2人の兄は大変だ   作:ジーザス

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最近ドラゴンボールの作品が増えた気がしたので流れに乗って書いてみようかなと思いました。

駄文ですがよろしくお願いします。ちなみに更新はわかりません。


原作前
帰還①


「久々の惑星ベジータか」

 

そう言いながら空を見上げているのは、戦闘ジャケットを着た戦士と思しき人影。

 

「お帰りなさい!今回もお手柄だったようですね」

 

話しかけているのは昔馴染みの整備士のようだ。

 

「上がいなかったらやられてたかもな」

「でも貴方がいなかったら勝てなかったとか。そういう噂が流れていますよ」

「…誰だそんなデタラメを言いふらしたのは」

 

整備士の言葉を聞いてぼやく様子は、心優しい見た目からは想像できないほどにげんなりしている。それほど尾ひれがつくのが嫌なのだろうか。

 

戦士として戦場に立つ以上、噂でも誰かの口から自分の高評価を聞けば嬉しいだろうに。だがその人影はまったく嬉しそうな表情をしていない。むしろあまり口にしないでほしいと言っているようにも見えた。

 

「どこのどいつか知らんがぶっ飛ばしてやる」

「やめといた方が良いですよ。口にしているのはフリーザの部下らしいですから」

「悪口言うならスカウターは外した方がいい。聞かれるぞ」

「やべっ」

 

急いでスカウターを外す自分より一回り年上の整備士に簡単な挨拶をしてから、人影は自宅へと足を向けた。

 

 

 

バルンダ星で見繕った革袋を背負いながら店先を歩いて行く。

 

「お帰り。また派手にやらかしたみたいだな」「さすが俺が見込んだだけはあるぜ」「買っていかないか?戦勝祝いで安くするぞ」

 

と口々に彼へ声をかけてきてくれるが、それら全てをやんわりと断って最初に向かうべき場所へと向かった。

 

「ただいま母さん」

「えっ、ミズナ!?帰ったのかい?」

「ついさっきだよ」

「言ってくれれば夕飯を豪華にしたのに」

 

そう口で文句を言いながらも表情は柔らかく慈愛に満ちている。尻尾を互いに包ませながら見つめ合う様子は夫婦のようにも見えるからか、周囲の観客が冷やかしてくるので女性の顔は真っ赤に染まっていた。

 

「それ以上口にしたら私が黙ってないよ!」

 

先程まで肉を切り分けていた包丁を握って振り上げていた。

 

「怒りやすいんだから母さんは」

「そりゃ怒りたくもなるさ。家族の触れ合いってだけでこんな風に言われたらね」

「仕方ないと思うよ。普通のサイヤ人はこんな風に触れ合わないんだからさ」

 

もともとサイヤ人は情愛が薄い傾向にある。それは戦闘本能が強く、戦うことを生き甲斐としている戦闘民族というのが原因だった。だが彼の母親のように、子供に愛情を注ぐ存在もいないというわけではないらしい。

 

「ラディッツはどうしてる?」

「ベジータ王子と組んであちこちの星を攻め落としてるよ」

「また面倒な人物と組まされてるなぁ。よくエリート様と組ませて貰えたもんだ」

「見込みがあったのかもしれないね。それより今の言い方は気にくわないよ」

「いいっ!」

 

やべぇ。母さんって他人を下に見たら怒るの忘れてた。それは家族であっても例外じゃないし、口したら結構面倒だったりする。意図して口にしたつもりはなかったが、それを理由にしても一蹴されて終わりな気がするどうしたものか。

 

「まあいいよ。ラディッツのことを想って言ってくれたんだろ?だったらそれを咎めるのも野暮ってもんさ。それよりカカロット見るかい?」

「通信でしか聞いてなかったから今日が初対面か。それよりいいの?店を置いておいて」

「こっちが優先だろ?兄ちゃんが弟を気にかけないのは問題だよ」

 

有無を言わせずに連行するつもりのようだ。でもまあ侵略先での唯一の安心できる一時が、その話だったから嬉しいのは間違いない。弟の面倒を見るのも兄ちゃんとしての務めだからしっかりとしないとな。といっても俺は15歳だから年がかなり離れているのは否めない。

 

店の奥に行くと保育機に入れられた黒髪の赤子が浮いていた。幼い。それが第一印象だった。ラディッツを見たとき以上にそう感じるのは、俺が歳を取ったのかそれともまったく戦闘力を感じない(・・・・)からだろうか。ラディッツもそれほど感じなかったが、この赤子はそれ以上に何もない。

 

