バージョン:セリパ   作:雄良 景

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 怖い。あっちもこっちも怖いものばかりだ。

 ああ、そうだよ、俺は弱虫だ。

 だってみんな死んだんだぜ。あんなに強かった親父たちまで死んだんだぜ!
 俺たちが今まで滅ぼしてきたやつみたいに、いや、それ以上にあっけなく!

 怖い。―――――死にたくない。

 生き残った連中のうち、ふたりがまた死んだ。残ってるのはベジータとナッパと俺と、ターレス。

 そうだ、ターレス。

 あいつは飛ばし子のくせに。最下級戦士のくせに、ここ最近めきめきと戦闘力を伸ばして俺を超しやがった!
 頭の回転が速いからいろんな部署の奴らと交流を持ってるらしい。着実に地位を固めてる。

 アイツのせいで、俺がどんどんみじめになる!
 俺は、俺は上級戦士なのに、


 ―――――「 いいかいラディッツ。よく聞きな 」


 うるさい。


 ―――――「 上級戦士だって言ってもね、実際の戦闘力が弱けりゃハナシになんないんだよ 」


 うるさいうるさいうるさい!!!


 ―――――「 立場だけのくちだけ男になんざなるんじゃない 」


 うるせぇんだよ、―――――死んだくせに!!
 どうせ強くなったって、はるか格上が虫けらみたいに殺しに来るんだ!


 ―――――「 誇るものが欲しいんなら強くなりな 」




 俺は、サイヤ人だ(ほこり が なんになる)
 上級戦士のエリートだ(しんだら いみがない)


 俺は、俺は―――――死にたくない。






ありふれたひび

 

 

 

 ―――――ジジイはまず、物を知れと言った。

 

 

「くそ、なんだってこの星はこんなに言語がややこしいんだ」

 

 

 ジジイから渡されたこの『読み書きドリル』? とかいうやつ、ぜんっぜん終わんないんだけどなんだいこれ!

 くっそ……なめてたよ、口語が宇宙共通語を使ってるからてっきり文体もそうだと思ったじゃないか…というか、この星は基本的に発展が遅れてて他の星と没交渉じゃないのか? 独自の発展で宇宙共通語に行きついたっての? 気色悪いね。

 

 カンジにカタカナにローマジに…いったい何個あるんだ。こんなにいるか?

 大体、じっと座ってるのは性に合わないんだ。体を動かさないとストレスが溜まる! なんか全身が痒くなってきた気がしてきた。

 あー止めだ止めだ。口語は通じるんだからいいじゃないか。

 

 

「姉ちゃんなにしてんだ?」

「うるさいよバカロット、あっち行ってな」

 

 

 また来たね、最近周りをちょろちょろと、うるさいったらありゃしない。この落ち着きのなさは誰に似たんだい。あ、おい、覗き込んでくるんじゃないよ邪魔くさい。それはもう止めだ。アタシはこれから体動かしに行くんだよ。

 

 

「姉ちゃんは姉ちゃんなのに字ぃよめねんか?」

「アンタは全人類の識字率が100%だとでも思ってんのか。この星が特殊すぎるのさ。ナメック語だってここまでややこしくないよ」

「オラべつにナメクジのはなしなんかしてねぇよ」

「アタシだってしてないよ」

「ふうん、その、しきしきりつ? ってのはわかんねぇけど、あんな、これが、かわ、で、これが、やま、ってよむんだぞ」

 

 

 ……ちょっと待ちな、アンタ読めんのかい、これが?

 ……いや、カカロットはこの星で育ったんだ。この星の言語の方がなじみ深いのはおかしくない。ああ、そうだ、そうとも。

 あいつがこの星に着いたのは3歳だろ? それから2年だ。2年あれば―――――いくら、ガキでも―――――

 

 

 

 ―――――「 へっ、ざまぁねぇなメスゴリラ 」

 

 

 

「おいジジイ、次のやつよこしな!」

「ほっ、もう終わったんか」

 

 

 当たり前だよ。よりにもよってあの顔(カカロット)に劣ってたまるか!!

