Fate/Duel Order 作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民
そろそろマスター君にカッコ良い見せ場を作ってあげたい所。
絶対イキり鯖太郎なんて呼ばせないで候。
この電脳世界でも、いわゆる“肉体”に相応するものはある。
例え1と0で作られた仮初の世界であっても、それは変わらない。何故なら見た目、延いては自分の身体というのは自身のアイデンティティを構成し、精神を人間の物に固定し、行動するためのベースになるからだ。
例えば、吸血能力を持つ精霊種・虞美人は、その肉体を人間の見た目にほぼ固定されている。これは彼女の意志で人型になっているのでは無く、『仙人』という形で不老不死になっているため、自然から人の姿でいるように縛られているのである。要するに“見た目で自己の精神を正常に保っている”という事である。
つまる話、この世界も現実とそう大差無いのだ。
だと言うのに。
「じゃ、テメェら用済みだわ」
ザックリと、まるで豆腐を手で崩すかのように容易く、男は2人の敵を引き裂いてみせた。しかも片方は『サイファー・スカウター』、アーマーで全身を覆われていて、決して脆い存在では無い。
(なのに、何だあれは――! まるで消しゴムで消したみたいに、綺麗サッパリ無くなってる!)
バキバキと、音がする。
どこから? アトラムと名乗った男からだ。
まるで骨が折れる音を連続して聞いているような、乾いた破裂音が響く。それから時折ブチブチと何かが千切れる音もする。
これは――まさかとは、思うが……!
「ああ、駄目だこいつらは。少しは見込みがあるんじゃないかと期待したが、俺が手を貸して超強引にドローカードを書き換えないと勝てないか。キャスターの実力を考えれば、まぁ仕方ないと言うべきかな。それなりに善戦はしたが、『輪廻天狗』は殆ど運だったしなぁ」
「な、え……?」
ゴトリ、と落ちる2人分の首に心臓が煩く脈打つ。だがそれは死を間近で見たからでは無い。
どうしてだ? どうしてアトラムと名乗った男の声と、バーサーカーの声が一致する?
いや、答えは分かっている。分かってはいるが――認めたくない。認めたらそれは、
「ば、バーサーカーなの、か……!?」
「キシッ」
アトラム、否、アトラムと名乗った男は特徴的な笑い方をしてニヤリと笑う。
それが何よりもマスターの予想を裏付けていた。
間違いない。
バーサーカーは、この黒い男は。
(他人に、化けられる!)
カルデアにいる新宿のアサシンこと燕青と同じような能力だ。誰にだって変身できるし、記憶も共有するので細かいクセも真似できる。最も、変化である事には変わりないので知らない事には化けられないが。嘗ての新宿では、この欠点を突かれて彼はマスターに変化を見抜かれた事は、まだ鮮明に覚えている。
その後、彼がどこかの特異点で召喚された事は1度しか無い、しかも味方だったのは幸いか。
だからマスターは安心していた。これで誰かを疑い、偽物ではないかと睨む事は無いと(まぁホームズを始め、変装が得意な者は多数いるのだが)。
「だ……、ダ・ヴィンチちゃん」
『ああ、驚いた。これは凄いな。彼はたった数秒で他人に変化した。さっきまでと今では、彼のパーソナルデータは全く違う。身長も、魔力の波長も、何もかもだ』
末恐ろしい、とマスターは身震いした。その言葉が本当なら、化けたこの男に気付く事は不可能という事だ。
そしてこの男は敵と判断した者には、ほぼノータイムで殺害を実行できる事が今証明された。
その証拠を示すが如くボロボロと塵になって砕けていく『サイファー・スカウター』。それを見下すバーサーカーに、まだ辛うじて意識が残っていた『輪廻天狗』が問いかける。
「あ、が……な、ぜ……!?」
「ん? 右肩から上しか残ってないのに喋れるのか、意外と頑丈だな」
「何で、や……。あんさん、なん、……で……」
「ハッ、決まってんだろ、敵だからだよ。お前らはキャスターの部下、俺はバーサーカー。ほら敵同士だ。そうだな……、強いて言うなら」
