惑星ベジータ。サイヤ人。
恐れられる戦闘民族。残酷な侵略者。
けれども彼らにも、愛はあった。
はじまり
―――――新しいチームに配属された。
正確には、新生チームの初期メンバーとして組み込まれたわけだけど、まあ変わりはしない。
前のチームは女だけのチームだった。その中でも1番戦闘力の低かったアタシはあまり扱いがよくなかったけど、いつかはこいつら全員ぶちのめしてやるって思ってたタイミングでの配置換えだったから思うところはある。が、上が決めたんなら仕方ない。
メンバーは、男3人女2人の5人。その中に見知った顔がふたりいた。
ひとりはギネ。数少ない女サイヤ人で、突然変異みたいに性格が変わってるやつ。お人好しで甘ったれな子だ。……前のチームの連中は、アタシとギネが親しくしてたら「弱い奴同士の傷の舐め合い」だなんて言ってきたけどね。戦いには向かない性格は、ともすれば好戦的なアタシとは反りが合わないタイプかもしれないが、案外嫌いじゃない。
もうひとりはバーダック。このチームのリーダー。こいつとは別に顔見知りなわけじゃなく、アタシが一方的に知ってるだけだった。下級戦士でありながら高い戦闘能力を持つサイヤ人。結構噂になってたからね。
あとはトーマってのと、トテッポってやつ。両方男。……あたしはともかくとして、バーダックとギネは相性が悪いかもしれないね。バーダックは根っからのサイヤ人みたいだし。
いざとなったら、ギネを庇ってやんなきゃいけないかな。まったく、あの子も戦闘自体あんまり好きじゃないんなら、戦闘部隊じゃなくて配給所とかに居ればいいのに。まあ、仕方ないけど。
■
―――――最悪だあの男! バーダック!
星に着いた途端、さっさと飛び出していきやがった! 一応このチームのリーダーなんだからちゃんと指示出しなよ!
トーマはバーダックの親友らしい。話を聞けば、昔から戦うのが好きすぎて、スカウターで自分より高い戦闘力のやつを見つけると飛び出しておっぱじめちまうらしい。だから前のチームでも問題視されて、結局チームを解散したんだとか。この再配置の原因はアイツか……。
星の侵略はほぼバーダック抜きでやった。なのにアイツ、ぬけぬけと「一番強いやつを俺が仕留めたから侵略できたんだろーが」とか抜かしやがって……結果として瀕死になったアンタの治療時間は、リーダー不在で仕事できなんだけど? さっさと戦いたいのに2、3日仕事が無くて、フラフラしたり鍛錬したりしてたら前のチームの連中に「もうリストラされたの?」「弱すぎて捨てられたんじゃない?」なんて笑われる羽目になった!
だいたい、格上なんて複数人でかかって袋叩きにしちまえばさっさと済むってのに、アイツの自己満足に巻き込まれるなんて最悪だよ。
治療カプセルに入ってるバーダックを、ギネは心配そうに見てたけど……自業自得なんだからほっときゃいいのに。
■
―――――最近、バーダックの身勝手さにも慣れてきた。
いまだに好き勝手戦いに行くあの男を、最初はうるさく言ってみたりしたけど、右から左って感じだしね。そんなことに目くじら立ててる暇があったさっさと侵略するに限る、って考えなおしたわけだ。
ある日、バーダックに聞かれた。「お前、俺とのチーム辞めてぇと思わねぇのか」だって。そのセリフで気づいたんだけど、こいつも案外、前のチームが解散になったのをいろいろ考えているらしい。後悔とは違うようだけど、バーダックなりに思うところがあった、って事かな。
まあ、考えはしてもスタイルを変えないのは、我慢できないんだろ。『強い奴と戦いたい』って気持ちがさ。
だから言ってやったんだ。「アンタが厄介なのの相手をしてる間に、アタシたちが星の侵略を終わらせる。利害の一致さ」ってね。アイツは、ふうん、なんて返事をしてきた。
バーダックは戦うのが好きだ。それはサイヤ人ならみんな一緒だけど、違うとすれば『自分より強い奴と戦うこと』が好きなところ。普通のサイヤ人は自分より強い奴が敵なら、撤退して形勢を整えたり、複数人で相手したりするもんだ。だってのに、バーダックは自分一人で戦って勝ちたがる。
