アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ほとんど説明回に近いかも。


Lesson80 少しだけ変化した日常

 

 

 

 七月である。まだ梅雨明けはしていないものの蝉はミンミンと鳴き始めており、世間はすっかり夏といった様相である。

 

 さて、我ら123プロダクションが設立されてから早三ヶ月が経った。当然その三ヶ月の間にも様々な出来事が起こっていた。

 

 ほんの少しずつだが、日常の中で変化したこともあったのだ。

 

 

 

 

 

 

「……そんな恰好でだと……下から見えちゃう……はっ」

 

 目覚まし時計のアラーム音と共に目を覚ます。十秒ほどボーっと虚空を見つめた後、頭上に手を伸ばして目覚まし時計を止める。

 

「……変な夢だったな」

 

 気が付くと俺は廃ビルの上に立っていたのだが、そこに俺と同い年ぐらいに成長したなのはちゃんが空を飛びながらやって来るというよく分からない内容の夢だった。何故かなのはちゃんは俺のことが分からない様子だったのだが、とりあえず彼女の格好がミニスカートだったのでその場に正座をさせてお説教してしまった。

 

 何故こんな夢を見てしまったのか……なのはちゃんが持っていた杖が流暢に英語を喋っていたような気もするし、俺の頭は一体何の電波を受信したのやら。

 

 不思議な夢だったなーという月並みな感想を抱きつつ、着替えを終えて顔を洗うために洗面所へと向かい顔を洗い歯磨きをして以下省略。

 

「おはよー」

 

「おう、おはよー」

 

 欠伸を噛み殺しつつリビングに入ると、先に起きていた兄貴が既に食卓について朝刊を読んでいた。チラリと記事が見えたが、どうやら元アナウンサーの川島(かわしま)瑞樹(みずき)さんが346プロダクションでアイドルとしてデビューするらしい。むむ、アナウンサーを辞めた時に嘆いたファンが多かったから、喜んでる人も多いだろうなぁ。

 

 とりあえず喉が渇いたのでキッチンで水を一杯飲む。

 

「あ、リョウくんおはよー! お料理テーブルに持って行ってー!」

 

「はい、おはよー」

 

 相変わらずお母さんのお手伝いをしている小学生のようにしか見えないエプロン姿の我が家のリトルマミーの指示に従い、既に出来上がった料理の皿をテーブルに運ぶ。

 

「良、こっちもお願いね」

 

 そんな俺に声をかける、我が家の『四人目』の声。

 

 

 

「おはよう、早苗ねーちゃん」

 

「はいはい、おはよう」

 

 ついに我が家に嫁いで姓が周藤となった早苗ねーちゃんである。

 

 

 

 兄貴を巡る仁義なき女の闘いは俺の知らないところで着々と進んでいたらしく、決着が付いたのは二月のバレンタインのことだったらしい。最後の年だからという理由で巻き起こった高校での騒動(通称チョコレート戦争)にてんやわんやしている裏でそんなことが起きていたとは思いもよらなんだ。

 

 詳しい話は聞いていないし聞こうとも思わないので、兄貴がどういう経緯で早苗ねーちゃんを選んだのかは知らない。早苗ねーちゃんや選ばれなかった二人がどんな心境なのかも知らない。特に選ばれなかった今でも社長秘書として働く留美さんの気持ちが全然分からない。俺なんかが分かるはずもない。円満な解決だったわけではないと思う。

 

 けれど、こうして全員笑って『今』を迎えている以上、きっとこれは『トゥルーエンド』だったのだろう。

 

 ホント、物語の中でしか恋愛を知らないお子ちゃまの俺には難しい話だよ。

 

 ちなみに、一応入籍は済ませているが式はまだである。現在進行形で立ち上げたばかりの事務所の運営で手一杯という状況なので、早くても今年の秋から冬にかけて辺りになるとのこと。今から式で何をしでかそうか……もとい、どんなサプライズをしようか楽しみである。

 

 更にちなみに、早苗ねーちゃんは家庭に入ったわけではなく現職の警察官のままである。……どうでもいいが、童顔巨乳人妻婦警とか属性盛り過ぎな気もする。

 

 

 

「いただきます」

 

「「「いただきます」」」

 

 相変わらず絶賛単身赴任中の父さんに代わり、我が家の大黒柱代理の兄貴の音頭で朝食が始まる。

 

「ん? ちょっと幸、ご飯粒付いてるわよー」

 

「へ?」

 

「ほら、ここ」

 

 そう言いながら頬のお弁当を取ってパクリと食べるという定番のやり取りを朝一番に見せつけてくれる兄夫婦の姿には流石に慣れた。あぁ、慣れたとも。

 

