Fate/Duel Order 作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民
狼に衣:表面は慈悲深そうであるが、内心は凶悪であることのたとえ(デジタル大辞泉より)
電脳都市ルーアンの中心にある大聖堂、或いは巨大な教会。カテドラルと呼称される事もあるこの巨大建造物は、もし教会という前知識が無ければ東京駅と見まがう程に赤く、また高さも然程のものでは無かった。
幅およそ800m、高さは3階建て、白と赤で彩られたその建造物は、夕日でそれなりに美しく輝きを放っている。
そんな巨大建造物を見上げた後、マスターは己の陣営を見渡した。
「それじゃあ、作戦を確認するよ?」
マスターが説明するのは、キャスターを討ち取るための教会への電撃作戦。教会の正面には囮のチームを配置し、バーサーカーが空けてくれた裏口から直接敵の大将を叩くというシンプルな内容である。
だが町に兵力を割いている時間で、ジャンヌが身を挺して倒した敵戦力はまだ回復していないこのタイミングなら、勝率は低くない。
そも囮作戦は昔からあちこちの戦で利用されていた戦術だ、悪い等とは、カルデアの武将達が言わせないだろう。
「組み分けは出発前に説明した通り、裏口からの突入班は俺、マシュ、ジャンヌ、ランサー、アストルフォ、ブラダマンテ、キャスターのジルの7人。残りは正面で敵を引き付けていて欲しい。
ただし絶対に無茶はせず、疲労したら下がって回復まで待機。正面のチームが生き残っている間は、そこに戦力が傾くから、こっちとしても戦いやすい」
正面で戦うのはサロン・ド・マリーことマリー、アマデウス、サンソン、デオン、サリエリ、そしてジャンヌ・オルタ、ジャンヌ・リリィ、セイバーのジルの合計8名。万一のために、急造だが通信用簡易礼装をジャンヌ・オルタには渡してあるので、連絡は問題無い。
更に現在、カルデアに直結しているアンカー地点では数名が、更にカルデア側では施設内全域を守るために警戒中となっている。
「始めるよ。準備は良い?」
「いつでも」
「はい」
「オッケー!」
「ダコール!」
「大丈夫です」
「おうよ」
本来なら通信装置を持つマスターとマシュは分離したいのだが、敵がこちらのサーヴァントを捕獲した前例がある以上、最も囚われてはいけない2人をバラバラにするのは危ない。
それにバーサーカーの話によれば、警備のスキが生まれるのは午後4時30分頃。時刻がハッキリしているのなら、連絡を取り合うのは簡易的な礼装でも良いだろうという判断だ。
「ジャンヌ・オルタ、聞こえる?」
『はい、問題無く』
「OK」
『しかし、あの男の言葉に乗って良かったのです? 裏口に敵が待ち構えている可能性があるのに?』
「それを踏まえて、だよ。どの道、清姫とBBを取り返さないと。今は1秒だって惜しい」
バーサーカーが言ったのは、今日このタイミングで警備が薄くなるという事だけ。
次のチャンスは分からない。罠かも知れないが、リスクがあっても乗らなければ、次のチャンスの保証は無い。
そしてその時までに――清姫とBBが無事である可能性は、100%ではないのだ。
「それじゃあオルタ、時計合わせるよ。今、4時29分36秒。30分まで残り15、14、13……」
『11、10、9』
「5、4、3、2、ヒト――、突入!」
『突入!』
☆
「ほー、始まった始まった」
遠く離れた家屋の屋上より、バーサーカーは開かれた戦端を見ていた。
戦いの場は電脳ルーアンの大聖堂『ペセ大聖堂』。本来ルーアンの大聖堂は、そのものズバリな『ルーアン大聖堂』であるが、あれは完成したのは1544年であるため、この時代にはまだ無いのだろう。
別にそれは構わない。どうせ作り物の世界、何なら屈折ピラミッドを逆さにブッ指して、その上に安土城でも乗せてしまった方が面白い。
「そのくらいのユーモアもネェんだよな、アイツ。ったく、自分が老害だって自覚も無ければ、アイツのマスターも阿呆だって自覚が無い。
無い、無い、無い無い尽くし。つくづくお似合いのマスターとサーヴァントだこった」
クツクツと小馬鹿にするように男は笑う。
そんな彼の背後、別の男が現れた。
老年に差し掛かった中背の、しかし隆々とした筋骨を持つ老人。全身にはくすんだ銀のフルプレート・アーマーをまとい、身の丈を超える長さの槍を担いでいる。
「バーサーカー」
「お、将軍のランサーじゃねぇの。珍しいな、こんなトコで」
「何故、キャスターに何も言わぬのか。敵対しているとは言え、これでは外患誘致に他ならない」
「……キヒッ、将軍ともあろう者が、愚問だな?」
「やはり――、そういう事か」
兜の下で将軍のランサーは納得したように目を細める。彼にとっても、バーサーカーのこの行動は理に適ったものだったらしい。
「我も貴様も、そしてキャスターめも幻霊だ。故に、これが最初で最後の願いを叶える機会である事は全員承知している。ならば……、斯様な手段に出る事も、まぁ、理解できる」
「そうか? 武人が随分と物分かりが良いじゃねぇの」
「何、武人と言っても、本国の官僚に顎で遣われるだけの棒振りだ。挙句の果てに王に見切られてクビになり、内乱で何もかも失くした。そんな滑稽な男に騎士道だのサムライ魂だのを求めるものではない。勝たねば我々軍人に価値は無い」
