モフモフ幻想郷ex   作:アシスト

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15.俺氏、実家を思う。

 

*————————*

 

 

 

「きゅぅ…」

 

「ナ、ナナスケ……しかとその目に焼き付けろ……これが私の『かき氷食べたい』の表情だ……」

 

「きゅーっ!」

 

 

 

季節の移り変わりは、歳を重ねるほど早く感じるものである。

 

 

昨日まで春だったと思っていたら、気が付けば夏になっていた。すくすくラルバが元気よく店内を飛び回っている。

 

代わりにその他のすくすくとこころちゃんが夏の暑さに負けて、たれたパンダの如く溶けている。そろそろクーラーの準備をするべきか。

 

 

「はぁ……ふわふわでひんやり……気持ちいいなぁ……」

 

「きゅー!」

 

 

こんな季節に人気なのは、やっぱりすくすくチルノ。その上ですくなちゃんがうつ伏せで身体を(うず)めている。二人とも、お客さんが少ないとはいえ、だらけ過ぎはよくないぞ。

 

そういえばすくすくチルノ、少し日焼けした?

白色の部分がこんがり茶色っぽくなってるけども。

 

 

「きゅー?」

 

 

どうやら自覚はないようだ。

まぁ健康に害はないみたいだしいいか。

 

 

かき氷機はどこにしまったかなぁと考えながら、阿求さんが注文したわらび餅を運ぼうとしたタイミングで、バターン!と勢いよく入口の扉が開かれる。

 

 

「暗いわ暗いわ! そんな顔じゃあハッピーは訪れないわよー!」

 

「圧倒的低気圧。これは盛り上げざるおえない」

 

「プリズムリバー三姉妹、ただいまゲリラコンサート開催中でーす!」

 

 

おおっ。誰かと思えば幽霊楽団じゃないですか。

今日は雷鼓さんがウィズってないんですね。

 

 

「雷鼓さんは女子二楽坊のヘルプに行ってるの。ごめんなさいねー」

 

「パーカッション担当は幻想郷において需要が高い。あの人は引っ張りだこ」

 

「私もできなくはないけど、雷鼓さんには適わないかなぁ。でもご安心を! 私たちはもともと三人組! しっかり盛り上がらせるわ!」

 

『うおおーっ!!』

 

『きゅー!!』

 

 

突然の幽霊楽団乱入に大いに盛り上がるお客さんたちとすくすく。妹紅さんなんか何処から取り出したのか、自家製法被(はっぴ)を身に着け、両手にペンライトを持っておられる。ガチ勢や…。

 

 

 

 

*————————*

 

 

 

 

幽霊楽団のゲリラライブは珍しいことではない。月に一回ぐらいの頻度でやってきてくれる。彼女たちとすくすくリバーによる六重奏をBGMに食べるスイーツは別格だと、お客さんからも好評なのだ。

 

 

「きゅー♪」「きゅー!」

「きゅ!」「きゅーっ」

 

 

演奏に合わせて歌ったり、短い手足としっぽをフリフリしながら踊ったりするすくすく達。その可愛らしさにノックアウトされるお客さんも少なくない。阿求さん大丈夫ですかー?

 

 

「……ただいま。今日は一段のにぎやかなのね。ちょっと暑苦しい」

 

 

おっ。おかえりなさいばんきさん。

今日はお早いお帰りですね。アイスコーヒーどうぞ。

 

 

「ありがと。すくな、ちょっとこのモフモフ借りるね」

 

「きゅー?」

 

「ああっ。私のひんやりがー……」

 

「仕事しろよ」

 

 

やはり外も暑かったのか、すくすくチルノに乗っていたすくなちゃんを持ち上げ、代わりに自分の頭を置くばんきさん。

 

 

「ふぃー……生き返るー……」

 

 

気持ちよさそうに目を細めるばんきさん。

 

なかなかシュールな光景だけど、それでもかわいいと思えてしまう俺は重症だろうか。まぁ暑いときは首元を冷やすと良いって言うし、ばんきさんの行動は理にかなっている……よな?

 

 

「やっほー店主さんにろくろ首さん! ちゃんと盛り上がってるー? ハッピーかなー?」

 

 

おやメルランさん。盛り上がってますよー。

今は休憩中ですか? よろしければお飲み物をサービスしますよ。

 

 

「本当!? じゃあアイスコーヒー三つ! ルナサ姉さんはブラックでー、リリカはシロップ多めでー、私のはフロートで!」

 

「メル姉ずるい! 私もフロートがいい!」

 

「私もフロートを所望。少し熱くなり過ぎた」

 

「ルナ姉、ダイエット中じゃなかった?」

 

「……明日からかんばる」

 

「それがんばらないやつよルナサ姉さん!」

 

 

ワイワイがやがや騒がしく言い合う三姉妹。

さすが騒霊。コーヒーフロート三人分、お持ちしますね。

 

しかしこの三姉妹は仲が良い。俺にも文字通り姉弟(きょうだい)がいるけど、最近会ってないし元気にしているだろうか。

 

そもそも幻想郷に来て一度も実家に帰っていない。紫さんに頼んで、久しぶりに顔を出してみようかな。

ばんきさんも来ます?

 

 

「うえっ!? そ、それはちょっと。まだ、早いかな……心の準備が……ごにょごにょ……」

 

「呼んだかろくろ首」

 

「あんたじゃない! 」

 

 

こころちゃんにそう言うと、ばんきさんはすくすくチルノに赤くなった顔をポスっと埋める。かわいいね。

 

 

「きゅー」

 

「おおっ。初めて見るすくすくだ。店主さん、この子新入り?」

 

 

ばんきさんの行動に胸キュンしていると、リリカさんにそう声を掛けられた。

 

振り向くと、そこには俺も見たことないすくすくがリリカさんに抱きかかえられていた。

 

 

「きゅー」

 

 

何とも形容しがたい、不思議な色をしたすくすく。

いったい誰のすくすくだろう。皆さん知ってます?

 

 

「うーん……わかんない。けど、なんて言うのかな」

 

「……この子を見てると、不思議と懐かしい気持ちになる」

 

「ねー。もしかして、私たちの演奏を聴きに来たの?」

 

「きゅーっ」

 

 

元気よく返事をするすくすく。

 

やりましたねお三方。お客さんが増えましたよ。

休憩後も良い演奏、期待してますね。

 

 

「まっかせて!」

 

「もち」

 

「ハッピーに飛ばしていくわ!」

 

「「「きゅー!!!」」」

 

 

気合を入れる三姉妹とすくすくリバー三姉妹。

 

 

結局、三姉妹はこのすくすくの元となった人物を思い出すことはできなかった。『懐かしいけどわからない』というのが三人の出した結論だった。

 

しかし、このタイミングで現れたということは、三姉妹と縁のある方が元になっているのは間違いないだろう。

 

 

わからないなら直接聞くべし。

すくすくよ。君と三姉妹の関係は?

 

「きゅー!」

 

ほう。三姉妹はお姉ちゃん的存在とな。

 

 

……実はプリズムリバー四姉妹なのか?

今は亡き妹的な。いやいやいや。流石にないか。

 

 

 


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