Fate/Duel Order 作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民
多分、次回くらいにその説明がある。
「ちぃ、オレの負けか。粘り勝ちされたな」
セーフティキャンプでのデュエル、螺旋のエナジーを持つ男――リベリオンのランサー。
果たしてリベリオンとは何なのか。
敵はどういった連中なのか。
そして“オフィシエ・カトル”というのは。
疑問こそ尽きないが、取り敢えずマスターは、ギリギリの勝利に胸を撫で下ろすのであった。
デュエル終了と同時にカルデアへと戻るエリザベートを見送りながら、彼はランサーに微笑む。
「ふぅ……、少しは俺の強さ、信頼してくれた? 少なくとも無駄死にするような雑魚じゃないでしょう?」
「ああ、まぁな。負けちゃしょうがねぇ。最後の最後まで勝ちを信じていたオメェの勝ちだよ」
「それば、良かった」
うんうんと頷くマスター。通信の先でエリザベートが待機中の清姫に胸を張っているのを見ながら、青年は1つ気になった事を言った。
「色々と疑問は尽きないげど、1つだけハッキリした事がある。……負けても消えてないね?」
「ああ」
「そうか、それが違いの1つか」
「先輩?」
「ううん、ちょっと気付いた事が1つあってね。大丈夫、今からぜづめ、い、ず、るが、だ……ごふっ!?」
「先輩!!」
「マスター!!」
「坊主!」
だが、安堵は長くは続かなかった。
唐突にマスターは血を吐いてその場に崩れ落ちてしまったのだ。
「がはっ、げほっ!?」
咳をする度にその口から鮮血が吹き出し、草の地面を赤く染める。
電脳空間であるため疑似的に再現されたものだが、しかしその行為は彼の身体が大きく傷付いている事を示していた。
『ああ、言わんこっちゃない! だからストップをかけたのに』
「ダ・ヴィンチちゃん、先輩が!」
『大丈夫、ダメージは大きいけど致命傷じゃない。横に寝かせて水を飲ませてあげるんだ。ゆっくり呼吸を整えさせて。後は礼装の機能で少しずつ回復していく』
「かはっ、ごめ、ダ・ヴィ、げほっごふっ!?」
『お説教は後だ。それは恐らくゲームで言う“出血”のバッドステータスを反映しているんだろう。
これに懲りたら、無茶のやり過ぎは良くないって理解したまえ』
「はい……」
「フォアフォーウ」
不思議なフワフワ生物であるフォウも「ドアホウ」と責め立ててきているように聞こえた。
「ランサーさん、お水を頂きたいのですが、どこかにありますか?」
「あっちの方、森の中を1mぐらい進んだトコに井戸のオブジェクトがある。それを使え」
「ありがとうございます。先輩、少しだけ待ってて下さいね」
マスターの身を案じ、マシュがその場を離れる。本当によく出来た娘だと、呼吸を落ち着けながら青年は嬉しくなった。
口の中から赤い液体を吐き出しながら、マスターはゆっくりとランサーに問う。
「マシュが戻って来たら話して欲しい、この電脳特異点の秘密を」
「良いだろう、そういう約束だ。オレの知ってる事を話してやるよ」
☆
ランサーがこの世界に召喚されたのは、今から3ヶ月余り前の事だった。
彼は普通の一般人であり、精霊も魔術も知らない身だったと言う。
しかしある日突然に視界が暗転したかと思うと、この世界に召喚されていたのだという。
『ふーむ、召喚を受けたのかな? いやしかし、そちらのご家族やご親戚に魔術師関係の血縁は本当に無いんだろう?』
「ああ、全く聞いた事が無い。マジのマジで、オレは単なる一般市民だった」
最初に召喚されたのは、どことも知れない近未来的な小部屋だったらしい。
青白い光がパイプラインのようにあちこちに巡っており、最初はタイムスリップでもしたのかと思った程である。
「その部屋には本当に何もなくてな、刑務所の牢屋の方がまだ充実してたんじゃねぇか?」
