無い三人だった。マイナーなアイドルなのか、それとも俺と同じような新人なのか。……酷く緊張している様子からして、多分後者だろうな。
「すまん良太郎、ちょっと電話してくる」
「りょーかい」
回れ右して控室から出て行った兄貴を見送る。
さて、いつまでも立ってちゃ不自然だよな。何処に座ったものか……いやまぁ、いきなり見ず知らずの女の子の横に座る度胸も無いし、無難に向かい側に座るか。というわけで机を挟んで三人の対面のパイプ椅子に座る。
ちらっと向かいの三人を窺う。
真ん中に座るのは、赤いロングストレートの女の子。ちょっと目つきがきついが、多分緊張によるものだろうと推測する。胸は……中乳? いや、何だろう、若干の違和感が……。
その左に座るのは、青いショートボブの女の子。多分三人の仲で一番背が高くて、比較的緊張して無さそうな印象。うーん、こっちの子は間違いなく中乳だな。
そして右に座るのは、紫色のツインテールの女の子。真ん中の子と同じぐらい緊張した様子で、そして特筆すべきはその素晴らしき大乳! デカい! 身長が低くて大乳とか凄いなオイ。
「……随分と余裕そうね、アンタ」
ジロジロと見ていると流石に不躾なのですぐに視線を逸らしたのだが、視線に気付いたのか真ん中の子にジロリと睨まれてしまった。
いや、実際には結構緊張しているのだが、無表情故に余裕そうに見えたのかな。
「そういう君たちは随分と緊張してるな」
「き、緊張なんかしてないわよ!」
「れ、麗華、声大きいって!」
叫ぶように立ち上がった真ん中の子を、右の子が腕を引っ張りながら抑える。
「まぁ、こう見えて俺も結構緊張してるんだよ」
「……全然そんな風には見えないわよ」
「ちょっと先天的なもので表情が動かなくてな。どうやら表情の動かし方を母親のお腹の中に忘れてきたらしい」
「はぁ? ……この控室で待ってるってことは、アンタもアイドルなのよね?」
「今回初めてテレビ出演するペーペーの新人だけどね」
「ふん、そんなんでよくアイドルになれたわね」
「よく言われる」
クラスメイトからも既に何人かに……というか、全員に同じことを言われた。
――は? アイドル?
――年中無表情のお前が?
――徹頭徹尾鉄面皮の周藤君が?
――おいおいマジかよおっぱい星人を拗らせるとアイドルになれるのか。
などと散々なことを言われたが、概ね通常運行です。(遠い目)
――とりあえずテレビ局に行くなら
――私、
――マジかよお前はやりんかよ。色々と足りてないぞ。
――ハイクを詠みなさい、カイシャクしてあげるわ。
――アイエエエエ!?
などと温かい言葉で送り出してくれた素晴らしいクラスメイトたちです。(白目)
「それで、そういう君たちもアイドルなんだよね?」
「そうよ! 私は『
「アタシは朝比奈りん」
「わたしは三条ともみ。新人同士よろしく」
それぞれ右の子と左の子も、こちらは丁寧に挨拶をしてくれた。やっぱり新人だったか。
「俺は周藤良太郎だ」
こちらこそよろしく……と、返そうとしたその時――。
『どういうことですか!?』
――そんな兄貴の叫ぶような声が、廊下から聞こえてきた。
「……え?」
「出演……キャン、セル……?」
兄貴と共に控室に入って来た番組ディレクターから告げられた言葉に、俺と東豪寺さんは絶句するしかなかった。
「ど、どういうことですか?」
「……急に出演キャンセルなんて……」
朝比奈さんと三条さんも困惑した様子でディレクターに尋ねる。
「いやぁ、悪いね。こっちも都合があってさ」
片手を挙げて謝罪の言葉を口にするディレクター。しかし、その表情は困ったような笑顔で……こう言うのもアレかもしれないが、本当にすまないと思っているようにはとても見えなかった。
「まぁ、また別の機会があったらよろしくねー」
「そ、そんな」
「ちょっと待って……!」
「納得できません! もっとしっかりした説明を……!」
詳しい事情を聞こうと追いすがる兄貴と共に、ディレクターは控室を出て行ってしまった。
「「「「………………」」」」
控室に残された俺たちは、ただただ押し黙るしかなかった。
俺が、俺たちが、何かしたのだろうか。
向こうの都合というのは一体何なのだろうか。
そんなことを考えていると、再び控室の扉が開いた。そうして入って来た人物は、兄貴でもプロデューサーでもなく……三人の少女だった。
「残念だったわねー」
「初のテレビ出演なんだっけ? かわいそー」
「でもまぁ、しょうがないわよ。あんた達はお呼びじゃなかったってことよ」
クスクスと笑いながら入って来たその少女たちは、若干アイドル事情に疎い俺にも見たことがある顔だった。
「……せ、『雪月花』の、雪ちゃん、月ちゃん、花ちゃん……!?」
目を見開いた東豪寺さんの声が、酷く震えていた。
・時は四年前まで遡る……。
当時良太郎は中学二年、幸太郎は大学四年。
・ヒテンミツルギスタイル
一振りで数人を切るとか謳いつつ、基本的に一対一でしか使われていないなぁって思った。
・若干の違和感が……。
基本的に麗華はパット入りの偽乳キャラです。この作品の現在の麗華は付けておりません。
・弥海砂
『DEATH NOTE』に登場するヒロイン(?)
モデル兼タレント。年齢は多分18ぐらい。別にこの子がいるからってキラがいるわけではないが、兄貴の天才仲間として真っ白な
・瑞原はやり
『咲-saki-』に登場する牌のおねえさん。大乳。
多分この世界では普通に教育番組のお姉さん。年齢を聞くのは野暮である。
・ハイクを詠みなさい、カイシャクしてあげるわ。
実際、その(はやりんの)胸は豊満であった。
・『雪月花』
原作において幸福エンジェルがグレて魔王エンジェルになってしまった原因の張本人。
というわけで、外伝の『ビギンズナイト』編です。蛇足と思われるかもしれませんが、とあるキャラを登場させるために必要な話でした。
それほど長くする予定はなく、多分三話ぐらいで終わります。