馬鹿みたいだ。………だけど、なんでかな。たまに、アイツのその姿こそ『誇り高き戦闘民族』であるアタシたちサイヤ人の、『正しい姿』に見えるんだ。
だからアイツのことは、思ったより嫌いじゃなくなった。
■
―――――バーダックがまた治療カプセルに入った。
最早恒例行事だ。瀕死のバーダックは治療にかかる時間も馬鹿みたいに長い。あんなに死にかけては生き残ってるから、ぐんぐん戦闘力も上がるんだろうね、アイツ。
バーダックがいない間の仕事がない時間は、もっぱら鍛錬にあててる。アタシもサイヤ人として強くなりたいという気持ちは大きいし、バーダックを認めた今は、あいつと同じチームとして弱いまんまじゃいられない、なんて気持ちもある。
やることは山積み。けど、暇人はどこにでもいるもんだね。また前のチームの連中にからまれた。ああ、ほんとにメンドクサイ。
いつも同じようなことを言ってケラケラ笑って、芸がない。何が面白いんだろうね?
言い返したい気持ちはある。ぶっ飛ばしてやりたくもなる。けど、アイツらの方がまだアタシより戦闘力が高い。昔に比べたら追い越す未来が見えてきたくらいには差が縮んでるけど、今咬みついたって負け犬の遠吠えだ。無視したら舌打ちをしてどっか行った。
それにしても、わざわざスカウターで探しに来るなんてよっぽど暇なんだね。つまんない奴ら。暇つぶしにこんな無駄なことするくらいなら、前に会った時からほぼ変動のない戦闘力を上げることにあてればいいのにさ。
……いずれ超すにしても、こうもいちいちチョッカイ出されるのはメンドクサイな。
そうだ、今回は違う鍛錬でもしてみようか。『スカウター』に見つからない方法、とかさ。
■
―――――バーダックがギネを庇って重傷を負った。
命乞いをしてきた相手に思わず手が止まったギネが受けそうになった攻撃を、バーダックが咄嗟にギネの代わりに受けたらしい。
今回の星にはバーダックより強いやつはいなかったから、動けないバーダックをギネに任せてアタシたちでさっさと侵略を終わらせたんだけど……ギネはすごく取り乱してる。
バーダックの大怪我はいつものこと。でも、それが仲間を庇ってなら初めてだ。そこそこ長くなった付き合いで、あの男が案外仲間思いなのは分かってた。フォローだってしてくれるやつだった。敵に対して冷酷残忍な奴でも、あんな珍しいくらいの仲間意識を持ってるのか、なんて笑ったことを思い出す。
惑星ベジータに着いて速攻バーダックを治療カプセルに放り込んだ。報告や後始末はトーマがやっておいてくれるらしい。アタシはバーダックのカプセルから離れないギネのそばに付いておくことにした。
ギネはずっと「バーダックが死んだらどうしよう」「お願いだから死なないで」なんて苦しそうな顔をしてて、アタシは思わず、バーダックに心の中で話しかける。
―――――ねえあんた、幸せもんだね。
ギネは確かに甘ったれだ。顔をしかめるやつも多い。でも、思うんだ。自分が死んだとき、例えばギネみたいに、泣いてくれるやつがいたら。散々殺しまくったアタシたちみたいな悪党のために、その死を悲しんでくれるやつがいたら。
それってさ、めちゃくちゃ贅沢なことだと思うんだよ。
無表情無口で案外心配をしてくれていたらしいトテッポが、食料を運んできてくれた。それを食べながら、考える。ギネのこと、バーダックのこと。もしそうだとしたら、アタシは何をしようか。そんなこと。
とりあえず、案外仲間思いなこのチームは、サイヤ人にしては甘ったるくて、違和感はあるけど嫌いじゃない。感謝はするよ、バーダック。アンタの自分勝手のおかげで、今のアタシは人生最高に生きることを楽しめてる。
■
―――――バーダックの治療が終わった。
ギネはカプセルから出てきたバーダックに泣きながら引っ付いて、バーダックを困惑させてた。あの時のアイツの顔と言ったら!!
