Fate/Duel Order 作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民
管制室が難問を突破した事で浮かれ、胴上げしそうな程の熱気に溢れていた時、天才レオナルド・ダ・ヴィンチは1人、敵拠点の解析に入っていた。
別に祝いたくなかったワケでは無い。ただ単に良い解析データを持って来て、よりマスターを喜ばせてやろうと思っただけである。
「これは……!」
そんな彼女(?)は、解析結果を見て眉を顰めた。
「マスター君、これを見てくれ」
「?」
ダ・ヴィンチはそう言ってモニターに解析した内容を表示する。
ファントムに下げていた頭をそちらに移したマスターは、思わず怪訝な顔をした。
「これは……キャメロット?」
「しかも第六の特異点、エルサレムの……!」
次いで白亜の城に縁のあるマシュとランスロットも唖然とした表情を作る。
モニターに映っていたのは、砂漠の特異点エルサレムに建立された神城キャメロット。かつて女神となったある王が治めた土地であり、円卓の面々にとっては因縁の場所だ。
しかしあれは嘗ての人理修復で消滅した筈。何故、今になってまた姿を現したのだろう。
「ダ・ヴィンチちゃん、これは一体……」
「強いて言うなら、電脳特異点ってトコかな」
「電脳特異点?」
「うん。特異点なんだけれど、電脳世界にある世界、それがこれだ。デジタルワールドに再現されたキャメロットって所かな」
「……」
「レイシフトより、ヴレインシステムを使ってダイブする形になるね」
コスト削減で良いねぇ、とおどけたように天才は笑うが、マスターとしてはそれどころじゃ無い。
「電脳特異点、ね」
1つだけ、彼にはその存在に心当たりがあった。
海底油田セラフィックス。
かつて、ある事情により悪しき実験が行われ、海底に沈んだカルデアの資金源の1つ。陰で時計塔に嗅ぎ回られないよう活動していた海底油田。
それこそが、電脳化されて危険な特異点と化した舞台であった。今は2017年の初めに解体された事になっているため、何も残っていない。
「BBちゃん」
「同じ考えのようですね、センパイ」
どうせいるんだろう、と声をかければ、いつの間にかそこには怪しげなローブと白いレオタードのグレートデビルな自称後輩が。
彼女も何か思い当たるようで、マスターとひそひそ話を始めた。
「ですが、もしそのカンの通りだったとしても、黒幕は誰なのでしょう?」
「んー、そこなんだよね……」
セラフィックス、引いてはキアラとの一件はBBが裏から手を回し、約4ヶ月分の事象を無かった事にした。つまり電脳特異点を知る者はマスターとBB、そして数名のサーヴァントくらいなのである。スタッフもサーヴァントも、勿論カルデア側も知らない事。マスターだって虚数化の影響でハッキリとは覚えていないのだ。
無かった事になったからカルデアのデータバンクを漁っても何も残っていないし、本当に詳しい事はBBくらいしか分からないから再現もできない。
「……一瞬、キアラが復活して何かやったのかとも思ったけど」
「んー、運命即死耐性がありますから無いとは言い切れませんが……、あの殺生院が? こんな殺伐した手で?」
「だよねー」
ビーストと化したキアラなら、虚数処理されても辛うじて存在の痕跡程度は世界に残る。
だが彼女がやったにしては、この強襲の内容は『普通すぎる』。彼女の十八番である潜んで機を伺う手法にしては序盤から派手過ぎるし、本当に彼女が黒幕ならもっとR-18な要素があって良い筈だ。
それが無いという事は、キアラの仕業と考えるのは難しい。
もっともマスターはそのセラフィックス、そして彼女の事に関する記憶にモヤがかかっているため、断言する事もまた難しいのだが。
「となると、セラフィックスの一件は無関係?」
「ええ、多分……」
いつも自信満々なBBにしては珍しく歯切れが悪い。
こういう場合、彼女は本当に困っているのだ。本当に珍しい事この上無い。