「リョウ君も、お弁当……付いてないねー」

 

「一体何に対抗しようとしてるのさ」

 

 話題は点けたままのテレビから聞こえてくるニュースのことも多いが、やはり昔の癖と言うか習慣と言うか、兄貴と今日の仕事についての話になることが多い。

 

「良太郎、お前今日は確か二限だったよな?」

 

「あぁ。昼からスタジオで久しぶりに声のお仕事。んでその次は雑誌の写真撮影、夕方からダンスレッスン」

 

 高校の時と違い大学は一日中講義という訳でなく、教授の都合で休講になったりそもそも講義が入っていなかったりと時間が空くことが多い。今日も午前中の二限で終わりである。そのおかげで以前よりも仕事の量は少しだけ増えた。多分、来年成人したら九時以降の収録も出来るようになるから更に増えるのだろう。

 

「雑誌の撮影なんだが、行くついでに恵美ちゃんとまゆちゃんの二人を拾っていってくれ」

 

「……は?」

 

「二人とも同じスタジオでモデルの仕事だし、丁度いいだろ」

 

「普通所属アイドルを足に使うか?」

 

 俺、アイドルよ? 自慢するわけじゃないけど、周藤良太郎よ?

 

「仕方ないだろ。俺は打ち合わせで、留美はジュピターの仕事だ。美優に送迎させるわけにもいかんし」

 

「……なんだかなぁ」

 

「ちなみに既に二人には迎えが行くから放課後に校門の前で待っててくれと伝えてあるから」

 

「事後報告もいいとこじゃねぇか!」

 

 別に二人を迎えに行くこと自体に文句があるわけではないし、俺が迎えに行くことで交通費を抑えることも出来ると理解しているのだが、なんかこう、釈然としないものを感じた。

 

 

 

 

 

 

 我が家の両親ですっかり見慣れたいってらっしゃいのキスをする兄貴と義姉上をスルーして一人足早に家を出る。

 

「オ・イ・ラッはアイドルー、893じゃないけどアイドルー」

 

 チャリチャリと鍵を回しながらエレベーターで下に降り、マンションの駐車場へ向かう。

 

 さて、先ほどの兄貴との会話で気付いた人もいるだろうが。

 

 

 

 この度、ついに免許を取りました。

 

 

 

 春休みの時からちょくちょく教習所に通っており、二ヵ月前についに免許を修得したのだ。

 

 ちなみに車は自分で買ったものではなく、大学入学祝いという名目で父さんからのプレゼントである。久しぶりに帰って来たと思ったらいきなり車のキーを渡されて「今日からこれがお前の車だ」と言われた時は何事かと思った。軽自動車ではあるがペッカペカの新車である。当然ながら変形しないしタイヤが飛んだりもしない。ましてや合体もしない。

 

 まだまだ一年生のこの時期に車で大学へ向かうのは少々生意気かもしれないが、講義が終わった後に仕事の現場へ向かうのはこちらの方が都合がいいのだ。

 

 一応前世でも免許を持っていたが、最後に運転したのが二十年近く前というペーパードライバーどころの話ではないので、人一倍運転には気を使う。アイドルが事故なんか起こそうものなら大事件である。いやまぁ事故が起きた時点で大事件なのだが。

 

 そんなわけで、初心者の証である若葉マーク輝く我が愛車に乗り込み、意気揚々と大学へと向かうのだった。

 

 

 

「おっすご両人。おはよう」

 

「あ、周藤君だ。おはよー」

 

「おはよう、良太郎」

 

 大学内の駐車場に車を停め、構内を歩いていると見知った二人の後姿があったので声をかける。

 

 言わずもがな、高町恭也と月村忍の二人である。

 

 こいつら二人が同じ大学に行くための勉強をしていたことは知っていたのだが、別に俺は二人に合わせるつもりはなかった。にも関わらず、結局こうして同じ大学に通うことになってしまったのである。まぁ、それぞれ学科は違うのだが。

 

「そういえば周藤君、今度は声優のお仕事だっけ?」

 

「あぁ、久しぶりにな。『俺の妹がお嬢様学校の劣等生だけど女神の祝福でツインテールになったのは間違っている』っていうアニメでな……」

 

「タイトルだけだと内容が全く見えてこないわね」

 

「略して『俺は間違っている』だ」

 

「いきなり主人公が自己否定を始めたが大丈夫なのか」

 

「原作はライトノベルなんだが、サスペンスらしい」

 

「そのタイトルで!?」

 

