Fate/Duel Order   作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民

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ぐだマシュ「「なーにかな、なーにかな! 今回は、これ!」」


盾英霊 マシュ・キリエライト(リンク・効果モンスター)(オリジナル)
リンク4
光属性/戦士族
ATK 2300
リンクマーカー:右/斜め右下/斜め左下/左
光属性を含む効果モンスター2体以上
このカード名のモンスターは自分フィールドに1体しか存在できない
(1):1ターンに1度ずつ、コントローラーが受ける戦闘ダメージと効果ダメージは無効となる。
(2):このカードのリンク先に存在するモンスターの攻撃力と守備力は500アップする。
(3):このカードがフィールドに存在する限り、自分フィールドのカードは1ターンに1度だけ、相手によって破壊されない。



マシュ「一番手は私ですね、お恥ずかしいです」
ぐだ「4つあるリンクマーカーに加え、破壊やダメージを防ぐ鉄壁の守りを誇る、まさに優秀な後輩! ただ連続攻撃で落ちるから注意してね!」


Turn:9 立ちはだかる強敵 ~お前のような1ボスがいるか~

 電子世界のキャメロットを背景に、闇の中へと踊り出すマスターとマシュ。そして対戦相手である満月のバーサーカー。漆黒の背景に白亜の城はとても映りが良いが、今はのんびり観光している場合では無い。

 

「さぁ1面のボス戦だ。覚悟しろ」

「お前のような1ボスがいるか。……ダ・ヴィンチちゃん。『ネームジャマー』は出来てる?」

『バッチリさ。もう稼働しているよ。敵の記憶にもデータにも、サーヴァントの皆の情報は残らない』

「ありがとう」

「ネーム、ジャマー?」

 

 きょとんとした顔のマシュに、マスターはニヤリと笑う。

 マスターは数日前、ダ・ヴィンチに頼んであるプログラムを作成して貰っていた。

 カードで戦う以上、そのカード名を口にする事は避けられない。しかしそれはサーヴァントの真名を明かす事は弱点を露呈させ、またこちらの戦力をバラす事に他ならない。

 そこで開発して貰った『ネームジャマー』の出番だ。この装置を組み込まれたデュエルディスクで召喚されたサーヴァントは、その場ではカード名を正しく聞き取れても、後々になって相手の記憶が曖昧になる。つまり情報が漏洩しにくくなるのである。無論、データにも残らない。復元不可能なノイズに変質する。

 例えばマシュのデータは『黒い鎧の女の子』になるし、清姫は『炎を吐く和服の女の子』程度の情報しか残らないのだ。

 

「カルデアのマスターよ、1つ提案がある」

「提案?」

「俺は忙しい上、お前にここで死なれると困る。こっちにも計画があるんでね。だがお前との勝敗はつけないと帰れない。そこで、特別ルールを設ける」

 

 ピピッ、とディスクの共有フォルダにデータが送られて来た。

 内容を読むと、今回限りの特別ルールのようだ。

 ルールは簡単。先攻は4ターン、後攻は3ターン――つまりお互い3回バトルフェイズを経過――してライフが多い方が勝ち。途中で決着がついても終了。

 

「つまりターン数に制限がついてるって事ですか」

「そういう事だね」

「悪いね、こっちの都合で」

「いや、良いさ。受けて立つ」

 

 ルールはお互いに承諾された。

 後はどちらが先に攻めるかを決めるのみ。

 バーサーカーは素早く反転し、後方に小さく見える白亜の城を指差した。

 

「カルデアのマスター君、後ろに引っ付いている盾の少女。あのキャメロットはまだ見えるか?」

「ああ」

「ええ」

「あの天辺を先に横切った方が先攻か後攻か選べる。ってのはどうだ?」

「良いだろう、望む所だ」

「準備は良いかな?」

「いつでも!」

 

 ここからあそこまでそれなりの距離があるが、最大スピードでエンジンを回せば20秒で行けるだろう。その間にどちらの手順にすべきか決めなくてはならない。

 

「それじゃあ……、行くぞ!」

「マシュ、しっかり捕まって!」

「はい!」

 

 最大スピードでスラスターを点火させ、一気に2人はボードを走らせた。

 さて今回の短縮ルールだが、普段とは少しやり方が変わって来る。何せ3ターン分の攻撃で終わってしまうのだ、カードゾーンが少なくソリティアも難しいため、どちらが良いのか慎重に見極めなくてはならない。

 通常では後攻が有利だが、後攻に許される行動は先攻より1ターン少ない。つまり準備にターンを費やす余裕が無い。

 かと言って先攻を取れば、攻撃できる後攻プレイヤーから陣形を崩される可能性がある。迂闊な行動は確実に敗北につながるだろう。

 

「先輩、ここは先に攻撃できる後攻でしょうか?」

「……いや、先攻を取るべきだ。先攻と後攻が通常ドローで補強できる手札の枚数は同じ。ならターン数の多く、最後のターンを持てる先攻の方が有利だ!」

 

 アクセルをより強くかけ、Dボードの加速をマスターは上げる。

 彼は決して誰かより特段秀でた魔術の才や計算力があるワケでは無い。だがそれを補って余りある実戦経験があった。

 この満月のバーサーカーはヤバい。これまで何度もヤバい奴と戦って来たから分かる。

 ティアマトのように規格外の肉体と能力を持っているワケでは無い。

 魔術王のような圧倒的なエナジーを有しているワケでも無い。

 炎の巨人スルトのように神に匹敵する世界の王でも無い。

 ただ何か――危険だ。戦いの経験とカンだけじゃない、もっと根本的な何かが彼に対して警鐘を鳴らしているような気がする。

 城の頂上まで残り5秒程度で通過する、このままトップスピードを維持したい。

 

「兎に角、先に塔を横切って先攻を取るよ! このバーサーカーは得体が知れない、後手に回るのは危険だ!」

「はい!」

「ところがどっこい、させねぇよ!」

 

 アクセルをベタ踏み(実際にはそんな物は無いが。比喩表現である)して加速し続けるマスターに対し、バーサーカーはほぼ真横から体当たりを仕掛けてきた。

 これに間一髪で気付いた少年はマシュのバランスを確保しつつ、素早く真横にボードを逃がして衝撃を受け流した。

 

「おっと」

「甘い!」

 

 筈だった。

 

「あぶな、うわっ!?」

「きゃっ!?」

 

 ガンッッ!と強い衝撃と音でDボードが揺れ、思わずスピードが緩む。

 素早くボードを横滑りで移動させつつ回避する。それで避けられた筈だ。実際、満月のバーサーカーの突進は掠りもしなかった。

 なのにボード全体に衝撃音と共に走る、振動。

 2人の乗るボードは、まるでバーサーカーに生えた尻尾で叩かれたかのように強いショックを受けたのだ。

 

『マスター君、マシュ、大丈夫かい?』

「俺は一応。マシュ、大丈夫?」

「はい。しかし今のは一体……!」

 

 ダ・ヴィンチに返答して体勢を立て直した頃には、既に黒い男はキャメロット城のゴール地点を通過していた。

 

「それじゃあ、俺が先攻だ。覚えておけ、有利になるためならこういう事をする奴もいるってな」

「くっ!」

 

 

「「スピードデュエル!」」

 

 

カルデアのマスター:LP 4000

満月のバーサーカー:LP 4000

 

 

「俺のターン! 俺は手札から『CHAOS(カオス) ダンサー』を特殊召喚!」

 

 先攻を取ったバーサーカーによって、漆黒に全身が染まったベリーダンス風の女性が現れる。

 本来なら色気抜群の衣装も、黒地に赤い目では悍ましさしか感じない。

 

 

ATK:800

 

 

「こいつは俺の場にモンスターがいない時、手札から特殊召喚できる」

『……何だこのモンスター! マスター君、あの黒いモンスター、カードテキストが読めない!』

「え!?」

「そっちと同じで、ジャミングくらいかけているさ。敵のデータをほいほい入手できるとは思わない事だ、イタリアの天才よ」

 

 欲しかった先攻は満月のバーサーカーのモノとなってしまった。

 悔んでいても仕方が無い、ならば先制攻撃のチャンスを活かすまでだ。

 

「続けて手札から『CHAOS トレーダー』を通常召喚!」

 

 

ATK:1500

 

 

「『CHAOS トレーダー』の効果発動! このカードを召喚した時、手札の“CHAOS”モンスターを捨てて2枚ドローできる!」

 

 黒い恰幅の良い男の能力で、ディスクの墓地ポケットにカードを呑み込ませ、新たにカードを補充するバーサーカー。

 対するマスターは訝しむような顔をした。

 

(……召喚に関する効果持ちのシリーズ、か?)