何とか引きはがしたアイツも、ギネが「よかった」って繰り返しながら泣くもんだから拒絶しきれなくって、こっちを「どうにかしろ」って睨み付けてきた。無視してやったけどね。
ギネはずっとバーダックを心配してたんだ。これくらい受け入れてやんなよ。
普段だったらバーダックが復活したらすぐ仕事だったけど、今は運悪く宇宙船がメンテナンス中。だからギネは一生懸命病み上がりのバーダックの面倒を見てた。お礼だって言って、バーダックがいらないって言ってもごり押してた。馬鹿だねバーダック。確かにギネは甘ったれだけど、あれでもサイヤ人の女だよ。そうするって決めたなら、そうそう譲りはしないさ。
ほら、バーダックが折れた。
―――――いや、それにしてもバーダックはギネに甘い気がするね。もしかすると、もしかするのかい?
■
―――――ギネがバーダックに惚れたらしい。
正確には、惚れている、と自覚した。おろおろしながら相談しに来て、かわいい奴だなって感じだね。
バーダックのことが気になって気になって仕方がないんだって。真っ赤な顔してたよ。
それでも、言うつもりはないらしい。確かにサイヤ人に『惚れる』とかいう感情は無いに近い。愛情なんてものは希薄すぎて、あったとしても仲間意識。
―――――きっとバーダックは、独り占めしたいだとか、独り占めしてほしいだとか、そう言った気持ちはないだろうから。
そんなことを言うギネを、両腕で抱き込む。アタシはそうは思わないけどね。だって、それじゃあ、アンタを見るときのあのバーダックの甘ったるい目は何だって言うんだ。
ここ最近なんて特に顕著だ。あんたの背中を目で追って、口元を緩めてるバーダックの顔ったら、みっともなくて見てられない!
……けど言わないよ。アタシの口から言ったって仕方ないだろう? 大丈夫さ、バーダックがいつまでもウジウジしてんなら、アイツの尻を全力で蹴り飛ばしてやるから。
「いつでもおいで。あんな甲斐性無しに代わってアタシが抱きしめてやるよ」
「ありがとうセリパ。わたし、セリパのことも大好きだよ」
こいつは困った。バーダックにやるのが惜しくなっちまうよ。
■
―――――なにはともあれ、これでバーダックを死なせるわけにはいかなくなった。
アイツは死に場所に戦場を求めるような男だ。今までは何か言うつもりはなかった。それがアイツの誇りなら、外野が口を出すべきじゃないと思ったからだ。
けど事情が変わった。バーダックが死んじまったら、ギネは心の底から悲しむだろう。そんな目に合わせるわけにはいかないからね。
かといって、バーダックに言ったって聞きやしないだろうし、アタシだって無理やり押さえつけるつもりはない。そんなことしたらお互いストレスで死んじまいそうだからね。
「トーマ、トテッポ。頼みがあるんだけど」
■
「おい、さすがにこの作戦は無理があるだろ」
やっぱり、真っ先に異を唱えたのはバーダックだった。相変わらず仲間思いなやつ。けどアタシだって譲るわけにはいかない。
新しく提案した作戦は、今までとはずいぶん変わったものだった。変わらないのはバーダックが1番厄介な奴を担当するところだけ。けど、元々なあなあになっていた部分をしっかり枠にはめただけの話でもある。
まず、トーマをバーダックに同行させる。一緒に戦うわけじゃなく、バーダックが戦ってる間に周辺の連中の相手をしたり、万が一バーダックに何かあったときにすぐに対応できるようにするためだ。
そして、侵略のメインはアタシとギネとトテッポ。ここを更に2チームに分ける。ギネとトテッポのチームと、アタシの単独チーム。
「テメェとトーマが組めばいいじゃねえか」
「馬鹿言うんじゃないよ。好き勝手するアンタのフォローができるのはトーマくらいなんだから」
「俺はひとりでいい」
「アタシはひとりがいい」
「…テメェの戦闘力のことを考えろっつってんだよ。ひとりでどうにかできるほど強くなったつもりか? 自惚れんな」
「だからだよ。ぬるく守られてるんじゃ足りない。強くなるには極限の状態であり続けなくちゃいけない。別にあんたのとこだって、トーマと一緒に戦えって言ってるわけじゃないんだ。いつまでもグダグダ言ってんじゃないよ」
バーダックと睨みあう。忘たかい? サイヤ人の女の諦めの悪さをさ。負けないよ、特にあんたみたいな仲間思いな奴には。
ほら、バーダックが折れた。
「チッ、勝手にしろ」
ずかずかと不機嫌そうに歩いていくバーダックに笑いそうになる。あいつが怒ったのは、自分の戦いが邪魔されると思ったのと、効率が悪いと思ったのと、ただ単純に心配だから。
馬鹿な奴! 素直に言えばいいのにね。そんときは腹抱えて笑ってやるからさぁ!
