Fate/Duel Order   作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民

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Turn:10 開かれた戦端

 空を飛んだ事なら、何度かあった。砲撃で吹っ飛ばされたり、アーラシュフライトで飛ばされたり、崖から転げ落ちたり。

 でも考えてみると、敵の攻撃によってそれを経験した覚えは、実はほぼ無かった事に今更気が付いた。それがこんな、意識を保って何百メートルもとなれば尚更だろう。

 自分を庇ってくれた少女ごと少年は宙を舞いながら、そんな事を呑気に考えていた。

 屈強な闇黒の鉄拳により、つまりは敵の攻撃で大ピンチになりながらも、だ。

 

「――マシュ!」

「せんぱ――」

 

 そしてその中で真っ先に頭の中に浮かんだのは、自分と並列して吹っ飛ばされている少女の事であった。

 素早くマスターはその両手でマシュを抱き寄せて腕の中に強く抱くと自分が下になるように体勢を入れ替える。

 キャメロット城の王の間に全身で着地する、実に2秒前の事だった。

 

「ぐが、あぁああああああああっ!」

「マスター!」

「マスター!!」

 

 ジャリジャリジャリ、或いはギャリギャリギャリ、それともゾリゾリゾリ、だろうか。そんな嫌な音がする。

 マスターは全身を強かに石床に打ち付け背中で滑るが、それでも全身の力を振り絞ってマシュを守ろうと体勢を維持した。着地した衝撃から、応援に駆け付けてくれていたベディヴィエールとアルトリア・オルタもまた、石の床に投げ出された。

 慣性の法則で生まれた運動から、背中から肉が削げるような嫌な音が鳴る。電脳特異点はサイバー世界とは言え衝撃や痛みが実際に肉体に伝わる世界であり、今まさにそれを痛感している。

 背中が熱い。すり下ろしのように皮が捲れて血肉が直接削られている。電子上に再現された肉体と雖もそれは現実と何も変わらず、そしてリアルダメージとして今まさに現実のボディにフィードバックされているのだろう。これは帰った時が少々恐ろしい。

 

「ぁ、ぎ……っ」

「せ、先輩、しっかり! また私を庇って……っ!」

「はは、は、何かまた、咄嗟に……、やっちゃ、った……」

 

 打ち身に加えて多数の擦り傷をこしらえ、それでもマシュが無事な事に彼は微笑む。

 常に自分を守ってくれる彼女の無事こそ、彼にとっては最優先事項であり、彼女のいない世界には自分のレゾンデートルは無いとも思う程だ。

 取り敢えず腕の中でもぞもぞ動き、こちらの安否を確認してくれる彼女が見えた。マシュが無事なら、身体を張った意味もあると言うものである。

 

「お姫様を守る、って気概は認めるが、少々無茶が過ぎるぞ少年」

 

 少女の無事に胸を撫で下ろす暇も無い。

 円卓の皆に囲まれ、ベディと黒セイバーと共に介抱されようとする中、満月のバーサーカーがマスターとマシュを追ってキャメロットに戻って来たのだ。

 

「バー、サーカー……!」

 

 激痛の走る全身に鞭を打って上体を起こし、マスターは睨み殺すような表情で黒い男を正面に据える。

 仲間と主をここまで打ちのめしたのはこの男だと理解したのだろう、ガウェイン達円卓の一同も油断無く武器を構えた。

 だがハッキリ言って状況は悪い。騎士の内デュエルで手助けしてくれた2人は既に戦闘不能。残るモードレッド達も、バーサーカーの眷属を相手に消耗しているように見える。ほぼ追い詰められたに近い。

 

「睨むな、勝負は決した。約定の通り命を奪うような事はしない。だが相応の、敗北の対価を……」

 

 

 

 

 

立香:LP 300

 

 

 

 

 

「何……!!?」

 

 満月のバーサーカーは思わず目を剥いた。マスターのライフが殆ど削られていなかったからだ。

 本来なら彼は2000ダメージを受けて、500しかないライフを吹っ飛ばされていた。なのに彼の受けたダメージはたった200、実に1/10に削減されている。

 