「とは言え、水着の私のようにどっかの領域外の誰かから要らない事をされた元職員さん、って線もありますが、それを言い出すとキリが無いですし」
今となっては懐かしいルルハワの一件を想起する。
邪神と女神の力を授かり多大な有難迷惑をやろうとした彼女だったが、最後の最後で詰めを誤り敗れたのだ。正直、あの時は本当にダメかと思った。もし彼女がこちらに勝率を残さないという、彼女のポリシーを捻じ曲げた徹底ぶりだったら勝てなかっただろう。
ちなみに新しいスキルのせいで暴力のマルターエゴの特攻範囲に入って、更に天敵と化してしまったのはBBちゃんらしいと言うべきか。
「取り敢えず、行ってみよう。何があるか分からないなんていつもの事だ、あるだけの情報を掻き集めて乗り込むよ」
「あらほいさっさ~♪」
BBの気楽な返事に救われた気持ちになれるのが、今は有り難かった。
☆
眩い光と共に視界が開け、マスターは電子の地に降り立った。
眼前にそびえる白亜の城を前にして、後輩が点呼を素早く取って状況を説明する。
「到着しました、先輩。今回の先発隊、予定通り全員います」
傍らに控えるのはマシュの他に屈強な騎士の面々。
ランサー・アルトリア・ペンドラゴン、セイバー・アルトリア・ペンドラゴン・オルタナティブ、セイバー・ランスロット、セイバー・ガウェイン、セイバー・ベディヴィエール、セイバー・モードレッド、アーチャー・トリスタン。
キャメロット城、という事で先発メンバーは円卓の一同に決定された。例え1500年前に実在した城では無くとも、彼らの知識は助けになる筈だ。
『あーあー、マイクテス、マイクパス、もといマイクテス。こちらダ・ヴィンチちゃんだ、そっちは大丈夫かな? 既に三蔵法師を初めとして増援の準備もできているよ。やー、存在証明がいらなくてレイシフトみたいにコストがかからないってのは良いね、本当に』
「ありがとう、ダ・ヴィンチちゃん」
万一その知識が役立たなくとも、レイシフトと異なり存在証明が不要なため、後から増援を送れるのは有り難い。
まぁ道案内が無いなんていつもの事なので、マスターとしては「キャメロットが別物でも力を貸してくれるだけで嬉しい」ぐらいの認識なのだが。
『ただ気を付けて欲しい。レイシフトならある程度は召喚されるポイントをこちらで自由に設定できるけど、電脳特異点はそれができない。君達が最初に現れた場所がアンカーポイントになって、そこにしか増援が送れない。そこは気を付けてくれ。帰る時も同様だ』
「了解」
つまりピンチになった段階じゃあ、もう遅いって事だ。アンカーポイントから離れた場所で危機に陥れば、カルデアからの増援は宛にならない。到着前にジ・エンド。帰還も叶わない。
まぁ、これまでと何ら変わらないのである。ピンチになったら奇跡に頼るしか無い。先日のアンティーク・ギア使いの仮面男達の言う通りなのが、少々歯痒かった。
「うん、やっぱりあの聖都の城だよね」
「はい。エルサレムで見た城と一致します」
そしてヴレインシステムで辿り着いた先は、生前にあったそれとは異なる特異点のキャメロットであった。
と言っても当時のそれとは大きく異なる。
まずエルサレムのキャメロットは砂漠の真ん中に青々と茂った草地の上に建てられていた。
だが再現されたキャメロットは野暮天な荒野の岩肌の上にあり、文字通り草一本も無い。
それに白亜の城壁だってボロボロだ。あの神々しさすら感じる純白の外壁が見るも無残な姿になっている。
(――まるで、攻め落とされた後のようだ)
そんな感想を抱いても仕方が無いかも知れない。
それ程までに、このデジタル世界のキャメロットは崩壊していたのだ。
現存していたというイフのキャメロット城を再現した、と言われたら信じてしまうかも知れない。
「おいおい、コレがキャメロットかよ? オレの知ってるキャメロットと随分違うじゃねぇの。ンだこりゃ、トーシロの作った贋作か?」
「まるで数百年の時を経たかのようだ。もし現在も残っていて修復もされていなければ、このような見てくれになっていたのかも知れない」
