Fate/Duel Order 作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
辛うじてデュエルに勝利した藤丸立香。残りライフはたった50、しかし勝利は勝利だ。それに変わりは無い。
「先輩、大丈夫ですか?」
「旦那様、お労しや……」
「何とか大丈夫だよ、何とかね」
『大丈夫なモンかね。バイタルデータはかなりボロボロだよ。1回帰っておいで、全身痛むだろう?』
『私からも帰還を推奨させて貰うよ、随分とボロボロじゃないか』
「う……」
デュエリストにとって、ライフが1であろうと、デッキが残り1枚であろうと、絶体絶命であろうと、次に繋がっているのならそれは『終わり』では無い。希望があるなら『大丈夫』と言い切って良いのだ。……が、痛いかどうかとはまた別の話なのであった。
「でもその前に、吹っ飛ばして下に落ちたアイツに話を聞きにいかないと」
「この世界でのダメージは現実世界にフィードバックされるそうですから、息があると良いのですが」
「もししぶとく生きていたら、情報を引き出した後に燃やしましょう、念入りに」
相変わらず物騒な発言をする清姫に苦笑いするマシュとマスター。
茨木童子に「親しくない者は平然と排除する恐ろしい女」と言われるだけあり、彼女の頭の中にはマスターと、彼に親しい仲間以外は特に考慮されないような仕組みになっているようである。
やめとこうね、とやんわり注意しようと思った、その時だった。
【乱入ペナルティ2000ポイント!】
唐突に機械音声のアナウンスが鳴り響いた。
「おれは手札から『
『いきなり敵性反応アリ! 気を付けて、奇襲だ!!』
「右です、先輩!」
マシュの言う通り、右前方からDボードに乗った新たな敵が出現した。見た目はよく分からない仮面をつけた男のようであり、青い高級そうなコートを羽織っている。
その傍らには猟犬型の機械族モンスター、『古代の機械猟犬』が空中を疾走していた。
「ハウンドドッグの効果発動、召喚成功時に600ポイントのダメージを貴様に与える。焼け死ね、“ハウンド・フレイム”!」
「「マシュ(さん)!」」
「はい!」
不意打ちのように放たれた炎にも動じない。素早くマシュは2人の前に出ると、全身を隠す程の大盾で火炎放射をブロックした。
降りかかる火の粉を払いつつ新しい敵を睨むマスター。そんな彼の状況に、ダ・ヴィンチは通信越しに怒りの声を上げる。
「チッ、失敗した」
『おいおい何だいアレは! 乱入ってアリなのかそれ!』
「実際やられてるんだ、アリなんだろうよ!」
ちなみに実際はナシだ。恐らく、不正なプログラムを組んでいるのだろう。
『気を付けたまえマイロード。敵……だ後……ん……』
「マーリン!?」
「フォーウ!」
何か情報を齎そうとしたのだろうが、突然マーリンとの通信にノイズが入り、何も聞こえなくなる。
ペシペシとフォウが壊れたラジオを直すようにディスクを叩いているが、グランドキャスターの言葉は届かなくなってしまった。
「生意気にも防いだか。ならば魔法カード『
「何!? 通常召喚した後で更に追加した!?」
古代の機械猟犬(効果モンスター)
星3
地属性/機械族
ATK 1000/DEF 1000
(1):このカードが召喚に成功した場合に発動する。
相手に600ダメージを与える。
(2):このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。
(3):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。
自分の手札・フィールドから、「アンティーク・ギア」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
古代の機械狩猟準備(オリジナル)
【通常魔法】
(1):手札を1枚捨てて発動する。
デッキから「古代の機械猟犬」2枚または、「古代の機械猟犬」と「融合」を1枚ずつ手札に加える。
このターン、「古代の機械猟犬」を素材に指定する融合モンスター以外は特殊召喚できない。
(2):(1)の効果を発動した墓地のこのカードを除外して発動できる。
墓地から「古代の機械猟犬」を任意の枚数手札に加える。
この効果は、このカードが墓地に送られたターンには発動できない。
「そして『ハウンドドッグ』の効果発動。1ターンに1度、『融合』魔法を使わず“アンティーク・ギア”を融合召喚できる! 俺は手札の『古代の機械猟犬』2体を融合!
