ばんきさんとのデートから翌日。今日は喫茶店の通常営業日だ。さぁ、気持ちを切り替えていこう。
え? お昼以降のデートはどうなったかって? そりゃあもう、ラブラブでモフモフなデートをしましたよ。初デートとしては大成功。楽しかったよなーすくすく。
「きゅーっ!!」
河原で見つけたすくすくえいかも嬉しそうに「また行きたい!」と鳴いている。うん、俺も。
「よっすー。今日も働きにきたぞー」
開店時間の15分前、カランコロンと入り口の扉が開くと同時に、こころちゃんの声が聞こえた。
彼女は不定期のバイトだが、最近は毎日来てくれている。ここのところお客さんも多いし、とてもありがたい。
おはようこころちゃん。
今日もがんばろう。
「おっはー、ナナスケ。ゆうべはおたのしみだったらしいな」
ちょっと待ってこころちゃん。
誰から教わったのそのセリフ。青娥さん? 青娥さんなの?
こころちゃんからのいきなりの爆弾発言に流石に動揺する俺。すくなちゃんは「おたのしみ?……あっ! デートのことかぁ!」と納得したようにうなずいている。あぁ純粋。
「ん? 今日の新聞に書いてあったぞ。ほらコレ」
そう言われて手渡されたのは、今日付け発刊の文々。新聞。見出しは『必見! 喫茶店店主の彼女だけに見せる笑顔!』
……………おっおぅ。
——————
ザワザワ ザワザワ
「いやぁ、読みましたさとりさん? この新聞もといラブコメ小説」モフモフ
「もちろん。地底でも話題になっているほどですから」モフモフ
「見かけによらずやるねぇ店主さん。よっ、色男!」
「へぇー、ナナスケ先生もこんな笑顔できるんだなぁー。へぇー」ニヤニヤ
「いいなぁ……私もナナスケとこんなデートしたいなぁ……」
「今日彼女さんは来ないのかい? 君は笑うことが少ないからね。新聞の笑顔、ぜひ生で見てみたい」
ザワザワ ザワザワ
穴があったら入りたい。
来店した全てのお客さんが新聞を片手に持っている。話を聞く限り、今日の朝一、号外として人里中に巻かれたようだ。ホントにもう、恥ずかしいったらありゃしない。
どこで見てたのか知らないが、新聞には昨日のデートのことが、
そんな新聞を読んで、生温かい目で俺を見るお客さんたち。
やめて、そんな目で俺を見ないで。
「きゅー」「きゅー?」「き、きゅー!」
「むきゅ」「きゅー!」「きゅー!?」
「きゅー…」「きゅ!」「きゅーっ」
すくすくたちも新聞を読んで、各々違った反応を見せている。没収したいが、たぶん今更だろう。
唯一の救いは、ばんきさんが来ていないこと。
新聞の内容が内容だしな。きっと今日は来ないだろう。
そう思ってた時期が、俺にもありました。
「ささっ、ばんきちゃん。入った入った」
「ちょ、何で押すのよ二人とも」
「何言ってるのばんきっき。主役が一番に入らないでどうするのよ」
草の根の方に無理やり連れて来られるように、ばんきさんが来店してしまった。
ザワザワ ザワザワ
「おおっ! 主役がそろったぜ! ほら行ってこいナナスケ!」
「一見クールそうに見えるけど、彼氏の前ではきっとあんな顔やこんな顔になるのねぇ」
「こんな新聞が広まってるのに、何も知らないような顔で訪れにくるなんて。どこまでバカップルなのよ妬ましい」
「恥ずかしがる素振りすら一つも無しとは。まぁ、こんな甘々デートを日常茶飯事(文の脚色)でしてるぐらいなら当然なのかのぅ」
「ナナスケ、ラブラブするのは構わないけれど、するならブラックコーヒーを無料提供しなさい」
ザワザワ ザワザワ
「………え? なに? なんでめっちゃ見られてるの私?」
何故自分が注目の的になっているのか、いまいちわかっていない様子のばんきさん。
「ニヤニヤ」
「ニヤニヤ」
その後ろで、ニヤニヤを口に出しながらニヤついている草の根のお二方。
………なるほど。あの二人、わざとか。
「きゅー!」
「ん? どしたの私のモフモフ。 ……なにこれ、今日の新聞? そういえば今日うちには届かなかったのよね。どれどれ……………」
五分後、生温かい目線を背中に浴びつつも、真っ赤に染まった顔を両腕で隠しながら、机にうつ伏す2人の男女がそこにいた。
というか、俺とばんきさんだった。
『きゅーっ……』ナデナデ
励ますように、俺とばんきさんの頭をなでるすくすくたち。
気持ちは嬉しいが、今はそっとしてほしいなぁ……。
諸事情により更新ペースが少し遅くなりますが、ご了承いただけるとありがたいです……。