Fate/Duel Order   作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民

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締切が重なったり年始の仕事のドタバタで色々遅くなりました、申し訳ございません。
ここからまた月2の投稿が出来るようになれば良いなぁ……。


Turn:23 信仰と金は混ぜるな危険

「猿真似?」

「うん」

 

 デオンの問いに、マスターはゆっくりと頷いた。

 

「デオン、俺は日本人だ」

「ああ、知っている」

「そして現代の日本人は無宗教って人が少なくない。どこかに入信していても、浅い事が多いと思う。それこそジャンヌみたいな熱心な人は、そうそういない」

「……」

 

 あれはほぼ狂信者だ、とは言わない。優秀なスパイは空気を読んだ。

 

「でもさ、どう考えてもあれはおかしいよ。気に入らない奴を個人で蹴って殴ってが許される宗教なんて聞いた事が無い」

「確かに、群雄割拠の時代ならまだしも、現代でそれは横暴に過ぎる。そのヤラレ何某はNPCじゃなかったんだったか」

「うん」

「で、あれば、それは彼の意志、と言えるだろう」

 

 ふむ、とデオンは顎に手を当てて頷く。何か思う所があるのだろうか。

 

「フランスに限らず、あらゆる国は変革を常に続けて来た。マスターの故郷、日本も然り。イギリス、オランダ、イタリア、ドイツ、スウェーデンにスイス……。国の名前が変わった事だって珍しくないだろう。これは我々フランスも同じだ。

 その変革には政治以外にも当然宗教も混ざっている。世界が繋がっているのならば、ワールドワイドに広がった形に信仰の在り方も変えるべきだと私は思う」

 

 信仰とは人を導く道標だ。もしそれが古い形のまま残っており、新しい時代に合わないままだった場合、端的に言えばその宗派に属する人々は孤立する事になる。

 信仰は確かに重要であり、時に当人の命より重い。しかし人間が他者との繋がりなくして生きられない以上、時代に遅れればそれはそのまま『違う時代の人』として取り残される――つまり交友の断絶だ。

 それが何を起こすかと言えば、まず個人間の断絶は次第にもっと大きなコロニー同士の断絶になる。最初は家族、次は店や地域、次は街、最後に国。そうなれば鎖国しか道は無い。そして鎖国の果てに待っているのは、己より強い外国への対処が遅れ、気付けば致命的な差をつけられる現実になる。

 

「私自身、ジャンヌ・ダルクが生きていた時代より何百年も後の存在だ。だから当時の事を全て知ってるとは言わない。私の時代の価値観を押し付ける事もしたくない。

 だがしかし、だ。それと、可哀想な人や虐げられている人を見殺しにする事は違うと思う。だから私は、マスターのその思考は正しいと思う」

「ありがとう、デオン」

「主君が間違っていたら正す、合っていれば助力する。それが騎士というものさ、王の間違いを指摘できず、唯々諾々と従う騎士は、ただの思考放棄でしかないよ」

「うん、俺もカルデアにいるキリスト教徒の皆のためにも、あんな弾圧みたいな使い方を見逃したくない」

 

 力強く頷くデオンに、マスターも頷き返す。

 一方、カルデアでガウェインがくしゃみをした事は、誰も知らない。

 

『良き決意です、マスター。カルデアのクリスチャンの一員として、お礼を言います』

「マルタさん」

『本来ならそちらに出向き、皆で指導者を殴ってでも止めたいのですが……、カルデアに攻撃を仕掛けられると判明している以上、迂闊に拠点を手薄にするのは避けなければなりません』

 

 敵は容易にカルデアに攻撃を仕掛け、サーヴァントすら退ける程の摩訶不思議なカードを持つ。更にはその敵は、満月のバーサーカーによって瞬殺されてしまった。拠点防衛は今回、かなりの重要度である。例え特異点を制覇しても、帰るカルデアが無ければ意味が無い。

 

『なので今回、私はカルデアからアドバイスを送ろうと思います』

「アドバイスを?」

『はい。マスター、そもそも“信仰”とは何だと思いますか?』

「え、うーん……?」

 