怪訝な顔をするモードレッドの後に、ガウェインの冷静な判断が続く。
凡そマスターの想像したのと同じ内容であり、やはり彼らにとってもこのキャメロット城は異質な物に映っているのだろう。
「ダ・ヴィンチちゃん、周囲に敵影は?」
『んー、見当たらないね。動くモノすら無い』
敵の存在は無い。罠があるならこの通信で伝えて来るだろう。ならばもう進むしか無い。
行こう、と皆に伝え、マスターは最初の一歩を踏み出した。
眼前にそびえ立つ筈の城門は、やはり同様に朽ち果てていた。
予想通りと言うべきか、城の中もやはり風化していた。
草どころか緑は欠片も見当たらず、芸術品のように美しかった城内は軒並み崩れ、生き物の気配すら無い。
「敵の拠点の筈、ですよね?」
「その筈、なんだけど……。人気が無いにも程がある……」
何かで気配とは素肌から放たれる微弱な電気である、と読んだ事がある。
ここがデジタルワールドなら、それを感じられない世界というのなら納得できた。
だが人っ子一人いないというのは奇妙だ。耳が痛くなる程の静寂には、まるで全ての命が煙のように消えたような錯覚すら覚えかねない。
「む、井戸の水まで再現されいるのか」
「これは……ボウフラが湧いていますね。この世界で最初に見た命がこれとは、私は悲しい」
「だが蚊がいるという事は、その蚊のエサになるものがあるという事でもある。果物か、動物か。もっともデータで再現されただけかも知れないが」
「いずれにせよ、ボウフラは悲しい」
ランスロットの冷静な分析に、哀愁のこもった声で返すトリスタン。
この電脳特異点で飲料水の必要性があるかは定かでは無い。だが、ボウフラまで再現する必要は何なのだろうか?
「兎に角、進もう。何か見つかるかも」
「私の直感では、件の獅子王とやらが居た場所に何かありそうな気がするな」
セイバー・オルタの発言には説得力を感じる。
何せ別側面にも程があるとは言え本人であるし、加えて言えば獅子王は女神だ。例えキャメロットが崩壊しようと、恐らく消滅するのは最後の方であったであろう。
ならば、まだ特異点としての特色が残っている可能性が最も高いのは獅子王の鎮座していたあの王座だ。
そう願って彼らは無言で城内を進む。
門を潜るが、錆びついた扉の音が鳴っても、石の床に靴音が響いても、兵士の1人だって出てこない。
中庭を通り、階段を抜け、廊下を歩み、それでもなお命の1つも無い。
本当にここが敵の拠点だったのか、もうとっくの昔に放棄したのではなかろうか、そんな疑問すら浮かんだ。
右を見る。ヒビの入って今にも崩れ落ちそうな石壁がある。
左を見る。割れて外の風景が丸見えの窓ガラスのサッシがある。
前を見る。爆弾でも投げ込まれたかのように散乱した瓦礫がある。
正直に言えば、こんな場所に住む奴の気が知れない。ここが故郷なら納得できるが、この城に思い入れがあるのは円卓の騎士である、襲撃者では無い筈だ。
その疑問点に何度も内心首を傾げながら、やがて一行は大きな扉の前に出た。
ここだけは他と異なり、非常に綺麗な状態を保っている。
言うまでも無い、獅子王にして女神、ロンゴミニアドの座す王の間だ。
「……開けるよ」
そう声をかけ、マスターは重厚そうな扉に手を掛ける。
固唾を呑み、一同はギギギと錆びた音を立てて開く扉を見守った。
☆
女神の間は扉同様に綺麗に保たれていた。ここだけを見れば、外の崩壊具合が嘘のようだ。
「……女神ロンゴミニアドは、いないようですね」
「だね」
部屋の最奥、嘗て金髪の獅子王がいた場所には誰もいない。決戦の際に見えた最果てを示す真っ白い地平も無く、ただただ暗闇が広がるのみ。
部屋の各所を調べるために円卓の騎士達も散らばるが、特に何も見当たらない。やはりここは既に放棄されたアジトなのだろうか。
「……ん?」
いや、違う。あの先に、あの暗闇の中に何かがある。
よく目を凝らし、恐る恐る前に進むと、バルコニーのように外へ少しだけ固まった闇が飛び出ているようだ。さながら黒い大理石の床か。
「まだ何か……、何か先にある」