 

 場に現れた黒いモンスターは、2体とも“CHAOS”という共通した名前を持っている。こういったカテゴリーなら何か共通した効果を持っている筈だ。なのに今の所、その様子が見られない。

 墓地に行った時や除外して発動する効果もあるが、それならフィールドを経由せず直接墓地へ叩き落とせるカードがある。準備無しで場に出す必要は無いだろう。

 

「俺は、レベル4の『CHAOS ダンサー』と『CHAOS トレーダー』でオーバーレイ!」

「エクシーズか!」

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

 掛け声に合わせて2体のモンスターが紫色の光へと姿を変え、虚空へ飛び上がる。

 何も無かった中空に銀河の穴が開き、そこへ渦を描きながら二筋の光が飛び込んだ。

 2つの魂は1つに重なり、合わさった星が新たなモンスターを呼び出すため、眩い光の柱を紡ぎ出す。

 

 

☆4×☆4=★4

 

 

「エクシーズ召喚! 撃ち抜け、ランク4『ガガガガンマン』!」

『ガガッ!』

 

 

DEF:2400

 

 

「は、はぁ!? 『ガガガガンマン』!?」

「先輩、あのモンスターって確か珍しくも何とも無いノーマルモンスターですよね?」

「ああ、俺はてっきり“CHAOS”って名前のモンスターが来ると思ったんだけど……」

 

 フィールドに片膝をついて召喚されたのは、市販されているごく普通のエクシーズ。西部劇のガンマンスタイルのモンスターだ。

 

「『ガガガガンマン』のモンスター効果発動! このモンスターは表示形式に応じて効果が変わる。守備表示の時、オーバーレイ・ユニットを1つ使う事で、相手に800ダメージを与える! 撃てぇ!」

 

 

 

ガガガガンマン(エクシーズ・効果モンスター)

ランク4

地属性/戦士族

ATK 1500/DEF 2400

レベル4モンスター×2

(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

このカードの表示形式によって以下の効果を適用する。

●攻撃表示:このターン、このカードが相手モンスターを攻撃するダメージステップの間、このカードの攻撃力は1000アップし、その相手モンスターの攻撃力は500ダウンする。

●守備表示:相手に800ダメージを与える。

 

 

 

「マシュ、俺の後ろに! っ!」

「先輩!」

 

 乾いた発砲音を聞くより早く、マスターはマシュを背中に庇い、身体で銃撃を受け止めた。

 

 

ガガガガンマン:ORU 2→1

カルデアのマスター:LP 4000→3200

 

 

「どうして、攻撃を止めるのは私の役目なのに!」

「……さて、何でかな。考えるより早く動いちゃった。一応、今は盾を構えられないとか言い訳できるけど」

「先輩……」

 

 心配そうにこちらを覗いて来るマシュを、少年は笑って撫でてやる。

 実際、何故彼女を庇うような行動を取ったのかは自分でも分からない。ただ瞬間的にマシュを守らなければ、と考えてしまっただけなのだ。

 マシュもマスターを守る事に特別の理由はつけないので、これはいわゆる『反射的な行動』なのだろう。きっと。

 

「永続魔法『強欲なカケラ』を発動。このカードは通常ドローを行う度に強欲カウンターが1つ乗り、複数乗っている状態で墓地へ送れば2枚ドローできる」

 

 

 

強欲なカケラ

【永続魔法】

(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、自分ドローフェイズに通常のドローをする度に、このカードに強欲カウンターを1つ置く。

(2):強欲カウンターが2つ以上置かれているこのカードを墓地へ送って発動できる。

自分はデッキから2枚ドローする。

 

 

 

「俺はこれでターンエンド」

 

 

 

満月のバーサーカー:LP 4000

手札:2枚

フィールド

ガガガガンマン(DEF:2400・ORU:1)

メインモンスターゾーン無し

強欲なカケラ(永続魔法)

 

 

 

「さぁ、ステージ1のボス戦と洒落込もうじゃねぇか。かかって来い!」

「俺のターン、ドロー!」

『気を付けるんだ。さっきバーサーカーはジャミングしてるって言ってたけど、あれはそれだけじゃない。彼の得体の知れない気迫はカードからも伝わって来る!』

「先輩、今の内に攻めましょう! 満月のバーサーカーに行動させるのは危険です!」

「ああ! 俺は魔法カード『デイブレイク・リコール』を発動! 手札を1枚捨て、デッキから“黎明”モンスターを2種類手札に加える!」

 

 敵の使う“CHAOS”の能力は未知数。エクシーズモンスターに新しい能力を与えたような様子も無いし、墓地に行って何か効果を発動したワケでも無い。

 正体不明の敵が相手なら、真価を発揮される前に倒すのみ!

 

「そして加えたこの『黎明の腕』を通常召喚!」

 

 

ATK:400

 

 

 ディスクがカードを読み込み、最初のモンスターを呼び出す。出現したのは尖った八面体を携えた赤褐色の腕。

 召喚行為に反応し、陽炎のような輝きが増してマスターの手札の1枚と呼応させる。

 

「この召喚に成功した時、手札から“黎明”モンスター1体を特殊召喚できる! 守備表示で来い、『黎明の手』!」

 

 

DEF:200

 

 

 

黎明の腕(効果モンスター)(オリジナル)

星2

光属性/魔法使い族

ATK 400/DEF 400

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか発動できない。

(1):このカードの召喚・特殊召喚に成功した時に発動する。手札から「黎明」モンスターを1体特殊召喚できる。

(2):エクストラデッキから「サーヴァント」を特殊召喚する場合、このカードはその特殊召喚に必要な正規の召喚素材の種族・属性のモンスターとして扱う事ができる。

 

 

 

黎明の手(効果モンスター)(オリジナル)

星1

光属性/魔法使い族

ATK 200/DEF 200

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか発動できない。

(1):このカードの召喚・特殊召喚に成功した時に発動する。デッキから「黎明の手」を1枚手札に加える。

(2):エクストラデッキから「サーヴァント」を特殊召喚する場合、このカードはその特殊召喚に必要な正規の召喚素材の種族・属性のモンスターとして扱う事ができる。

 

 

 

「その効果で、デッキから同名モンスターを手札に加える」

「成程、それが先程サーチした2枚のカードか」

 

 興味深そうに見るバーサーカーだが、構っている余裕は無い。

 陣形を整えるべく、マスターは特殊召喚用のディスクのボタンを押す。

 

「現れろ、未来を守るサーキット! 召喚条件は光属性モンスター2体!」

 

 場に条件は揃った。マスターとマシュが空に手を伸ばして銀色のサーキットに腕と手をセットし、新たなモンスターを呼び出した。

 

 

LM:右・下

 

 

「リンク召喚! 出でよ、リンク2! 『黎明の双腕』!」

 

 

ATK:1000

 

 

 召喚ゲートを潜りフィールドに現れるのは白と褐色の混ざった顔無しの巨人。双肩には揺らぐ焔を纏う紅色の球体が、身体の中央には煌々と輝きを放つ正八面体のクリスタルが埋め込まれている。

 

「『黎明の双腕』の効果発動! 特殊召喚に成功した時、墓地からリンク先に“黎明”モンスターを特殊召喚する! 効果を無効にして蘇れ、『黎明の手』!」

 

 

DEF:200

 

 

 顔無しの赤巨人の真後ろに再び球体を携える手が現れる。なお効果が無効になり、元々1ターンに1度しか発動できないため、デッキから同名モンスターをサーチする効果は使えない。

 

「再び現れろ、未来を守るサーキット! 召喚条件は光属性モンスター2体以上!」

「連続リンク召喚か!」

「そしてリンクモンスターはリンク召喚の素材になる時、そのリンクマーカーの数が素材の数扱いになる! 俺は『黎明の手』とリンク2の『黎明の双腕』をリンクマーカーにセット!」

 

 再び闇に現れる銀の回路に、今さっき召喚したばかりのモンスター達を配置する。赤い手と、半透明に分身した赤い巨人が配置され、サーキットは正式な輝きを発揮した。

 

 

LM:右・下・左

 

 

「リンク召喚! 出でよ、リンク3! 『黎明の辣腕』!」

『トァッ!』

 

 

ATK:2100

 

 

 今度現れたのは、先程と同じ顔無しの巨人。しかし今回は赤と銀から金と銀に配色が変わっており、八面体のクリスタルは肩に移動している。代わりに胴体で輝いているのは手裏剣のような十字型の銀のクリスタルだ。

 

「実質手札1枚でリンク3か。戦術としては悪くないが、攻撃力2100では『ガガガガンマン』は倒せないぜ?」

「『黎明の辣腕』の効果発動! 1ターンに1度、リンク先に墓地のレベル4以下の“黎明”モンスターを特殊召喚でき、このカードの攻撃力をその数値分アップさせる! 今度は『黎明の腕』を特殊召喚!」

 

 

黎明の腕 DEF:400

黎明の辣腕 ATK:2100→2500

 

 

「攻撃力が上回った!?」

「バトルだ! 『黎明の辣腕』で『ガガガガンマン』を攻撃!」

『シュアッ!』

『ガァッ!?』

 

 背後に赤い腕を呼び出した金銀の巨人は、その隆々とした筋骨から放たれるラリアットを遠慮容赦無く西部劇の住人に叩き込む。

 両腕を交差させて攻撃を受け止めようとするガンマンだったが、防ぐ事叶わず吹き飛び、爆発した。

 