古の魂受け継がれし機械仕掛けの猟犬達よ、群れ成して交じり合い、新たなる力と共に生まれ変わらん!」
フィールドに出ていたものと全く同じ機械の犬が2体、神秘の渦に溶け込み、1つに合わさり二頭の猟犬へと姿を変えて行く。
『古代の機械狩猟準備』の効果で現在融合先が制限されている今、出て来るモンスターは必然的に1体に限られていた。
「融合召喚! 現れろレベル5! 『
『グルルルルルルルル!』
古代の機械双頭猟犬(融合・効果モンスター)(アニメオリジナル)
星5
地属性/機械族
ATK 1400/DEF 1000
「古代の機械猟犬」+「古代の機械猟犬」
(1):このカードが攻撃する場合のダメージステップ終了時まで、相手は魔法・罠カードを発動できない。
(2):1ターンに1度、相手フィールドにモンスターが召喚・特殊召喚された場合に発動できる。
そのモンスターにギア・アシッドカウンターを1つ置く(最大1つまで)。
この効果は相手ターンでも発動できる。
(3):ギア・アシッドカウンターが置かれているモンスターが戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。
そのモンスターを破壊する。
「出て来たな、厄介な奴が。アイツは場に出たモンスターにギア・アシッドカウンターを乗せて破壊して来るぞ」
「効果破壊なら1ターンに1度、私が防げますが……」
「戦闘破壊を通させるためならば、確かに厄介ですね」
ATK:1400
「そして手札から永続魔法『
続けてフィールドには砲台が無数に乗った不格好な戦車のカードが出る。
フィールドのモンスターが破壊された時、コントローラーにダメージを与えるカードだ。「アンティーク・ギア」では無いためサーチに対応せず、また短い間しか場に残れないため、ワンキル専用のカードと言っても過言では無い。
古代の破滅機械(アニメオリジナル)
【永続魔法】
(1):フィールドのモンスターが破壊された場合にこの効果を発動する。
破壊されたモンスターの攻撃力分のダメージをそのモンスターのコントローラーに与える。
(2):このカードの発動後、次の自分のスタンバイフェイズにこのカードを破壊する。
「だが、『ダブルバイト』の効果は既にフィールドに出ているモンスターには通じない。幸い攻撃力は低い、こっちのターンで優先的に排除すれば大丈夫だ。逆に合計で2400ダメージを叩き込んで奴を追い払える」
「実に浅はかだな、そう思うから貴様は馬鹿で無価値な凡人なのだ。おれはこれでターンエンド」
ハッ、と鼻で嗤う乱入者。何が彼の中で定義されているかは知らないが、マスターの事を完全に見下している。
一方の青年は唐突な乱入者にもめげず、自分のターンを始めようとデッキに手を伸ばす。幸いにもこのターンで『マスターコードA-「応急手当」』をサーチできる。これでライフを回復する算段を立てたが……。
『秒殺するんだマスター君! 下手に長引かせれば君の肉体が!』
「分かってる! 俺の――」
【乱入ペナルティ2000ポイント!】
「オレ様のターン!」
「な!?」
『にぃ!?』
乱入者A:LP 2000
手札:2枚
フィールド
古代の機械双頭猟犬(ATK:1400)
古代の機械猟犬(ATK:1000)
古代の破滅機械(永続魔法)
「オレ様は『サイクロン』を捨て、『古代の機械狩猟準備』を発動! デッキから『古代の機械猟犬』を2枚手札に加えるぜ!」
「また乱入者!?」
今度は左から新たな敵が現れた。
最初に登場した乱入者と同じ格好をしており、唯一違う場所があると言えば、変な仮面の額の宝玉が赤では無く黄色という点か。
「そして『古代の機械猟犬』を召喚ァン! 喰らえ、“ハウンド・フレイム”!」
「させません! 私の効果でそのダメージを無効にします!」
ATK:1000
再び放たれる炎を、マシュが盾で防いでくれる。
残りライフ50では600ダメージすら受けられないトドメになってしまう。マシュの守りの力には常々助けられて来たが、今回その有難味を改めて感じていた。
「防いだか。ならばハウンドドッグの効果発動! フィールドと手札の3体を融合する!
古の魂受け継ぎし機械仕掛けの猟犬共よ、群れ成して交じり合い、新たな姿へ生まれ変われ!