黒いバルコニーは四畳半程度の面積だろうか、妙に横に長い。
敵の奇襲を警戒しつつマスターと護衛のマシュは、正面から見えなかったバルコニーの横を見た。
「待っていたぞ」
「――っ!?」
そこには2人のヒトがいた。
手前には胡坐を掻いている真っ黒な男。腰まで伸ばした、金属と見紛う程に硬質な黒髪。まるで夜の闇を溶かしたかのような漆黒のコートにフィンガーグローブ、無地の黒シャツと黒ジーンズと黒靴。この世の悪性を懲り固めて生み出したと表現できそうな底知れない黒い瞳。
もし、闇黒や邪悪に肉体が与えられたのなら、こんな感じに擬人化するのでは無いだろうか、という姿の男。
そしてそんなダークカラーの男の傍には、神々しき金髪の女神が1人、壁にもたれかかっていた。
「女神、ロンゴミニアド――ッ!」
神秘的な気配こそ薄れていたが、間違える筈も無い。
嘗てエルサレムで激戦を繰り広げ、その果てに聖剣と共に
獅子王アルトリアが、そこにいた。
「何っ!? 獅子王がそこに!?」
「マスター、マシュ、こっち来い! 嫌な予感がしやがる!」
「存外、時間がかかったな。俺の予想より1時間は遅い。城の探索に夢中になったか? 詰めデュエルに梃子摺ったか? まぁ良い、お前が来たからには目的は果たせた」
よっこらせ、と黒い男が立ち上がり、獅子王に肩を貸す形で彼女を立ち上がらせる。
素早くマスターとマシュはそれに合わせてバックステップで距離を取り、駆け付けた円卓の騎士達と合流した。
悠々自適と言うべきか、泰然自若と言うべきか、黒い男は殺気も覇気も出さずに腕利きの戦士達の前に立つ。
「先輩この人、サーヴァントです……!」
『データ分析完了、その黒い男は霊基はバーサーカー、擬似サーヴァントだ。気を付けるんだ、底知れぬ異質な魔力を感じる!』
真面目な顔で盾を構えるマシュに、ダ・ヴィンチの補足が加わる。
マスターである彼もそれは感じていた。目の前のこの男からは何か、そう決して相容れぬ異様なエナジーを感じた。それが何なのかは分からないが、例えて言えば、似たようでいて決して交わらぬ世界のダークヒーローな主人公、そんな印象を抱けた。
「説明ご苦労、如何にも俺はバーサーカー。当然、真名は明かさない。恐らく君達とは今後長い付き合いになるだろう、よろしく」
「…………!」
「睨むな、少年。敵対するならさっき殺している」
「……味方、という事でしょうか?」
「それは無いよ、盾の少女。俺は君達の敵、もっと言えば
油断無く全員が武器を構える。いつでも飛び掛かれるように、一部の隙も無く。
それに対し、男はひらひらとおどけるように手を振った。
「おお、怖い怖い。伝説に名を残す騎士達に睨まれたら、いくら俺でもビビッちまうよ。
だがまぁ待て、円卓の騎士達。俺は今、お前らと戦うつもりは無い。ここにはただ、彼女の最期を看取りに来ただけだ」
「何?」
この男は今、何と言った?
獅子王を? 看取る?
果たして何を言っているのかは分からないが、敵側の人間が言って良い事でない事くらいは分かる。
「ふざけた事を、そもそも何の意味があってかは知らんけど、ここを創ったのはお前らだろう」
「その通りだ。だが俺が創ったワケじゃないし、彼女をゴミのように打ち捨てたのは仲間のセイバーのマスターだ。ならバーサーカーの俺が彼女の最期に付き添って何が悪い?」
一触即発の空気が流れる。
マスター側としては、彼は至極怪しいし、ここで倒しておきたい。
何だか知らないが、この男からは危険な雰囲気を感じる。ここで逃せば後々になって敵になった際、とても大きな障害になりかねないだろう。
見た目は多分、20歳に満たないくらいの青年だが、サーヴァントの外見年齢はアテにならない事は経験からして明らか。マスターはこの男が、正直に言って手を取り合えるような友人になれるとは思えなかった。
「っ、ゲホッ、ゲホッ!!」
「大丈夫か?」
「一応、な……」
獅子王が咳き込む。
かなり乾いた咳に少量の血が混ざっており、それだけでも彼女がかなり弱っている事が伝わって来た。