「俺は、墓地の魔法カード『デイブレーク・リコール』の効果を、発動した……。これを除外し、墓地の“黎明”モンスターを3体デッキに戻す事で、ダメージを戻した数×200ダウンさせる……!」

「だがそれでは600しか――」

「ああ。だが、同じ名前のモンスターを戻せば……、受けるダメージは600ダウンに変更されるんだ」

 

 

 

デイブレーク・リコール(オリジナル)

【通常魔法】

このカード名の(1)(2)の効果は、それぞれデュエル中に1度ずつしか発動できない。

(1):手札を1枚捨てて発動する。

デッキからカード名が異なる「黎明」モンスターを2体手札に加える。

(2):自分がダメージを受ける時、このカードを墓地から除外し、墓地の「黎明」モンスターを3体までデッキに戻して発動する。

戻した枚数×200、ダメージを減らす。

同じ名前のモンスターを3体戻した場合、戻した枚数×600ダメージを減らす。

 

 

 

「はぁ、はぁ……、俺は……、ダメージを受ける瞬間に『黎明の手』を3枚ともデッキに戻し、ダメージを軽減していた!」

「成程。それで1800ポイントダメージがダウンし、200しか受けなかったって事か」

 

 だが。

 

「だがそれでも、俺の勝ちだ」

「ぐっ!」

 

 

立香:LP 300

バーサーカー:LP 400

 

 

 2人のライフの差はたった100ポイント。

 そう、僅か100。だが、差がある事は揺らぎようが無いのだ。たった1ポイントでも違えば優劣が付く。それがデュエルモンスターズの非情な現実なのである。

 

「今回の特殊ルール。俺の4回目のターンが終わればライフが多い方の勝ち。これは覚えているな? 俺のライフの方が多い、つまり俺の勝ちだ」

「……っ」

 

 抱き締めていたマシュを退かし、マスターは痛む身体をゆっくりを起こす。

 バーサーカーの前にそのまま立ち塞がると、少年は身体を張ってマシュとの間に割り込んだ。

 

「そうだ、俺の負け、だ……っ。俺の払える対価なら払う。だが皆は関係無い、マシュは、彼らに手を出すのは認めないっ」

「ほう?」

「負けたのは、俺が弱いからだ! だったらペナルティを受けるのは俺だけで良い! 皆は関係無い!」

 

 先のデュエル、戦術的な面で問題は特に無かった。だがEXデッキから召喚するモンスターは、もっと選択肢があったのではないだろうか。攻撃の順番は? カードを使うタイミングは?

 結果論だが、もっと何かあったのではないかと思うと、悔しくて仕方が無い。どこかに落ち度があったのではないかと思うと憤懣やる方無い。残りライフが僅かになるまで削ったのに倒せなかったという事実が、彼のプライドをより傷付けていた。

 だからこそマスターは吼える。この戦いの敗者は自分だけであり、力を貸してくれたサーヴァントの皆は負けてはいないと。

 

「……」

 

 黒い男は、マスターのその言葉に、魂が込められている事を理解したのだろうか。暫し無言で答えを返さなかった。否、どうにも呆気に取られているようだった。

 

「…………くくっ」

 

 少年の咆哮に、最初はぽかんとしていたバーサーカーだったが、やがて耐え切れなくなったのだろう、思わず――

 

「はは、ひはははははははははははははははははははははぁっ!!」

 

 大笑いを始めた。

 

「何だそれ! ははっ、マスターを前に出て守るのが、ひひっ、サーヴァントなのにっ! マスターがサーヴァントを庇うって、はははははは! どんだけだよ、ひはははははははははは!!」

 

 よっぽど可笑しかったのだろう、先程まで強者の風格を醸し出していた黒男は、その場で倒れて転げ回るようにぐねぐねと身動ぎした。

 

「はははははは、ひはひあははははははははははは! ま、魔術師はひとでなしって、はははははは! 聞いたのに、ひひひははははははひひひひひっ!! 何だこの例外坊やは、ひぃはははははははははははは!!」