「『黎明の辣腕』が戦闘で相手モンスターを破壊した時、破壊したモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを与える!」

「ぐっ!」

 

 

満月のバーサーカー:LP 4000→3250

 

 

「やりました先輩、これでライフはほぼ互角です!」

「ああ、だが今度はあっちからも攻撃が来る。気を付けて行くよ、マシュ」

「はい!」

「俺はこれでターンエンド!」

 

 

 

カルデアのマスター:LP 3200

手札:3枚+『黎明の手』

フィールド

黎明の辣腕(ATK:2500)

黎明の腕(DEF:400・『黎明の辣腕』の下にリンク)

魔法・罠無し

 

 

 

「俺のターン、ドロー。この瞬間、『強欲なカケラ』にカウンターが1つ乗る」

 

 

強欲なカケラ:強欲カウンター 0→1

 

 

「手札から『CHAOS ダンサー』を特殊召喚!」

「2体目!?」

「効果の説明は、要らないよな?」

 

 

ATK:800

 

 

「続けて手札から『CHAOS ミミック』を通常召喚!」

『キヘヘヘヘ!』

「このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、自分フィールドに他に“CHAOS”モンスターが存在すれば、デッキから1枚ドローする!」

 

 

ATK:500

 

 

 黒いベリーダンサーに加え、その隣に展開される偽物の黒い宝箱。少しだけ開いた箱の口からは鋭い牙と赤い眼差しが見え隠れするあたり、この黒いボディに赤い目のデザインは“CHAOS”共通の物なのだろう。

 

「レベル4の『CHAOS ミミック』と『CHAOS ダンサー』でオーバーレイ!」

「またエクシーズか!」

 

 

☆4×☆4=★4

 

 

「エクシーズ召喚! 降り立てランク4、『ガガガザムライ』!」

『ガガガァッ!』

「また汎用モンスター!?」

 

 

ATK:1900

 

 

 再び立ち上る光の柱より現れたのは、詰襟を外套のように羽織った二刀流の武士。橙色のマフラーで顔半分を隠し、左手にだけ籠手を装着している。

 

「また市販されているカード……、あのバーサーカーの主軸の戦術は一体……」

「『ガガガザムライ』の効果発動。オーバーレイ・ユニットを1つ使い、こいつに2回攻撃の権利を与える」

「だが攻撃力は『黎明の辣腕』の方が上だ!」

「更に魔法カード『破天荒な風』を発動。次の俺のターンが来るまで『ガガガザムライ』の攻撃力・守備力を1000アップさせる」

 

 

ガガガザムライ ORU:2→1

ATK:1900→2900

 

 

「攻撃力が『辣腕』を上回りました!?」

 

 

 

ガガガザムライ(エクシーズ・効果モンスター)

ランク4

地属性/戦士族

ATK 1900/DEF 1600

レベル4モンスター×2

(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、自分フィールドの「ガガガ」モンスター1体を対象として発動できる。

このターン、そのモンスターは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

(2):このカード以外の自分フィールドのモンスターが攻撃対象に選択された時に発動できる。

このカードを表側守備表示にし、攻撃対象をこのカードに移し替えてダメージ計算を行う。

 

 

 

破天荒な風

【通常魔法】

自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターの攻撃力・守備力は、次の自分のスタンバイフェイズ時まで1000ポイントアップする。

 

 

 

「ま、また市販されているカード!?」

「カードを1枚伏せ、バトルだ! 『ガガガザムライ』、『黎明の辣腕』を切り刻め!」

『ガァッ!!』

 

 目にも止まらぬ速さで金と銀の巨人を両断する侍。巨人は刀の一振りを両腕を交差して防ごうとするが、ガンマンの敵討ちと言わんばかりに振り下ろされた銀閃によってそれごと正中線で真っ二つにされた。

 

「くっ!」

 

 

カルデアのマスター:LP 3200→2800

 

 

「続けて残った腕にもご退場願おうか!」

 

 巨人を切断し、返す刀で真後ろに控えていた赤い腕も輪切りにされる。

 これでマスターのフィールドにカードは無くなった。先制攻撃もバーンで打たれ、フィールドもあっと言う間に市販されているコモンカードだけで焼け野原にされてしまった。

 

「『黎明の腕』まで……!」

「全滅してしまいました!?」

「ターンエンドだ」

 

 

 

満月のバーサーカー:LP 3250

手札:0枚

フィールド

ガガガザムライ(ATK:2900・ORU:1)

強欲なカケラ(永続魔法・強欲カウンター:1)、伏せカード1枚

 

 

 

(――強い!)

 

 改めてこのバーサーカーの実力を、彼は肌で感じていた。

 単にプレイングセンスがあるだけでは無い。状況を読む力とリソースを確保する能力が高い。

 短期決戦か長期戦かに分かれやすいデュエルに於いて、彼のその持久戦を見越したタクティクスの高さは、非常に評価できるものであった。

 

「俺のターン、ドロー!」

『マスター君、大丈夫かい?』

「俺は大丈夫。ダ・ヴィンチちゃん達はこの空間の調査にリソース全部回して! ここに何か、必ず敵のデータが残ってる筈! このバーサーカーを俺が倒しても、敵の情報が無いんじゃ意味が無い!」

『了解だ、健闘を祈る』

「ほう、賢明だね。確かに俺が君達の欲しいデータを持っている保証は無い」

 

 手札には先のターンで手札に加えた『黎明の手』と、このターンにドローしたモンスター。問題無い。

 

「マシュ、これ以上あいつにターンを回すのは危険だ。このターンで一気にケリを着けるよ!」

「はい!」

「俺は墓地の『黎明の双腕』のモンスター効果発動! このカードを素材にリンク召喚されたモンスターは、破壊された次の俺のターンに復活する! 戻って来い、『黎明の辣腕』!!」

 

 

ATK:2100

 

 

 

黎明の双腕(リンク・効果モンスター)(オリジナル)

リンク2

光属性/魔法使い族

ATK:1000

リンクマーカー:右/下

光属性モンスター2体

(1):このカードが特殊召喚に成功した時に発動できる。

手札・墓地の「黎明」モンスター1体をこのカードのリンク先に特殊召喚する。

この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効になる。

(2):このカードを素材にリンク召喚された光属性モンスターは、以下の効果を得る。

●リンク召喚されたこのカードが、相手によって破壊された次の自分のスタンバイフェイズに発動できる。

墓地のこのカードを特殊召喚する。

 

 

 

黎明の辣腕(リンク・効果モンスター)(オリジナル)

リンク3

光属性/魔法使い族

ATK:2100

リンクマーカー:右/下/左

光属性モンスター2体以上

このカード名の(1)の効果は、1ターンに1度しか発動できない。

(1):自分の墓地のレベル4以下の「黎明」モンスター1体を対象に発動する。

そのモンスターをこのカードのリンク先に特殊召喚し、その攻撃力の数値をこのカードに加える。

(2):このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊して墓地へ送った時に発動する。

破壊したモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを与える。

 

 

 

「そして効果発動! 今度は墓地の『黎明の腕』を特殊召喚しパワーアップだ!」

 

 

黎明の腕 DEF:400

黎明の辣腕 ATK:2100→2500

 

 

「それがどうした、攻撃力は『ガガガザムライ』の方が上だ!」

「戻った『黎明の腕』の効果で『黎明の手』を特殊召喚! その効果でデッキから同名カードを手札に加える!」

 

 

DEF:200

 

 

 再びマスターのフィールドにモンスターが並ぶ。これだけではパワーアップした相手モンスターには勝てないが、彼が状況を突破できるモンスターを呼ぶのはこれからだ。

 

「現れろ、未来を守るサーキット! マシュ、行くよ!」

「はい!」

「召喚条件は光属性を含む効果モンスター2体以上! 俺は『黎明の手』とリンク3の『黎明の辣腕』をリンクマーカーにセット!」

 

 

LM:右・右下・左下・左

 

 

「リンク召喚! その盾はこの命の証明! 『盾英霊 マシュ・キリエライト』!!」

「マシュ・キリエライト、出撃します!」

 

 

ATK:2300

 

 

 ダンッ、とDボードを蹴って跳躍したマシュは、一瞬でカード用の新しい鎧に着替える。

 これまではレオタードに手甲等のアーマーが装着されていた彼女の鎧は、今回を機に全身に万遍無くダークパープルの装甲へと変化していた。全体のスラリとしたイメージは変わっておらず、彼女のイメージと良い具合にマッチしていると言える。

 きらりとバイザーが光る素材なのが、彼女的には特に細かく注文した拘りのポイントらしい。

 

「お、新しいアーマーだね、カッコいい」

「一応皆さんも新たな敵と戦う事を考え、見た目をリニューアルしてるそうです。私もダ・ヴィンチちゃん達に頼んでデザインを変えて貰いました」

 

 まずは召喚の起点としてリンク召喚。自身にとって最も頼れる相棒を呼び出す。

 ダメージと破壊を遮断しつつパワーアップもこなせる、まさに頼れる己が最高の後輩サーヴァントだ。

 

「それが君の相棒、先程の盾の少女か」

「そうだ! マシュは俺の最強のサーヴァント、最高の後輩だ! 俺にとっての生きる意味だ!」

「成程、だが攻撃力は足りないな! 愛じゃあバトルには勝てないぞ!」

「ならこれでどうだ! 俺はチューナーモンスター『スターリィ・シンクロン』を通常召喚!」

『ホァッ!』

 

 

ATK:300

 

 

 マシュの攻撃力では足りないのなら、更に戦力を増やすまで。元よりディフェンダーに攻撃の要を求めるなど愚の骨頂!

