「そろそろ到着しますよ」
声をかけられて目が覚める。仮眠を取るつもりだったがどうやら思った以上に深い眠りについていたようだ。だがまあそれなりに眠る理由があったのだから悪いことではないはずだ。
「久しぶりですね惑星ベジータに帰ってくるのも」
「...お前、あいつのことどう思う?」
「あいつですか?ああ、新しく俺たちを率いることになったフリーザのことですね。どうもこうも気に入りませんよあんな野郎」
「スカウターを取れ。聞かれるぞ」
慌ててスカウターを外す同じ宇宙船に乗り操縦する同僚に内心でため息をつく。リークは戦闘に不向きではあるが、宇宙船の操縦や機械操作などの工学系に才を見せる戦闘種族にしては珍しい存在だ。
そのおかげでこうしてオレは退屈な帰還の間も睡眠を取ることができる。「戦闘種族のくせに」という言葉で中傷されることもあるが、本人もそれは自覚しているらしく気にしてはいないようだ。オレからすればどっちでもいいが、傷ついている様子はなんとかくむずがゆくなる。
オレがリークにスカウターを外すよう言ったのは、通信機としての機能を有しているため話を聞かれる可能性があるからだ。そもそもスカウターは、オレたちを支配しやがるフリーザが就任祝いとしてもたらしたものだ。就任する側がよこすというのはあまりにも可笑しな話だが。
ベジータ王も気にくわないようだ。エリートであり王族であるから、オレたち以上にプライドが高い。頭を垂れることなど、屈辱以外の何物でもないだろう。オレには関係ないことだが。
通信機能があることで遠くにいる奴らと交信できるのはありがたいが、話を聞かれているというのは無償に腹が立つ。いけ好かない野郎ということもあるが、どうもオレはあいつがサイヤ人を道具以下にしか見ていない気がする。
「みんな続々戻ってきているみたいですね」
前方を見れば周囲からあいつらの宇宙船が次々に惑星ベジータへ降りていくのが見える。それと同時に一際大きく、異色の宇宙船が一定の高度で漂っているのが視界に入った。リークの野郎はそれに気が付いていないようだが。
「可笑しいと思わんか?」
「何がです?」
「話があるならスカウター越しにすればいいだけのはずだ。なのにわざわざ遠くにいるオレたちまで呼び寄せてやがる。それにまだまだ到着していない奴らがたくさんいるというのにもうあいつは来てやがる」
「きっと早くに来ていることを示して、それを見て焦っているオレたちを見てほくそ笑んでいるんですよ」
その可能性もあるかということで鼻で笑い飛ばし、着陸態勢に入った宇宙船の中でオレは1人考え込んでいた。
何故フリーザはわざわざオレたちを呼び寄せたのだろうか。集結の日程が明日だというのにもう既に到着しているのが気がかりだ。リークの予想も無きにしも非ずというところだろうが、それ以外の理由で浮かんでいるのではないかと疑問に思えてくる。
フリーザの野郎はオレたち戦闘民族サイヤ人の存在を良く思っていない。滅ぼす気なのではと思わなくもないがフリーザにとってオレたちは使いやすい駒だ。それを己の手で消そうとはさすがに思わないだろう。
一握りとはいえ、オレたち戦闘員として各地に赴いている奴らはフリーザ軍の奴らより戦闘力が上だ。他の惑星を略奪するには金が必要となり戦力がいる。たとえ宇宙に名を馳せるフリーザ軍でも部下だけでは勝てないこともある。
そういうときこそオレたちの出番となるわけだ。だがそれを踏まえた上で考えるとフリーザは恐れている。オレたちサイヤ人の
今のところではオレのない頭で考えても結論は出ない。
僅かな振動を感じてから、あらゆるものが詰まった革袋を肩に担ぐように背負う。宇宙船から降りるといろんな奴らが声をかけてくる。そのうち宙を飛びながら機械的な何かを運んでいる奴が大きな声で挨拶してきやがった。
「お帰りバ-ダック。そういや知ってるか?オレたちが招集された理由」
「いや知らねぇ。なんか聞いてるか?」