時間が無いか、と男は懐からカードを1枚取り出すと、それを実体化させる。
淡い光が長方形の紙片から発せられ、やがて優しい光を放つ小さな球と化した。
「何を――」
「これは擬似霊核だ。サーヴァントで無い者を一時的にサーヴァントにできる。当然、魔力を回すマスターが必要になるが、女神である彼女なら短時間ならその程度は自分で賄えるだろう」
「すまない、な……」
「言った筈だ、俺は自分の意志でお前を看取りに来たと。多少のサポートくらいするさ」
光の球は緩やかに女神の体内へと侵入する。
すると明らかに悪かった彼女の顔色が、少しずつ明るくなっていった。
「どうだ?」
「ああ、良い。とても良い。熱せられた鉛の鎧を脱いだかのようだ」
「重畳だ。しかしマスターとなる者がいない、長くは続かん」
「――お前はなってくれんのか?」
「冗談。俺はただのサーヴァントだよ」
「ただのサーヴァント、か」
クスリ、と女神ロンゴミニアドは苦笑する。
彼女はそれ以上の追及をやめ、カルデアのマスター達の前に立ち塞がった。
「さて、時間が無いそうだ。カルデアの使者達、暫し私の言の葉に耳を傾けてはくれないか? これから話すのは、ここで起きた真実だ」
円卓の騎士達は手にした武器をゆっくりと下げ、警戒こそ解かないものの、聞く姿勢を整える。
バーサーカーは獅子王の奥で、どっかりと胡坐を掻いて座っていた。本当に何もしないつもりなのだろう。
女神ロンゴミニアドは、神妙に口を開いた。
☆
「あれは1年程前の事だ。唐突にこのキャメロットが電子空間に創られた。特異点のキャメロットを下地にしたのだろう、そこに私も召喚された。……女神を召喚とは、何とも不遜な話だが」
呆れたように獅子王は肩を竦める。
しかしここに居たのは彼女だけだったと言う。
「――最初の半年程は、微睡んでいるだけであった。起きていても起きている実感が無かった。恐らく魔力が殆ど無い状態だったのだろう。ずっとそんな感じであった。今思えば不幸中の幸いだった。誰もいないキャメロットに、独りぼっちだったのだから」
エルサレムの異変で、最終的に円卓の騎士達は全員斃れた。
モードレッドは打ち合いの果てに力尽き。
ガウェインはベディヴィエールに後を託し。
トリスタンはハサンの捨て身の業に化生へ変わり。
ランスロットとアグラヴェエインは相撃ちに近い形で、時間差で倒れ。
ベディヴィエールは己の罪を償い、その魂を燃やし尽くした。
本当に最後の最期まで残っていたのは、女神となった彼女1人だけだったのだ。
「それからボロボロの女神の神核の力で生命を保ちつつ少しずつ魔力を溜め続け……、明確に意識を自覚できたのは、3ヶ月程前だ」
「3ヶ月前は、アーチャーが召喚されランサー以外の6騎が揃った時だ。恐らく、一時的に7騎目のランサーとして彼女が聖杯に承認され、魔力を受けたのだろう」
「聖杯に?」
「紛い物のパチモン以下だが、ウチのボスが大聖杯を作った。お前らのトコで適切に修復すれば、小聖杯もどき5~6個分くらいにはなるだろうよ。本物の大聖杯には全く及ばないがな」
「彼女は……、獅子王はお前らの仲間のランサーでは、無い?」
「そう言っているつもりだが?」
マスターとバーサーカーの話を余所に、女神の話は続く。
「それから数日経ち、奴らがやって来た。バーサーカーの仲間の連中だ」
「奴らは何者なのです、女神と化した王よ」
「不明だ。ただこのキャメロットを拠点に何か実験していた事だけは知っている。何を実験していたかも分からない」
女神曰く、ここにやって来たのは顔に火傷を負った赤く尖った髪の男と、見目麗しいアラブ系の金髪の男、そして禿頭の老人の3人に加え、老人に従うサーヴァントだと言う。
赤髪と金髪の男は兎も角、残る老人の魔術師としての実力は確かであり、傍らのサーヴァントもまた然り。漸く活動を始められるようになった彼女にとって、戦闘をすれば勝敗を問わず死は免れないものであった。