「お、おい……」

「ひっ、さ、酸素、はははははははは! は、はら痛ぇ、わっ、わき腹、ふひはははははははははははははは!!」

 

 腹が捩れるとはこの事だろう、結局バーサーカーは酸欠になる程に大声で馬鹿笑いし、暫し後に、大の字で石床に寝転がっていた。

 

「はー、はー、ははっ、はー……。あぁ、笑った笑った、久しぶりだぜ、こんな笑ったの」

「……そらどうも」

 

 何がツボに入ったのかは分からないが、どうやら相当に気に入られたらしい。ひぃひぃ言いながら上機嫌でバーサーカーは破顔している。

 一方で啖呵を切って立ちはだかったマスターは、当然ながら不機嫌だ。

 

「ああ、面白い奴だ。やはり君のような主人公気質の奴はそうでないと」

 

 のそり、とバーサーカーは上半身を起こし、胡坐を掻いてマスター達を見る。

 そして懐から1枚のカードを取り出すと、それを立香に投げて寄越した。

 

「敢闘賞だ、受け取れ」

「わっと!? これは……?」

「気が変わったぞ、少年。本当なら片腕か片足でも貰う予定だったが、やめだ。次の対戦チケットの代わりにそれをくれてやる」

「物騒な……」

「良いじゃないか。どうせ電子世界、リアルに手足が捥がれるワケじゃない」

 

 キシシ、と悪戯っぽくバーサーカーは微笑んだ。

 こうして見るとおっかない彼も、何だかマスターとそう変わらない年齢の男に見える。

 実際、年の頃は20歳前後だろう。もしも違う形で出会えていたなら、或いは悪友として肩を組むくらいは出来たかも知れない。そんな感じがした。

 

「さて、これで俺はお役御免。もう行くとしよう、まだやる事があるんでね」

 

 立ち上がったバーサーカーは、くしゃっと笑って背を向ける。

 分かっている、彼は敵だ。ここで逃せばまた脅威となって襲って来るだろう。

 だが既に全員消耗している、今のメンツで攻撃してもまず倒せない。このサイバー世界の特異点に増援を送り過ぎてカルデア側が手薄になるのは避けたいし、加えて敵の眷属が簡単に召喚されるような相手ではこちらが疲弊するだけだ。

 

「案ずるな少年、俺とお前が決着をつける日が来るとするなら、それはきっと物語の重要な局面さ。こんな序盤じゃない。君は主役の才能がある。ここで斃れるな、大いなる災厄に立ち向かう運命の者」

「何を言って――」

「ああ、少しヒントもやろう。1度しか言わないからよーく聞け」

 

 ククッ、と邪悪に笑うバーサーカーは、ゆっくりを口を開いた。

 

「……闇黒の水底から芽吹いた悪意は、この世界に羽ばたいた。偽りの愛を語る黒き蜃気楼は器を得て、7騎を従え世界に牙を剥く。災厄は己を天堂が長と傲り、無垢なる祈りを砕くだろう。腑に巣食う蟲は嗤い、悪の手足は心臓を自称する。止めてみせろ、星読みの少年達。我が満月は汝らの星を照らし、行く末を見守らん」

「え、え?」

 

 意味不明な、或いは意味深長な言葉を残し、満月のバーサーカーはその場で黒い霧となって消える。まるで最初から、影がそこに居ただけかのように。

 あの場で本当にトドメを刺す事もできた筈なのに、大笑いして去った彼の真意が見えない。

 意図が掴めぬ黒男に対し、マスターはポツリと呟いた。

 

「バーサーカー、貴方は敵なのか? それとも味方なのか?」

 

 答えを持つ本人は、もういない。

 

 

  ☆

 

 

「解析終わったよ、マスター君」

「ありがとう、ダ・ヴィンチちゃん」

 

 カルデアに帰還後、マスターはダ・ヴィンチに頼み、バーサーカーから受け取ったカードの解析をして貰っていた。

 貰ったカードはデュエルモンスターズのカードに似ていたが、枠がトークンのように灰色で、テキストもカード名も空欄。そしてイラストは黒地に白い光の球が浮いているだけ。そんな正体不明の1枚。