 

 

 

 

 

 

 ―――――ジジイが服を買ってきた。

 

 

「いつまでも若い娘がその恰好じゃあ、体が冷えるじゃろう」

 

 

 アタシは気にしないけどね。まあフリーザ軍の戦闘服なんてこの星じゃ見慣れないか。というか、若い娘って、アタシをいくつだと思ってんだい。まあジジイよりは若いけどさ。

 ジジイの服に似たつくりの―――――なに? 中華服? ふうん、アタシのインナーと同じ色だ。こう着るのか? こう、……なんだいこのボタンってやつ。めんどくさいね。

 

 …なんというか、戦闘服を着慣れてると違和感がある。特にこのズボン。足に布がまとわりついてる感じで、好きじゃないな。……まあ、着てれば慣れるか。

 

 

「あっ! 姉ちゃんじいちゃんとおんなしカッコだ。なあなあじいちゃん、オラもおんなしのがいいな」

「そういや、カカのは違うね」

「悟空は道着じゃからのう。半人前は道着を着て日々修業しとれ」

 

 

 半人前ねえ。そういや、アンタの尻尾を鍛えてやろうと思ってたんだっけ。まあ一朝一夕でなんとかなるもんじゃないしね。

 おい、袖口にぶら下がるんじゃないよ!

 

 

「んぎゃっ! し、しっぽはやめろよぅ」

 

 

 情けないね。……まあ、下級戦士は特に尻尾が弱いやつが多かったから、カカロットが激弱でもおかしな話じゃないけどさ。弱点だってんだから鍛える努力をしなよ。そこんとこ、ターレスはずいぶん熱心に克服してたね。

 

 ―――――そうだ、ギネは案外尻尾が強かった。触っても「ちょっとくすぐったい」ってくらいだって言ってた。バーダックは尻尾を鍛えてたみたいだけど…トーマいわく、元はめちゃくちゃ弱かったって話だ。

 はは、懐かしい。それをネタにからかったら殴り合いになって、ギネにめちゃくちゃ怒られた。

 

 

「……ふん、尻尾まで父親似かい」

「ん? ちお? ちおってなんだよ」

「『父親』だよ。聞き間違いが雑だね。アンタの親さ」

 

 

 ちちおや、と呟くカカロットの掴んでた尻尾を揺らして放り投げれば―――――猿みたいな着地だね。というか、案外身のこなしは同年代時期のラディッツより上手いんじゃないか? まあアタシは5歳までのアイツしか知らないけど。

 って、おい。学習しないね、帯を引っ張るなっての。また(尻尾で)殴られたいのかい。

 

 

「……なあ、姉ちゃん。オラの父ちゃんってどんな奴なんだ?」

 

 

 あん? めんどくさいことを聞くね。ああ、まあ気になるもんか。アタシは自分の親なんて気にしたことなかったけど。……さて、なんて言おうかな。『強いが自分勝手で仲間思いでギネの甘ったれ病に感染した、暴れ方がやかましいバトルジャンキー』とかか? 最高だね。カカロットの中であの牛蒡野郎の心象は地に落ちるんじゃないか? 他には―――――

 

 

 ―――――ああ、そうだ。

 

 

 

 

「ムカつく泥棒猫さ」

 

 

 

 

 

 

 

「なあじいちゃん。オラの父ちゃんって猫なんだって」

「ほっ!?」

 

 

 

 

 

 

 ―――――ジジイが変なことを言い出した。

 

 

「はあ? スクールだあ?」

「せっかく熱心に勉強しとったんだ。一度くらい通ってみてはどうかの」

 

 

 何でもこの星には、特定の期間専用の施設で勉強するシステムがあるらしい。一般教養を身に着ける、ねえ。

 冗談じゃない。

 決まったカリキュラムがあるってことは、好きなスタイルで進められないってことじゃないか。ただでさえ今でも長時間座ってたら暴れだしたくなるくらい気分が悪くなるのに、格下(ヒト)に指図されながらそれをこなせって? あらゆる全てが死ねって気分になるのは明白じゃないか。

 はっきり言うけどね、この生温い星のガキどもと机並べてお勉強、なんて怖気が走るよ。しかも18、9? クソ生意気だろ。絶対手が出る。間違いないね。それとも、死人が出てもいいっての?