保育機から出せばすぐに死んでしまうのではと思うほど弱々しい手足。赤子のわりに肉付きがよろしくない腹部などが余計にそう思わせているのかもしれない。

 

「まだ小さいからあと1年経てば出そうかなと思ってるんだ。…生まれた頃に戦闘力を測ったらたったの2で、バーダックはため息を吐いていたよ。最初にエリートレベルの戦闘力を持ったあんたが生まれて、カカロット程ではないけど下級戦士の戦闘力を持ったラディッツが生まれた。だからこそだろうね。カカロットをあんたほど世話をしてくれないのは」

「母さん、俺…」

 

それ以上俺は言葉を続けることができなかった。

 

最初にエリートレベルの戦闘力を持った俺が生まれてしまったが故に、ラディッツやカカロットは父さんから世話をしてもらえなかった。生まれる度に戦闘力は低下し、カカロットに至っては惑星ベジータにいることさえ許されない戦闘力しか持っていなかった。

 

生まれて言葉を理解できる程度になると、俺は周囲から羨望の眼差しをもらうことに気付いた。父さんから聞いた話によると、俺が子供にして有り得ない高さの戦闘力を持っていたかららしい。サイヤ人は少数民族で戦闘力が高いことでその名を宇宙へ轟かせていた。だがそれは種族の平均を取ってのことであって、個人でというわけではなかった。

 

個人で見れば戦闘力が低い存在が多い。戦士として戦うには1000ぐらいなければ厳しいのだが、大半はその半分にも満たない。それなのに何故〈宇宙最強の戦闘民族〉なのかというと、ごく少数のエリートの戦闘力が突出しているからである。だからなのか俺は英才教育を受けることになったのだった。

 

だがそのせいで弟たちは、他のサイヤ人と同じような世話しかしてもらえていない。俺が存在しなければ、2人はこうならずに済んだのではという罪悪感が込み上げてきた。

 

「いてっ、何すんのさ」

 

突如母さんにおたまで頭を殴られた。いつの間に取り出して頭2個分は高い俺を叩いたのかと疑問に思ったが、それ以上に殴られる理由がわからなかった。

 

「あんたが悩むことじゃないだろ。こうなってしまったのもあたしが強い子供として産んであげられなかったことだけさ」

「でも俺がエリートじゃなかったら2人は父さんにまともな扱いを受けてたはずだ!」

「そうだったとしてもきっとバーダックは変わらなかったよ。『下級戦士として生まれた自分とは違う人生を歩ませようとしたが、結局は自分の血を引いているから戦闘力のないガキしか生まれない』って悔やんでた。多少の扱いをしていたことはあんただって覚えてるだろ?」

「そりゃあんなことしてもらったら覚えてるさ…」

 

脳裏によぎるのは侵略先から一時帰還した際に、戦闘ごっこという普通のサイヤ人ならしない親子での戦いをしてくれたこと。情愛が薄いサイヤ人だから、基本的に親は子供が怪我しようが死のうが知ったこっちゃない。そしてその思いが当たり前かのように同い年の奴らは平然としていた。

 

俺にはそれが理解できなかった。血が繋がっているのだから怪我をすれば看病し、死ねば悲しむのが当たり前だと思っていた。そのことを父さんに聞いたら、不器用な笑みを浮かべながら答えてくれた。

 

『オレたちサイヤ人は戦うことが生き甲斐だ。そんな甘い考えを抱く存在は疎まれ蔑まれ居場所を失う。だがそれが役に立つときが来るかもしれねぇ。だからお前はお前の好きなように生きろ』

 

それはエリートに匹敵する戦闘力を持って生まれたから言われたのか、それとも自分の血を受け継いでいるから言ってくれたのか。それはあの時から10年以上経つ今でもどっちなのかはわからない。

 

「バーダックは不器用だからね。好きなものでも大切なものでも素っ気なく扱ってしまうんだ。だからまだ成人もしていないお前が気にしても意味はないんだよこの!」

「うわ!やったなエリートの力見せてやる!」

 

飛び掛かってきた母さんを押しのけようとしたが、呆気なく組み伏せられるのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

惑星ベジータに帰還して1週間が経過し、そろそろ以前から侵略していた星に戻って殲滅作戦に参加する日が来た。ここからバルンダ星まではポッドで半年はかかる。

 

今日の昼前に此処を起たなければ、参加することはおろか到着さえ見込めなくなってしまう。最悪の場合、作戦決行日にも間に合わなくなる。

 