 

「このカードを召喚した時、墓地の光属性モンスター1体を、効果を無効にして守備表示で特殊召喚できる。俺は墓地から、『超電磁タートル』を守備表示で特殊召喚!」

 

 

DEF:2000

 

 

 プラネタリウムの投影機のようなボディに手足が生えたような見た目のマシンが召喚される。その隣には、投影機に導かれるように電磁石の機能を備えた陸亀が墓地から呼び戻された。

 これで、突破の準備は整った!

 

「この効果で特殊召喚したモンスターは、ターン終了時に破壊される」

「それが最初のターンに捨てられたカードか」

「先輩、そのモンスターはまさか!」

「そのまさかさ! 俺はレベル4の『超電磁タートル』とレベル2の『黎明の腕』に、レベル1の『スターリィ・シンクロン』をチューニング!」

「チューニング……、シンクロ……!」

 

 全身を星の帯へと変換させ、新しい姿へと生まれ変わり行くモンスター達。

 調律する1つきりのリングが7つの星々を光へと変化させ、大いなる決意が輝きへと転生して行く。

 

「隻腕の騎士よ、今その決意を星の光に変え、暗闇を切り裂け!」

 

 

☆1+☆2+☆4=☆7

 

 

「シンクロ召喚! 伝説の終焉を見届けし騎士! 『剣英霊(セイバー・サーヴァント) ベディヴィエール』!」

「お任せを!」

 

 

ATK:2400

 

 

 輝く繭を突き破り、白銀の右腕を輝かせながら現れるのは円卓の見届け人。アーサー王の古参の部下であり、聖剣を泉へ返還した忠義の隻腕の騎士。そしてエルサレムで共に戦った高潔なる男。菫色の銀騎士ベディヴィエールが、マスターの目の前に躍り出るように降り立った。

 

「データに無い新しいサーヴァントか。君が新しいサーヴァントを呼ぶには、スキルを介しておく必要があるって聞いたんだがな」

 

 バーサーカーが訝しむように銀騎士を見る。

 確かにマスターとサーヴァントの縁は固い。しかしそれだけでは彼ら彼女らをカードという型に押し込めて、デュエルの場で別の形を用いて使役する事はできない。

 サーヴァントをカードというゲートから呼ぶには、スキルを使って1度でも『カードを経由して召喚した』という前例を作らねばならないのだ。寧ろジャンヌ・オルタのように自分で自分をカードにしてしまうようなのが例外なのである。

 

「ああ、きっちりデータストームから呼んだよ」

 

 だが、そこはそれ、しっかりそれ専用の例外や抜け道がある。

 

デュエルの訓練中にね(・・・・・・・・・・)!」

「っ! そうか、あの侵略されたデータベースにはまだデータストームが吹き荒れていたか!」

「そうさ! 一度手元に寄せればこっちの物、再度手繰り寄せる必要は無い!」

 

 暫く前、『クラッキング・ドラゴン』によって攻撃を受けたデータベースには、何の因果かデータストームが暫く吹き荒れていた。吹き溜まりの中は無色の魔力が溢れており、貧弱であろうともマスターの魔力を注いでやれば、スキル“Storm Access”を発動させてサーヴァントを召喚する事は可能だ。

 彼は何も、スタンディングによるマスターデュエルや、多対一の特訓に専念していたワケでは無い。いつでも・誰とでも戦えるよう、サーヴァントの仲間の補充にもまた勤しんでいたのである。

 

「既に、俺には100人以上の仲間が一緒にいる! エクストラデッキに居る時は白紙でも、フィールドに出せば皆はいつでも力を貸してくれる。彼らは最高の仲間達だ、至高の英雄達だ! 皆がいる限り、貧弱な俺でも負けはしない!」

「面白い! だったら勝利を掴んでみせろ! 攻撃力2300と2400じゃあ『ガガガザムライ』には勝てないぜ!」

「いいや、ベディヴィエールはマシュのリンク先に召喚された! よってマシュの効果で攻撃力と守備力が500アップ!」

「ベディヴィエールさん、これを!」

「ありがとうございます!」

 

 

ATK:2400→2900

 

 

「攻撃力が『ガガガザムライ』と並んだ!」

「バトルだ! 『剣英霊 ベディヴィエール』で『ガガガザムライ』を攻撃!」

「成程、その盾の少女の効果で破壊を防ぎ、相撃ちを防ぐ算段か!」

「まだだ! 更にベディヴィエールの効果発動! 1ターンに1度、デッキの1番上のカードを1枚墓地に送り、攻撃力がバトル中のみ1000アップする!」

「何!?」

 

 

ATK:2900→3900

 

 

「攻撃力3900だと!?」

「行くよ、ベディ!」

「ハッ! スイッチオン!」

「「“一閃せよ銀色の腕(デッドエンド・アガートラム)”!!」」

 

 デッキトップのカード、『貪欲な壺』が墓地へと消え、銀騎士の腕に金色のエナジーが満ちる。マシュから受け取った輝きと共に星光に満ちた波動は、一振りの巨大な剣と化して漆黒の闇を明るく照らし、双刀の侍を刀ごと叩き斬ってしまった。

 

「ぐぅっ!」

 

 

満月のバーサーカー:LP 3250→2250

 

 

 これで敵のライフは2300を下回り、マスターのフィールドには攻撃権を残した後輩がいる。

 

「ベディの攻撃力はバトル終了と同時に戻るが、もう関係無い! マシュの攻撃でトドメだぁ!」

「やぁあああああああ!」

 

 

剣英霊 ベディヴィエール ATK:3900→2900

盾英霊 マシュ・キリエライト ATK:2300

 

 

 円卓の聖遺物、ラウンドテーブルを加工した盾を力一杯振り下ろすマシュ。

 敵の場にモンスターはいない、これが通れば勝てる。

 

「トラップ発動、『ピンポイント・ガード』! 墓地からレベル4以下のモンスターを守備表示で特殊召喚する! 蘇れ、『CHAOS ダンサー』!」

「「「な!?」」」

「更にこの効果で召喚されたモンスターはこのターン、バトルでも効果でも破壊されなくなる!」

 

 

DEF:2000

 

 

 勝利を確信したが攻撃がヒットする直前、バーサーカーとシールダーの間に黒い踊り子に割り込まれてしまう。マシュの鈍器の一撃はその踊り子に阻まれ、硬質な音と共に弾かれてしまった。

 

「すみません、先輩……!」

「くっ! 気にしないで、俺の読みが甘かった!」

 

 

 

ピンポイント・ガード

【通常罠】

(1):相手モンスターの攻撃宣言時、自分の墓地のレベル4以下のモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン、戦闘・効果では破壊されない。

 

 

 

「俺はこれで、ターンエンド!」

 

 

 

カルデアのマスター:LP 2800

手札:3枚+『黎明の手』

フィールド

盾英霊 マシュ・キリエライト(ATK:2300)

剣英霊 ベディヴィエール(ATK:2900・マシュの左下にリンク)

魔法・罠無し

 

 

 

「俺のターン、ドロー! この瞬間、『強欲なカケラ』に2つ目のカウンターが装填される。よって俺はこれを墓地に送り、2枚ドローする!」

「手札が0枚から一気に3枚に……!」

 

 

強欲なカケラ:強欲カウンター 1→2

 

 

 バーサーカーに2回目の攻撃ターンが回る。このターンで『強欲なカケラ』に“強欲カウンター”が2つ乗ってしまうため、出来れば前のターンに倒したかったが、失敗してしまった。

 手札1枚と3枚では、敵の攻撃のパターンもガラリと変わって来る。マスターは腰を落としてDボードに体重を乗せると、襲い来るであろう敵の猛攻に備える。

 

「俺は手札から『CHAOS グール』を通常召喚! この召喚に成功した時、墓地の“CHAOS”モンスターを守備表示で特殊召喚する! 蘇れ、『CHAOS ミミック』!」

『キヘェッ!』

「そして特殊召喚時に他に“CHAOS”モンスターが存在する事で1枚ドロー!」

 

 

CHAOS グール ATK:500

CHAOS ミミック DEF:2100

 

 

 黒い宝箱を掘り起こす黒い腐敗鬼を見て、まるで前のターンの自分だと、マスターは顔を顰めた。敵のフィールドにはあっと言う間にモンスターが3体。しかも墓地から2体、手札から1体という点まで共通しているあたり、中々に皮肉な状況である。