「降参したとも。ただ負けて死ぬならまだ良い。だがあの老人はサーヴァントの扱いに長けていた、倒れた私を何かしらの形で利用しようと企んでいた事は想像に難くない。そうなれば事態はより悪い方向へ転がっただろう」
奴らは神核だけを奪って研究を始めると、それっきり女神ロンゴミニアドはこの部屋に閉じ込めて放置していたらしい。時折、彼女と連鎖して核が消滅しないよう魔力を手渡される以外、接触する機会すら無かったと言う。
やがてこの電子キャメロットには良からぬ輩が駐留するようになったが、彼女は何ができるわけでも無く、王座に座って魔力の消耗を抑える事に努めていた。
「時折魔力を渡しに来たキャスターやランサーは大した事の無い奴らであった。弱った私でも片手で薙ぎ払える。……だがアーチャーとセイバー、奴らは危険だ。特にセイバーだが、私の予想では奴の真名は――、ガフッ!?」
「獅子王!?」
唐突に胸を押さえて蹲る女神ロンゴミニアド。
驚く一同に対し、バーサーカーはそっと傍らに跪いて寄り添った。
「無理をするな。その擬似霊核は低級サーヴァントの召喚補助か、傷付いた霊核の補修に本来は使う物なんだ。今のように、本当にそれを依り代にする方が間違っている」
「……すまんな、バーサーカー」
「気にするな。……どこで死にたい」
「玉座だ」
「分かった」
肩を貸す、というよりほぼ背負う形で獅子王をバーサーカーは運び、ボロボロになった玉座に座らせる。
既に体の一部が透け始めている女神は玉座に深く腰掛けると、大きく息を吐いた。
「情けない。こういう時、消費が大きな女神の肉体は不便だ」
「…………」
「時間が無い、カルデアのマスター達。要点だけ簡潔に述べよう」
シュウ、と豪奢な王冠とマントが消える。時間が刻一刻と無くなっていく事を如実に表すように、光の粒へと。
彼女の肉体の崩壊が、始まったのだ。
「私には、敵の目的も名も分からない。女神としての力を失った私に、全てを見通す能力は無い。だが、どうやら奴らは
「何――?」
「数日前、奴らは何か大きな力を2つ、手に入れた。魔術王が我らに使った聖杯より遥かに力のある何かだ。バーサーカーは先程、紛い物の大聖杯を作ったと言っていたが、その比では無い。気を付けろ、敵が何を企んでいるかは分からないが、何か恐ろしい事をしようとしている」
「待って、何でそんな事を知って――」
フ、と女神は微笑んだ。
「忘れたか、私がどういう人間を求めていたか。心の中は分からずとも、何を目指そうとしているかの指針くらいは分かる」
彼女は善人の標本を作ろうとしていた。必然、彼女は数百人もの『絶対に悪行を成さない』人間を、そしてその何倍もの『悪行を成し得る可能性がある』人間を見て来たのだ。超常的な女神の千里眼こそ最早持たないが、培ったその眼は決して嘘では無い。
「私の神核は使い潰され、最早残っていない。だが私は感じるのだ、7騎の英霊に我が神核を元に作られた強化霊核が用いられている」
「女神の神核を?」
「通常のサーヴァントより遥かに強い力を持つだろう。それを考慮すると、直接武力で激突しないカードでの勝負は助かるだろうな」
通常、サーヴァントはその生きた時代が古ければ古い程に、そして神の要素が濃ければ濃い程に強力になる傾向を持つ。獅子王は西暦500年前後を出自とする女神だ。彼女の神核の片鱗を材料にサーヴァントの霊核を作ったとなれば、元の数倍の実力があると考えて良い。
「奴らは強い。だが、それは赤子に魔剣を持たせたも同じ。苦戦する事はあるだろう。だが、決意を持つ皆なら勝てると私は信じている」
「女神ロンゴミニアド……」
伝えたい事は伝えた、と言わんばかりにロンゴミニアドはその姿を次第に粒子へと返していく。
「星を探せ」
「え?」
「お前だけの、星を」
「俺だけの、星……?」
オウム返しに問うマスターに、消えかけの獅子王は神妙に頷いた。
「それが必ず、お前を助ける。その覚醒こそ、お前が奴らに打ち勝つ手段となるだろう」
「待ってくれ、それってどういう――」
「未来の光を、託したぞ」
最後にそう言い残し、女神ロンゴミニアドは目を閉じる。
