嫌悪を抱く前に好奇心を覚えた。
あまりに違ったもんだから、一体どんな構造をしてるのかと思ったんだ。
そうして覗き込んだものはあまりに未知で、理解不能で。
居心地は悪かった。あっちもこっちも違うから。
けど、
甘いそれが自分に向けられることが気持ちよくなって。
あんまりに違うあれが、きっと正しさそのもののように思えた。
過ちのようなアタシたちに『正しさ』が笑いかけてきて
そのアンバランスさがおかしくって、楽しくって、
―――――悪くないと思ってしまったのが始まり。
少なくとも、これだけは大切にしようと。
大事に守ってやりたいと。
とうとう思っただけになってしまった。
―――――それは唐突だった。
ある日唐突に、全サイヤ人に向けて「惑星ベジータへ帰還せよ」とフリーザ軍から命令が下った。理由のないそれに何事かと思いながらも、久しぶりに大勢の仲間が集まるとなれば周りの連中のも浮足立つ。
久しぶりに会ったギネはしゃいでた。バーダックもラディッツも仕事だったからね。予定よりも早い帰還となれば、うれしくて仕方がないんだろう。かわいい子だ。カカロットを家庭用保育カプセルに移したって言ってたから、ようやく家族4人で過ごせるの理由のひとつか。
そういやアタシも、結局『カカロットギャン泣き事件(命名:ターレス)』から王宮の専用ルームに行くのは止めちまったし(あんな目に合うのはこりごりさ)、つい2日前まで仕事で出てたからしばらくギネ以外に会ってないな。明日にでも顔を出しに行こうか。
「セリパ」
久しぶりに見た顔ぶれと、それじゃあ真昼間っから飲みに行こうかと騒いでいれば、バーダックが来た。ああ、帰ってきたのかい。周りの連中も気づいたようで、次々に声をかけ始める。「ああ! お帰りなさいバーダックさん」「お疲れ様です!」はん、好かれたもんだね。けど、一緒に呑みに行きませんか、と誘うやつはいない。こいつらもギネがバーダックを待ってることを知ってるし、バーダックがさっさとギネに会いに行きたいと思っているのを知ってるからだ。
愛だの恋だの、サイヤ人にゃ関係ないってのに。このふたりのために周りがこれだけ気ぃ使ってると考えれば、ギネの甘ったれの感染力は馬鹿にできないね。
にしてもアンタ、こんなとこに居ないでさっさとギネんとこに行きなよ、と言えば、もう行ってきた、と返される。そりゃそうか。どうせ報告業務ブッチして会いに行ったんだろ。とんだ愚問だったね。
久しぶりに会ったんだし、ギネにももう会ったってんなら少しくらい飲むかい、と誘おうとして―――――
「……場所を変えるよ」
―――――なんだその目は。戦場に居る時の目だ。帰ってきてギネにも会って、だってのにアンタ、なんでそんな顔してんだい。まるでここが戦場みたいにさ。
気づいてない周りに断りを入れて、バーダックと人気のないところまで移動すればジェスチャーで『スカウターをはずせ』と示される。……と、言うことはフリーザ軍に関する話ってわけか。スカウターをつけたままだとあっちに傍受されるからね。いつでも監視されている状況。便利だけど、こういうところが気に入らない。
外したスカウターを放り投げる。それが離れたところに落ちたのを確認して、バーダックが話し始めた。
始まりは、今回の召集の理由を知っているか、と。それに知らないと答える。なるほど、理由が思い当たらないってことか。どこが琴線に触れたか知らないけど、まあ確かに情報提供にせよ新設備にせよ、わざわざ下っ端まで集める理由がない。いつもならアイツらは来たいときに勝手に来るし、さっさと上の連中に指示を出して興味もなさげに帰るのにさ。わざわざここまでする、ってのは、ちょっと裏を感じるね。