 高校時代と変わらない駄弁りをしていると、不意に左腕を誰かに掴まれ、そのまま引き寄せられて肘に何か柔らかい物が当たった。

 

 

 

「おっはよー! りょーくん!」

 

「ん、りんか。おはよう」

 

 トップアイドルグループ『魔王エンジェル』の一人、朝比奈りん。なんと彼女まで同じ大学なのである。

 

 

 

 その事実を知ったのは入学直後のオリエンテーションの最中だった。名前を名乗るので結局最後には身バレはするのだが、騒ぎを大きくしないように完全変装状態だった俺の腕を取りながら名前を呼ばれたので誰かと思ったらりんだった。

 

 確かに俺は何処の大学を受験するという話をしたものの、逆にりんから何処の大学を受験するという話は全く聞いていなかったので、これは完全に不意打ちだった。りんも俺を驚かせる気満々だったようで、突然のことで言葉に迷っていた俺を見ながら楽しそうに「いひひっ」と笑っていたのを覚えている。

 

「忍と恭也君もおはよー!」

 

「おはよう、りん。忘れられちゃったかと思ったわ」

 

「おはよう」

 

 恭也と月村も俺経由で既に知り合いである。

 

 ちなみに予想通りというか何と言うか、麗華とともみも揃って同じ大学なのだが――。

 

「あれ、今日は二人と一緒じゃないのか?」

 

「えっと、麗華は重役会議で、ともみは舞台の稽古」

 

 どうやら二人は自主休講のようだ。まぁ、何処かで単位の埋め合わせはするのだろう。

 

「あ! そういえばりょーくんも今日は講義二限で終わりだよね? 一緒にお昼食べに行こうよ!」

 

 突然ではあるが、りんから昼食のお誘いである。当然二つ返事でオッケーである。

 

「やった! それじゃあ、二限終わったら中庭で待ってるね!」

 

 嬉しそうにそう言うと、小走りで少し前を歩いていた月村の隣に並んで談笑を始めてしまった。性格的に女性陣の会話に交ざることをしない恭也が入れ替わるように歩を遅くし、俺と並ぶ。

 

「月村を盗られちゃったな」

 

「お前こそ、忍に朝比奈さんを盗られたな」

 

 周藤良太郎十九歳は、そんなキャンパスライフを満喫中である。

 

 

 

 

 

 

おまけ『くるまのおはなし』

 

 

 

「別に事故るつもりはないが、普通未成年のアイドル三人だけで車移動をさせるか?」

 

「未成年だけで車移動ぐらい普通だろ」

 

「事情が普通じゃないっつってんだよ」

 

「安心しなさい、良。何かあったら連絡くれれば何とかしてあげるから」(交通課)

 

「色々な意味で安心出来ない」

 

 

 




・俺と同い年ぐらいに成長したなのはちゃんが
感想で問われて思いついたネタ。あんなスカートの美少女が空を飛び交う職場で働くエリオ君が羨ましすぎる。

・川島瑞樹
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
元アナウンサーな現在27歳アイドル。わかるわ。
多分これぐらいの時期からアイドルをやっていればアニメ的に正解だと思う。

・周藤早苗
嫁戦争に大勝利した早苗さんUC。
早苗さんファンには申し訳ありませんが、彼女のアイドルデビューはなくなりました。

・チョコレート戦争
児童文学の方。選挙しないし恋もしない。

・童顔巨乳人妻婦警とか属性盛り過ぎな気もする。
少ない方なんだよなぁ……。

・お弁当
まさかの誤字として指摘されたので。この言い回しが通用しないとは……。

・「オ・イ・ラッはアイドルー」
オイラーが歌えーば嵐を呼ぶぜー。

・「今日からこれがお前の車だ」
作者友人の実話。親父△。

・当然ながら変形しないし~
ほら見ろ、みんなが散々「どうして車と合体しないんだ」とか言うから本当に合体しちゃっただろ!

・『俺の妹がお嬢様学校の劣等生だけど女神の祝福でツインテールになったのは間違っている』
作者が持ってるラノベを中心に六つぐらい混ぜてみた。

・おまけ『くるまのおはなし』
雨が多くなってくる時期なのでドライバーの皆さんは気を付けてください(マジレス)



 日常編の皮を被った説明回のような何かです。

 (登場人物が所属する学科は正直面倒くさくて考えて)ないです。忍は多分工学科。良太郎はいずれ書く時がくるかも。

 まだ説明は続きマース。



『どうでもいい小話』

 アニメ化するということでモン娘を全巻買ったら新たな扉が開いた。セレア可愛いよセレア。

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