まるで事切れたかのように。或いは本当に事切れたかのように。
後には空っぽの崩れた玉座に座る女王のみが残り、最初から何も無かったかのような寂しい王の間だけが取り残されていた。その彼女の肉体も、ヒビ割れて砕け、光の粒に変わる。
「……答えは、俺が自分自身で見つけろって事か」
その問いに返せる者はもういない。
ただそこには命の灯が消えた女神に黙祷する騎士達と、虚空が広がるのみ。
☆
「獅子王……、そなたもまた、王であった。その心、確かに見届けたぞ」
「アルトリア・ランサー……」
似たような自分であるがため、彼女には思う何かがあるのだろう。アルトリア・ランサーは永眠したかのように座して消えた彼女を真剣に見つめながら、胸元で祈るように手を組んでいた。
「すまねぇ女神……」
そして騎士達同様に黙祷していたバーサーカーは、1分程の祈りの後にゆっくりと目を開いた。
開いたからと言って攻撃してくるような気配も無く、名残惜しそうに獅子王がいた空間を眺めるだけである。
その寂しげな姿が何だか敵とは思えず、マスターは思わず声をかけた。まるで嘗て、レフを敵と割り切れなかったマシュのように。
「バーサーカー、貴方は」
「少年、伏せろ!」
「先輩!」
反応するよりも早く、立香の身体はマシュのタックルによって地に伏せられていた。
それとほぼ同時、コンマ数秒の差で顔があった場所を黒い煙のような何かが貫くように通り過ぎる。マシュの判断が一瞬でも遅ければどうなっていたか、想像したくも無い。
黒い何かは蛇のように空を徘徊したかと思うと、煙のように一ヶ所に纏まり人の姿を模った。
「……アサシンの手の者か」
ギロリ、とバーサーカーは黒いヒト型を睨みつける。顔はこちらを向いていないのに、その全身から放たれる殺気は、神や猛者とはまた違う異様な恐怖を身体に覚えさせた。
「何の用だ、こんな廃棄したアジトまでわざわざ。テメェらが見捨てた獅子王なら今さっき死んだぞ」
『――――――』
「……チッ、分かったよ」
黒い塊に何を言われかは分からない。だが頷かないワケにはいかなかったらしく、渋々と言ったように黒狂人はマスター達に向き直った。
パチン、と指を鳴らす。
「悪いが事情が変わった。カルデアのマスター、お前だけついて来い!」
虚空に乾いた破裂音が鳴り響くと共に、バーサーカーの足元に黒泥が湧き出た。
泥は一瞬で彼と良く似た姿のヒト型へ変ずると円卓の騎士の前に立ちはだかる。
その数6人。よく見ればその左腕に相当する箇所にデュエルディスクが装備されていた。あれで勝負しろという事だろうか。
「これは……!」
「正直、利用価値があるから殺したくは無いんだがな。ウチのマスター連中は今すぐ始末しろって煩いんだ」
バーサーカーはそこで窓の外、電子線が時々走る漆黒の虚空を親指で示した。
「表出ろ少年。スピードデュエルだ」
「え?」
「俺とお前でタイマンやろうってんだよ。敵のサーヴァントを討ち取れる機会だ、悪くない話だろう?」
「……良いだろう」
こちらの人数はマスターとサーヴァントを合わせて9人。敵は7人。数の上では有利だがデュエルは1対1の形式である以上、この人数差はあまり活きない。
ならば、自身の実力で捻じ伏せるのみ。
「来い、Dボード!」
「ボード展開! さぁ、ショータイムだ少年!」
「マシュ、行くよ!」
「はい! マシュ・キリエライト、先輩と共に出陣します!」
データの微風が流れる電子世界に、マスターとバーサーカーは踊り出す。
「マスター、武運を!」
「勝って来い、マスター!」
立香は後ろにマシュを乗せて、バーサーカーは夜の闇のような黒いボードに乗って。
各々のデュエルディスクを構えた。
「戦う前に名乗っておこう。俺はバーサーカー、訳あって真名は明かせぬ。故にこう名乗ろう、『満月のバーサーカー』と! さぁ行くぞ!」
「来い!」
「「スピードデュエル!」」
To be continued
最初は女神ロンゴミニアドを敵ランサーにしようとした裏話があったりなかったり。