彼はそこに招かれたは良いが、部屋から出るに出られず困っていた。どういう事か腹は減らんし喉も渇かない。永遠にここにいる事になるのかと思い、不貞寝して――、起きた時は手術台の上だった。
「何されたかは分からんけど、兎に角痛くてなぁ。オレみたいな大の大人が、泣き叫ぶくらいには痛かった。全身を掻っ捌かれてこじ開けられたと思ったね」
「それは、酷いですね……」
『それ多分、魔術回路の移植を行われたんだろうね』
「魔術回路の?」
ダ・ヴィンチの言葉に、ランサーはオウム返しする。
『魔術回路、これが無いと魔術は使えない。使いたいなら何か、特殊なアイテムが必要になる』
「はぁん?」
『魔術回路ってのは簡単に言うと、新しい臓器でね。多ければ多いだけ優秀な魔術師になるんだ。そして魔力を生み出し、巡らせて魔術を生み出す。無論、これは一般人には無いものだ』
故に魔術師達は世代を重ね、回路を増やして優秀な魔術師を生み出そうとする。人工的に増やす事も可能だが、当然ながら内臓をムリヤリ増やす行為は真っ当な手段では無い。かつて強引に全身に回路を埋め込まれたシトナイは、通信に映らない場所で渋面を作るのであった。
ちなみに回路が多くても自前の魔力より、自然界の魔力の方が絶対量が多いため、回路が相手より多い=必勝というワケでは無い。単に力量と歴史の問題である。
「手術が終わった時にゃあ、オレは気絶してたよ。そんで気付いたら――このルーアンとかいう場所の、郊外の原っぱに寝転がってた。見てくれが変わって絶句して、自分の中に奇妙なオカルトみてぇな力があって再び絶句して、しかもやり方が分かるんだから3度も絶句したな」
『うん? って事はランサー、君は脱出したとか裏切ったワケじゃないのかい?』
「違う。オレもそこはずっと不思議だったんだ。どうして戦える力を持った奴を放逐して好き勝手させてるのか、ってな」
以降、どことも分からない場所から放り出され、この電脳特異点を彼はフラフラと彷徨っていたという。
空腹にもならず眠くもならない。この奇妙な世界で気が狂わずにいられたのは、やはりデュエルの存在が大きかったらしい。
ランサーがあのルーアンの町に辿り着いた時、既にあの町では非キリスト教信者へのデュエルによる処刑が数日に一度のペースで行われていたという。彼はそれに割り込み、危うくカードにされかけていた人達を助けたのだった。
「それがあっちにいる、あの2人だ」
ランサーが指差す先にいるのは、まだ幼稚園生とすら言えよう子供。
あんな小さな子供まで、そう思うと寝転がったマスターは殺気と寒気を同時に感じざるを得なかった。
「保護者とは思えんチンピラも一緒にいたんだがな、前回の戦いに参加して負けて……、カードにされちまった」
「ランサー……」
「分かんねえよ、オレには。人間をカードにして何がしてぇんだ、オレを人外にする事にどんな意味があるんだ。クソッタレめ……」
頭痛を抑えるようにリベリオンのランサーは頭を押さえた。
自分が何故ここに呼ばれたのか、自分を改造したのは誰なのか、自分は何をここですべきなのか、全て分からないのだろう。
ドリル使いの男は大きく頭を振ると、それから、と話を切り替えた。
「次はルーアンの町を牛耳ってる連中についてだ」
「その話、詳しく聞きたいのですが」
「ジャンヌ、まだ休んでないと駄目だよ」
「今のマスターにだけは言われたくないですよ」
「むぅ……」
先程までの戦いで負った怪我なぞもう治ったと言わんばかりの元気っぷり。これが人間要塞だと、心の中にいる巌窟王が笑った気がする。
「さて、オレが知ってるのはそう多くはネェ。そうだな、どこから話そうか」
ポツリと呟くランサーの顔は、誰がどう見ても親の仇のように、憎々しげなものであった。
☆
一方その頃、ルーアンの町。
「何だ貴様は!」
「ここをどこと心得る!」
「貴様のような下賤の者が来て良い場所では無い、帰れ!」
この町では、ジャンヌが
そして当然、そこには圧倒的な兵力がある。