 

「では俺も、君と同じように2種類のモンスター効果を組み合わせよう!」

「何!?」

「現れろ、鮮血と断末魔のサーキット!」

「なっ!?」

 

 バーサーカーの皮肉なコピーキャットはまだ続く。

 今度は上空に手を伸ばして閃光を飛ばすと、銀のサーキットを呼び起こした。

 

「召喚条件は闇属性・悪魔族の効果モンスター2体! 俺は『CHAOS ダンサー』と『CHAOS ミミック』をリンクマーカーにセット!」

 

 

LM:上・下

 

 

「サーキットコンバイン! リンク召喚! 豪雨と共に災いを齎す顔無き悪魔、『レイン・デビル』!」

『JOGUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 

 サーキットから迸る光すら掻き消す程の闇が溢れ、そこからレインコートを羽織った悪魔が登場する。毛むくじゃらの腕がその袖から見え隠れしており、フードで隠れた顔からは鋭い牙が覗く獰猛そうなクリーチャーがそこにいた。

 

 

ATK:1000

 

 

「先輩、あのモンスター“CHAOS”じゃありません!」

「ああ、本気で来るぞ、気を付けて!」

「更に俺は墓地の『CHAOS マミー』のモンスター効果発動! 自分フィールドに闇属性モンスターが複数存在している事で、墓地から特殊召喚できる!」

「な、そんなモンスターいつ――、『CHAOS トレーダー』か!」

「そうだ。あの時に墓地へ捨てたのがコイツなのさ。来い、『CHAOS マミー』!」

 

 

ATK:0

 

 

 リンク素材となった事で空いたメインモンスターゾーンに、再びモンスターが補充される。これでモンスターはまた3体となった。

 

「ただしこの効果を使用した場合、『CHAOS マミー』はフィールドを離れた時に除外される」

「どう来る、リンク4か、それとも……!」

「レベル4の『CHAOS グール』と『CHAOS マミー』でオーバーレイ!」

「やっぱりエクシーズか!」

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

 

☆4×☆4=★4

 

 

 3度目のエクシーズ召喚。腐敗した黒鬼と黒い包帯男が闇に溶け込み、新たなしもべの姿を呼び出す。

 フィールドを離れれば除外される『CHAOS マミー』のデメリットも、エクシーズ素材を経由する事で消失するのだ。

 銀河の爆発から更なるモンスターが呼び出され、バーサーカーの前に躍り出る。

 

「漆黒の闇より」

 

 その牙は星の輝きよりも鋭く。

 

「愚鈍なる力に抗う反逆の牙!」

 

 その尾の先は如何なる力をも貫き。

 

「今降臨せよ!」

 

 腕の刃はあらゆる圧制者も削ぎ倒す必滅と化した黒。

 

「エクシーズ召喚! ランク4、覇王の眷属にありて覇者を穿つ龍、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」

『GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』

 

 

ATK:2500

 

 

「ダーク……、リベリオン……!」

 

 2つの飛び回る星を従え、暗い鱗を持つドラゴンが飛び出す。顎と見紛えそうな鋭い牙を持ち、全ての敵を屠る必殺の一撃を持つ猛者だ。

 

「……あまり、見た事の無いモンスターですね」

「枚数が極めて少ない激レアモンスターだよ。俺も直に見たのは初めてだ」

「『ダーク・リベリオン』の効果発動! オーバーレイ・ユニットを2つ使う事で、相手モンスター1体の攻撃力を半分にし、自らにその数値を加える! “トリーズン・ディスチャージ”!」

 

 

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン(エクシーズ・効果モンスター)

ランク4

闇属性/ドラゴン族

ATK 2500/DEF 2000

レベル4モンスター×2

(1):このカードのX素材を2つ取り除き、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターの攻撃力を半分にし、その数値分このカードの攻撃力をアップする。

 

 

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ORU:2→0

 

 

 

「君の銀騎士の攻撃力、奪わせて貰う!」

「ぐぅ!」

「ベディヴィエール!」

 

 

剣英霊 ベディヴィエール ATK:2900→1450

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK:2500→3950

 

 

 翼から放たれる電撃に絡め取られ、菫色の騎士の力が奪われる。輝けるアガートラムの右腕は鈍いくすんだ色となり、騎士自身も苦しそうに片膝を付いた。

 攻撃力の差は2500、マスターのライフは辛うじて残るが……。

 

「俺はカードを1枚伏せる。そして魔法カード『悪魔の封印櫃』を発動。次の俺のターンのドローフェイズ、通常ドローの代わりにデッキから好きなカードを1枚手札に加える事ができる。もっとも手札を全て捨てるコストがあるがな」

 

 

 

悪魔の封印櫃(オリジナル)

【通常魔法】

このカード名の効果はデュエル中に1度しか発動できない。

次の自分のターンのドローフェイズ、手札を全て捨てて発動できる。

(1):通常ドローの代わりにデッキから好きなカードを1枚選択して手札に加える。

この効果を適用したターン、デッキからカード効果でカードを手札に加える事はできない。

 

 

 

「バトルだ! 俺は『ダーク・リベリオン』で『剣英霊 ベディヴィエール』を攻撃!」

 

 牙を白く発熱させて迫り来る闇のドラゴン。喰らえば確実に致命傷だ。

 そうはさせない。

 

「マシュの効果発動! 1ターンに1度、戦闘ダメージを0にし、また同時にこのバトルによる破壊も防ぐ!」

「ベディヴィエールさん、カバーします!」

 

 素早くベディの前にマシュが回り込み、ドラゴンの突貫を防ぐ。白い電光を散らしながらもマシュは一歩だって後退せず、その攻撃を完全に防ぎ切った。

 

「ありがとうございます」

「これもお役目です」

 

 これで攻撃は終わった。敵の残ったモンスターの攻撃力は1000、驚異にはならないだろう。

 次のターンにベディヴィエールは自身の効果で攻撃力が2450になる。これに手札の『融合武器ムラサメブレード』を加えれば攻撃力は3250、敵の残りライフをゼロにできる。

 だが。

 

「甘いぞ、少年。それで防いだつもりか!」

「何!?」

「『レイン・デビル』の効果発動! リンク先のモンスターは攻撃力を500アップさせ、2度目の攻撃ができる!」

「何っ!?」

 

 

ATK:3950→4450

 

 

「これで攻撃力の差は3000、君のライフは2800! 終わりだ! “反逆のライトニング・ディスオベイ”!!」

 

 豪雨の悪魔からエネルギーを与えられ、ドラゴンは何と再突撃して来た。

 これを喰らえばマスターは敗北してしまう。回避すべく少年はディスクのボタンを押してカードを1枚選択した。

 

「俺は墓地の『超電磁――」

「ストップですマスター! ここは私の効果を!」

「え!?」

 

 制止の声をかけたのは、他ならぬ狙われた銀騎士であった。

 確かに『超電磁タートル』の効果は1度きり、温存しておく戦術は悪くない。

 だがそれでは、彼は守れない。

 その意図を察したのか、菫色の騎士は牙を正面から受け止めつつ、優しく微笑んだ。

 

「大丈夫です。破壊されても死ぬワケではありません。それよりもここで防御の術を1つ切り捨てるのは痛い。敵にはもう1ターンの攻撃の猶予があります、仕留め損ねた時に備えるのです!」

「くっ!」

 

 彼の言っている事は正しい。

 敵の実力は高く、またあの“CHAOS”モンスター達の詳細も分かっていない。もしかしたらこれまで固有の共通効果を発動しなかったのは、単に温存していたからかも知れない。

 それを考えると、ここで強力な効果を持つ『超電磁タートル』を失うのは確かに厳しいだろう。

 

「でも――!」

「先輩」

 

 考えあぐねていると、更にマシュからも声がかかった。

 彼女の強い瞳は雄弁に物語っている。彼の思いをここで無為にしてはいけない、と。

 

「っ! 俺はベディヴィエールの効果発動! デッキトップを墓地に送り、攻撃力をこのバトルの間だけ1000アップさせる! 俺は1番上のカード『サイクロン』を墓地へ送り、パワーアップ!」

「スイッチ、オンッ!!」

 

 

剣英霊 ベディヴィエール ATK:1450→2450

 

 

 再び彼の右腕に強い光が灯る。押し返す事はできずとも、その輝きはドラゴンの推進力を僅かなりとも削り取り、マスターへ後逸するダメージを軽減させた。

 

「ぐ、ぁああああああああああああっ!」

「ベディヴィエ、がはぁっ!」

 

 

カルデアのマスター:LP 2800→800

 

 

「チッ、辛うじて耐えたか」

「先輩、大丈夫ですか!?」

「な、んとか……」

 

 大幅にライフを削られはしたが、取り敢えずライフは無事だ。

 しかし既にガンマンラインと呼ばれる数値に到達してしまった。このままでは次のターンで敗北するかも知れない。

 