 

 が、このクソジジイ。アタシが何言っても躱しやがる。なにが精神修行の一環だ! 最低最悪、フリーザ軍のカマ野郎にひざまずくのとどっちが屈辱かってレベルだよ。

 

 

「長くこの星に住むんじゃろう。……悟空はどうにも、他人(ひと)とズレとるとこがある。それはお前さんもそうじゃが―――――お前さんは、そのズレを埋めることの意味を分かっておるじゃろ」

 

 

 アタシを通してカカロットに学ばせようと? 全く期待できないね。馬鹿じゃないのか。

 

 

「お友達ができるといいの」

 

 

 おい話進めてんじゃないよクソジジイ。そんなホケホケした顔しても行かないっつってんだろ!!

 

 

 

 

 

 

 ―――――最悪だ。

 

 

「あたしワンスっていうの。よろしく」

 

「おいダック! バスケしようぜ」

 

「あ、ありがとうピーコック」

「お互い様さ」

 

 

 ザワザワザワザワうるさい! ああ、なんだってガキの声ってのはこう耳に障るんだ。

 クソジジイ、やっぱりアタシの話を聞く気なかったな。クッソ、最悪だ。本当に最悪だ!

 こんな乳臭いガキどもに混じってイイコにしてろとでも言うってのか!!

 

 

「セリパっていうの?」

「えー美人だね」

 

 

 話しかけてくるガキもうっとおしい! ハイスクールとかいう更に若いガキが通うとこに入れられるよりはマシって考えても、苛立ちに限度はある。

 

 は? 何? 『みんなでご飯』? 行くわけないだろ。

 

 

「アタシはパス」

 

 

 ただでさえ半日座らされてたんだ。今すぐにでも体を動かしたいんだよこっちは! チッ、帰ったらカカロットとトレーニングだ。今日はもう椅子に座りたくもない。

 

 

「―――――カンジ悪ぅ」

 

 

 聞こえてんだよ。

 

 

 

 

 

 

 ―――――また朝が来た。

 

 あれからスクールで話しかけてくる奴はいない。好都合だ。その代わり遠巻きに何を話してる連中はいるけど、それは気にもならない。なんとなく昔チームだった女どもを思い出すけど、思ったより「だから何?」って感じだね。やっぱボッコボコにできたのが効いてるんだろ。―――――ああ、思い返してもあの時は最っ高に気持ちよかったよ。アイツらのアタシを見る怯えた目ってのはさ!

 

 スクールでの授業は苦痛だ。なんだってこんな長時間座って同じ科目を学ばなくっちゃいけないんだ。イライラする。

 それでもまあ、教師の知識量は馬鹿にできないね。『学ぶ』ことは多い。くそ、これでマンツーマンかつ小刻みに休憩が入ってりゃ完璧だっての―――――に、

 

 

「あ~ごめんねぇ私足長くってぇ」

「セリパってばそんなとこにいるからぁ!」

 

 

 ―――――へえ。へえ。へえ。わざとぶつかっておいてその態度か。いいね、いい気分だよ。

 思い返せば惑星ベジータでもそんなことしてくる奴はずいぶん前から居なくなっちまって、存外物足りなく感じてたんだ。敵意と害意がシンプルでいい。なんてったって買いやすい。……ああでも、めんどうだな。ここじゃヨワイモノイジメは批難されるんだっけ。そっちからケンカ売ってきたくせにね。はあ、分かってるさ。郷に入らば郷に従えってんだろ?

 

 

 まあ、アタシはサイヤ人だからさぁ。強い奴と戦うのと同じくらい、弱い奴をなぶるのも好きなんだけどね。

 

 

「いや、こっちこそ悪かったよ。それにしても邪魔そうな後ろ足だね。あ、でも可愛げがあるんじゃないか? 豚みたいでさ。―――――ぶつかるのが嫌なら切り落としたらどうだい」

「はぁ!? 意味わかんない」

「きもいんですけど!」

 

 

 なんだこいつら、脳みそに魚でも泳いでんのか? せっかく人が穏便に話を済ませてやろうってのに、ずいぶん威勢がいいじゃないか。

 ふむ。こっちが害された場合のケンカは買っていいんだったか。けど、どう見たって小指で殺せそうな小娘たちだしねぇ。これじゃ手加減に切りがない。ジジイに小言を言われるの面倒だ。