融合召喚! 出でよレベル7、『
ATK:1800
ハウンドドッグのバーン効果は強制発動であるため、これを止める術は無い。だがそれを承知の上で、今度は三つ首の猟犬を呼び出した。攻撃力こそ低いが、モンスター相手に3回攻撃できる能力があるため、前述の双頭猟犬と組み合わせて相手フィールドを焼き払うのに最適なカードである。
古代の機械参頭猟犬(融合・効果モンスター )
星7
地属性/機械族
ATK 1800/DEF 1000
「古代の機械猟犬」+「古代の機械猟犬」+「古代の機械猟犬」
または「古代の機械猟犬」+「古代の機械双頭猟犬」
(1):このカードは1度のバトルフェイズ中に3回までモンスターに攻撃できる。
(2):このカードが攻撃する場合のダメージステップ終了時まで、相手は魔法・罠カードを発動できない。
「ヒヒッ、リバースカードを1枚セット。これでターンエンドだ」
しかし攻撃力はたった1800、清姫にもマシュにも及ばない。何を考えているのか、場に伏せカードを1枚出しただけで終わってしまった。
ケタケタ笑いながらも何かを仕込むだけで大人しく終わっただけに、不気味な印象が余計に強まる。
(何だ、何を考えているんだ……! 『ハルマゲドン・ギア』は自分のターンが始まれば自壊するデメリットがある。それを踏まえた上で全体攻撃持ちに殴らせるのが定石――なのに、何故攻撃しない!?)
その答えは、すぐに思い知る事になる。
【乱入ペナルティ2000ポイント!】
「俺のターン、ドロー!」
「またか!」
乱入者B:LP 2000
手札:2枚
フィールド
古代の機械参頭猟犬
メインモンスターゾーン無し
伏せカード1枚
『また乱入者かい!? 本当にこういうルールがあるならクソゲーも良い所じゃないか!』
「アリなんだろうよ、知らんけど!」
ナシである。
「俺は『融合』を発動し、手札の『古代の機械猟犬』と『沼地の魔神王』を融合!
古の魂受け継ぎし機械仕掛けの猟犬共よ! 群れ成して交じり合い、新たな姿に生まれ変われ!
融合召喚、出でよ下等生物を駆除する究極の猟犬! レベル9、『
神秘の渦よりまたまた現れる機械の猛犬。これまでは青系の色合いだったのに対し、今度は小豆色の機体を持っている。
ATK:2800
「『アルティメット・ハウンドドッグ』の効果発動! 融合召喚に成功した時、貴様のライフを半分にする! 喰らえ、偽善者ァ!!」
「ぐ、ぅっ!!」
「「マスター!!」」
立香:LP 50→25
白い熱線を浴びせられ、ライフを半減させられるカルデアのマスター。
ダメージでは無いためマシュの能力で防げず、大きくDボードを揺らされるが、辛うじて体勢を整える事に成功した。
だが、その表情はかなり険しい。
「クソ、ヤバいな……。あのモンスターはこれまでの雑魚3匹とはワケが違う」
「え?」
「あのモンスター、3回攻撃してくるぞ」
「!」
『トリプルバイト・ハウンドドッグ』と同じか、と思ってはいけない。
あちらはモンスター相手のみに3回攻撃できる。だが『アルティメットバイト・ハウンドドッグ』は、モンスター・プレイヤーを問わずに3回攻撃する効果を持つ。つまり極論、このモンスター1体のみで8000あるライフを0にできるという事だ。
古代の機械究極猟犬(融合・効果モンスター )(アニメオリジナル)
星9
地属性/機械族
ATK 2800/DEF 2000
「古代の機械参頭猟犬」+「古代の機械」モンスター1体
(1):このカードが融合召喚に成功した場合、相手のLPを半分にする。
(2):このカードは1度のバトルフェイズ中に3回まで攻撃できる。
(3):このカードが攻撃する場合のダメージステップ終了時まで、相手は魔法・罠カードを発動できない。
「ククク、どうだこの雄々しい力の塊は? 貴様の貧弱な雑魚とはワケが違う、いや次元が違う。この制圧兵器特有の破壊に特化したフォルム、素晴らしいだろう?