「俺はこれでターンエンドだ。『レイン・デビル』の効果終了、攻撃力は戻る」

「こちらもベディヴィエールの効果発動! 破壊されたターンの終わりに手札から魔法カードを墓地に送る事で、光属性モンスターを1体手札に戻す! 俺は『融合武器ムラサメブレード』をコストに、『スターリィ・シンクロン』を選択して手札に戻す!」

 

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK:4450→3950

 

 

 

剣英霊 ベディヴィエール(シンクロ・効果モンスター)(オリジナル)

星7

光属性/戦士族

ATK 2400/DEF 2100

光属性チューナー+戦士族を含むチューナー以外のモンスター1体以上

(1):1ターンに1度、このカードが戦闘を行う場合、デッキの1番上のカードを墓地へ送って発動できる。

このカードの攻撃力はダメージ計算時のみ1000アップする。

この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):このカードが破壊されたターンの終了時に発動できる。

手札から魔法カードを1枚墓地に送り、自分の墓地の光属性モンスター1体を手札に戻す。

 

 

 

レイン・デビル(リンク・効果モンスター)(オリジナル)

リンク2

闇属性/悪魔族

ATK 1000

闇属性・悪魔族の効果モンスター2体

(1):リンク先に闇属性モンスターが存在する場合、このカードは攻撃の対象にならない。

(2):このカードのリンク先に存在する闇属性モンスターは2回攻撃できる。

(3):リンク先の闇属性モンスターがこのカードの(2)の効果で2回目の攻撃を行う場合、攻撃力は500アップする。

このターン、他のモンスターは攻撃できない。

 

 

 

満月のバーサーカー:LP 2250

手札:1枚

フィールド

レイン・デビル(ATK:1000)

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン(ATK:3950・『レイン・デビル』の下にリンク)

伏せカード1枚

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……! キッツ……!」

「先輩……!」

「へへ、連続攻撃か、成程それはマシュの効果を抜けて来るなぁ」

「すみません、私の効果に穴があったから……」

「気にしないで。それに……、チャンスはまだある」

 

 残りライフは800にまで追い込まれた。だが逆を言えばこれは『ライフ1000が以下になった』という事でもある。

 前を向けば、お誂え向きに電子の暴風が吹き荒れ始めた。これは運命の女神が微笑んでくれているのかも知れない。

 

「幸運の女神は前髪しかない。行くよ、マシュ!」

「はい!」

 

 右腕に生命力を転化させた魔力を注ぎ込み、回路を光らせる。

 たちまち指先に温かいエネルギーが満ち始め、嵐の中にある種の指向性を持った力場の流れを感じ始めた。

 

「言っておくが、リンク先に闇属性モンスターがいる時、『レイン・デビル』は攻撃対象にならない。君の勝利はもう厳しいんじゃないかな?」

「それはどうかな?」

「……!」

「勝負はここからだ! 自分のライフが1000以下で、エクストラデッキに空きがある時、このスキルは発動できる!」

 

 立香は不敵に笑ってDボードのアクセルを踏み込み、一気にデータストームの中へと突入した。

 中心に辿り着いた少年はデータストームで指先を削るように手を突っ込み、力を注いで行く。水の抵抗のように指先に新たな力が集まるのを感じ、痛みすら跳ね除けマスターは全力で暴風に挑む。

 

「お、おぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 その手の中に集うは力。より強い力。

 敵の小細工すらまとめて薙ぎ払う強大なエネルギーの本流。

 

「風を掴んで下さい、先輩!」

 

 イメージする。暴虐なまでの黒を塗り潰す、更なる黒を!

 

 

 

 

 

「スキル発動! “Storm Access”!!」

 

 

 

 

 

 光が集う。より強い剣を呼ぶために。

 

 

――私を呼ぶか、良い判断だ

 

 

 エネルギーは長方形のカードへと姿を変え、マスターの手の中に納まった。

 

 

  ☆

 

 

 嵐を切り裂き、マスターは再びDボードに乗って戦場へ舞い戻る。

 エクストラデッキに新たな仲間を加え、勝利の光を目に宿した少年は、今反撃を開始した。

 

「俺のターン!」

 

 どの道、このターンが最後の攻撃できるターンならば、ここで一気に叩く!

 

「チューナーモンスター『スターリィ・シンクロン』を召喚! その効果で蘇れ、ベディ!」

「お任せを!」

 

 

ATK:300

DEF:2100

 

 

「レベルの合計は、8か!」

「俺はレベル7のベディヴィエールに、レベル1の『スターリィ・シンクロン』をチューニング!」

「我が忠義は不屈! 行きます!」

 

 再び星の力となり、大いなる円環に姿を変える投影機と隻腕の戦士達。

 光り輝く帯がトンネルのように一連となり、新たな力を呼び込む閃光を生み出す。

 

「滅びの定められし国の王よ、黒き聖剣を携え、その運命に抗え!」

 

 

☆1+☆7=☆8

 

 

「シンクロ召喚! レベル8! 偉大なる暴君、『剣英霊 アルトリア・ペンドラゴン・オルタナティブ』!!」

「よくぞ私を呼んだ、誉めてやろうマスター!」

「マシュのリンク先にいる事で、攻撃力と守備力が500アップ!」

「そいつが噂に聞くアーサー王の別側面か!」

 

 

ATK:2500→3000

 

 

 漆黒の悪魔と龍に対抗するには、こちらも龍の血を持つ闇の力を使うしかない。

 召喚されたのはブリテンの王、堕ちた聖剣を携えた冷血な女傑。マスターにとってのセイバーのイメージを形作った存在だ。

 

「だが足りないなぁ、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』の攻撃力は3950だ!」

「だったら届かせるまで! アルトリア・オルタの効果発動! シンクロ召喚に成功した時、手札を任意の枚数捨てる事で、新しい効果を得る!」

 

 手札を1枚だけ残し、素早く3枚のカードを墓地へ送る。

 墓地ポケットに『黎明の手』、『ダメージ・ダイエット』、『スキル・プリズナー』が入り込み、黒騎士王の全身を三重にオーラが覆った。

 

「第1の効果! この効果で捨てた手札の枚数の500倍、攻撃力がアップ!」

「マスターが捨てた枚数は3枚! 1500アップだ!」

 

 

ATK:3000→4500

 

 

「攻撃力4500だと!?」

「第2の効果! 相手モンスター全てに無効にされず攻撃できる!」

「『レイン・デビル』の攻撃対象にならない効果も、これで関係無い。まとめて吹き飛ばす!」

 

 闇属性モンスターとリンクしている時に制限が発生するなら、まずはそのリンク先モンスターを叩けば良い。シンプルにして分かりやすい事実だ。

 黒セイバーの攻撃力は今4500、マシュの攻撃力は2300、ダメージは2回攻撃を加味して合計11300ポイント。

 満月のバーサーカーのモンスターの攻撃力の合計は4950、ライフは残り2250ポイント。

 全ての攻撃が通れば、敵のライフは0になる。

 

「第3の効果! 戦闘ダメージを与える度に、相手の手札を1枚捨てさせる!」

「チィッ! 成程、万一に備えて『悪魔の封印櫃』のコストを潰しに来たか!」

 

 

 

剣英霊 アルトリア・ペンドラゴン・オルタナティブ(シンクロ・効果モンスター)(オリジナル)

星8

闇属性/戦士族

ATK 2500/DEF 1900

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカードは相手の魔法カードの効果を受けない。

(2):このカードがS召喚に成功した時、手札を3枚まで捨てて発動する。

捨てた枚数によって以下の効果を得る。

●1枚以上:このカードの攻撃力は、この効果で捨てた枚数×500アップする。

●2枚以上:このモンスターは相手モンスター全てに1度ずつ攻撃でき、攻撃は無効にならない。

●3枚:このカードが相手に戦闘ダメージを与える度に、相手の手札を1枚ランダムに捨てる。

捨てられない場合、相手に1500ポイントのダメージを与える。

 

 

 

「カードをセットして、バトルだ! 悪いが知ってる事を残らず吐いて貰う!」

「っ!」

「俺はアルトリア・オルタで『ダーク・リベリオン』を攻撃!」

 

 ゴウッ!と吹き上がる闇黒の瘴気が聖剣に纏わり付く。悪しきエナジーにて構成された宝剣はそのまま振り下ろされ、巨大な黒い刃として叛逆の龍を両断した。

 

「ぐぅっ!」

 

 

満月のバーサーカー:LP 2250→1700

 

 

「モンスター効果発動! その手札を捨てて貰う!」

「チイッ……」

 

 墓地へと送られる1枚のカード。これで次のターンにバーサーカーはコストを支払う事ができなくなった。

 だがもう関係無い。

 

「もう一発! 今度は『レイン・デビル』を攻撃!」

「これでトドメだ! 地に落ちろ!」

「卑王鉄槌!」

「極光は反転する、光を飲め!」

 

 黒い刃はそれだけでは止まらない。

 反転した聖剣のブレードは更にエネルギーを増し、より強い渦を巻く。束ねられた闇の星光は最早柱と化し、再び大上段からレインコートの悪魔へ向けて振り下ろされ。

 