それでも、ただの気まぐれだ、なんて話がないわけじゃない。そんなやつらだ。だから他のやつらも大して気にはしてなかった。……まったく、理由を考えず言われたとおりに動くなんて、飼いならされたペットみたいだ。ほとんどが疑問にも思ってないってんだから、恥が高いね。気づかないやつも、気づいてもできることの無いアタシも。
「やつら、スーパーサイヤ人について聞きまわっていたらしい」
「はあ?」
思わず呆けた声が出る。スーパーサイヤ人って、そりゃ……おとぎ話だろ? ガキだって信じちゃいないような話を、わざわざフリーザ軍の連中が? 馬鹿にしたような言い方になってもバーダックは鋭い視線を崩さず「やつらはそうは思っちゃいねえんだろ」と言った。
「予感がするんだよ………死の、予感が」
……正直、ばかげた話だ。酒場で話したもんなら笑い話にしかならない悪酔いの妄想に聞こえるだろうね。けど、ここは酒場じゃないし、―――――何より話してるのがバーダックだ。コイツの勘の良さはよく知ってる。それはもう、イヤってほどにね。
…いくら飼いならされてても、サイヤ人はフリーザをよく思っちゃいない。フリーザもそれを知っているだろう。そして、規模を広げたフリーザ軍は、とっくにサイヤ人が居なくたってやっていける。……スーパーサイヤ人を不穏分子として、反抗的で目障りな猿を一斉に処分しようって? そう言われてしまえば……この招集、わざわざ各地に散らばったサイヤ人を集めたことにも納得がいってしまう。
「…クソ、………言ったのがアンタじゃなけりゃ、信じもしないよこんな話」…そう言えば、バーダックは少し表情を和らげた。腑抜けヅラしてんじゃないよ牛蒡野郎。話の中身は大事件だろうが。
……それにしても、そうだとしたら。
アタシらサイヤ人は確かに野蛮な戦闘民族と称されるような
……それでも、フリーザ軍で最も前線で戦ってきたのはアタシたちだ。貢献度を考えりゃ、他の追随を許さないくらいにはあるだろう? その
「で? アタシに話したってことは何。このネタを理由に、死ぬ前にひと暴れしようぜってお誘いかい」
苛立ちが滲んだ声で皮肉を返せば、バーダックは静かな声で、頼みがある、と言った。
■
―――――ぶん殴る。
全力だ。一切の手加減なくバーダックの横っ面を殴った。
いくらコイツが戦闘力10000超えとはいえ、アタシだって8000を超えてるんだ。そのアタシの全力なら、さすがのバーダックもダメージを負う。―――――ここで死ねとすら思った一撃。
それから、―――――衝撃。視界がぶれる。それでも、倒れるような無様だけは晒さない。
「………一応聞いとくが、なぜ殴った」
「……前からそうすると決めてたからさ。……逆に聞くけど、アンタは何でやり返してんだよ」
「『やり返し』ちゃいねえさ。お前が殴ってほしそうな顔してたから殴っただけだ」
そりゃどうも、と答える。話はそれで終わりだった。これ以上話すことはない。背を向けたアタシに「出発は夜だ」バーダックが言う。示されたポイントは王宮から南へ300kmの地点。……そこの空は、すでに宇宙空間に待機しているフリーザ軍の死角だ。
そうかい、とだけ振り返らずに返した。
■
―――――スカウターの通信を入れる。
コールを繰り返しても応答がない。ただ、まだ帰ってきてないことだけは確かだ。……例のわがまま王子様が、今回の召集をブッチする可能性はどれくらいあるかな。
コールを切り、伝言モードに切り替える。これは音声を録音させておけるから、あとで聞きなおすことができる機能だ。そういや、工房の連中が『ルスバンデンワ』とか言ってたね。
「―――――生き残りなよ、ターレス」
■
―――――ひとり用ポッドの中でカカロットが泣いている。
ギャアギャアと獣みたいな泣き声だ。アンタほんとに泣き虫だね。あの時から全然成長してないじゃないか。体も小さいままだし、成長が遅いタイプだったのか。