だがこれだけでは終わらん。おい!」
「おうとも! 永続罠『融合塹壕-フュージョン・トレンチ-』発動!!」
「何!?」
続けて『トリプルバイト・ハウンドドッグ』のコントローラーが発動したのは、融合モンスターをサポートするトラップカード。効果は“融合モンスター以外攻撃禁止”と“融合モンスターに直接攻撃権を与える”というもの。
状況を考えれば、最悪のカードと言わざるを得ない。
融合塹壕-フュージョン・トレンチ-(アニメオリジナル)
【永続罠】
(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、お互いのフィールドの融合モンスター以外のモンスターは攻撃できない。
(2):1ターンに1度、そのターンに融合モンスター以外のモンスターを召喚・特殊召喚していないプレイヤーの融合モンスター1体は直接攻撃できる。
「これは……っ」
「最悪ですね、確実に。これを防ぐ手立ては……!」
脂汗を流しながら後ずさるマシュと清姫。
改めてフィールドの状況を確認しよう。敵は乱入してきた3人、いずれもライフは2000ジャスト。
フィールドには「アンティーク・ギア」が合計4体、このターン攻撃できるのは3回攻撃できる1体のみ。
そしてモンスター破壊をトリガーにバーンを放つ永続魔法と、ダイレクトアタックを付与する永続罠が1枚ずつ。
マスターのフィールドにはマシュと清姫がいるが、清姫に防御系の能力は無い。
マシュは1ターンに1度ずつ戦闘と効果ダメージを無効にし、破壊も防ぐ。だが3回攻撃の前では回数が足りない。
戦闘ダメージを無効にできるのは1度だけ、効果ダメージも1度だけ。破壊されればバーンが飛び、そうじゃなくとも攻撃力2800が襲い掛かれば残りライフ25では受けきれない。
そしてトドメに直接攻撃も可能。2800×3=8400のダメージを今の状態で受ければ、現実世界の肉体も甚大なダメージを受ける事は間違いない。下手をすればショックで死ぬだろう。
「く……、弱った相手に乱入でリンチとは卑怯な!!」
「何とでも言え、勝てば良い」
「きひひひひひ、テメェみてーなアホはその程度だろうよ。死にかけのゴミを排除して何が悪い?」
「お前らそうイジめてやるなよ。ラッキーの使い込みだけでここまで来たんだ、自分のクソ具合に漸く気付いて吠えてんだよ。負け犬の遠吠えってヤツだ!」
「違いねぇ! ヒャハハハハハハハ!」
「……っ」
言い返したいが、言い返す材料が無い。出来て口ゲンカだ。
何より、どんな形であってもデュエルは進行中。覆したくとも今は相手のターンだ。防御カードも無く、仲間のサーヴァントもまだ遠い。
スキルは基本、1デュエル中1度だけ。“ストーム・アクセス”も例外ではない以上、ここに味方を呼び寄せる術は無く、即ち――万事休す。
「だが、ここで貴様にはチャンスをくれてやろう。良かったな、まだラッキーが続くぞ? 俺は装備魔法『
「な、戦闘ダメージをゼロにするカード!?」
緑の宝玉を煌めかせながら乱入者Cが発動したカードは、戦闘ダメージを無効にする装備魔法だ。無効にした数値分だけ自分のライフを回復し、ドローするオマケもあるが、「アンティーク・ギア」にしか装備できない欠点がある。
古代の補充装置(オリジナル)
【装備魔法】
「アンティーク・ギア」モンスターのみ装備可能。
(1):自分フィールドの装備モンスター以外のモンスターは攻撃できない。
(2):装備モンスターは以下の効果を得る。
●自分ターンのバトルフェイズ開始時に発動できる。このターン相手に与える全てのダメージは無効になり、その数値分だけ自分のLPを回復する。
またこの効果を発動したターンの戦闘で相手モンスターを破壊した時、カードを1枚ドローする。
ワケが分からない。この状況でそのカードを発動しなくとも、彼らは勝利できる筈だ。
困惑する立香に、教えてやろうと言わんばかりに敵はニヤリと笑った。
「お前に今から選ばせてやる」
「何?」
「『古代の補充装置』は効果を発動しない事もできる。つまりお前が生きるか死ぬかは俺の匙加減だ。これは分かるな?」
「……何が、言いたい?」
「簡単な事だ。お前に選ばせてやるんだよ。『英霊を犠牲に生き残る』か、『ここで8400のダメージを受けて死ぬ』かをなぁ!!」
つまりこの仮面男はこう言いたいのだ。「マシュと清姫を盾にする選択をすれば、ダメージを与えないでおいてやる」と。
このターン、もし『補充装置』の効果を使わなければ戦闘ダメージは合計で4000、効果ダメージは4400となる。今のライフで受けきれるワケが無い。だが効果を使えばこれがそっくりそのまま相手のライフに加算され、マスターは逆に25のままというワケだ。