「「“約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)”ァアアアアアン!」」

「…………!」

 

 遠慮容赦無く、その存在を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

満月のバーサーカー:LP 2700

 

 

 筈だった。

 

「何だと!?」

「速攻魔法『神秘の中華なべ』。これで『レイン・デビル』をリリースし、ライフを1000回復した。君の黒い剣士はモンスターにしか複数回攻撃できない。よって対象モンスターの喪失で攻撃は不発になって事さ」

「リリースエスケープか……!」

「残念だったな」

 

 

 

神秘の中華なべ

【速攻魔法】

自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる。

生け贄に捧げたモンスターの攻撃力か守備力を選択し、その数値だけ自分のライフポイントを回復する。

 

 

 

「クソッ!」

 

 まさかそんなカードで防がれるとは想定していなかった。

 高い攻撃力を利用する事を想定していたが、そのためにマシュがいる。反射も効果破壊も効かないようにできる。

 だがまさか攻撃そのものをこんな形で止められてしまうとは思わなかった。これでは攻撃を無効にされない効果も意味が無い。

 

「マシュでダイレクトアタック!」

「“ホーリー・ラウンド・バッシュ”!」

「いっでぇっ!?」

 

 追い打ちに盾の打撃をバーサーカーに加えるが、足りない。マシュの攻撃力は、自身の効果で上げる対象にはなっていない。

 

 

満月のバーサーカー:LP 2700→400

 

 

「ふぅ、危なかった。何とか持ち堪えたぜ」

「くっ!」

「さて、これで終わりかな、少年? ならターンを終えて欲しいんだがな?」

「――ターンエンドだ!」

 

 

 

カルデアのマスター:LP 800

手札:0枚

フィールド

盾英霊 マシュ・キリエライト(ATK:2300)

剣英霊 アルトリア・ペンドラゴン・オルタナティブ(ATK:4500・マシュの左下にリンク)

伏せカード1枚

 

 

 

「さぁ行くぜ? 俺のターンだ。このドローフェイズ、前のターンに発動した『悪魔の封印櫃』の効果により、ドローはサーチに変わる」

「だがアンタの手札は0、捨てる手札が無ければ……!」

「生憎だが、墓地にレベル4以下の悪魔族が5種類以上いれば、手札コストを踏み倒せるんだよ!」

「何っ!?」

 

 

 

悪魔の封印櫃(オリジナル)(全文公開版)

【通常魔法】

このカード名の効果はデュエル中に1度しか発動できない。

次の自分のターンのドローフェイズ、手札を全て捨てて発動できる。

(1):通常ドローの代わりにデッキから好きなカードを1枚選択して手札に加える。

この効果を適用したターン、デッキからカード効果でカードを手札に加える事はできない。

このカードの発動時と効果処理時に、自分の墓地にレベル4以下の悪魔族モンスターが5種類以上存在する場合、ドローフェイズに手札を捨てずにこの効果を発動できる。

 

 

 

「奴の墓地の“CHAOS”は全て闇属性・悪魔族……。成程、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』は効果を発動するとオーバーレイ・ユニットを2つ同時に失う。墓地にモンスターを送るには最適って事か……!」

「そういう事だ。俺はこの効果で、このカードを手札に加える」

 

 デッキが自動でカードを1枚弾き出し、バーサーカーの手札に加わる。

 遠目でよく見えなかったが、どうやら魔法カードのようだ。

 

(一体何のカードを……)

 

 こういう時に加わったカードは公開情報として、ディスクにデータが残る。

 幸い防御は三重に張ってある。どんなカードであろうと迎え撃つ事は可能だ。

 そして特殊ルールにより、このターンさえ凌げば残りライフ400の相手の負けになる。ライフ差400を何とか維持すれば、勝利できる。

 そう自分に言い聞かせ、マスターはバーサーカーがサーチしたカードを確認した。

 

 

 

 

 

『Rν□゜ー■■■■・4÷S』

 

 

 

 

 

「ヒッ……!?」

 

 思わずマスターは息を呑んだ。

 文字化けに、では無い。このカードの、画面越しの異様さに、だ。

 これはヤバい、等という生易しいものでは無い。このカードはダメだ(・・・・・・・・・)あってはいけない(・・・・・・・・)

 

『マスター君、マシュ、逃げろ! 逃げたまえ! 今すぐだ!!』

「ダ・ヴィンチちゃん!?」

『そのカードは危険だ! こっちでも効果どころか名前が一文字だって、いやイラストの画素の欠片ですら一切分析できない!! そのカードは、本当に危険すぎる!!』

 

 電子特異点の異常を調べていたダ・ヴィンチが、突如通信で異常を知らせて来る。彼女のこんな悲鳴にも近い警告は初めてだ。それだけあのカードがイレギュラーである事の証明、という事だろうか。

 

「スキル、発動」

「!」

 

 だがデュエルを中断したくばサレンダー以外に道は無い。そしてそれは、プライド以前に相手が許さないだろう。相手の了承無くして、降参は成立しないのだ。

 そうこうしている内に、バーサーカーは満を持したと言わんばかりにスキルの使用を宣言して来た。

 

「スキルLv1、『デビル・ダンス』!」

「れ、レベル1!?」

「スキルはアップデートできる他、持ち主の心の在り方や習熟度に応じ、レベルという段階を踏んで進化する。無論、レベルが違うからと言って複数のスキルを使う事はできないがな。

 このスキルにより、自分の墓地から同じ名前の悪魔族モンスター2体を、効果を無効にして特殊召喚する! 蘇れ、2体の『CHAOS ダンサー』!」

 

 

 

デビル・ダンス(オリジナル)

【スキル】

(1):デュエル中に1度、自分の墓地から同じ名前の悪魔族モンスター2体を特殊召喚できる。

このスキルによって特殊召喚されたモンスターの効果は無効となる。

 

 

 

DEF:2000

DEF:2000

 

 

「またレベル4が2体!」

「折角ここまで追い込んだのに……!」

「レベル4の『CHAOS ダンサー』2体でオーバーレイ!」

『ケヒヒヒヒ!』

『キケェー!』

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

 

☆4×☆4=★4

 

 

「エクシーズ召喚! 現れろ、ランク4! 『ジェムナイト・パール』!!」

「なっ、『ジェムナイト・パール』!!?」

 

 都合4度目のエクシーズ召喚に応じたのは、全身真っ白な真珠で出来ている巨人。ランク4の中では高い攻撃力を持つ“ジェムナイト”の一派なのだが……。

 

 

ATK:2600

 

 

「せ、先輩? あのモンスターは確か……」

「ああ、何の効果も持っていない、実質バニラだ」

 

 そう、『ジェムナイト・パール』にはモンスター効果が無い。サポートカードと組み合わせる事でそれは色々な利点となるのだが、わざわざスキルとサーチを駆使してまでそんな事をする意味が分からない。もっと有効な戦法がある筈だ。

 

 

 

ジェムナイト・パール(エクシーズモンスター)

ランク4

地属性/岩石族

ATK 2600/DEF 1900

レベル4モンスター×2

 

 

 

「意味が分からないって顔してんなぁ、少年少女」

「…………」

「今、教えてやるさ! 俺は手札から『RUM(ランクアップマジック)-■■■■・フォース』を発動!」

「ら、ランクアップマジックだと!!?」

「「『ランクアップマジック!?』」」

 

 発動したカードの詳細は一切分からない。だが、そこから伝わる禍々しく、しかし神々しい何かは確実に一瞬で場を席巻して支配した。黒い波動と白い光が放たれ、圧倒的なエネルギーが充満するのを理屈では無く肌で感じる。

 

「このカードは自分フィールドのエクシーズモンスター1体を選択し、ランクが2つまで高いカオスエクシーズに進化させる!」

「カオス、エクシーズ……!?」

「俺はランク4の『ジェムナイト・パール』でオーバーレイ・ネットワークを再構築!」

 

 白亜の巨人は今一度光へと姿を変える。紫の閃光として闇の渦へ飛び込んだ白亜の巨人は、今一度星を合わせて進化を遂げる。

 光は闇に、闇は光に、混沌を潜り浅ましき業すらその身に宿す。

 

「カオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

 

★4→★6

 

 

「優しき巨人は憎悪は塗れ、今ここに鬼神の鉄槌を振るう!」

 

 メキメキと、ベキベキと音が鳴る。

 それはまるで骨が軋む音。それはまるで岩が砕ける音。

 

「黒き激昂よ、来たれ!」

 

 白い、心優しい巨人は闇に飲まれ、その姿を漆黒に染め上げられる。禍々しく、おどろおどろしく、悪魔のように、鬼のように。

 

「現れろ、ランク6! 『CX(カオスエクシーズ) ジェムデビル・ブラックパール』!!」

『BOJAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』

 

 

ATK:2800

 

 

 吹き上がる闇は巨人に新たな姿を与え、この場に降誕させる。

 元々の体色であった美しい白はくすんだ黒に。

 スリムで滑らかだった全身は、ゴツゴツと無骨な姿に。

 緑の穏やかな瞳は、憎悪を滾らせる赤黒い眼光に。

 果たしてそこには、魔人と呼ぶに相応しいクリーチャーが存在していた。

 

「攻撃力2800……! だが、マシュの効果でダメージは通らないし破壊もされない! そしてアルトリア・オルタの方が攻撃力は上だ!」

「それはどうかな?」

 

 マスターの防御カードは3枚。

 バトルフェイズを強制終了させる『超電磁タートル』、ダメージと破壊を防ぐマシュ、そして1枚だけ存在する伏せカード。

 この布陣が盤石とは言わないが、モンスター1体だけで通過できる程にヤワな陣形でも無い。それは相手も承知の上の筈だ。

 ならばあの自信は、どこから来る……!