「楽しかったぜぇ、お前らとの仲良しごっこ?」
ギヒッ! と邪悪な笑みを浮かべるバーサーカーを前に、『輪廻天狗』は朽ちて行く。その表情が示すのは驚きか、悲しみか、或いは怒りか。
推し量る術などある筈も無く、天狗は消え行き、最後には『地獄将軍・メフィスト』同様、人間とデュエルモンスターズ、そして『擬似霊核』の3枚のカードに姿を変える。
ここまで計算通りなのだろうか、とダ・ヴィンチは顔を顰めた。
恐らくこの男はキャスターの陣営を手玉に取っていたのだろう。何かしらの方法で信頼を得て、教会の地図すら入手する程に深く潜り込み、それをカルデア側に流す。カルデアに中隊長2名を派遣したのも、キャンプ場に彼らを手引きするよう仕組んだのも確実に奴と見て良い。
そうしてカルデア側に手の者を侵入させ、サーヴァント2名を拉致。後は『輪廻天狗』達を殺せば自分が手引きした証拠も残らないし、何を意図していたかも伝わらない。キャスター側には「カルデアに乗り込んで返り討ちにされた」とでも言っておけば良いだろう。
この分だと、彼の計画にはまだ続きがありそうだ。今回の件はもっと大きな、それこそカルデアを振り回す程に巨大な計画の一端のように感じてならない。
「さて、『サイファー・スカウター』と『輪廻天狗』は良いや。もうこれは単なるカードだ、俺の手で再融合はできない。……が、こっちには利用価値があるな」
ニヤニヤと嫌らしい笑みはそのまま、見せつけるようにバーサーカーは2枚のカードを手に持つ。先程、彼が殺した敵から頂戴した清姫とBBを封印したカードである事は言うまでも無い。
「返せ」
「あ?」
「返せ! 清姫とBBを! 2人とも俺の仲間だ!」
痛む身体に鞭を打ち、藤丸は一歩前へ出る。
ランサーの信頼を勝ち取るための戦いで受けたダメージが、こんな形で尾を引く事になるとは。だが泣き言は言っていられない。敵は待ってはくれないのだ。
「駄目だ」
「だったら力尽くで――!」
「早合点するなマスター君。こいつは
「え?」
「言ったろ? 電脳特異点をクリアする度、俺が送り物をしてやるって。今回はこの2枚……だけじゃ寂しいな。2枚にもう1枚加えた3枚にしてやるか」
特大サービスだ、と言ってバーサーカーは何かを青年に投げて寄越した。データの塊のようだが、生憎と技術畑では無いため、中身はマスターには分からない。
「解読してみろ」
「本当に分かりませんね、貴方ははどうしたいんですか」
「言った筈だ、救国の聖女。俺はこの聖杯戦争で勝ち抜くためにお前らを利用する、だがイージーモードで勝ち抜かれると後々困る。だから適度に難易度を上げてるのさ」
分からない、本当に分からない。こいつは――何なんだ?
何故こんな遠回しな事をする? 何故、こいつは敵とも味方ともつかない事をする?
一体何が目的で、何を成すために、何をしようとしているのだ?
「さぁ、これまではチュートリアルの余韻。ここからは本番。こう見えて結構期待してるんだぜ? 俺の予想を超える成果、挙げてみなカルデアのマスター?」
大いなる謎を残し、バーサーカーは黒い霧に姿を変えて行く。初めて出会った、あのキャメロットの時のように消えようとしているのだ。
だがそうはさせじと2つの影が飛び出して来た。
どちらも金髪を翻す騎士であり、片方は飾り気の少ないレイピアを、もう片方はエメラルドのように輝く短槍を一直線に突き込んで来る。
助かった、デオンとブラダマンテが騒動を聞いて目を覚ましたのだ。
「逃がすな!」
「了解!」
「ハァッ!」
敏捷B・筋力Aのデオンと敏捷A・筋力Bのブラダマンテの刺突が、同時にバーサーカーに突き刺さる。サーヴァントなら確実に致命傷クラスの二撃は、過たずバーサーカーの肩と首に直撃した。
――筈だった
「な!」
「にぃ!?」
ピタリと、2人の攻撃は止められたのだ。指先で器用に、剣と槍の切っ先を摘まむように。