ギネが心細そうに名前を呼んでくる。その目にあるのは自責の念だ。おおかた、自分が弱いから迷惑をかけているんだと思ってるんだろう。
「そろそろからんでくる前のチームの連中のうっとおしさにも嫌気がさしてきてね。この際めちゃくちゃにパワーアップして、手も足も出ないくらいに、ぶちのめしてやりたいのさ」
ギネは特等席で見といておくれよ。あのうっとおしい連中がアタシに完敗するのをさ! そんな風に言えば、ギネは少し安心したように笑った。ギネは笑ってる顔が1番いい。惑星ベジータで1番かわいいんじゃない? こりゃ、バーダックとくっついたら、アイツを一発くらい殴っておこうかな。
■
―――――それから、アタシが治療カプセルに入る頻度が格段に上がった。
正直バーダックに追いつくくらいには入ってる気がする。何回死にかけたかもわからない。それでも着実に上がっていく戦闘力と、目に見えてわかるほど上達していく戦闘での動きにやる気は萎えることなく膨らんでいく。
なにより、治療カプセルを出た時に、ギネが嬉しそうに出迎えてくれるってのが悪くない。料理と着替えを持って、良かった、おはようセリパ、って笑いかけてくるギネを見ると気分がよくなる。いいご褒美だね。
同時に、最近のバーダックの機嫌の悪さも理解した。馬鹿なやつ!
「バーダック、ツラ貸しな」
「………何の用だセリパ」
「飲みに行くのさ」
バーダックを連れて行ったのは、集落の外れにあるバー。といっても、洒落たもんじゃなくて居酒屋みたいなもんだけど。アタシたちみたいな下級戦士は、気取って酒を飲むよりこうやって騒いで飲んだ方が性に合うのさ。
なにより、今は騒がしい方が都合がいい。
「バーダック。アンタさ、ギネに惚れてんだろ?」
「ブッ!!」
単刀直入にブッこめば、バーダックは口に含んでいた酒を噴出した。勿体ないことするね。
「っな、何を言いやがるかと思えば……!!」
「悪いけど、今日はアンタの照れ屋に付き合うつもりはないよ。あんな顔で睨んできておいて、まさか自覚がないなんて言うつもりないだろ?」
そこまで言えば、バーダックは「うぐ、」と黙った。
ああそうだろうさ。気に入らなかったんだろ? 今までは自分のためだけに治療カプセルのもとに通い詰めていたはずの女が、ある日から別のやつにも尽くし始めたんだ。それも、自分より親しげにさ。
だからいっつも、こっちを見て苦虫を噛みしめたような顔をして。でも相手が仲間のアタシだから、何んも言えなくて、イライラして。
「みっともないねえ」
「………うるせえよ」
まあ、なんでギネに気持ちを伝えないのかは分からないでもない。もともとバーダックだって、サイヤ人らしく愛だの恋だのってのには無縁な男だっただろうからね。自分の親兄弟の顔ですら覚えてないようなやつが、いきなり特別に感じる女ができて、本人も混乱してるんだろ。
サイヤ人は『
そんな中で、『たったひとり』と思っちまう相手ができたことに対する困惑。それは、そこまでおかしなことじゃない。
「アンタだって気づいてるんだろ、ギネが自分に惚れてるってさ」
「………俺は、戦いに身を置きたい」
―――――ああ、なるほど。
バーダックは、戦い続ける男だ。戦いに生きざまを持つ男だ。なんだコイツ、案外、すっかりギネのことを大切にしてたんじゃないか。