 こんな奇怪なシロモノは天才に任せるしかない。そう考えた彼は、ダ・ヴィンチの工房にて解析を依頼したのであった。

 

「うん、君の予想通り、これは擬似霊核だったよ。罠も無いし、調べた限りじゃあ副作用のようなものも無い」

「そっか……」

 

 擬似霊核。

 バーサーカーが女神ロンゴミニアドを数分延命させるため、そして肉体の負担を軽減させるために使用した、一時的にサーヴァントでは無い者に、サーヴァントの特性を与えるためのアイテム。エミヤ・オルタ達が使用する、魔術髄液みたいなものだろうか。

 ダ・ヴィンチ曰く、これは使い捨ての道具であり、本来ならもっと真っ当なアイテムが作成できるのだと言う。

 

「ハッキリ言って、これを開発したのは相当頭の悪い奴か意地の悪い奴だぜ? 無論、今の言葉は誉め言葉じゃない」

「どういう事?」

「良いかい、この擬似霊核はね、欠陥品なんだ」

 

 天才ダ・ヴィンチの説明をまとめると、以下のようになる。

 まずこの擬似霊核は、サーヴァントの霊核と比べると明らかに行使できるエネルギーの規模が小さい。その能力は、戦闘向きじゃない貧弱なサーヴァントを公言するマタ・ハリやアンデルセンのそれより遥かに弱い。最弱を自称するアンリマユですら、これの何倍もの力を誇る。要は心臓のなり損ないですらないのだ。

 次に持続時間がヘナチョコだ。普通のサーヴァントなら、魔力が充分にあって呪いや外傷等が無ければ、霊核がダメージを受ける事はまず無い。だがこの擬似霊核は何もせずとも勝手に劣化し、新しい擬似霊核に交換しなければ、半日程度で消滅してしまう程に貧弱である。これでは獅子王の延命が数分で終わってしまうのも当然の帰結である。寧ろ、よく数分も保ったと言うべきであろう。

 最後に、作成のコストが高い。これだけ粗悪な品だと言うのに、ダ・ヴィンチの試算では1枚作成するのに、最低でも10万円は必要になると言う。下手をすれば百万以上の金が消し飛ぶらしいので、これを2枚まとめて使ったバーサーカーの意図が、より分からなくなった状態であった。

 

「天才気取りの凡才が成果を焦って産んだ、そんな印象を受けたね。ちなみに1枚製作するのに半日はつきっきりで経過観察が必要になる」

「成程、欠陥品だ。バーサーカーはこれに、何のメッセージを込めたんだろう?」

「分からない。ただ彼が込めたメッセージ以外に、こちらに嬉しい誤算が生じたのは確かだ」

「嬉しい誤算?」

「うん、これを見て?」

 

 ダ・ヴィンチがパソコンのボタンを押し、画面表示を切り替えた。モニターは彼女の工房の別室に繋がっているらしく、魔力で何かを編み出している光景が映し出されている。

 

「これは?」

「万能の天才としては、あんな駄作でも新しいアイディアを見せられたら着手せずにはいられなくてね。ダ・ヴィンチちゃん特製の擬似霊核を作成してるのさ。勿論、前述の弱い・脆い・高いの面はクリアしてね」

「流石ダ・ヴィンチちゃん」

「なーに、天才にお任せあれ。これを上手く使えば、先日から医務室で寝たきりの彼らも上手く治療できるかも知れない」

 

 万能の天才の頭脳には、既にこのカルデア版擬似霊核を使ったプロジェクトが始動しているらしい。解析が上手く行けば、敵側が擬似霊核を使っていても対策が打てるだろう。

 或いはマスター自身にこの擬似霊核を与え、より屈強な存在になれる可能性だってあるのだ。

 

 ただこうなって来ると、ある疑問が生じてくる。

 実際に作成・運用すれば、この擬似霊核は失敗作だと相手も分かっているだろう。生産はすぐに中止になる筈。つまり枚数が限られている可能性が高く、バーサーカーが2枚も持ち出せばバレる可能性もまた高い。