無論、彼がこれを蹴れば8400ダメージをダイレクトアタックで受けて敗北となる。
「仲間を売って、俺だけ助かれって言うのか……!」
「ククク、さぁなぁ? 俺にはお前に仲間なんているように見えんが? 居るのは使い魔だけだろう?」
「テメェ……!」
道は2つ。
自分だけ助かるか、諸共に死ぬか。
以前よりサーヴァントの皆からは、マスターとしては時に非常な判断を求められる事が何度もあった。曰く、マスターなら時にはサーヴァントを捨て駒にしろ、と。
「さぁ、どうする!」
「……っ」
確かにサーヴァントを盾にする、これは合理的だ。マスター無しではサーヴァントは戦えない。生き残ってもやがて衰弱し、斃れる。これは避けようが無い。ならば指令であるマスターが生き残る選択をするのは当然である。
一瞬心配そうな顔で自分を見るマシュと清姫が視界に入るが、彼女達の目も「自分達を切り捨てて生き残れ」と雄弁に物語っていた。
だが……。
「断る」
「何?」
「聞こえなかったか? お前達に売るような仲間はいない! 来るなら来い!!」
「マスター!?」「ますたぁ!?」
怒りを露わにするかの如く、青年は吠えた。
ここでマシュ達を売るのは簡単だ。だがそれは彼女達の信頼を裏切る事に他ならない。そんな事は、彼には出来なかったのである。
加えて言えば、例えその選択をした所で乱入者Cが律儀に約束を守る道理も無い。仲間を売らせて安堵した所でトドメを刺す、そんな趣味の悪いやり方を否定する材料なんてどこにも有りはしないのだ。
助かる見込みが無いのなら、せめて最後まで自分らしく。マスターの瞳は、雄弁にそう語っていた。
「チッ、そうかよ! なら8400のダメージで死ねや! 戦闘ダメージを0にできるのは1度だけ! 5600は最低でも受けて貰うぞ!
バトルだ! 俺は『フュージョン・トレンチ』の効果発動! 融合モンスターはこのターン、ダイレクトアタックできる!」
来たる衝撃に備え、身を固くするマスター。歯を食いしばり、現実世界にフィードバックする精神ダメージと肉体ダメージを堪える体勢に入った。
来るなら来い。あんな機械仕掛けの犬っころなんかに、絶対負けない!
「はーい、そこまででです♪」
だが次の瞬間、周囲一帯に桜の花びらをモチーフにしたモニター画面が広がった。
右を向いても左を向いてもモニター画面、前も後ろもモニター画面。上も下もモニター画面。360度全てが、くるくると回転する桜の花弁をモチーフにした映像を流す、モニター画面に覆われていた。
「これは……!」
「これぞ私のスキル、『BBチャンネル・INサイバーワールド』でっす! デュエルが1対1で行われていない時、自分または別のプレイヤーを乱入させる事が可能になるのです!」
そこに居たのは4人目の乱入者。何でも出来るラスボス系後輩を自称し、幾度もトラブルの火種になったり、逆に謎の健全空間を作ってマスターを支援したりと、何かと扱いが難しい紫の長髪を持つ少女が。
彼女の名はBB、月からやって来た健康管理AIサーヴァントである。苦手なものは殺生院。
BBチャンネル・INサイバーワールド(オリジナル)
【スキル】
LPを半分払って発動する(乱入ペナルティとして扱う)。
(1):自分、または別のプレイヤーをデュエルに乱入させる。
(2):デュエルが同じ人数同士で行われてない場合、乱入時に相手ターンを終了し、自分のターンを開始する。
【乱入ペナルティ2000ポイント!】
「っ……!」
BB:LP 4000→2000
水色の電気に全身を蝕まれ、一瞬顔を顰めるBB。
しかしデュエルディスクに「DRAW PHAZE」の文字が浮かんでいる事を確認すると、にんまりと笑った。
「はい、と言う訳でBBちゃんです! いやービックリしましたよ、ようやっと見つけたと思ったセンパイが、今まさにリンチで死にそうになってるんですから! 慌ててスキルを組み立てて突撃しちゃいました♪」
『立香クン、乱入って合法なのかい?』
「さぁ……」
しつこいようだがナシである。
「まったくぅ、折角丹精込めてカッコ良く作った本来のスキル『BBチャンネル』じゃなくて急造のスキルを使わせるなんて、悪い敵さんですねぇ!」
「貴様、何者だ! お前のような英霊、データに無かったぞ!」
「そりゃあ当たり前ですよ。私、サーヴァントではあっても英霊では無いので!」
「何!?」
「と言う訳で、スキルの効果で私のターン! 同じ事やったんですから文句はナシですよ!」
「な、何故貴様その事を――!」
乱入者C
LP 2000
手札:3枚
フィールド
古代の機械究極猟犬
メインモンスターゾーン無し
古代の補充装置