「さあな。俺もわからねぇからバーダックに聞いたんだがお前も聞いてなかったか」
「わざわざ大半を集めるぐらいだ。なんか凄いことでもやるんじゃないか?」
悪い方なのか良い方なのか。それは起こってみないことにはなんとも言えない。こういうとき大概悪い方へ予想が的中すると言うがどうだろうか。藪蛇とも言えば鬼が出るか蛇が出るかとも言う。オレにはどうにもできないことだが。
「バーダックさん、さすがにフリーザの野郎でも俺たちを皆殺しにするわけないですよね?」
「かもな」
「…いやだなぁバーダックさん。冗談ですよ~」
冗談か本気なのかオレにはわからん。だがあいつならやる可能性もあるだろう。あいつは非情で冷酷なコルド大王よりさらに野蛮だと聞くしな。見た目で騙されるわけではないが外見はそれほどではない。だがあの氷のように突き刺すような眼は普通ではない。
殺すことを楽しむ狂気の眼だ。俺たちサイヤ人も野蛮で殺しも平気でするがあいつとは比べることもできねぇ。それぐらい異常だあいつの殺しに対する感情は。だがオレの思考は中断を余儀なくされた。
「そういやフリーザの部下が聞き回っていたぞ。『スーパーサイヤ人について何か知らないか』って」
「スーパーサイヤ人?…それだ!」
2人は首を傾げていたがオレはそれを気にせず家に向かった。
街を歩けばいろんな奴らが声をかけて労ってくれる。確かに帰ってきたのは3年ぶりだから仕方ないだろう。あまり周囲と関わることは得意ではないが、こうして何気なく声をかけてくれることが最近面倒だとは思わなくなってきた。
喜ばしいことだとあいつは言うだろうが、オレには判断のしようもない。オレは戦闘員であって共に戦場に立つ奴らとしか言葉を交わすことはないのだから。
「相変わらず忙しそうだな」
「え?バーダック!帰ってきたんだね!?連絡ぐらいよこしてくれたら良いのに」
「しても予定が変わるかもしれないだろ」
笑みを浮かべてオレの尻尾に自分のを絡ませてくる女はオレの妻だ。名をギネといいここら一帯では人当たりの良い人妻と称される自慢の女房だ。
「結構痩せたんじゃないかい?」
「まあな、帰ってくるまでは宇宙食だから仕方ない。数日間は侵略先の星で仕留めた動物で凌いでいたが、サイヤ人は大食感だから直ぐなくなる」
「あんたは人の倍ぐらい食うからね。うちはそこまで金に余裕があるわけじゃないんだよ。なんなら自分で食費出すかい?」
「勘弁してくれ」
こうして叱ってばかりの女だが嫌いではない。オレの生活習慣が乱れているのを知って直そうとしてくれているのだから文句は言えまい。言えば雷が落ちるしな。何故か戦闘員のオレでも非戦闘員のギネに勝てる気がしない。
「ラディッツの奴はどうした?」
「ベジータ王子と組んであちこちの星攻め落としてるよ」
「ベジータ王子か…また面倒な奴と組まされたな」
「…」
「どうした?」
額に手を当ててため息を吐くギネを見て心配になった。疲労かと思い肩を軽く揺すってしまう。こいつは自分より他人を優先する傾向が強くお人好しだ。自分は二の次とばかりにやりやがるから、オレの知らないところで何度か倒れた過去がある。
「別に疲れたわけじゃないさ。ミズナと同じ事言うからデジャブったなって」
「あいつも帰ってきてたのか」
「1年前にね。今頃バルンダ星を制圧してるんじゃないか?」
「招集されなくて良かったかもしれないな」
あいつが此処にいれば、オレは即座に引き返せと言っていただろう。惑星ベジータの裏側からならフリーザに見つからず何処かへと逃げることができる。
「どういうことだい?」
「いや、独り言だ。で、ミズナは誰と組んでるんだ?」
「ターレスとか言ったかな。ほらあんたに顔つきが似てる肌が浅黒い子供さ」
「あいつか。それほど戦闘力がなかったはずだが、ミズナに任せれば安全というわけか」
ターレスは名も知らない奴が残した子供だ。下級戦士だったあいつはオレも知らず知らずのうちに死んでいったから、関わることもなく気にすることもなかった。下級戦士の子供として生まれたターレスとは何度か顔を合わせているが、挨拶を交わすことも話をしたこともない。