 

 

「悪いね、言葉が通じないと思わなかったんだ。共通語だと思ってたんだけどね。で、何語で話せばいい?」

「っ、うっざ!」

「行こ行こ!」

 

 

 なんだ、もう終わりか。ふん、休憩時間の暇つぶしにもならないじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 ―――――カカロットがしつこい。

 

 

「なあなあ姉ちゃん」

「しついこいね、いい加減にしな」

「だってよう…」

 

 

 ここ最近、「今日も行くのか」「今日はいいんじゃないか」「今日は行かない日なんじゃないか」だのとしつこく絡んでくる。

 ジジイは笑ってるだけで止めやしない。おい、アンタが行けっていうからこっちはスクールに通ってんだぞ。少しは手ぇ貸すって気はないのかこのジジイ。

 

 

「姉ちゃん、ずっとべんきょばっかじゃねえか。オラに空とぶ方法おしえてくれよ」

「ばっかだね。その前にその貧弱な戦闘力をどうにかしな」

「じゃあ姉ちゃんがいっしょに修行しようぜ、なあ」

 

 

 だー、くそ、服を引っ張るんじゃないよ!

 

 

「………オラ、がっこもべんきょもきらいだ」

 

 

 やかましいね。今日は昼で終わりだから黙って待ってな!

 

 

 

 

 

 

 ―――――最近小娘どものちょっかいが増えた。

 

 バシャン、と目の前に水が降ってきた。もちろん一滴も浴びちゃいない。ああ、2階からバケツをひっくり返したのか。今更逃げたって顔が丸見えなんだけどねえ。

 というか、普通に考えて上から水かけられたら後ろに避けるだろ。馬鹿か?

 

 

「ねえセリパさぁん、ちょっといい?」

「ウチら話あるんだけどさ、」

「アタシはないね」

 

 

 触らせるわけないだろ。何馬鹿面してんだ。アンタらみたいなトロイのが手ぇ伸ばしてきたって避けるに決まってるだろ。ハハ、きったない顔になってるよ。面白いね、写真でも撮っとく?

 

 

「痛った!!」

「ちょっと、何すんのよ!」

 

「なんだ、踏んでほしかったんじゃないのかい。アタシが歩くたびに足を出すからてっきりそういう趣味かと思ったよ」

 

 

 だから親切に踏んでやったってのに、文句ばっかだねアンタたち。こっちはわざわざ靴を汚してやったってのに。

 

 

 

 

 

 

 ―――――なるほど、短絡的だ。

 

 

「よぉ姉ちゃん、俺のオンナが世話になってんだって?」

「アンタらに姉ちゃんと呼ばれる筋合いはないね」

「ヒュウ、いいね、気が強い女好きだヨォ~俺ら」

 

 

 ゲラゲラ煩いね。にしても、自分じゃできないから男を使うって考えか。はは、やっぱ詰まんないメスガキどもだ。この数の男集めるために何回足開いたんだか。

 ああ、でも正直、

 

 

「助かったよ」

「はあ?」

 

 

 案外『躱す』ってのもストレスでね。このままじゃあのガキどもに手ぇ出しちゃいそうだったんだ。そしたらあんな貧弱いなのはすぐおっ死んじまうだろ? ほとほと困り果てていたところでさ。

 

 なあ、アンタらは数もいるし、男だし、まだ強度も耐久度も高そうだ。

 

 ああ、本当に助かったよ。

 

 

 

 

 

 

 ―――――久しぶりに浴びた返り血はずいぶん心地よかった。

 

 

 

 

 

 

「いいかい? アンタらは女を取り合って仲間内でケンカなった。そうだろう? よーし、いい子じゃないか。じゃあもう一発あげるよ」

 

 

 

 

 

 

 ―――――あれからメスガキどもがちょっかいをかけてくることはなくなった。

 

 むしろ青ざめた顔で避けられる。はは、アイツらなんて説明したんだろうね。いいな、やっぱ気に入らない連中の青ざめた顔は気分がいい。

 