 それなのにホイホイ持ち出し、剰え1枚こちらに譲渡したという事は、考えられる理由は2つ。

 “もう廃棄されて誰も見向きもしない”か、“大量に生産を続けている”か、だ。

 前者ならまだ良い。この擬似霊核が驚異になる事は無い。

 だが後者は拙い。こちらが思いもよらない方法で、これを有効活用する方法を思いついているという事になる。

 そうで無ければただの阿呆の集団だが、そう考えるのは楽観視が過ぎるか。

 

「兎に角、ありがとう」

「うん、頑張ってくれたまえ」

 

 まだ敵の全容は明らかになっていない。

 何を目的とし、何を狙い、何を奪い、何をしようとしているのか。

 気を引き締め、青年はダ・ヴィンチの工房から退出した。

 

「先輩」

 

 と、それを待っていたかのように、廊下で後輩から声をかけられた。

 

「マシュ」

「お疲れ様です。もうじき、次の電脳特異点への解析が終わるそうですよ。詰めデュエルのゲートも出現が確認されたそうです」

「そうか、ありがとう」

 

 満月のバーサーカーがもたらしたカードは、擬似霊核だけでは無かった。

 そのデータの中、ノイズやダストデータに僅かながらも別の電脳特異点に関する情報が含まれていたのである。

 彼がその電脳特異点へ赴いたのか、それとも関連人物と接触したのか、それは分からない。

 だが手がかりである事は確かだ。逃す話は無かった。

 

「マシュ、あれは持った?」

「はい、バッチリです」

 

 この通り、とマシュは太腿に巻き付けたホルスターを見せる。ケースが2個付帯しており、彼女が自分の要請通りの事をしてくれた事を確信したのであった。

 

「では先輩、背中は大丈夫でしょうか?」

「ん? ああ、何とも無いって言ったじゃん」

「あれは『怪我をしていないから何とも無い』じゃなくて『痛覚を脳が遮断して何も感じない』だったと思いますが」

「そうかな?」

 

 電子キャメロットから帰還したマスターを待っていたのは、紅葉下ろしのように真っ赤になった背中であった。言わずもがな、電脳特異点で負ったダメージが現実化したものだ。

 プラシーボ効果と言って、実際には起きていない事を起きたと脳が認識して、それに応じて肉体が自分で傷付いた状態になる事がある。

 ストーブで火傷をした事がある人が、冷たいストーブに触れて火傷と同じ反応が起こるように。

 表皮を流れる水を流血していると嘯かれ、ショック死してしまうように。

 人間は『起こった事に対して脳が反応して肉体に反映される』のでは無く、『脳が勘違いしてそういう反応が肉体に返る』事が往々にしてあるのだ。

 幸いにも彼の脳はダメージを知覚するより早く脳内麻薬を分泌して痛覚をカットしたため、指摘されるまで本人は背中から血を流している事にすら気付かなかったが。

 こてん、と首を傾げるマスターに、マシュは思わず彼の袖口を握った。

 

「……あんまり、ああいう事しないで下さい」

「え?」

「デミ・サーヴァントの私の方が頑丈なんですから、先輩に無茶されて傷付かれると……、困りますし、悲しいです」

「マシュ……」

 

 悲しげに目を伏せる後輩に、先輩もまた悲しくなった。

 マシュにとって、攻撃が後逸してマスターが傷付く事はとても悲しい事である。マシュのクラスはシールダー、即ち堅固なる守りを与える守護の英霊。それが守るべき者に怪我をさせたとあっては、プライドもへったくれも無いのだ。

 そして何より大きな理由があるのだが――まだマシュにその自覚は無い。

 

「……でも、俺もマシュが傷付くのは悲しい」

「私はサーヴァントです!」

「でも半分は人間だよ。それに――俺だってマシュを守りたい。マシュがいない世界なんて生きたくない。マシュが痛い目に遭うのは、俺は悲しい」

「先輩……」

 