顔が似ているというだけで合わせたくないのではなく、唯単に人間性が合わないからだ。初めて顔を合わせたときから「こいつとはそりが合わない」と互いに思ったほどだ。
「そういやカカロットに会うの久しぶりだったね。見るかい?」
「ああ」
店の奥にある扉を開けて中に入っていくギネを追い掛ける。店番はどうする気だと振り返ると、買い物中の奴が手で奥に行けというので軽く礼をしてから扉をくぐった。オレの家は店の奥に家族4人が暮らせる程度の広さがある。その一番奥の部屋には、ミズナやラディッツが育った保育機が置かれている。そして浮かんでいる赤ん坊を見て眉をひそめてしまった。
「大きくなったろ?あと1ヶ月ぐらいしたら出そうと思ってる」
「戦闘力は上がったのか?」
「…相変わらず2のままだったよ。ミズナと話したんだカカロットはきっと遠くの星に送られてしまう。でもいつかは会いに行けるって」
オレの子供は3人いるが認められたのは最初に生まれたミズナ唯1人。ラディッツは下級戦士扱いを受けているが、まだその中では優秀であったから送り込まれることにはならなかった。だが今度生まれた赤ん坊はどうだ。戦闘力はたったの2で送り込まれることが決定している。
見るからに戦いには向かない腕と脚だぞ。どう生きていけと言うのだろうか。送り込むとはいえこの戦闘力では死ねと言っているようなものだ。ミズナは周囲から褒め称えられラディッツは蔑まれてきた。そのことをミズナはなんと思うだろうか。
きっと悩んでいるはずだ。自分がエリートとして生まれ、一人目の弟は下級戦士と認定され、二人目は飛ばされるほどの戦闘力しか持たないことを。オレが下級戦士と認定されてしまったが故に、ガキを苦しませていると思うと自分が腹立たしい。
「ミズナに言ったよ。お前が悩むことじゃないって。私が非戦闘員でなくて戦闘員だったら、ラディッツやカカロットがこうならずに済んだんじゃないかって思うんだ」
「お前がセリパみたいだったらオレたちはこうなっていなかった。そんなことでお前が悩む必要はない。下級戦士の子供として産まれたミズナがエリートだったのがまず可笑しいことだ。戦闘力は遺伝するらしいからな。ミズナがあれだけの戦闘力を持っていたのは突然変異だろう」
「ミズナに悪いと思ってるのかい?」
「思わなくはないさ。あいつをラディッツやカカロットのように、下級戦士として産ませてやっていれば苦しむことはなかったんじゃないかってな」
「でもミズナが下級戦士だったら今のバーダックはいないんだよ?」
だろうな。オレの性格がコロッと変わっちまったのはミズナが生まれてからだ。それまでギネ以外に心を開くことはなかったから余計になんだろうな。ギネに初めて出会ったときでさえオレは頑なに拒み続けたぐらいだ。
だが自分が下級戦士でありながらガキがエリートとして生まれたを知ってからはどうだ。掌を返したように気にかけるようになっちまった。セリパやトーマ、パンプーキン、トテッポが傷つけば怒り、ギネやミズナが危険になれば守ろうとした。
まったくとんだあまちゃんに成り下がったもんだ。だがそれを悔いたことはないし間違いだったと思ったことはない。情愛が薄い戦闘民族サイヤ人であるオレがこうなれたんだ。絶対に他の奴らもなる可能性を秘めているはずだ。
「…ギネ、カカロットを出してやってくれ」
「出すって今かい!?」
「いや、夜だ。オレは宇宙船をかっさらってくる」
「飛ばすつもりかい!?無茶だよ!それに今のカカロットじゃ命を無駄にするようなもんだ!」
わかっているさ。下手をすればカカロットは5歳を迎える前に死ぬかもしれない。だが放っておいて誰かの手で飛ばされるのは見たくない。
「下級戦士と認定され戦闘力は最弱。遅かれ早かれカカロットは何処かの星に飛ばされる運命だ。なら親が飛ばしてやっても可笑しな事は何一つねぇだろ」