 

「さぁ行くぜ、バトルだ!」

「この瞬間、墓地の『超電磁タートル』のモンスター効果発動! バトルフェイズ中に墓地からこのカードを除外する事で、このターンのバトルフェイズを強制終了させる!」

「残念だが不可能だ。『ジェムデビル・ブラックパール』の効果で、進化前をオーバーレイ・ユニットにしている限り、バトルフェイズ中の相手モンスター効果は全て無効になり、発動できない!」

「何っ!?」

「それでは『超電磁タートル』は相性最悪ではないか!?」

「当然、君の黒騎士の攻撃力をアップする効果は終了。合計2000ポイント、攻撃力がダウン!」

 

 

ATK:4500→2500

 

 

「アルトリア!?」

「ぐっ、すまんマスター……!」

 

 ディスクの投影するソリッドヴィジョンのデータが『CAN'T ACTIVATE』の文字を表示する。墓地の『超電磁タートル』を始め、フィールドの2人の仲間のカードが赤いバツ印で発動不能状態を示されていた。

 伴って黒セイバーの強化も切れ、白煙のようにパワーアップさせていたエネルギーが抜け出していく。

 

「さぁ行くぞ! 『ブラックパール』、黒い騎士を殴り倒せ! “ブラックパール・ナックル”!」

「させるか! この攻撃宣言時、罠カード『鎖付きブーメラン』を発動! このカードをマシュに装備させ、攻撃力を500アップさせる! 更に、『ブラックパール』を守備表示にする!」

 

 アルトリア・オルタに殴り掛かる黒い巨人に対し、飛来した刃付きの鎖がその全身を絡め取った。全身を正確に絡め取った鎖はそのままマシュの手に納まり、その手に刃として取られる。

 

「敵兵、捉えました!」

 

 

盾英霊 マシュ・キリエライト ATK:2300→2800

 

 

「無駄だぁ!」

 

 しかし黒い巨人を抑え込んだ鎖は一瞬で破壊され、砕け散った。

 戒めから解き放たれた『ブラックパール』は再び拳を振るうと、今度こそ黒騎士王の体躯のド真ん中に重い一撃を叩き込むのであった。

 

「がはぁっ!?」

「アルトリ、っっ!!」

 

 

カルデアのマスター:LP 800→500

 

 

 一発で致命的なダメージを負い、光の粒子として霧散する黒セイバー。爆風に煽られ、マスターの体勢も大きく崩れるが、辛うじてボードでの飛行は保つ事ができた。

 

「く、何故攻撃が……。罠カードに耐性でもあるのか……!?」

 

 発動した『鎖付きブーメラン』は2種類の効果を持ち、片方だけ発動する事も、両方発動する事もできる。今回マスターは両方の効果を発動させ、攻撃を止める算段だったが、何故か失敗してしまった。

 攻めの要を失ったこの状況、普通ならかなり痛い。耐性や連続攻撃、乱入の可能性を考えてマシュを強化したのが裏目に出てしまったようである。

 

「だが……、奴はいまミスを犯した!」

「そうです! 普通なら私を攻撃すればダメージは500! 今回の特殊ルールで先輩のライフは相手を下回り、こちらが敗北する所でした!」

「ああ。だが『鎖付きブーメラン』の効果でマシュの攻撃力は敵と並んだ。そしてライフはまだこっちが上、俺達の勝ちだ!」

 

 満月のバーサーカーのライフは残り400、マスターの方が辛うじて上となっている。

 このターンが終われば今回限定のルールでデュエルは終了、ライフが多いマスターの勝利となるのだ。

 

「俺がミスを犯したぁ? ハッ、とんだロマンチストだな!」

「何!?」

「教えてやろう、ミスったのは寧ろお前だ!」

 

 そう、このままターンが終われば。

 

「俺は『ブラックパール』の効果発動! オーバーレイ・ユニットを1つ使い、このターン効果モンスターを相手にもう1度だけ攻撃できる!」

「な!?」

「大丈夫です、攻撃力は互角! 例え私と戦闘を行っても相撃ちになり、ライフに変化はありません!」

 

 

 

CX ジェムデビル・ブラックパール(エクシーズ・効果モンスター)(オリジナル)

ランク6

地属性/岩石族

ATK 2800/DEF 2100

レベル6モンスター×3

(1):このカードが戦闘によって相手の効果モンスターを破壊した時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

このターン、相手の効果モンスターに対してもう1度だけ攻撃できる。

(2):このカードが「ジェムナイト・パール」をX素材としている場合、以下の効果を得る。

●バトルフェイズ中、相手モンスターの効果は無効となり、発動できない。

 

 

 

 胸部に橙色の星を吸い込み、黒巨人は全身に漆黒のオーラを纏う。

 邪悪なオーラが強くなったものの、しかし攻撃力は互角。このままマシュと相撃ちになる攻撃力で殴り掛かった所で、ライフダメージを受けるワケでも無い。今回適用されている特殊ルールで、このターンが終わればライフが多い方の勝ち、バーサーカーの敗北は変わらないのだ。

 

「攻撃力は互角だから、互いに倒れるだけで終わる。ライフは俺が400、君が500だから君が勝つ。そう確信している目だね?」

「……!」

「甘いんだよ」

 

 バーサーカーの顔が、蔑むように歪む。

 次の瞬間、フィールドに紫の魔法陣が展開し、その中から再び黒いベリーダンサーが現れた。

 

「これは、墓地発動の効果エフェクト!?」

「俺は墓地へ送られた『CHAOS ダンサー』の効果発動。このカードがカオス・エクシーズのオーバーレイ・ユニットとして墓地へ送られた時、相手モンスター全ての攻撃力を1000ダウンさせ、自軍を同じ数値分パワーアップさせる!」

「何!?」

「そんな効果、今まで使って来なかったのに!?」

使わなかったんじゃなくて使えなかった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)んだよ、盾の少女」

 

 ニヤリ、と満月のバーサーカーは笑って告げる。

 

「俺の使うモンスター、“CHAOS”はその名の通り、カオス・エクシーズのオーバーレイ・ユニットとして初めて真価を発揮する。普通に使ったんじゃ効果を十二分に使えないのさ」

 

 

 

CHAOS ダンサー(効果モンスター)(オリジナル)

星4

闇属性/悪魔族

ATK 800/DEF 2000

(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):X素材のこのカードが「C」Xモンスターの効果を発動するために取り除かれた場合に発動できる。

ターン終了時まで、相手フィールドのモンスター全ての攻撃力を1000ダウンさせ、自分フィールドのモンスター全ての攻撃力を1000アップする。

 

 

 

盾英霊 マシュ・キリエライト:ATK 2800→1800

CX ジェムデビル・ブラックパール:ATK 2800→3800

 

 

「そうか、これまでのデュエルは温存していたんじゃなく、ただ単に効果を使う条件が整っていなかったからか!」

「そういう事さ。君の運命力は大したモンだよ、まさか3ターンも俺にRUMを引かせないだけの運を持っているとはね」

 

 だが今、こうしてそれは発動されて窮地に追い込まれてしまった。

 攻撃力の差は2000、こちらの残りライフはたったの500。更にモンスター効果は発動できないため、マシュの効果でこれを防ぐ事もできない。

 『鎖付きブーメラン』は何故か通じず、この攻撃を止める術は、もう無い。

 

「だがこれで、終わりだ。さらばだ少年!」

「先輩!」

「マシュ!」

 

 マスターの前で自慢の大盾を構えるマシュ。魔力によって強化されたそれに向かって振り下ろされる、黒い拳。ガウンッ!と金属同士が重く衝突した音が響く。

 しかし弱体化した少女ではその巨大な暴力を止める事は出来ず。

 

「“ブラックパール・ナックル”!!」

「私が、止めないと……! う、ぁあああああああああああっ!!」

「マシュゥウウウウウウウウウウウウウウッ!!」

 

 闇の鉄槌によって、マシュは儚く吹き飛ばされ。

 魔力と闇の衝突によって発生した大爆発によって、マスターとマシュは木の葉のように宙に舞った。

 まるでそれは、砕け散る砂山のように。

 圧倒的な暴力の前に、2人は、屈した。

 

 

To be continued

 




マシュのためになけなしの勇気を振り絞るマスターは良いぞ!

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