ギネは、目的地で待ってたアタシを見て泣きそうな顔をする。そんな顔をしたって、アタシは何にもしてやれない。まったく、せっかくカカロットを飛ばし子にしなくて良くなったのにね。
みんなで一緒に逃げようよ、とギネがバーダックに訴えても、スカウターで捕捉されるから無理だと返される。すがるようにアタシを見られても、アタシだって首を振る。バーダックの言う通りだからだ。いくらギネが非戦闘タイプだとはいえ戦闘力は500前後。サイヤ人としては弱くても宇宙規模で考えれば強い部類に入る。それだけ戦闘力があれば、スカウターに補足されたら見逃してはもらえない。
特に、今この状況。フリーザ軍がサイヤ人を切り捨てるという可能性が濃厚なこのタイミングで見逃されるとすれば、それこそ放っておいても勝手に死ぬような『取るに足らない戦闘力の持ち主』くらいだ。
―――――バーダックと視線が合う。………分かってるよ。
地面に置かれたポッドに話しかけるふたりを後ろから眺めながら、思わずため息がこぼれた。戦闘力を下げる方法、ギネにも教えておけばよかった。…今更か。ああ。バーダックのやつを殴り足りない気分だ。それから、アタシも、もう一発くらいもらっとくべきだったかな。
ずっと決めていた。アタシの『たからもの』。もしバーダックがあの子を守れなかったら。そんなことがあれば、―――――アイツのツラを殺すつもりでぶん殴るって。
だから殴ったし、だからバーダックもアタシを殴ったんだろう。ほんとに勘の良いやつだね。むかつく。
フリーザのやつが本当にアタシらをまとめて始末するつもりなら、きっと星ごと消す。今までそうやって消された星もあることを知っている。そして、フリーザ相手じゃアタシらには万に一つの勝ち目もないってこともね。―――――目の前の馬鹿野郎は、だからって大人しくしてるようなタイプの馬鹿じゃあないだろうけど。
ほんとに馬鹿さ。アンタも、アタシも。アンタは気づいたのに守れない。アタシも『こんなこと』しかできない。……ギネを、守れない。
ポットが打ちあがるのを確認して、スカウターについてる録画機能を止める。持ってきたのは前に工房で手に入れた通信機能のついていないスカウターだ。これなら、傍受を受ける可能性はない。今だとこのスカウターを手に入れたのも定めのような気がしてきたよ。最初から最後まで、誰かの手のひらの上で踊らされてる気分だ。
「セリパ、お願い…」
「………任せる」
分かってるよ。分かってる。……ねえ、正直さ、カカロットが飛ばし子にされてもアタシはまったく心配なかったと思うよ。だってアンタら絶対迎えに行くだろ。仕事の合間とかに様子見に行ったりしてさ、勝手に連れて帰ってきそうじゃないか。そう言えば、ギネが笑う。バーダックは舌打ちをした。私も笑う。
ああそうだ、バーダック。昔アンタが、『俺とのチームを辞めたいとは思わないのか』みたいなことを聞いてきただろ? アタシはそれに利益があるからって答えた。あれね、ほんとは単純に、アンタを気に入ってたのさ。女で、戦闘力が低くいくせに前線に出続けたがるアタシを、笑わずに仲間として扱うアンタを気に入っちまったんだ。それ以外は普通に腹立つから嫌いだけどね。特にギネに速攻手ェ出したとことかは一生許さないよ。
バーダックは、うるせえよ、と殴ってきた。ちからの何も入ってない、小突いただけのような衝撃。やめな腹立つね。仲がいいみたいじゃないか。ギネは目じりを拭って笑った。
それから、ギネ。かわいい子。謝りはしないけど―――――アンタを守れなかったことを、アタシは一生忘れない。
■
―――――ポットで浮き上がる。
これから3つの星を経由して―――――
それが、バーダックからの頼まれごとだった。
「 カカロットを頼む 」