常に補充され続ける仮面を被った青いコート達。街の住人全員が束になっても勝てない幹部。そして『聖女ジャンヌ』と、その側近と言われている2人の謎の男。
「ヒデェ言い草だな。俺はちょっと、ここの奥に用事があるってだけなんだが」
「だからここは貴様のようなゴミの来る場所では無い!」
「失せぬのなら、誅罰としてカードにしてやる!」
「覚悟しろよ、真っ黒野郎。楽しい断末魔をあげろよな!」
そんな場所に堂々と乗り込もうとしていたのは――
「まったく、
全身を漆黒にコーディネイトしたロン毛の男、満月のバーサーカーだった。
「もう1度だけ言うぞ。どいてくれねぇか、セージョの側近の2人に用事があるんだ。具体的には届け物があるんだよ」
「ふざけた戯言を!」
「後悔しやがれ!」
「行くぞ!」
「やれやれ」
「「「「デュエル!」」」」
青コート×3:LP 4000
満月のバーサーカー:LP 4000
数分後、派手な爆発音と共に、青コート達は電子の海へと砕けて行った。
☆
「これが、ルーアンの大雑把な見取り図だ。うろ覚えだが、そんなに差はネェだろ」
ランサーが電子の紙に絵を描く。ルーアンは最初に認識した通り円状の世界の中心に、ポツンと存在する町だ。
ルーアンは観光都市であり、農業や酪農が盛んでは無い。したがって周囲に広がっているのは草原である。
そうした土地柄を反映しているのか、街並みも中世の石造りであり、城塞都市のような物々しい雰囲気や構造もしていない。ただの『とある村A』と言えた。
「町そのものにゃ容易く侵入できる。関所も城壁もネェからな。作り自体も複雑なモンじゃないから、道を覚えるのも楽だ」
だが、とランサーは話を続ける。
「攻めるに安いが、落とすには難しいんだ、この町は。しかも守るのも安いと来た。最初から敵を迎撃するための構造になってやがらぁ」
『現状確認できる当時の街並みでは、ルーアンはそういう事にはなっていない。恐らく、その電脳特異点だけの特徴だろう』
「落とすには難しいって?」
「ああ、ルーアンはさっき言った通り、町並びはとても単純なんだ」
しかし単純であるが故に地の利が相手にありやすく、特に単純さに目を奪われて裏道等に気付きにくくなっている。
また、同じような作りの道でも、全く違う抜け道があったり、或いは抜け道そのものが無かったりと、実際は見た目より遥かに複雑で、部外者には覚えにくくなっているらしい。
こんなシンプルな街並みなら変な抜け道は無いだろう、あっちの道と同じなら抜け道がここにある筈だ。そういった先入観を利用した、特殊な防衛ラインだ。人は前例に沿って物事を考える、これを『一貫性の原理』と言う。
「だが不幸中の幸いっつーのか、敵のサーヴァントは性能的にはそこまで強くねぇらしい」
『と言うと?』
「ルーアンの町を仕切ってる『聖女ジャンヌ』の側近に、2人の男がいる。この電脳特異点とやらに噛んでいるサーヴァントとマスターだ。
で、そのサーヴァントはどうにもキャスターらしいんだが、そいつの陣地作成スキルで作った工房が、ここだ」
とんとん、とランサーが地図の中央を指で叩く。
「ここにゃあそれなりにデカい教会がある。オレはドリルでどこでも穴を掘れる。掘れるって事は穴を開けられるんだが、どういう事かこの教会の敷地内じゃあ1ミリもドリルが進まねぇ。恐らく、キャスターの工房だろうって事だ」
「成程、ここのキャスターの工房は教会なのか」
今更驚きはしない。
何せカルデアのキャスターの中には陣地作成で書斎や結界、果ては実験室や空中庭園まで作成してしまう者もいる。教会程度では最早ビックリのビの字も無かった。
「だから乗り込むなら地上からだ。直通させるための地下通路ならオレが開通させられる。後は窓なり扉なりから、だ。だが敵もバカじゃねぇ。ここの警備は厳重だ」
『具体的には、どういう感じなんだい?』
