俺は黒鉄家次期当主ジャギ様だぁ!!   作:黄衛門

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第3話 取引

 黒鉄一輝は、先ほどまでの表情とは打って変わって、地獄の業火めいた形相でジャギを睨みつけていた。

 対するジャギは、ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべている。

 一触即発。まるで、この場の空気が不発弾を前にするかのように重苦しいものになっている。

 

「ハッ、決まっているだろう? りべ……リバイアサンだったか、連中の手の者かと思い咄嗟に動いたまでよ」

「それは一発目ならば理解するよ。でも、二発目の答えになっていない。明らかに珠雫の障波水蓮を見てからナトリウム弾を撃ちだした説明にはね」

「それこそ愚問だな愚弟よ。ガスマスク連中に水の能力を持つ伐刀者がいないと、なぜ断言できるというのだ? 貴様の言っていることは所詮結果論だ。違うか?」

 

 然り、ジャギの言っていることは確かに正論だ。

 この場に珠雫がいることを知っていたのは一輝たちだけで、ジャギには知る由もない。故に、即座に攻撃行為をしたのは、決して悪い判断ではなかった。

 ではジャギの行動は正しかったのかというと、これもまた否と言えるだろう。

 身内だからといって、必ずしも相手のことを理解しているとも限らないのだ。事実、一輝は珠雫の魔力制御技術の高さを知らなかった。

 であれば、珠雫が、あまり関わり合いのないジャギのことを理解していなかった可能性もあったという訳だ。

 

「もし珠雫がジャギ兄さんのことを理解していなかったら、人質たちは無事では済まなかったんだぞ!?」

 

 そう、もしナトリウム爆発が二重障波水蓮を突破したとしても、伐刀者に届くダメージは微々たるものだ。むろん出血程度はするだろうが、骨を折る程のダメージを与えることはない。

 しかし、一般人はそうはいかない。

 ひょっとすれば、腕や足は取れるかもしれない。爆発の衝撃で心臓が止まるかもしれない。

 少なくとも、無事では済まないだろう。人間とは、普通の人間とは、それほど脆いのだ。

 

「一般人に死人が出ていたらどうしたつもりなんだ!?」

「ハッ、相変わらずくだらねぇことばっか考えんだな一輝はよぉ……あの連中が生きていようが死んでいようが、俺たちの人生にどう関係するってんだ? あのクソガキ共が死んだとして、その結果が俺たちの人生に何の関係がある? 何の影響もねぇだろうがよ」

「あんたって人は!」

 

 一輝が刀を振りかぶり、ジャギがショットガンの銃口を向けようとした瞬間、お互いの動きがピタリと止まる。明らかに不自然に、まるでそこだけ時が止まったように。

 突然の事態に、戸惑いを現す二人。

 あきらかに不自然な停止。ジャギと一輝の二人が重なった影を見ると、闇のように黒いダガーナイフが突き刺さっていた。

 

「二人の動きは止めさせてもらったわ」

 

 影縫い(シャドウバインド)、物質であれば切っても切り離せぬ影を縛ることで、その本体をも縛る有栖院の伐刀絶技(ノウブルアーツ)

 それが二人の動きを封じたのだ。

 

「あっ、アリス……?」

 

 ボーラハットをかぶった長身痩躯の、どこか女らしいしぐさの男が、どこかあきれたような表情で上から降りてきた。

 黒鉄一輝一行の一人、有栖院凪。二人の動きを止めた張本人だ。

 

「テロリストの制圧目的ならともかく、意見の食い違いごときで許可無しに決闘なんてしたら処罰の対応よ。ジャギさんも、あまりうちの一輝を挑発しないでちょうだい」

「どこのカスか知らねぇが、部外者は黙ってろ!」

「あら、そのカス如きに動きを封じられているのは誰かしら?」

 

 ジャギは、有栖院の影縫い(シャドウバインド)相手に手も足も出ていない。

 まるで関節に直接ボルトをつけられているかのように、全く動かせないのだ。

 その気にさえなれば殺せるが、そうなった場合ジャギもただでは済まない。無駄に痛い目を遭って、ついでに面倒な書類処理もしなければならなくなってしまう。

 引き金さえ、指一本さえ動かすことができれば、この場から動かずとも殺せるというのに。

 

 ジャギがショットガンの引き金を引こうと指に力を込めていると、ジャギのズボンポケットから着信音が鳴り響く。

 有栖院はジャギのポケットから電子生徒手帳を取り出し、受信されたメールを開いた。

 

「テメェ、何しやがる! 返しやがれ!!」

「それに、決着なら━━」

「聞けよおい!」

 

 電子生徒手帳に受信されたメール、その送り主は選抜戦実行委員会。

 そしてその内容に、ジャギは有栖院への抗議を辞め、地獄の底から響くような笑い声をあげる。

 