 まあ当人が痛い目見たわけじゃないから懲りてはないようだけど。すぐにアタシ以外の標的を見つけてちょっかいかけてさ。

 目ぇつけられたのはいつも俯いてる、眼鏡をかけた小柄な子。あーあ、あの様子じゃ反撃もできずに良いようにされるだろうね。

 

 ヨワイモノイジメはするなとジジイは言うけど、アタシからしてみりゃ弱い奴は弱いから悪いんじゃないか。

 にしても、誰も止めようとしないってのも面白い話だね。弱いくせに不干渉? そのうちさっさと滅びそうだ。

 

 

「おい、聞いてんのかよ」

「何? 無視? 何様だっつーの」

「っ、ぁ、や、やめ……」

 

 

 髪つかまれてもろくに抵抗できないのか。やっぱ全体的にこの星の人間はひ弱すぎるんじゃないか? あーあ、眼鏡まで割れ――――――

 

 

 

 

 

 

 ――――― セリパ !

 

 

 

 

 

 

 ――――― ああ、そういや、そうか。

 

 ―――――そうだったね、ギネ。

 

 

 

 

 

 

 ―――――ド ゴォ ッ !!!!

 

 「きゃーっ!」「なんだ!?」「うわぁあ!?」

 

 

 

「―――――なんの騒ぎで、って、な、なんですかこれは! なぜ椅子が黒板に突き刺さって…!!?」

 

 

 

 ああ、そっか。そういや、そうだ。そうだったね。はは、だめだ、最近すっかり忘れっちまってたよ。

 

 

 アンタは弱かったけど強かった。―――――そんなアンタを守るのが好きだった。

 なあ、そうだったね。アンタは弱くて、バーダックもアタシも、それでもアンタを責めなかった。だってアンタはそれでいいって思ってたからさあ。

 アンタが弱くて、それを悪いことだと思ったことはなかったし、生まれる種族を間違えてると思いはしても、だからといって嫌いじゃなかった。

 

 ようは好感度だ。アタシはアンタが好きだったから気にならなくって、コイツらのことは不愉快だったから嫌に目についたのか。なるほどエゴだ。ああ、らしいね。そういうの大好きさ。分かりやすくてさ。

 

 

「セ、セリパさんっ、いったいどうしたっていうの!?」

 

 

 教師だなんか言ってるけど、ああ、後で聞くよ。―――――今はこっちだ。

 

 あーあ、こりゃジジイの小言は決定だね。めんどくさい。はは、でもさあ、エゴ。エゴっていい響きだね。字面もいい。そうだ、これはエゴだ。気に入らないメスガキが、『ギネによく似た』娘に手を出したのが心底不快だっていうアタシのエゴだ。

 

 

「なあ、寂しいじゃないか。最近すっかり鞍替えしちまって構ってくれなくてさあ」

 

 

 なあ、暇なんだろ。だからそんなに人に構うんだろ? いいよ、遊んであげようじゃないか。何からしようか? ああ、そういや足が長くて邪魔とか言ってたね。やっぱり切り落として短くするかい。男に足開くのも好きなんだろ? 足を切ったら歩けないからね、安心しなよ。ちゃんと男のたくさんいるところに連れてってやるさ。満足するまで構ってもらえばいい。

 

 

「それともアタシと遊ぶか?」

 

 

 アンタの男みたいにさ、―――――ああ、汚いね。漏らして気絶してんじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 ―――――話は案外丸く収まった。

 

 メスガキどもがアタシともうひとりに『ちょっかい』をかけているのを見てるやつが多かったこと。最近病院に搬送された男たちの『ケンカ』の原因がそいつらだったこと。まあその他もろもろを証言する奴がゴロゴロ出てきて、スクールは処分の行く先を決めらたしい。

 

 にしても、事が起こってる最中は見て見ぬふりするくせにこういう時はこぞって話すんだからセコイ種族だね。ああ、でも、教師に訴えるために証拠を集めてたやつもいたみたいだから一概には言えないか。戦い方の違いってだけかもね。

 

 

 ―――――が、まあ、想像通りってか。それを「はいそうですか」って収めないのがこのジジイのめんどくさいなところだね。ああ、やっぱりか!