「そうだけど…バーダックはそれでいいの!?自分の子供じゃないか!」
「だから飛ばすのさ。誰かに見知らぬ星に飛ばされるくらいなら行き先ぐらいてめぇで決めてやる」
そう言い終えた俺の隣では、ギネが納得できないとばかりに俯いていたがオレにはどうすることもできなかった。
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深夜、誰もが寝静まった頃に2の複数影が荒野を飛び交っていた。正確に言えば2つの影と1つの宇宙船だった。
「本当に飛ばすんだね」
「決めたことだ。今どう言おうとカカロットを死なすわけにはいかねぇ」
「でもやっぱ可笑しいよ!サイヤ人が子供の命を大切にするだなんて!子供を心配するのは百歩譲ってあるかもしれない。でも命まで大切にするだなんて絶対にいないよ」
「いるだろうがここに2人。お前は文句を言いながらもオレを物理的に止めようとはしなかった。そして今も文句を言いながらオレについてきている」
自分の背に問いかけられている言葉にバーダックは振り向くことなく返答する。宇宙船の中では赤ん坊が泣き叫んでいるが、密閉された中ではどれだけ叫ぼうと外に聞こえることはない。3歳の子供が初めて乗った宇宙船の操作をわかるはずもないので、気にする様子は皆無だ。
数多存在する大岩を飛び交って、少し開けた場所に宇宙船を置くと子供が自分を見上げてきた。それは親と知っての行動か、はたまた近くにいる生命体に触れようとする本能故か。
「ねえ、ここまで来たらみんなで逃げだそうよ」
「それは無理だ。戦闘力が高いオレたちは簡単に見つかっちまう」
「でもじゃあなんでカカロットを助けようと思ったのさ」
「…戦いを続けていく中で命の大切さを知らされ、息子に身を以て知らされたから。一度で良いから誰かの命を気まぐれで救いたくなったのかもな。下級戦士と認定され、飛ばされる運命になる我が子を」
戦闘力が高いと周囲には認められ戦闘でも武功を立てやすくなる。戦闘力が高ければ怪我をして飛ぶことすらできなくなったとしても、位置を特定してもらえるから生還できる確率は高くなる。
だがスカウターに発見されやすくなってしまうのでメリットばかりではない。だから自分やギネが移動すると発見されてしまい子供まで危険にさらされることになる。
それを避けるが為に断っていた。
正面の窓から中を覗くと眼が合う。言葉は届かなくとも思いは伝わるはずだ。窓に手を伸ばすと同じ位置に子供がおずおずと手を伸ばし、触れ合いを求めるかのように同じ位置に置く。
「地球という遠い星に位置をセットした。そこならフリーザの手も届かないだろうし生命レベルも高くないはずだ。…きっとお前を救ってくれる」
「生きるんだよ?私たちより先に死ぬだなんて絶対に許さないからね!どんなことがあっても生き続けるんだ。そうすればいいことが起こってお前が楽しめることになるだからっ!…ゴメンねバーダック私ばっか言って」
「いや、オレが言いたいのは口うるさいギネと同じだ」
発信準備が整う合図とともに宇宙船から離れる。しばしの別れなのか永遠の別れなのか。それはバーダックにもギネにもわからない。ただ一つ願うのは大切な自分の子供が健やかに成長していくことだけ。
「カカロットぉぉぉ!」
ギネの叫びも虚しく宇宙船は地球という星に向けて飛び去って行った。
肩を震わせて泣くギネの肩を抱き、バーダックは宇宙船が飛び去って行った空を見上げ呟いた。
「生きろカカロット。生きて生きて生き抜くんだ。そしていつか伝説のスーパーサイヤ人になってくれ」
バーダックの頬にも一筋の光る道ができていた。
少しバーダックは温和な性格に変えています。バーダックは優しくて強い格好良い父親だと作者は思っているからですけどね。
最後の部分で某アニメの台詞を使わせていただきました。映画では思わず涙ぐんでしまい某アニメでは感動したぐらいですから、使っても良いかなと思いました。