アンティーク・ジャスティス・アサルト(オリジナル)
【スキル】
(1):乱入ペナルティを支払い、デュエルに乱入する。
最初の自分のターン、「アンティーク・ギア」カードの効果が発動できなかった場合、LPを半分にする。
目の前を撫でるように手札を表示するBB、モンスターカードが3枚と魔法カードが2枚だが、彼女の目的のカードは既にドローするまでも無く握られていた。
左から2番目のカードを軽く指でタッチし、発動のサインを送る。
さぁ、逆転劇のスタートだ。
「まずは『
二重召喚
【通常魔法】
(1):このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。
「これにより、手札から『
ATK:1700
ATK:1500
召喚ゲートを通り、フィールドに現れる馬頭の鞭使いと緑の鳥人。
フィールドを一望した後、BBは指を三本静かに立てた。
「それじゃ、センパイの体力はレッドゾーンですし、このターンで3人ともサクッと倒しちゃいましょう!」
「やれるモンならやってみろ、メスガキの分際で!」
ナメた口を、と乱入者Aは鼻で嗤った。英霊で無かろうが所詮は使い魔、恐るるに足らない。
「その程度の攻撃力で何ができる。初戦は1度デッキに戻らねば使えぬ烏合の衆よ!」
妄想だ、と乱入者Bは吐き捨てた。今、融合モンスター以外は攻撃できないのだから。
「剣闘獣の栄光は過去の物! 貴様如きの出番など無いわ!」
有り得ないな、と乱入者Cは見下した。盤石の体勢を整えたこの状況に打開策は無いと。
三者三様の返答を返す中、そんな発言を特に気にせず、BBは召喚された2枚のカードを手に取った。
「“グラディアルビースト”は指定された素材と、それ以外の必要数のモンスターをデッキに戻す事で、『融合』魔法を使わずエクストラデッキから特殊召喚できます。
厳密には融合召喚ではありませんが、融合モンスターである事には変わりないため『フュージョン・トレンチ』の影響はありません。残念でした!」
「バカな!?」
「私は『ダリウス』と『ベストロウリィ』をデッキへ戻します。
古に生きる猛禽の闘士よ、戦車の魂にその身を委ね、歴戦の勇士となれ!
融合召喚!! 出でよレベル6、『剣闘獣ガイザレス』!!」
『GAAAAAAAAAAAAA!!』
ATK:2400
2体の獣の闘士が神秘の渦で重なり、赤髪の鳥人間を生み出す。大空に轟く咆哮を放ちながら旋回するこのモンスターこそ【剣闘獣】の切り札であり、敵陣を何の制限も無く更地に変える恐ろしい怪物である。
「無駄な足掻きを。この瞬間、『古代の機械双頭猟犬』の効果発動! そのモンスターにギア・アシッドカウンターを乗せる!」
剣闘獣ガイザレス:ギア・アシッドカウンター 0→1
「これでオレ様達のモンスターに攻撃しても、ダメージ計算を行わず破壊だ!」
ガチン、と錆びついた歯車をムリヤリに組み込まれる緑の大型鳥人。
これで『ガイザレス』はバトルの因果が始まるより前に破壊される事になった。
だが。
「無駄でーす! 『ガイザレス』の効果発動! 特殊召喚した時、フィールドのカードを2枚破壊するのです! 破壊するのは『古代の機械双頭猟犬』と『古代の機械究極猟犬』!」
お返しとばかりに翼から放たれる赤い羽根の弾丸、雨のように浴びせられたその掃射により、2匹の多頭機械犬は爆発と共に粉砕されてしまった。
剣闘獣ガイザレス(融合・効果モンスター)
星6
闇属性/鳥獣族
ATK 2400/DEF 1500
「剣闘獣ベストロウリィ」+「剣闘獣」モンスター
自分フィールドの上記カードをデッキに戻した場合のみ、EXデッキから特殊召喚できる(「融合」は必要としない)。
(1):このカードが特殊召喚に成功した時、フィールドのカードを2枚まで対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
(2):このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時にこのカードを持ち主のEXデッキに戻して発動できる。
デッキから「剣闘獣ベストロウリィ」以外の「剣闘獣」モンスター2体を特殊召喚する。
それだけでは終わらない。乱入者Aの場の永続魔法が光を放つと、イラスト部分から太いビームが放たれた。ビームは空中で二股に分かれ、赤と緑の宝玉が埋め込まれた仮面男にそれぞれ命中する。
「ごはぁっ!?」
「ぐわぁああああああああ!!」
言うまでもない、『古代の破滅機械』の効果である。
敵味方問わず全てに作用する効果は、諸刃の剣だ。
乱入者A:LP 2000→600