 

 小言はチクチクねちねちと3時間続いたんだから最悪。もう聞きたくない。

 

 

「うむ、ああ、それでも、ワシは嬉しい。…お前さんがこの星のルールを理解して、手を出さずに堪えたことが誇らしい」

 

 

 やかましい。年寄りはこれだからめんどくさいんだ。

 

 

 

 

 

 

 ―――――最近、スクールに行くのがそこまでめんどくさくなくなった。

 

 ギネに似ていた娘は「キュバス」というらしい。あの騒動の後交流が始まった。それと同時に授業のカリキュラムが少人数制に移行した。これが何よりよかった。とった科目は人が少ないからほぼマンツーマンみたいなもんだし、科目のほとんどがキュバスと被ってる。

 うん、いいじゃないか。このスクールをようやく楽しめそうだ。

 

 

「姉ちゃんがっこ行くのたのしいんか」

「うわ出た」

 

 

 それと比例してカカロットもめんどくさくなった。

 

 

「なーあーオラと修行するっていったじゃんか!」

 

 

 これだ。いや、アタシだって机に向き合うより暴れるほうが好きさ。けどまあ、今後暴れるためにも今のうちにこの3年はクリアしといたら楽なんだよ。いい加減聞き分けな!

 

 

「さんねんってあとなんにち!!!」

「うっわめんどくさいねコイツ。ああそうだ、ちょうどいい。アンタも数の数え方くらいいい加減覚えな。11の次は?」

「えっ、えーっと、じゅうよん? ―――――ぎゃんっ!!!!」

 

 

 外れだよ馬鹿。12だって何回も言ってんだろ。

 

 

「い、いちちちち…! う、姉ちゃんなんですぐなぐるんだよぉ……」

 

 

 

 ―――――『 く、くそ~~っ、なんで親父といいアンタといい、すぐ殴るんだよぉ! 』

 

 

 

「―――――うるさいよ泣き虫(クソガキ)

 

 

 いいからちったあ勉強しな。ああそうだ、今月中に100まで数えられるようになったら来月の1週間、付きっ切りで修行してやるよ。

 そうだ、やるかい。―――――ふん、せいぜい死ぬ気で覚えるんだね。

 

 

 







 ―――――果実をかじる。

 強く、強くならなくてはいけない。
 生き残るために―――――いつか、あの悪魔を殺すために。

 入念な準備が必要だ。不審に思われないように手回しが必要だ。
 媚を売る。サイヤ人らしくない? 上等じゃないか。
 目的のためなら地べたに這いつくばって泥だってすするさ。どうせもともと最下級戦士だ。

 ―――――果実をかじる。

 これ(・・)が手に入ったのは幸運だった。天が俺に味方した!
 ただ、『育てる』には必要なものが派手だ。どうにか隠れながらやるしかない。
 そのために愛想よく媚を売って交友関係をこんなに広げたんだ。
 時間はかかる。けど、ばれたら一巻の終わり。ちょうどいいスリルだ。

 王子やハゲは俺を『誇りを捨て犬畜生に成り下がった』といいやがる。ラディッツはずいぶんと憎々しげに俺をにらんできた。
 だからどうした。今やあいつらは眼中にない。俺は俺の目的のために生きている。


 ―――――「 うるさいよ紫レタス 」
 ―――――「 へえ? 王子と同じ部隊に? 出世じゃないか 」
 ―――――「 おいターレス! 笑ってないで手伝いな! 」


 なあ姐さん。俺、背が伸びてきたぜ。節々が痛いったらねぇよ。
 もう少しでアンタを超すかな。


 ―――――「 生き残りなよ、ターレス 」


 ああ、生きてるさ。なあ、見てろよ。俺ああの白い悪魔を地べたに這いつくばらせるところをさ。



 ―――――なあ姐さん。どうせアンタは地獄に行ったんだろ。俺もそのうち行くだろうさ。
 そうしたら、その時は、




 ―――――「 よおガキ。アンタがターレスかい? 」




 そんときは、またその言葉で始めてみないか。
 俺、今度はアンタを姉さんって呼んでみたいんだ。

 そしたらアンタ、特別(ギネ)に向けるみたいな顔で笑ってくれるか。


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