冗談ではない。2人とも細見だが、3騎士のクラスに恥じぬ屈強な戦士なのだ。特にデオンは生涯負けなしで過ごしたヨーロッパ版の宮本武蔵と呼ばれ、ブラダマンテとて騎士団の中では目覚ましい戦果を何度も挙げた実力者。しかも筋力と敏捷のステータスも高い。決して、子供を相手にするような方法で攻撃を防げるような相手ではない。
「良い腕だ。しかし今の君達じゃ、俺には届かない」
「剣が、動かないっ!」
「なんという怪力!」
やがて肉を抉る音も骨を断つ音も響かせず、それどころかまるで煙を刺したように2人はそのまま黒い男をすり抜けた。黒い霧に変化していたために、2人の攻撃を止めていた手が消えたのだ。そのままデオンは地面を削るように着地し、ブラダマンテは前のめりになった体勢のせいでゴロゴロと地面を転がって行く。
「くっ!」
「あたっ!?」
振り返れば、もうそこには人型は無く、黒い霧も殆ど残っていない。
当然、持っていた清姫とBBのカードが落ちているなんて都合の良い事も無かった。
『2日猶予があるんだ、ルーアンを調べろ』
その言葉だけが、夜のキャンプ地に残された。
☆
「すまないマスター、もう少し早く気付いていたら」
「良いよデオン。あの状況じゃ仕方が無い」
ペコペコと頭を下げる白百合の騎士に、頭を打ったのか額をさするブラダマンテ。
そんな頼もしい2人を励ましながら、マスターは思考に耽っていた。
ルーアンを調べろ、とはどういう事だろうか、と。
どこを調べろ、でも無ければ、誰を調べろ、でも無い。つまり町全体を調べろという事だろうか?
それに渡されたデータの塊も気になる。ダ・ヴィンチ達が解析しているが、かなり複雑な暗号と詰めデュエルを組み合わせているらしく、解読には長い時間がかかりそうとの事。
何より、バーサーカーは何故そんな事をするのだろう。仮に彼の言っている通りの狙いがあるのなら、キャスターとタイマンが出来るようセッティングすれば早い。カルデアを弱らせたいなら自分か、もしくは青コートのAIやミスターTを向かわせれば良い。恐らくあれらは量産できる兵力なのだから、今回の『輪廻天狗』のように数で押し込める筈だ。
回りくどい、というのが正直な感想だった。
そう、まるで――
「まるでバーサーカーの手の上で踊らされてるような気分だ」
「確かに、バーサーカーは何もかも知っている、って感じでしたね」
「全てあいつの思惑通りって感じがする。……思うが儘に転がされる感じで、何か腹立つな」
とは言え、黒男が何を考えているか見当もつかない以上、こちらは彼の助言に従うのが恐らく正しいルートだ。今はまだ、彼はこちらを利用している。であれば、出し抜ける要素を探りつつ、バーサーカーの言う通りに行動するのが今は無難か。
取り敢えず、今は一度休もう。夜風も無い、電子の星だけが広がるキャンプ地だが、寝床がしっかりあるのだから。一眠りすれば、視点も変わる。そう願い、マスターは明日の自分に向けてメモ書きを残す事にしたのであった。
☆
そこは、どこかであってどこでも無い場所。
光の中のようであり、闇の中のような何処か。
不安定で、1でも0でも無い、そんなあやふやにして混沌に満ちた場所を、バーサーカーは歩いている。
彼は――真名■■■■■・■■■■、依り代名■■■■は、そんな闇と光の混ざった所が好きだった。
この身は犯罪にまみれた薄汚い存在だ。しかし光を求めた気狂いであり、そんなイカレた脳味噌だからこそ、こんな白黒ハッキリしない場所を好むのだろう。
そしてそれは――依り代になった男が、邪神と呼ぶに相応しい存在をデュエルで倒せる次元に引き摺り落とすために習得した能力にも関係していると思われた。
まぁそんな事はどうでも良いのだ。自分が何を好み、何を嫌うかなんて。
重要なのは――
「そんじゃ、敗者の宿命だ」
この手の中にある2枚のカード。つまり。
「勝者からの凌辱、たっぷり受けて貰おうか」
封じ込められた清姫とBBを、好き勝手できるという事なのだから。
「さて、悪役の面目躍如と行こうじゃねぇの。クヒヒッ!」
さながら他者を甚振る事で悦に浸るシリアルキラーのように、バーサーカーの顔は醜く歪んだ。
To be continued