「カカロットの成長した姿を見たかったけど戻ってくるのがいつになることか」

「それまでに何処かの辺境に飛ばされてるよ。カカロットでも倒せる程度の星にね」

「だったらある程度星を制圧したときに会いに行けばいいんだ。迎えに行くときは家族全員でさ」

「といってもラディッツが了承するかどうか。それにどうやってそんな時間を割いてもらうのさ」

 

サイヤ人の精鋭として星を侵略している俺や父さんがそう簡単に休みを取れるわけもない。それに長時間の休暇など仲間が許可しても王が納得しない。首を横に振るのが目に見えている。

 

「これまでの戦果とこれからの休暇を俺と父さんの分をもらえばそれなりの日数は貰えるはずさ」

「…そうだねいつか会いに行けばいいさ。そういえばずっと思ってたけどあんたは戦うの嫌じゃないのかい?」

 

突然の質問に俺はどう答えるべきか悩んだ。戦うことは嫌ではないし強い奴らと戦えるのは楽しい。だが戦うことが好きかと問われるとどうなのだろう。

 

多分嫌いだと答えると思う。金を得るためにサイヤ人は他種族の星を侵略し奪い、そして高額で売り払うのが生業だ。侵略される星はサイヤ人に敵対しているとか、気にくわない行動をしたからという理由で狙われるのではない。

 

ただそこに星があるから。それなりの環境が整っているから。

 

だから狙われる住人からしたらたまったもんじゃない。だが生きるため、少数民族である自分たちが生き残るためには力で奪い去らねばならない。戦闘本能が高いというのがこういうところで裏目に出ているのかもしれない。

 

「好きではないけど嫌いでもないかな。どちらにせよ俺たちサイヤ人は他種族の星を奪うことでしか生きられない。そういう風に運命づけられた呪われた一族だからどうしようもない。だからこそ俺はカカロットにこういう生活をしてほしくないし、自分の好きなように生きてほしい」

「呆れた物言いだね。それでも長男かい?」

「甘やかしたのは母さんだろ?俺を否定するって事は自分を否定するって事だよ?」

「母親になんて口を利くんだお前は」

「いててててて」

 

くそ~思いっきり尻尾握りやがって。まだそこまで鍛えてないんだから、いくら非戦闘員の母さんの力でも痛いもんは痛いんだよな。それをわかってやっているのか謎の微笑みを浮かべているが何も言わないでおこう。口は災いの元と言うからな。

 

「じゃあ行ってくる。たぶん帰ってくるのは2年後とかそれくらいになると思う。それからこれを父さんに渡しておいてほしいんだ」

「なんでだい?スカウターで話せばいいじゃないか」

「言いにくいことだから紙に書いたんだ。直接言うにも会えないから言えない。だったら母さんに預けておいたら伝えてくれるし、父さんも母さんの言葉なら聞かざるを得ないから」

 

渡された紙切れを不思議そうに見つめる母さんだったが頷いてくれた。どうやら俺の言いたいことがわかったらしい。

 

「親を伝言板扱いするとは捻くれた子供に育ったもんだよ。でもまあ確かにあんたの言っていることは筋が通ってるし、バーダックのことだからね。あたしに任せておきな。ビシッと言い聞かせといておくよ」

「お手柔らかにね。久々に会うんだから喧嘩は駄目だよ。じゃあ行ってくる」

「死ぬんじゃないよ」

「ああ!」

 

自宅前から空を飛んで発着場へ急ぐ。母さんと長話をしてしまったことで歩いて行く余裕はなくなった。まったく自分の甘えん坊さに我ながらため息をつきたくなる。だが母さんと話すのは3年ぶりだし少しぐらい伸びても良いはずだ。

 

そうでなければ戻ってきて自宅に帰った意味がない。四六時中戦ってきたんだから時にはこうして羽を休めるのもいいではないか。

 

「遅いぞこのノロマ」

 

発着場に着陸すると嫌みを言われたので振り返る。

 

「年上には敬意を払えクソガキが」

「ふんっ。情愛を持つようなあまいサイヤ人の言葉を真に受けろってか?冗談言うな片腹痛いぜ」

 

浅黒い肌に父さんに似た顔つきをした少年は悪っぽい笑みを浮かべている。なんでこんな奴が父さんと同じ顔をしているのか疑問に思うが、下級戦士は顔のパターンが少ないらしく、似たような顔つきになりやすいそうだ。

 

「文句言わずにさっさと乗れ。すぐに出発する」

「はいはいわかりましたよリーダー」

 

文句を言いながら素直に乗り込むのを確認して、整備士からの許可が出た瞬間には、空へ舞い上がりバルンダ星へ向かってエンジンを吹かした。


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