「クククッ、なるほどなるほど……。一輝、勝負は預けてやろう」

「あら、それじゃあここは引いてくれるってことで良いかしら?」

「ああ構わねぇ。それに、どうせなら合法的に殺し合えた方が楽しいだろう? なぁ、一輝」

「僕は、あなたとは違う……っ!!」

「ハッ、どうだろうなぁ……所詮俺とお前は双子の兄弟、同じ穴の(むじな)だ」

 

 ジャギが霊装を消したのを確認すると同時、有栖院の黒き隠者(ダークネス・ハーミット)が消える。

 それと同時にジャギへ斬りかかろうとしていた一輝は体勢を崩し、ジャギの目の前に転んだ。

 ジャギは有栖院から電子手帳をひったくるように奪い、画面を一輝に見せる。

 

「降伏宣告は、試合前ならいつでも聞いてやるよ。ヒィ~ハハハハハハギャハハハハハハ……」

 

 そう言い残し、ジャギは気味の悪い笑い声を残して去っていった。

 そしてジャギがいなくなると同時、有栖院は疲れを抜くかのように深いため息をついた。

 

「妙に疲れたわね……大丈夫?」

「ごめんねアリス、迷惑かけちゃって……」

 

 有栖院の手を借りて立ち上がる一輝。

 そしてステラと珠雫も、一輝のもとへと駆け寄る。

 

「……出会ってまだ一日も経っていないあたしが言うのも変だけど……ジャギさんと対峙している時のあなた、らしくなかったわね」

「あっ、それアタシも思ったわ。確かに、人の命をどうとも思わない言い分はイラッと来たけど……なんだかいつものイッキらしくないというか、どうしたの?」

 

 有栖院の言うように、ジャギと相対した時の一輝はらしく(・・・)なかった。

 他人の痛みを分かることができる。それは確かに一輝らしい。

 だが、無事に全員助かっていたというのに、態々ジャギにかみつきにかかる……その様は、ステラと有栖院のイメージする黒鉄一輝ではない。とはいえ同時に、悪い印象を抱いたという訳でもない。

 良くも悪くも、『正義感に燃える、青くも輝かしい理想に燃える普通の青年』として映っていたからだ。

 

「……同族嫌悪、っていうんかな。どうしても、受け入れられないんだ」

「同族嫌悪?」

 

 ステラの言葉に一輝は苦々しく笑い、呟く。

 

「ジャギ兄さんは、僕なんだ」

 

 

 誰もいない寮室。誰もいない散らかった部屋に、ジャギが帰ってきた。

 開きっぱなしで転がっている本を足で蹴りどけ、衣類がかかりっぱなしになっている椅子に座る。

 無造作に置かれた瓶から適当な酒を手に取ると、それを浴びるように飲んだ。

 

 ここまで散らかっていれば、普通ならばルームメイトが小言を言うか片づけるかするだろう。

 だが、ジャギの部屋にそんなものはいない。

 誰もが、顔を見ただけで逃げていく。謝罪付きで出て行かれるのはまだマシで、面と向かって化け物呼ばわりされたり、学校自体を辞められたりもした。

 

「……クソが」

 

 気に入らない。

 いつもあいつは、なぜか人を惹きつける。

 家の権力に逆らってまでの友人は出来ないが、必ずや家の者の目の届かぬところで手助けするヤツが一人や二人はいた。

 

「クソが!」

 

 手に持っている酒瓶を、床に思い切り叩きつけた。

 酒瓶はまるで3階から落とされたかのように、小さく割れる。

 

 兄者は、妥協なき鍛錬に次ぐ鍛錬と武者修行で、誰をも超える力を手に入れた。

 妹は、自らの魔力を最も生かすという形で力をつけた。

 それによる試合の勝利は許された。称賛された。だというのに、ジャギの努力を称えるものはいなかった。

 ジャギの工夫を称賛する者は、誰一人いなかった。

 

「……チッ」

 

 床に飛び散った酒を見下ろし、ジャギは舌打ちを鳴らす。

 だが、このままにしておくのも目覚めが悪い。酒の臭い漂う場所なんてのは、酒場だけで十分だ。

 仕方なしにタオルで拭こうと立ち上がると、電子手帳から着信音が鳴った。

 相手は非通知。そもそも、ジャギの電話帳に載っている相手は親と学校しかない。ジャギの電話番号を知っている、というだけに限定するのならば警察も入るだろうが。

 ジャギが電話に出ると、不愉快な低い声が聞こえてきた。

 

『んっふっふっ、お久しぶりですねぇジャギ君』

「なんだ、まだ屠殺されてなかったのか。長生きだなぁ赤座」

 

 ひぐっ、とひきつくような息の音が電話越しに聞こえてきた。

 ジャギの言葉にイラついているのだろうが、ジャギにとってはどうでもいい。こんな時間とこんな気分のときに電話をしてきたやつが悪い。

 