「まず、いくらでも湧き出る青いコートのAIデュエリストがいる。こいつらは3人1組で常に行動して、何かと相手をバーンダメージでリンチにする事を好んでる。雑魚だが、数がいると面倒なタイプだな。
それと、そいつらを纏めている中隊長が4人。その1人はお前らが倒した『地獄将軍・メフィスト』だ」
「アイツか……」
こんこんこん、と小さな石を地図の教会の上に4つ置き、その内1つを取り除く。
どうやら青コートと異なり、中隊長とやらは復活しないタイプらしい。
「残る中隊長は『岩石カメッター』と『サイファー・スカウター』と『命ある花瓶』……、まぁ『サイファー・スカウター』と『命ある花瓶』は雑魚だから『岩石カメッター』の方だけ注意すれば良い。
ただ、この中隊長は替えが効かないが、後から補充するくらいはできるだろう。その程度には強い連中だ」
「あれでその程度、ね……」
『地獄将軍・メフィスト』と戦ったマリーは、そのデュエルで大きなダメージを負った。これ以上強い敵となると、絶対に勝てない可能性すら出て来る。
そして、ここからが重要だと言って、ランサーは一回り大きな石を4つ取り出した。
「オレ達が前回ボコボコにされた敵は、4人の大隊長と言える奴らだ」
「……“オフィシエ・カトル”って奴らですね?」
「そうだ。こいつらはハッキリ言って別格だ、中隊長や青コートの連中とはまるで違う。当時、オレ達は20人以上の精鋭で攻撃をしかけ、オレ以外の19人がこいつらに負けた」
「たった4人に、19人が……!」
「乗り込む以上、戦いは避けられねぇ。こっちには奴らのデータこそあるが、データだけで打ち負かせる雑魚じゃねぇ。だからこそ、チームを率いるお前にオレは強さを求めたんだ」
グッと拳を握るランサーの脳裏には、嘗ての戦いの記憶が再現されていた。
圧倒的な敵の実力、次々と朽ち果てていく仲間達。運良く逃げられたとしても、無数にいる青コートの軍団が追い打ちに湧き出して倒れる。
町に突入した時にいた19人の仲間は“オフィシエ・カトル”の手によって3人にまで減らされ、中隊長4人を相手に囮になった1人と、青コートのリンチ戦法に勝利した2人が散った。今やレジスタンスの戦士はランサー1人になってしまったのだ。
「中隊長も、1人2人だけなら何とかなる。が、“カトル”は全く歯が立たない。2人、できれば3人がかりで叩き潰したいが……」
ガシガシと後頭部を掻くランサー。記憶の中で、複数人がかりで戦い、負けたヴィジョンが蘇っているのだろう。
これはかなりの難敵がいきなり登場したかな。マスターは小難しそうな顔で、心の中でボヤくのであった。
☆
「わたしは『融合』を発動! 手札の3体の『岩石カメッター』を融合! 融合召喚! 現れろ、レベル10! 『鋼鉄カメッター』!!」
『GAAAAAAAAAAAAAAAAA!』
「レベル3の『命ある花瓶』3体に、レベル1の『スポーア』をチューニング! シンクロ! 出でよ、レベル10! 『リビング・フォレスト』!」
『FOOOOOOOOOOOOOOOOO!』
DEF:3300
ATK:2900
「へぇ、自分自身を3つまとめて、新しい存在にするのか。新しいじゃねぇの」
ルーアンの教会ではその頃、満月のバーサーカーが嘲笑っていた。
状況は1対3の変則バトルロイヤルデュエル。ただし彼の相手は無限増殖する青コートの男では無く、中隊長と“オフィシエ・カトル”と呼ばれる女が1人。つまりマスターから見て、敵勢力の主戦力達である。
「ワタシのターン!」
クツクツと笑うバーサーカーを尻目に、“オフィシエ・カトル”の1人がターンを開始する。
味方の盤面は整っており、彼女が動くには申し分無い。
「バトルロイヤルデュエルでは各プレイヤーは1ターン目はドローと攻撃ができない。しかし今や2ターン目。叩き潰す」
「やってみろ、貧弱なクソキャスターのお守りちゃんよ」
「不敬な……!」
目の前の黒く染まった趣味の悪い男に、
【フィールドの状況】
満月のバーサーカー:LP 4000