 いきなり難しい質問だ。

 辞書を引くのなら『神仏を信じて尊ぶ事やその心』という答えが返って来るだろうが、実際に彼女が求めているのは、そういう画一的な回答では無いだろう。

 黙りこくって正答を模索していると、マルタは「正解です」と頷いた。

 

「え?」

『信仰そのものに絶対的な答えはありません。誰もがこうじゃないか、ああじゃないか、こう書いてあった、ああ教えられた、というものをなぞっているだけなのです』

「そうなの?」

『はい。信仰とは即ち主を思い、その背中を追いかける事だと私は思っております。ですがそこに個々人の思考が無ければ、それは妄信にして無知と言えます。いえ、或いは無気力にして、我々が大罪と挙げる7つが罪の1、怠惰と言い換える事すらできましょう』

「そんなに? ……いや、そうか、それがあの町か」

『その通りです。主の威光を目指して進む、これは正しい行いではありますが……、考えなしに進めば、果たしてそれが本当に正しい光源なのか判別がつかなくなります。

 勇気を持って声を上げて、時に自分が信じる心に従って己を研鑽する。そうしなければ、その者に待っているのは破滅か、或いは日本語で言う木偶の坊でしょう』

 

 マルタは何も難しい事を言っているワケでは無い。

 自分で考え、自分で生き、自分で息を吸って吐き、食べ、飲み、眠り、目覚め、やがて死ぬ。このサイクルを他人に預けるなと言っているのだ。

 これを他人に委ねる場合、待っているのは操り人形か、はたまた運命共同体になるかである。

 後者なら家族や同僚という形でまだ収まるが、前者となれば破滅が口を開けて歯を突き立てて来る未来しかない。

 死ぬだけならまだマシ、全財産を搾り取られ、都合の良いデコイにされ、宗教施設内で金や権力を得るための使い捨ての道具となる。信仰を他者任せにするというのはそういう事なのだ。

 

 信仰とは心の健康。嵐や不運といった、人間ではどうする事も出来ない大きな事象に対して、同じく人間より大きな力を持って心の平定を保つための拠り所。その中枢は神にあっても、心は人間のいる現世のもの。

 であるならば、同じ人間に操れない道理は無い。人心掌握に長けた者なら、数多の無知蒙昧な人間を操るための便利ツールとして見ている事だろう。

 

『現代に於いて、宗教が廃れた理由は多々ありますが、その1つが金や政治と混じってしまった事です。混じりけの無い信心は、欲の前には容易く濁り、歪みます』

「……」

『マスター、心して下さい。神は目に見えず、耳に聞こえず、鼻で嗅げず、舌で味わえず、肌で感じられません。しかし、確かにおられるのです。如何に人々が否定しようと、神は必ず』

「カルデアにいると、その言葉は有難い言葉よりも、何か実感籠った嘆きに聞こえて来るよ」

『ふふっ、そうね。カルデアには世界中の神と呼ぶべき方々がいらっしゃったわね』

 

 コホン、と聖女は咳払いを1つ。

 

『兎角マスター、我々は無宗教である貴方に感謝しているのです。東の神にも西の神にも、我らが偉大なる主にも傅く事をせず、如何なる神にも偏見を持たない貴方だからこそ、カルデアは良き形を常に維持して、ここまで勝利して来ているのです。どこかの神を信じるのであれば、世界中のサーヴァントが貴方に従う事はしなかったでしょう』

「マルタさんはそれで良いの?」

『信仰とは勧めはすれど強制するものに非ず、心を無理矢理に従わせるのなら、私はあの町の悪徳宗教の司祭達と何ら変わりません。宗教とは即ち信者を獲得するための口実という側面もありますからね』

「……意外だなぁ、貴女がそんな事を言うなんて。もっと信仰とは尊いもの、穢されてはならないものだって言うのだとばかり」

『信仰は信じる心、宗教とは人知を超えた存在への畏敬の念と、それを持つ人々の集まり。似てるようで全く異なるのよ。今でも私はクリスチャンだという自覚はあり、それを“キリスト教信者”と和訳する事はできても、“キリスト教という宗教”に入信した覚えは無いって話です』

 

 さらっと言うが、当然と言えば当然だ。

 マルタは1世紀の人間にして聖女、当時の大いなる存在と同じ食卓を囲った事があったとしても、故人である以上は現代のキリスト教と何の関わりもない。生きていた当時のキリスト教に該当するものに入信していようとも、それは原型や前身の類である。

