「週末、デートにいきましょう」
その瞬間、パルパルとした邪悪な感情が頭と一緒にポーンと吹き飛んだ感覚がした。
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アイツと付き合い始めて数か月。一緒にいる時間やスキンシップはそこそこ増えた。にも拘わらず、実はデートと言うものをしたことはない。
イチャコラするときは喫茶店ですくすくたちと一緒にじゃれ合うのがほとんど。買い出しにはいつも付き合ってるけど、あれはデートとは言わないだろう。手を繋ぐことはあっても、いわゆる『恋人繋ぎ』をしたのは、付き合い始めた直後の一回きりだったりする。キスなんてもってのほか。……あ、えと、あれはノーカンだから。
一般的なカップルはどうかは知らないけど、それでも、私たちの関係性の進展はかなり遅いほうだと思う。
もちろん、それにはどうしようもないようなちゃんとした理由がある。
「ふんふん。それで、その理由って?」
「………………………………は、はずかしいから」
「はぁぁーっ! ほんっっとどうしようもない理由だわー! ないわー! ばんきっきないわー!!」
「きゅー!」ポフポフ
うっさい影狼。頭を叩くなモフモフ。
自分でもわかってるわいそんなこと。
時は夜9時。場所は人里のとある居酒屋。
私は草の根の連中と、私のすくすくと一緒に飲んでいた。
今日の主催者は珍しく私。目的はもちろん、初デートについての相談である。
いやー……ね? 今までの私って孤高を生きる妖怪だったわけでして。 妖怪としてそれなりに長生きしてるけど、彼氏ができたのは生まれて初めてなわけでして。 多少は吹っ切れたとは言え、どういう距離感で接していいか未だにわからないわけでして。その結果、あまり仲が進展しないわけでして。
トオルはトオルで付き合う前と後で特に変わった様子はなし。いや、少し笑顔が増えたかな? 私のおかげだと嬉しい。ふへへ。
「にやけてる場合じゃないよばんきちゃん。それにしても、お互いに奥手なんだねぇ」
「きゅー」
「奥手すぎよ! キスすらまだとかホントないわー! てっきり夜のイチャコラまで行ってると思ってたのに! つまんねー!!」
そろそろ殴っていいかなコイツ。
影狼のテンションが何時にも増しておかしいのは、熱燗が10本目に突入したからである。お酒の場で相談したのは間違いだったかもと今更だが後悔。
で、だ。
後悔してでもこの二人にデートの相談をしたのには、ちゃんとした理由はある。こっちは本当に。
「………せっかくのデートだし、その、オシャレとかしたいんだけどさ。最近の流行とか、よくわからなくて……できたら教えてくれないかなぁ、って」
せっかくの初デート。良い思い出に残せるように、できる限りのことをしたい。
今の関係性でも十分に幸せだが、欲を言えばもっと踏み込みたい。ただでさえ、夜雀だの片翼女だの、付き合っても尚アイツを狙う輩がいるのだ。正直、不安で仕方ない。
そりゃあこの前「俺は死ぬまでばんきさん一筋ですから」って言われたときは、すくすくで顔を隠すほど恥ずかしかったし嬉しかった。アイツの私への好意が本物だって実感できたから。
でも、できれば、その好意を行動で示してほしいというか………ギュってしてほしいって言うか………チュッてしてほしいって言うか。本人の前じゃ恥ずかしくて口が裂けても言えないけれど。そういう私の気持ちをトオルに察してほしいと思うのは、私の我儘なのだろうか。
とにかくだ。今回のデートは私とトオルの関係性を進展させされるチャンスでもある。
「よしきた! 私たちに任せてばんきっき! 男心が理性を見失うぐらい飛びっきりのコーディネートに仕立て上げてあげるわ!」
「明日さっそくお買い物ね! 私の美的センスを遺憾なく発揮する時が来たわ! ”姫”の名は伊達じゃないってところを見せてあげるねばんきちゃん!」
そこはかとない不安は感じるが、持つべきものは友。ここは信じよう。
「きゅー」
ん? どしたのモフモフの私。
もしかして、デートについて来たい?
………できれば、お留守番しててくれると嬉しいかなぁ。