手札:5枚
フィールド
無し
岩石カメッター:LP 4000
手札:1枚
鋼鉄カメッター(DEF:3300)
命ある花瓶:LP 4000
手札:0枚
リビング・フォレスト(ATK:2900)
シェン・リモラ:LP 4000
手札:6枚
フィールド
無し
岩石カメッター(通常モンスター)
星6
水属性/水族
ATK 1450/DEF 2200
全身が岩石でできているカメ。
非常に高い守備が特徴。
鋼鉄カメッター(融合・効果モンスター)(オリジナル)
星10
水属性/水族
ATK 2300/DEF 3300
「岩石カメッター」×3
(1):融合召喚されたこのカードは、対象を取る効果では破壊されない。
(2):このカードが戦闘によって破壊される場合、代わりに手札の水属性通常モンスターを1枚墓地に送る。
(3):1ターンに1度、このカードが守備表示の時、自分のターンのバトルフェイズ開始時に発動できる。
墓地のレベル6以下の水属性通常モンスターをゲームから除外し、相手にそのモンスターの元々の守備力分のダメージを与える。
命ある花瓶(通常モンスター)
星3
地属性/植物族
ATK 900/DEF 1100
生けてある花から、花粉を飛ばし噛みついてくる生きている花瓶。
リビング・フォレスト(シンクロ・効果モンスター)(オリジナル)
星10
地属性/植物族
ATK 2900/DEF 2600
植物族チューナー+チューナー以外の「命ある花瓶」を含めたモンスター1体以上
(1):1ターンに1度、自分のスタンバイフェイズに発動できる。
墓地の植物族モンスターを手札に加える。
(2):このカードが戦闘・効果によって破壊される場合、代わりにデッキから植物族モンスターを指定するカード1枚を墓地に送る事ができる。
計4名のフィールドの内、2名の場が空欄となっている。
これはバーサーカーとシェンが前のターンに『クリバンデット』を召喚し、効果を発動したためである。各々『死者蘇生』と『ジェネレーション・フォース』を手札に加えた形だ。
シェン・リモラはバーサーカーを憎悪の形相で睨むと、素早く手札を展開する。
「最高の手札ね」
まず『ブリキンギョ』を召喚し、効果で『レスキュー・ラビット』を展開。『レスキュー・ラビット』は効果でデッキから『舌魚』を2体呼び出し、この2体を素材に『バハムート・シャーク』をエクシーズ召喚。そしてXモンスターの存在により、『ジェネレーション・フォース』を発動。『エクシーズ・リモーラ』をデッキからサーチ。
サーチしたモンスターを『バハムート・シャーク』のオーバーレイ・ユニットをコストにして特殊召喚、更に自身の効果で取り除かれた『舌魚』2体が場に戻る。
そして無力化した『バハムート・シャーク』と『エクシーズ・リモーラ』を素材に、『マスター・ボーイ』をリンク召喚。更に残った『舌魚』2体を素材に、自身でもある『深淵に潜む者』をエクシーズ召喚する。
展開はまだ終わらない。『サイレント・アングラー』を手札から特殊召喚し、残っていた『ブリキンギョ』と共に『バハムート・シャーク』をエクシーズ召喚。続けて『ポジションチェンジ』を発動して『バハムート・シャーク』を隣に移動。これでリンク先に1つ空きが生まれたため、『バハムート・シャーク』の効果で、最後にエクストラデッキから『餅カエル』が呼び出された。
この時点でシェンの手札は残り1枚、場には4体のモンスターが揃った。ちなみに手札からの展開を封じる『サイレント・アングラー』だが、事前に展開してしまえば問題無い裁定となっている。
「ほう、他の2人とは随分違うな。腕がある。
「当然。ワタシは“オフィシエ・カトル”のシェン。このルーアンの町の治安を維持する要。であれば、弱くては務まらないのよ。降参するなら今の内よ」
「ほざけ、降参なんざ誰がするか」
「ならば死ね! ワタシの場のモンスターは既に、私自身である『深淵の潜む者』と『マスター・ボーイ』の効果で、攻撃力が1000アップしている!」