 

『微小特異点を巡って現代のキリスト教は知れましたし、そこで日々懸命に生きる人達もこの眼で見てきました。だからこそ、笑ってそれを悪用し、罪無き人々に暴力を振るう姿を看過する事はできません。

 マスター、どうか我々の代わりに彼らを止めて下さい。お前のやっている事は信仰を穢すだけの蛮行だと、声を大にして批難して、願わくば彼らに贖罪を』

「任せて、カルデアにいる皆のために、あいつらを殴ってでも止めてみせる」

『ありがとうございます、マスター。貴方が無宗教の人で良かった。カオスの坩堝と化したカルデアの信仰が暴発しないのも、ひとえに貴方の存在のお陰です』

 

 カルデアにいるキリスト教徒は多い。

 有名なジャンヌやマルタ、ゲオルギウスをはじめ、マリー・アントワネットやアナスタシア、実は坂本龍馬もその一員だ。

 宗教とは、信仰とは美しさ。あまねく人々を魅了し続ける、ある種の根源への導き。

 彼らの信じた信仰を、これ以上穢させるワケにはいかない。

 

「実は1つ、作戦を考えてあります。お粗末ですけどね」

『作戦?』

「囮作戦、が一番近いかな?」

 

 

  ☆

 

 

――あいつらを殴ってでも止めてみせる

 

 傍らで通信を聞いていたマシュは、その言葉を聞いて思わず困惑の表情を浮かべた。

 あまりにも彼らしくない言葉、彼らしくない心意気。他者を積極的に害する事を良しとせず、可能な限り平和的で友好的な道を模索し続けた男。それが彼女の先輩であった筈なのに。

 

(どういう、事なのでしょうか……)

 

 らしくない。あまりにも彼らしくない。

 勿論、過去に暴力的な発言や発想をした事はあるが、防衛や警告の延長線上だった。

 あんな風に自分から進んで手荒な手段を決めるマスターだったとは思えない。

 

(先輩……)

 

 きっと気が立っているのだろう。

 盾の少女はそう思い、先の発言について深く考える事をやめた。

 長く付き合っていれば、そういう事もあるのだろう、と。

 

 

  ☆

 

 

「天誅ならぬ人誅を下すってか、少年」

 

 そしてキャンプ場から離れた木の上で、漆黒の衣に身を包んだ男――満月のバーサーカーも顔を歪めた。その表情は非常に不快そうであり、しかしマスターの言動が癇に障ったというワケでは無い。

 

「――想像以上に、悪影響が出ているな。あの時にランクアップマジックを使ったのは失敗だったか」

 

 自分のデッキから、先日の電脳キャメロットで使用した魔法カードを抜き出し、じっと眺める。

 元々は人知を超越した大きな力を2つ混ぜたカード、『RUM-■■■■・フォース』。マスターが直接使用したワケでもないのに人格改変が起き始めているとなると、このカードの影響力を自分は甘く見ていたのかも知れない。持ち主として反省しなくては。

 

「ま、自分のやった事だ、キッチリ自分で埋め合わせないとな。元々その予定だったし」

 

 己の甘さに嘆息しつつバーサーカーは地上に飛び降り、同時に夜闇には目立つという事で自粛していた煙草に火を点ける。

 ふぅ、と煙を満足気に吐き出しながら、バーサーカーは歩き出した。

 

「信仰は力、宗教は美。絵画の上に黒の絵の具で新しい絵を描いた時――、黒い絵が評価されればそれは宗教の淘汰だ。超えられるか、少年。黒い絵しか評価しない、腐敗した審査会を」

 

 目指すはカルデアの一行と同じ、ルーアンの中央教会。

 

 

to be continued

 




 教えとは学ぶもの
 教えとは伝えるもの

 信心とは心の灯り
 信心とは心の温もり

 金が絡めば神は金色の汚れた光に隠れる
 権力が絡めば神は雲上に嘆き隠れる

 盲信してはならぬ、考える事をやめてはならぬ
 神は目を開かぬ者の前にはいない

 信仰とは己が心の内にいる神への問いかけである
 信仰とは明日を生きるために神が残した背中の残像である
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