 話は平行線だった。

 マシュはマスターを守りたい。

 マスターはマシュを守りたい。

 互いが互いを守りたいと願い、傷付いて欲しくないと思っている。

 だが戦いに出る以上、この2つを共存させる事は出来ない。ダメージを受けずに倒せる弱い敵ばかりでは無いのだ。

 ましてや前回戦った満月のバーサーカーは、強い。恐らくあれは実力を出していない、本当に戦う事になれば、もっと手強いと考えて良い。こちらを利用していると言っていたが、利用価値が無くなれば牙を剥く事は確実である。それに、次はきっと見逃して貰えない。

 

「嫌なんだよ、もう。俺のために蒸発する君を見るのも、ボロボロの肉体を酷使して怖い戦いに臨む君に何も出来ないのも、無力感を噛み締める君に声を掛けられないのも。……今度は、俺が一緒に戦って守ってあげたいんだ」

 

 残酷な言葉だった。

 守るべき者が守られ、守られる者が守る。盾持ちにしてみれば、これ以上に酷い言葉もそうは無い。

 そしてそれ以上に、マシュはショックだった。彼が自分の平穏を望んでいる事に気付かなかった事が、とても。

 

「ごめん、こんなマシュのプライドを傷付ける事を言って。でもデュエルで戦う今回の舞台は最初で最後かも知れないんだ、マシュを、俺が守る事ができる唯一のチャンスかも知れない」

「先輩……」

 

 嘆きにも近いその言葉に対し、後輩は何も言えなかった。

 結局お互い、その後は気不味い無言のまま、管制室へと向かうのであった。

 

 

  ☆

 

 

 医務室で、BBは溜息を吐いた。

 今回の戦い、舞台は電脳世界だ。となれば上級で違法でグレートデビルなAIである自分の独擅場と言っても過言では無い。

 だが、何と言うか気分が乗らない。いつものセンパイを茶化してからかう時のテンションにならないのだ。

 

「…………」

 

 理由は分かりきっている。医務室で眠る、茶髪の男だ。今こうして自分が看病している彼のせいだ。

 嗚呼、分かっているとも。彼は自分を知らない。知らないようにしてしまった。だから仮に目覚めてもロマンチックな事は何も起きない。

 メルトは新たな恋を見つけ、リップも今を楽しんでいる。なのに自分の心は、ここで沈んでいた。

 無論、彼女達とて何も思っていないワケでは無いだろう。彼女達なりに気を使っているに違いない。実際、自分がいない時にここに来たという話も聞いている。

 

「強いですね、メルトもリップも」

 

 それでも、嘆いてでも、自分はここにいてしまう。

 区切りをつけた筈なのに、こんな無茶苦茶な運命のイタズラがあるなんて。

 

「ほんっと、神様ってのは酷いヒトです事……」

 

 BBはポツリと、誰にともなく呟く。

 虚空に零れたその言葉はジーク達を看病しているナイチンゲールの耳に届いたが、クリミアの天使は敢えて反応を控えたのだった。

 

 

To be continued

 




【詰めデュエル】
~このデュエルに勝利せよ~

【挿絵表示】


ゲスト:LP 1
手札:サンダー・ボルト、任意のカード1枚
フィールド:
カード無し
墓地:カード無し
EXデッキ:任意のカード1枚

ホスト:LP 1
手札:異界の棘紫竜
フィールド:
ヴァレルガード・ドラゴン(ATK:5400)
究極幻神 アルティミトル・ビシバールキン(ATK:8400・『ヴァレルガード・ドラゴン』の右下にリンク)、覇王龍ズァーク(ATK:6400・『ヴァレルガード・ドラゴン』の下にリンク)、シューティング・クェーサー・ドラゴン(ATK:6400)、コズミック・ブレイザー・ドラゴン(ATK:6400)、マテリアル・ドラゴン(ATK:4800)
伏せカード2枚(『神の宣告』×2)、一族の結束(永続魔法)×3
墓地:スキル・プリズナー、異界の棘紫竜
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