乱入者C:LP 2000→0
「み、自らのカードの効果でっ!?」
「あり、え、ない……!」
2800の攻撃力はそのままプレイヤーに。下種な笑みでカルデアのマスターを追いつめようとしていた男は、うわ言のような言葉を残して電脳世界から排除された。
「さぁ、バトルですよ!」
「ば、バカが、カウンターが乗ってる事を忘れたか!」
「えー、こんなオンボロ歯車に何ができるんですー?」
ギア・アシッドカウンターに関するエフェクトは『ダブルバイト・ハウンドドッグ』固有の能力だ。だがそれもたった今破壊された。最早この赤錆まみれのギアは、不細工な装飾品以上の意味を持たない。
「それじゃあ2人目、排除しちゃいましょう! 『ガイザレス』で『トリプルバイト・ハウンドドッグ』を攻撃! さよならっ!」
「ぐぅっ!」
こんな敵にかける慈悲は無い。遠慮無く鳥人の爪で三つ首の鉄犬を引き裂いて貰う。
乱入者B:LP 2000→1400
「さぁ、お仲間の後を追いなさーい!」
「あばーっ!!?」
当然、破壊された事で味方のカード効果が再び発動。今度はビームが分かれる事無く、黄色の宝玉を埋め込んだ乱入者の背中を直撃した。
乱入者B:LP 1400→0
「話が違うぞコンチクショー!!」
恨み節を述べて永続罠ごと
「これで2人。最後は貴方です」
「くっ!」
「ところでご存じですか? 乱入って本来デュエルのルールには無いので、スキルであろうとムリヤリやっちゃうとシステム的に弱くなってしまうって事を。具体的に言うとディスクのハッキング防止のソフトに隙ができます」
電子機器である以上、デュエルディスクには常に外部からのハッキングの危機に晒される。これを防ぐため、ディスクには強固なファイアウォールが存在している、という事はあまり知られていない。
しかし乱入というルール上に無い反則行為を行うと、このファイアウォールに穴が生じ、そこが弱点となってしまう。
BBが事前に乱入しないよう忠告していたのはこれが原因だ。いくら彼女でもシステムの穴を個々のプレイヤーごとに完全に防ぐ事は出来ない。仮に出来たとしても、その時BBは確実に戦力外どころか重石になってしまうだろう。なので念押ししたのである。
無論、こうして乱入したBB自身とてシステムの弱体化の例外では無い。現在は特に問題こそ発生していないが、2度と御免だと、彼女は内心で口をへの字型にしていたのであった。
「乱入で袋叩きなんて悪い事をする人には、タップリと悪いウイルスを送っちゃいました♪ 死にはしません、三日三晩ぐらい激痛で眠れなくなる程度の電脳ウイルスですので、ご安心を♪」
「き、貴様よくも……! 乱入してデュエルの場をかき乱した上に生身の肉体にまで手を出すとは、このクズめ!」
「……鏡見た事あります?」
流石のBBも、これには真顔。
さて、場の状況を整理しよう。
最初に乱入した男の場に残るのは攻撃力1000の猟犬が1匹。マスターが清姫かマシュで攻撃すればLPが600しか残っていないため勝利する事は可能だ(持ち主が敗退したため、『融合塹壕-フュージョン・トレンチ-』は消滅している)。
しかし彼の手札には逆転のカードが眠っていた。
(だが、おれの手札には『オーバーロード・フュージョン』がある。これで『古代の機械猟犬』3体と『古代の機械双頭猟犬』を素材に、貴様らに悪夢を見せてやろう!)
アンティーク・ギアは上級モンスターも強力だが、エクストラデッキのバリエーションにはやや乏しい側面がある。しかしその欠点を補ってあまりある凶悪なモンスターが1体。制圧兵器と表現できる程のパワーカードがあるのだ。
(これであの女は攻撃終了、スピードデュエルだからメインフェイズ2も無い。そしてあの盆暗マスターのターンになっても無駄。おれのもう1枚の手札は『
古代の機械防人(効果モンスター)(オリジナル)
星5
地属性/機械族
ATK 1300/DEF 2400
(1):自分フィールドの「アンティーク・ギア」が攻撃対象になった時に発動できる。
対象となった自分のモンスターをリリースし、このカードを守備表示で特殊召喚する。
このカードはこのターン破壊されず、相手はこのモンスター以外を攻撃対象にできない。
(2):このカードが攻撃する場合のダメージステップ終了時まで、相手は魔法・罠カードを発動できない。
次のターン、確実に生き残れるカードに逆転のカード。乱入者Aは思わずほくそ笑む。
無理も無い、確約された勝利が目前にあるのだ、誰だって似たような反応をするだろう。
「あっれー? もしかして乱入者さん、『次のターンで逆転してやる』みたいな事を考えてますぅ?」
「ぬん?」
「残念! 次のターンなんてありまっせーん!