「ついでにワガハイの『鋼鉄カメッター』もな!」
マスター・ボーイ ATK:1400→2400
深淵に潜む者 ATK:1700→2700
バハムート・シャーク ATK:2600→3600
餅カエル ATK:2200→3200
鋼鉄カメッター DEF:3300→3800
「総攻撃力は11400、いや『バハムート・シャーク』はこのターン攻撃できないから、実質7800か」
「バトル! これで貴様は終わりだ! やれ、『餅カエル』!」
「手札から『バトルフェーダー』の効果発動! ダイレクトアタック宣言時、このカードを特殊召喚してバトルフェイズを終了する!」
「『餅カエル』の効果発動! 相手のカード効果が発動した時、手札か場の水族モンスターを墓地に送り、その発動を無効にして破壊! そしてそのカードを自分フィールドにセットする!
更に、墓地に送られた『餅カエル』の効果発動! 墓地の水属性モンスターを手札に加える! ワタシが選ぶのは『餅カエル』自身! EXデッキに戻す!」
『餅カエル』自身が墓地へと消え、『バトルフェーダー』が相手フィールドに裏守備表示で配置された。
「今度は『マスター・ボーイ』で攻撃ィ!」
「いっ……!」
バーサーカー:LP 4000→1600
「戦闘ダメージを受けたこの瞬間、来い! 『冥府の使者ゴーズ』! 『カイエントークン』!」
『トァッ!』
『ハァッ!』
DEF:2500
DEF:2400
「邪魔ァ!」
一度は取り除かれた壁を続けて生み出すバーサーカー。しかし場に生まれた漆黒の剣士と白亜の剣士は、青い鮫人間と青い竜によって噛み砕かれた。
「運の良い奴だ、防御札を2枚も持っていたとは」
「しかし、次の我々のターンで奴は死ぬ」
「その通り。黒ずくめの貴様のライフは残り1600、次で最後よ。ワタシはカードを1枚セット。ターンエンド」
シェン:LP 4000
手札:0枚
マスター・ボーイ(ATK:2400)
バハムート・シャーク(ATK:3600)、深淵に潜む者(ATK:2700、『マスター・ボーイ』の左下にリンク)、バトルフェーダー(DEF:0、裏守備表示)
伏せカード1枚、ポジションチェンジ(永続魔法)
「やれやれ、キャスターの野郎め。手下の躾がなってないにも程がある。これじゃ部下じゃなくて豚だな」
そういや豚はクリスチャンにはタブーだったか無問題だったかどうだったか、とブツクサ言いながら、バーサーカーは服の埃を払う。電脳世界で実際に埃まみれなワケでは無いだろうが、気分の問題である。
「俺のターン」
引いたカードを見ると、『闇次元の解放』だった。残念ながら除外されている闇属性モンスターはいないので、現状では腐っていると言える。
だが問題は無い。既に勝負は決まっている。彼にとって、この程度は単なるお遊びだ。
「さて、腹ごなしも良い頃だ。吠えて噛むだけの野良犬以下の駄犬は――殺処分するか」
ゾクリ。
その言葉を相対している3人は直に感じ取った。
脅しじゃない。ハッタリじゃない。彼は今から、自分達の首を取りに来る。
それを、その身を以て、実感したのだ。
「まずは『死者蘇生』を発動。蘇れ、『ゴーズ』。更に『コール・リゾネーター』を発動。デッキから『チェーン・リゾネーター』を手札に加え、召喚」
ATK:2700
ATK:100
フィールドに横向きと上向きのゲートを通って現れる、黒い剣士と鎖を背負った悪魔。
場にゆっくりと2体は降り立ち、続けて鎖の悪魔はそのチェーンで円を作成して次なる召喚ゲートを生み出す。
「『チェーン・リゾネーター』の効果。シンクロモンスターが存在する時に召喚された事で、デッキから『ダーク・リゾネーター』を特殊召喚する」
『ヘェッ!』
ATK:1300
「レベル7の『冥府の使者ゴーズ』にレベル1の『チェーン・リゾネーター』をチューニング。天地を揺るがす王者の咆哮、その身に刻め!」