馬鹿だね。ほんとはアタシじゃなくて、ギネやアンタが一緒にいるべきだろうに。まあ、それができないから『戦闘力を変えられる』アタシに頭下げたんだろうけど。―――――にしても、あの目! 戦場にいるような色をしながら、どうにか自分のガキを守ろうとしていた目。腑抜けじゃないけど甘ったれだ。完璧にギネのがうつっちまってんだね。笑わなかっただけありがたいと思いな。
出発地点はカカロットより少し離れたポイント。同じ場所からポットがふたつも発射されれば、いくら死角でも補足されちまうからね。100kmは離れとく。カカロットよりは目立つ場所から飛ぶことで念のためのダミーの役割も担うわけだ。
さらに、自分の戦闘力を2まで下げた状態をキープするためにスリープモードは使わない。補足されても戦闘力2なら下っ端が始末に来るだろう。油断してるそいつらを始末して地球に向かえばいい。
ただ、惑星ベジータから地球まではただでさえ3年かかる。それを直行せず迂回するから、かかる時間は下手すりゃ倍だ。だから余計な時間をとる余裕はない。補足されないのが一番なんだけどね。…カカロットのやつ、アタシが着くまでくたばるんじゃないよ。
このポッドもカカロットのポッドも、通信機能をぶっ壊してるから連絡はとれない。もしバーダックの勘違いならアイツが直接地球に迎えに来る。それまではアタシがカカロットを任される。その代わりターレスについてはバーダックたちが誤魔化しといてもらう。あいつ最近口やかましいからさ。
けれど勘違いでないのなら―――――どうしようか。
「……はん、勘違いだとも思ってないくせに」
『もしも』については考えられるのに、『そっち』のことは全く思いつかない。ため息をひとつ。バーダックが気付いたことは良かったのか悪かったのか。…考えるだけ、無駄か。
それより赤ん坊の扱いなんか知らないんだけど、育てるって何すりゃいいんだろうね。地球は化学力が高いわけじゃないって聞いたから、保育カプセルみたいなのはないだろうし…いや、着いたら最低でも5、6歳か。それでも初対面のターレスよりガキだ。アイツくらい知性と身体が育ってりゃやりようもあるけど……サイヤ人のガキなんだから多少雑に扱ったって死にゃしないか。
―――――そういや、あのガキ。
ふと、王宮でカカロットの隣にいたガキのことを思い出した。アタシの尻尾をあぐあぐと噛みながら弱っちく泣いてたやつ。名前は何て書いてあったか………そう、ブロリー。あのガキも死ぬのか。惜しいね、案外ああいう泣き虫が化けるかもしれなかったのにさ。そうなりゃ一緒に戦場に出ることもあっただろう。―――――ま、もうありえないけど。
ポットが宇宙空間に出る。見送りを断って帰したギネのことを思い出す。心配そうな顔をしていた。泣き腫らした顔で、それでもまっすぐアタシを見てきた顔。あーあ。こっちこそ惜しかったかな。最期に見るんならいつもみたいに笑ってもらえば良かった。後味が悪いや。
「―――――それじゃ、くたばるまでさよならだ」
ああ―――――この手はこんなにも無力だったのか
通信が来た。迷う。
なにせ命令を無視している現状。さぁてどうしようか。
今出れば、ブッチ決行派のわがまま王子様は不機嫌になるだろう。そうなりゃご機嫌うかがいをする羽目になる。
コール相手と目の前のガキ。
―――――俺はガキをとった。
だって機嫌を損ねるとメンドクサイからな。
もちろんコール相手もメンドクサイさ。下手すりゃご機嫌取りにガキより時間がかかるかもしれない。
まあそれでも、相手によっちゃあ、それも悪くないってことで。なにせ、久しぶりに会うのだから。
―――――俺はあの時、なぜ通信をとらなかった? なぜコールに応えなかった?
「 生き残りなよ、ターレス 」
こんなものが最期だというのか。