「勝てば官軍負ければ賊軍。ククッ、紛い物の幻霊疑似サーヴァントには耳が痛いね」
クツクツと笑うように言うバーサーカーに対し、ランサーは何も言い返さない。器が大きいのか、或いは彼の諺に思い当たる何かがあるのかも知れなかった。
「で、だ。真面目な話をしよう、将軍のランサー」
「何だ」
「テメェがここにいるっつー事はつまりだ。お前の受け持っていた電脳特異点は“そうなった”って解釈で良いんだな?」
「そうだ。貴様の予想した最悪のケースをまっしぐらだ」
「……そうか。やれやれだ、キャスターのマスターも、お前のマスターも、俺のマスターも、揃いも揃って馬鹿しかいねぇな」
キャスターのマスター、アトラム・ガリアスタは魔術の腕こそ確かだが戦闘職ではなく基本的に商売人だし、魔術師=貴族という事からか自尊心が強い。自分の優秀さを確信しており、足元をすくわれる事をあまり考えないクチだ。
ランサーのマスターは目の前の利益にすぐ飛びつくタイプだし、バーサーカーのマスターはクズの中のクズと来てる。
ライダーとアーチャーのマスターは行方不明だし、セイバーのマスターはバーサーカーのとどっこいどっこい。アサシンのマスターは腹黒すぎて近寄りたくもない。
真っ当なマスターはハッキリ言って1人もいない、此度の聖杯戦争。仮にそれが正常だったとしても、生憎と2人ともそれを受け入れたくなんて無かった。
「俺としては、カルデアの奴らには良い感じに引っ掻き回して欲しいんだよ。このクソ以下の聖杯戦争を、可能な限り軟着陸させたいのさ」
ボヤくように呟いたバーサーカーは、「もっと近くで観戦するか」と教会へ向けて幅跳びの要領で跳躍を始めた。
☆
『正面から侵入者! 数は7、いえ8名!』
『迎撃しろ! 神聖なる教会を穢させるな!』
『敵兵、二手に分かれました!』
廊下の曲がり角の先から、声が聞こえる。
どうやら教会に突入する際、囮役を引き受けてくれたジャンヌ・オルタ達が上手くやってくれているようだ。
言うまでも無いが、ジャンヌ・オルタ達に『聖女ジャンヌ』らを討ち取って貰おう等と考えてはいない。ただ派手に暴れて貰えば良いだけである。
「しかしマスター、ここからどうするのでしょう? バーサーカーは教会の具体的な間取りは教えてくれませんでした。精々、『聖女ジャンヌ』の寝室が上階にあるってだけで……」
「大丈夫だよ、ブラダマンテ。ここはジルの出番だ」
「ええ、打ち合わせ通りに」
ギョロ目のキャスターが本を開いて怪しい光があふれ出すと、タコとヒトデを融合したような魔物が無数に召喚され始めた。
彼の宝具『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』により呼び出される『海魔』である。1体1体は人間より多少強い程度だが、魔力を供給し続ける限り無限に増殖する脅威の存在。数の暴力を体現した宝具だ。本そのものが魔力炉であるため、一瞬で廊下を埋め尽くす程のクリーチャーを召喚できるのが強みと言える。
「わ、わ、キモッ!」
「アストルフォ、そういうのは口に出さない」
「はーい。で、これで何するの? こいつらにデュエルさせるの?」
「ほほほほ、まさか。こやつらにそこまでの知性はありませんよ。これらは単なる壁にしてソナーです」
「ソナー?」
「ええ。見た方が早いでしょう。そぉら」
人の皮を張り付けた本からホログラムが現れ、虫食いだが建物の見取り図が構築される。
いや、違う。これはジルを中心にした海魔の活動マップだ。海魔が廊下を埋め尽くした事で、必然的にソナーに映るシルエットが屋内の見取り図に見えるようになったのだ。
「凄い、海魔にこんな使い方が……」
「いつかダ・ヴィンチ殿に頼んで、あの青コートくらいとなら戦えるようには改造したいものです」
ジルのこの海魔は『死んだ海魔の血肉を魔力源にして、新しい海魔を産む』という無限ループも可能だ。倒すには一斉に吹き飛ばすか本体のジルを狙う必要があるため、敵の本拠地かつ屋内ではとても有用である。
「そして、見えましたよ」
ジルが指差した箇所では、急速に海魔の反応が消えていくポイントがあった。
場所は全部で4ヶ所。正面扉、教会の中階、最上階の東端と西端……。このどこかに『聖女ジャンヌ』と、特異点を形成するキャスターがいると見て良い。
海魔の減少度合いは逆に、正面玄関が最も激しい。敵の四天王オフィシエ・カトルの内の何人かがここにいると考えられるだろう。
「先輩、どうしますか?」
「中階の奴はアストルフォとブラダマンテにお願いする。残る6人で最上階へ行くよ。海魔の目晦ましと混乱が続いている内に、電撃的に敵の中枢を叩く!」
「了解!」
「はい!」
途中で青コートの妨害が発生するだろうが、そこでも海魔の壁を利用する。
デュエルをするには互いのデュエルディスクが無線でリンクする必要があるため、障害物が挟まっていたり距離が遠すぎたりすると、デュエルできなくなるのだ。
流石に卑怯な気もするが、あっちはあっちで無限に補充できる戦力を持っているのだから、大目にみて欲しい。
「時間との勝負だ、一気に行くぞ!」
「「「イエス・マスター!!」」」
To be continued