☆1+☆7=☆8
「シンクロ召喚! 荒ぶる赤き魂! 『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』!」
『GUOOOOOOOOOOOOOOOO!』
ATK:3000
8つの星となって分解されたモンスター達。彼らが生み出した吹き上がる灼熱の紅炎の中から、巨大な赤い龍が生まれる。片方の角を折られ、右腕に堅固な手甲のような鱗を持つドラゴン。覇王の名に相応しい圧倒的な力を持つ、王者の風格を持った炎の化身だ。
「な、な……!?」
巨大な炎竜の登場に、シェンは唖然とした表情を浮かべる。
ただしそれは――
「何故、貴様が『スカーライト』を所持している!!?」
純粋な驚愕が理由だった。
「何故だ! 『スカーライト』の持ち主は――」
「答える義理は無い。今から死ぬテメェらになんざ、な」
しかしシェンの言葉を、バーサーカーは冷たい言葉で両断する。
実際、何かを語るつもりなぞ無かった。
カルデアの面々は将来的には信用に値するとは考えているが、まだ今はその時ではない。
「『スカーライト』の効果発動。自分より弱い攻撃力の、特殊召喚された効果モンスターを全て破壊。そして破壊した数1体につき、500のダメージを相手に与える! “アブソリュート・パワー・フレイム”!」
ドラゴンの右腕に宿った炎が放たれ、瞬時にフィールドが焼け野原へと変貌していく。
紅蓮の焔に焼かれ、鋼の亀も、生きる森も、水に生きる強者達も、そして自身が呼び出した悪魔すらも焼き尽くされ、後には灰すら残らない。
自分のモンスターすら呑み込む破壊の一撃は、『スカーライト』の圧倒的なパワーを象徴しているようですらあった。
「破壊したモンスターは5体、2500のダメージを受けて貰う」
「ぐはぁっ!」
「ぎゃあ!?」
「がぁああっ!!」
3人:LP 4000→1500
灼熱の熱波でライフをごっそり削られる3人。しかし情けなく引っ繰り返った中隊長2名と違い、シェンは上手く受け身を取って綺麗に着地する。
更にお返しと言わんばかりに、伏せていたカードを開示した。
「『マスター・ボーイ』が破壊された事で、墓地の『エクシーズ・リモーラ』を手札に戻す!
そしてリバースカード、オープン! 『激流蘇生』! ワタシの場の水属性モンスターが破壊された時、その時破壊されたモンスターを全て蘇生し、1体につき500のダメージを与える!」
「だがその効果で復活するのは、お前の墓地のモンスターのみ。つまり『マスター・ボーイ』と『深淵に潜む者』だ。更に水属性モンスターをオーバーレイ・ユニットに所持していない事で、『深淵に潜む者』の攻撃力を上げる効果は終了する」
マスター・ボーイ ATK:1400→1900
深淵に潜む者 ATK:1700→2200
バーサーカー:LP 1600→600
逆上がる滝の中より、一つ目のヒトデと青い竜が呼び戻される。
減っていたライフはこれで更に少なくなってしまったが、バーサーカーは涼しい顔だ。寧ろ「丁度水浴びしたかったんだ」と言わんばかりに平然としていた。
「魔法カード『シンクロキャンセル』を発動。『スカーライト』のシンクロを解除し、墓地の『ゴーズ』と『チェーン・リゾネーター』を特殊召喚!」
ATK:2700
ATK:100
「そして再チューニング。再び出でよ、『スカーライト』!」
『GUOOOO!』
ATK:3000
そして一度分解され、再び場に炎の龍が出現する。これで“アブソリュート・パワー・フレイム”を再び使用できるようになった。
「更に、墓地の光属性と闇属性を除外。来い、『カオス・ソルジャー-開闢の使者-』!」
『ハァッ!』
ATK:3000
「こ、ここで『開闢の使者』だと!?」
「バトルだ。つまらんデュエルだった。腹ごなしにはなったが、な。『カオス・ソルジャー』、『深淵に潜む者』を切り刻め」
「うっ!」
斬!