『ガイザレス』の効果発動! バトルフェイズ終了時にEXデッキに戻り、デッキから『ベストロウリィ』以外の仲間を2体、呼び出すのです! 出でよ、『剣闘獣ラクエル』! そして『剣闘獣ムルミロ』!」
ATK:1800
ATK:800
だが逆転が出来るのは『自分のターンが回って来た』時に限定される。
“グラディアルビースト”の神髄は戦闘を介した新たな効果の発揮にある事を、この男は知らないようだ。
唯一、3番目の乱入者はデッキの仕組みを知っていたようにも見えたが、彼は真っ先に敗退してしまったのであった。
「仲間の効果で特殊召喚された事で、『ラクエル』と『ムルミロ』の効果発動! まずは『ラクエル』の攻撃力は2100にアップ!」
ATK:1800→2100
「そしてこっちが本命! 『ムルミロ』が“グラディアルビースト”の効果で特殊召喚された時、相手モンスター1体を破壊します!」
「なっ!?」
「はい、さようならワンちゃん♪」
火の輪を背負った獣の隣、魚人のような闘士の背負った砲台から放たれた水圧砲。それによって残ったメカドッグも粉砕されてしまう。当然、まだ残った永続魔法の効果は有効であり……。
「『
「ギャァアアアアアアアアアアアアアアア!!」
LP 600→0
デュエル終了のブザーが鳴らされるのであった。
「貴方達に、デュエリストを名乗る資格はありません♪」
勝者:BB、立香
剣闘獣ラクエル(効果モンスター)
星4
炎属性/獣戦士族
ATK 1800/DEF 400
このカードが「剣闘獣」と名のついたモンスターの効果によって特殊召喚に成功した場合、このカードの元々の攻撃力は2100になる。
このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時にこのカードをデッキに戻す事で、デッキから「剣闘獣ラクエル」以外の「剣闘獣」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。
剣闘獣ムルミロ(効果モンスター)
星3
水属性/魚族
ATK 800/DEF 400
このカードが「剣闘獣」と名のついたモンスターの効果によって特殊召喚に成功した時、フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する。
このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時にこのカードをデッキに戻す事で、デッキから「剣闘獣ムルミロ」以外の「剣闘獣」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。
☆
「これに懲りて、敵さんも迂闊に乱入はして来なくなるでしょう」
「ありがとう、BBちゃん。助かった」
「いえいえ、センパイに死なれるとこっちも色々不都合なので。具体的に言うとマイブームのオモチャが無くなる」
「ちょっとは歯に衣を……」
息も絶え絶えながらもツッコミを入れるマスター。サーヴァントとのコミュニケーションの円滑化は彼の大切な仕事の1つである。
「先輩、大丈夫ですか……、って聞くまでも無いですよね。すぐログアウトして治療を受けましょう」
「マシュさんの言う通りです。カルデア側から同行した他の方々に連絡を入れて、皆で撤退しましょう」
『こっちとしてもそれには賛成だね。そこでのダメージは現実に反映される、蓄積し過ぎれば帰還した瞬間にお陀仏になっちゃうよ』
「ぬぅ……」
正直に言えば、既に肉体的には辛い。電脳世界なので肉体と言うのも何かおかしい気がするが、兎に角キツい。Dボードの上でバランスを取っているのも限界である。
「そうだ、な。一回ログアウトしよう。ダ・ヴィンチちゃん、全員にメッセージを」
『OK』
こうして、最初のスピードデュエルはトラブルとハプニングを多々抱えながらも、何とか終了を迎えたのであった。
☆
「……座標特定完了。少々分かりにくい場所にあった所為で遅れてしまった、すまない」
「いや良い。見つかったんだろう?」
「ああ。俺と彼の縁が残っていたお蔭、かな」
「兎に角急ごう。追手はまだ残っている。追いつかれるより前に――」
『いたぞ!』
『こっちだ!』
「しまった!」
「パスの安定度は!」
「93.6%、後3分もあれば100%になるんだが……!」
「やむを得ない、それで行こう。負傷者もいるんだ」
「――分かった。移動しながらパスを繋げる。しっかり掴まってくれ!」
「分かった、頼むぞ!」
「恐らく、移動中も戦闘になる! 行くぞ!」
「ああ!」
To be continued
いわゆる「乱入すればおk」な展開を潰すためのお話とも言う。