「……で、何の用だ赤座。しょうもない話だったらぶち殺すぞ」

『……全く、相変わらず可愛げのないガキですねぇ。……まあ、それに関する説教は後でするとしましょうか。要件ってのは他でもありません、貴方の大好きな一輝君についてのことですよぉ。んっふっふ』

「あぁん? テメェ、肉屋に吊るされてぇのか?」

『おやおや、そんなことを言ってもいいのですかぁ? せっかく貴方が愛される(・・・・・・・)手段があるというのに』

 

 その言葉に、電子手帳を持つジャギの手に力が入る。

 ミシリ、という音と共に画面にひびが入り、モールス信号のように液晶が点滅する。

 

「……どういう意味だ、赤座」

『んっふっふっ、そのままの意味ですよぉジャギ君。人間っていうのは、簡単に心移りするものなんですよぉ、女心に限定せずねぇ』

 

 人間の印象とは何で決まるのか。それは第一に外見、第二に体臭、第三に素行でほぼ決まると言っても良い。

 では最終的な印象はどこで決まるのか、それは大衆の総意である。

 大衆の人間がそれを『悪』と見なせばどれだけの善人であろうと悪人として扱われ、『善』として崇められればどのような極悪人だろうと正義になる。

 

 そして赤座はそれが出来る。それだけの権力を持っている。

 仮に素行不良の頂点を極めたような男だろうと、悲劇の主人公に仕立て上げることができるのだ。

 

『もちろん、タダでとは言いません……。が、貴方ならば簡単に成し遂げられると私は確信しております』

「……受けるたぁ言ってねぇだろうが」

『んっふっふっ。いえいえ、選抜予選に進むついでに達成できるサブクエストですよぉ……なぁに、私からの要求はただ一つですよぉ。決して、手間は取らせませんからねぇ』

「要求だぁ?」

 

『ええ、黒鉄一輝━━━━つまるところ、貴方の双子の弟を負けさせる。ただそれだけです。結局のところあなたのやることは変わらない、これでも受けないですかねぇ?』

 

「……フン」

 

 赤座の言う『提案』は、ジャギに対するデメリットが存在しない。

 仮に負けたとしても、赤座がジャギに何かを仕掛けることは無いだろう。ジャギは、伐刀者としてならばプロとしても通用するほどの魔力量と魔力制御、そして武術もある程度は極めている。

 

 故に、この話は単純に、黒鉄一輝を陥れるためのものだろう。ジャギに、さらにやる気になってもらうための、甘い誘惑。

 

『もちろん、これを引き受けて、貴方が負けたとしても私達からあなたへ危害を加えることは絶対にありません。保証しましょう』

「……分からねぇな」

『……はい?』

「なぜそこまで一輝(あいつ)に伐刀者を諦めさせたいのか、それが分からねぇ」

『んっふっふっ、我々としては、ああいった伐刀者モドキが増えるのは目障りなのですよぉ。ジャギ君ならそこのところ、分かっていたと思ったんですがねぇ……』

「肉盾は多いに越したことねぇと思うけどな」

『……私、そこまで人として堕ちてないので』

「人の夢否定しているテメェに言われるのだきゃ心外だわ」

 

 数秒の沈黙ののち、ごまかすように二人同時に笑う。

 どちらも、相手のことを言えないくらいに非道なことをしているのには変わりはない。

 これ以上つついたところで、所詮はドングリの背比べ。どちらがより外道かなんて、答えは出てこない。

 

『それで、どうしますかぁジャギ君。私の誘いに乗るか、乗らないか。もちろん、私は貴方の意思を尊重しますよぉ……んっふっふっ』

 

 尊重する、等とは言っているが、赤座はジャギが、この提案を断らないと確信している。

 赤座は、人の弱みを見る目だけならば、誰よりも優れている。本人は人間観察力に優れていると自称しているが。

 そして、ジャギの答えは赤座の満足いくものだった。

 

「……ああ、乗ってやるよ」

『……ええ、ご協力ありがとうございます』

 

 電話の向こう側で、赤座の口が弧を描いた。




 遅れたのはですね……一輝君とジャギ様の対立をどう描くかってのに苦労したからです。
 私ね、この作品書いて気付いたんですけど所謂『光側』の人間の考えが分かんないんですよね。
 なので一輝君は苦手です。キャラクターとしては好きですけどね、努力家ってところとか。私努力できないから。
 でも書くのは苦手。自分が持ってないから苦手で、んで自分が持ってない属性だから好きなんですよ。

 えっ、落第騎士で一番好きなキャラクター? ユリちゃん痛可愛いよユリちゃん病弱可愛いよユリちゃん目の下のクマ可愛いよユリちゃん長いくせっけモフモフクンカクンカしたいよユリちゃん誰かユリちゃん先生メインヒロインで物語書いてよ主人公でもいいよああでもくっつくのは男の娘ね背の高い先生と背のちっちゃい女子力マシマシ可愛い受け入れ男の娘で書けよオラァン!!
 しょうみくっそ可愛いよネ控えめに言って。
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