ブルーのドラゴンが鋭い刃で両断され、その命を終える。同時にこれで、連続攻撃の準備が整った。
シェン:LP 1500→700
「モンスターを戦闘破壊した事で、コイツは続けて攻撃できる。『カオス・ソルジャー』で亀を、『スカーライト』で花瓶を攻撃。消えろ、“開闢双破斬”、“灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング”!」
「ぐぁあああああ!」
「ぎゃあああああ!」
2人:LP 1500→0
無遠慮に、残酷に剣撃と火炎が敵を撃ち払い、2人分のライフカウンターが尽きた事を電子音が知らせる。
と同時にその肉体はボロボロと黒いチリのように崩れ始めた。
「無様だな。ただ1度の敗北も許されないとは、この計画はやはり考え直すべきだと俺は思う」
「貴様……、よくもワタシの部下を!」
「他人事みてぇに言ってんじゃねーよ。『スカーライト』の効果発動。破壊されるのは『マスター・ボーイ』と、俺の『カオス・ソルジャー』の2体。つまり1000ダメージだ、喰らえ、“アブソリュート・パワー・フレイム”!!」
「きゃぁああああああ!!」
シェン:LP 700→0
そしてその上司とて例外に非ず。青いドラゴンを模した服の女は、紅蓮の炎で焼かれ、一瞬で黒焦げにされて倒れてしまった。
後に残るのは、失望したような表情を浮かべる満月のバーサーカーのみ。
「こんな面白くないデュエルしたのはいつ以来だよ」
満月のバーサーカー:WIN
☆
「くっだらねぇ事に時間使ったな」
はぁ、と嘆息するバーサーカー。
彼には彼の目的があり、そのために取るべき手段というものがある。ここで、こんな事に時間や手間をかけている場合では無い。ハッキリ言って時間の不経済というものである。
「貴様、よくも隊長達を!」
「かかれ、人海戦術だ!」
「そうだ、この数ならいつかは!」
「っとに、コイツらは……!」
だと言うのに、敵はまだわんさか湧いて来る。青コートが群れを成して、さながら海のようだ。あのNPCデュエリストとて、無限に出現こそすれども、そこには必ずリソースを割かねばならない。
あのジジイはそんな事も分からねぇのか。そう黒ずくめの男は吐き捨てた。
「やれやれ、これで何戦目だ? テメェら何人使い潰された? 俺がバテるより先に殲滅させられてぇか? あ?」
「ふざけろミュータントめ!」
「今にその口を塞いでくれる!」
「正義は我らにあり!」
「正義、ね」
フッ、とバーサーカーが鼻で嗤った、その時だった。
「下がれ、そいつは客人だ」
「引け、そして元の仕事に戻れ!」
「お前達ではそやつには勝てぬ」
カツン、と教会の大理石の階段を下り、2人の男と1人の女が現れたのだ。
1人は処刑台にも表れた茶髪の女、『聖女ジャンヌ』。
1人は焼けた肌に金髪の男。年はまだ若く、20代と言われれば信じるだろう。
1人は相当な年を召した老年の男。弛んだ頬肉が、男の年季と怠惰な生活を物語っている。
「お前達じゃ勝てないとは、まるで自分なら勝てると言いたげだな、ジジイ?」
そして、後者の2名こそ、バーサーカーが用事があった男達。
「届け物に来てやったぞ、キャスター。部下の教育がなってねぇようだな」
この教会の持ち主であり電脳特異点を司るサーヴァント、キャスターである。
To be continued