戦い続ける自分が、戦いを苦手に思うギネの隣にいること。それをアンバランスだと感じてる。そこで生じる、ギネの精神的苦痛を考えてる。
バーダックは酒を煽った。
「もし、手に入れてでもみろ。―――――きっと何があっても、俺はアイツを逃がせねえ」
とんだのろけ話じゃないか。我慢できなくなってアタシも酒を煽った。
ああ、尻を蹴っ飛ばしに来てよかった。
「だから身を引くって? そうだね、じゃあそうして、ギネもアンタを諦めたとする。それから新しい男を見つけて、その男と生きることにしたとする」
「………」
「アンタ、それを許せるっての?」
「………」
「……はん、そんな顔しといて、よく諦めるだなんて言えたね」
「……別に諦めるとは言ってねえ」
「往生際が悪いよバーダック」
ギラギラした目だ。不愉快だと全力で訴えてくる目だ。万が一そんなことになろうものなら、相手の男を殺しかねない目だ。
ギネは弱い。戦闘力は700前後だ。伸び代はあるだろうけど、戦いが好きじゃないから心がついていけなくて育たない。あの子は、誰かが守ってやらないとサイヤ人の中じゃ生きていけない。
屁理屈言ったって聞いてやらないよ。てか、諦めるって話じゃなかったのかい。そのセリフこそが答えじゃないか。
ああ、馬鹿なやつ!
「馬鹿なやつ」
「ああ゛?」
「どうせ我慢できないだろ、アンタなんか。自分の惚れた女を守るのが他の男、なんてのはさ」
「ずいぶんと口を出してくるな」
「ギネはアタシのかわいい子だよ。アタシはあの子の味方さ」
あの子と先に親しくなったのはアタシだし。今まであの子を守ってたのも、バーダックよりアタシだ。そう考えれば、バーダックのやつ横恋慕じゃないか? この泥棒猫!
酒の回ってきた思考が馬鹿なことを考える。ああ、馬鹿だね、アタシもアンタも!
「ギネを1番幸せにできるのはアンタだろ、バーダック」
アンタじゃないと、ギネは幸せになれない。惚れた女だ、自分で守んなよ。
それに、弱いサイヤ人の女なんて、ほっといたらどんな扱いを受けるかわかったもんじゃないだろう! ただでさえ希少な女。しかも戦いが好きじゃないから戦場に出なくてもいい。そんなの、子供を産ませるために酷い目にあわされるかもしれないじゃないか。
バーダックはグラスに残った酒を一気に煽って、ガンっ! とテーブルに叩きつけた。ちょっと、割れたってアタシは金貸さないよ。
「―――――行ってくる」
「手遅れかもね」
最後のひと押しをしてやれば、馬鹿みたいなスピードで飛んでった。酒場がひっちゃかめっちゃかになってるじゃないか。って、あ! アイツ……金置いていってないじゃないか…!
■
―――――バーダックのクソ野郎は殺す
「そ、それでね、バーダックが、わたしに惚れてるって……!」
「夢かと思ったよ! でも、起きたらちゃんとバーダックは隣にいたんだ!」
「わたしと同じ好きだって……わたし、バーダックだけのわたしになれたんだ。バーダックは、わたしだけのバーダックになってくれたんだ」
「セリパ、聞いてる!?」
「―――――ああ、聞いてるよ」
あの野郎、即日で手ぇ出しやがった。
奪う者。殺すもの。
それでも産み、育むもの。
情の希薄な彼らにも、愛を知るものは確かにいたのだ。