「ねぇねぇ、今日こそ何処か食べに行こうよ!」
「お、いいですね~」
あれから一週間。ポピパとの合同練習を終えたアタシ達はいつもの帰り道を歩いていると、ひまりがそんな提案をしてモカもそれに乗っかる。
「アタシも今日は行けるぞ、手伝いもないし」
「私も今日は休みだし行けるよ」
巴もつぐみも乗っかった。そうなると当然まだ何も言っていないアタシに目線が向いてくるわけで、別にアタシは行きたくないわけじゃないけど。
「駄目かな、蘭」
「別に、アタシは」
「蘭は行きたいってさ~、ほらほら~止まらないで歩いて、お店混んじゃうよ~」
アタシはモカに押され道を進む。モカはいつもアタシを助けてくれる、言葉足らずなアタシの事を補ってくれている。感謝してもしたりない。
そのあと何処に行くかという話し合いになったが、つぐみの家の店は今日は休みなのでファミレスに行くことになった。ひまりの駅前のスイーツがいい、と駄々をこねていたが、置いてくよ、と少し脅すとすぐについてきた。これも、いつも通りだ。
ファミレスにはそこそこの人数がいたが多すぎる、というわけではない。大体3組くらい待っていただけ、モカが記名表を書いて、待っている間はバンドの話をしていた。しばらくするとアタシ達の番が来たようで店員に呼ばれた。
「
「お、意外と早かったねぇ~」
「ええっと、もう一人の方は?」
「あ、後から来ます」
アタシがそう言うと店員は、そうですか、と言ってアタシ達を案内する。ドリンクバーと料理を頼んだ後アタシ達は各自飲み物を持ってきた。ジュースだったりお茶だったり、私は珈琲を持ってきた、モカはジュースと珈琲の2つを持ってきた、珈琲飲めないくせに。
座り方はアタシと巴とひまりが片方に座って、もう片方は真ん中に空席を挟むようにつぐみとモカが座っている。あの空席には、アイツが座っていた、今だって本当はアイツが座っている筈なのに……
そう暗い思考に飲み込まれていたところにそれを遮るかのように料理が運ばれてきた。
「うお~、こんなに多いと食べきれるか心配だよ~」
モカの前には2つのハンバーグが置かれた、モカはそのうちの一つと珈琲を隣に置いてアタシ達を写真で撮ろうとする。
「まだ食べちゃ駄目だよ~、ほらほら~、笑って~」
そう言ってモカはアタシ達全員が入るようにスマホで写真を撮る。モカはアイツがいなくなってからずっとこうだ、アタシ達のいつも通りを形に残そうとする。
昔は寝たり、食べたりしかしてなかった。今もそれは変わらずに殆ど食べたり寝てたりしてるけど、それでもアタシ達との時間を前より大切にしようとしているのは伝わってくる。
「むぅ、蘭もトモちんももっと笑ってよ~」
「なぁ、モカ」
おそらくさっき撮った写真を見ながらそう言ってくる。そんなモカに対して巴も限界が来たのか言おうとする。巴はたまにモカに対して不満をぶつけようとする、日常とか音楽関連ではない、アイツが絡んだ事にだけ。
「お前いい加減に……」
「巴、やめな」
「巴ちゃん、落ち着いて」
立ち上がろうとした巴を手で抑える。アタシとつぐみが止めると巴は踏みとどまったのか大きく息を吐く。
「なぁモカ、そろそろ教えてくれよ、なんでお前はアイツの墓参りにこないんだ……」
その問いはアタシ達がずっと出来なかったことだ、それっぽいことを聞いてもモカは答えてくれなかった。それでもここまで踏み込んで聞いたのは初めて。モカはまるでその問いの意味がわからないといった顔でこちらを見て、答える。
「行く必要がないから」
モカの目は、たまにだけど目の前にいるアタシ達を見ていない。ずっと、ずっと遠くを見ているような気がする。
深くて、澱んで、怖い。いつもと同じ、変わりがない、いつも通り。その筈なのになぜか、モカは今を見ていない気がする。
「行く必要がないってどういうことだよ。アイツと一番仲良かったのはお前だろ、一番アイツのことが好きだったのもお前の筈だろ!」
モカもつぐみと一緒でアイツの事が好きだった。いや、つぐみよりももっと深く、高く、アイツの事が好きだったんだと思う。
モカはずっとアイツの側にいて、いない時間の方が遥かに短かった。それだけアイツの事を思っているのに、行く必要がないって一体……
「どういうことって、死んでないからだよ」
「モカ、それ、どういうこと?」
「アタシ達が覚えてる限り彼は死んでない、墓にあるのは体だけ、そこには何もないから」
ね、と隣の空席に聞く。アタシ達は何も言えなかった、言えるはずがなかった。冷めちゃうよ? と言ってモカは食べ始めた。今は食べられる気分じゃない、こんなことを知ったら食欲なんてなくなってしまう。他のみんなも同じだ。
モカは、アタシの親友は、アタシの幼なじみは……
──もうどうしようもなく、壊れてしまっている。
「あ、今日新刊の発売日だ、アタシ本屋に寄りたいんだけど一緒に来る人いる~?」
帰り道、アタシ達にはまるで会話がなかった。ひまりが一生懸命話題を振ってくれたけど長続きはしなかった。
他のみんなは今はそんな気分じゃないらしく断っていたけど、アタシは付いていくことにした。モカを一人にしたくない、一人にしたらモカはどうなっちゃうかわからない、そう思ったから。もう、手遅れだとしても。
本屋ではいつも音楽関連の所にしか行かないから漫画の所は迷子になりそうだ、たくさんの本が置かれているそこをモカは迷いなく歩いて一冊の本を手に取る。
「それ、面白いの?」
「面白いよ、蘭が興味を持つなんて珍しいね~、後で貸してあげようか~?」
いいよ、と断ろうとしたけど口には出なかった。それを読めばアタシはモカの事を、アイツの事をもっと知れるかもしれない、そう思ったから。
「それは一つでいいんだ……」
「漫画は二冊もいらないでしょ~、
もう何も言わない、聞きたくもない、アタシまでどうにかなってしまいそうだ。外に出てアタシとモカは一緒の道を二人で帰る、夕焼けが嫌になるほどアタシ達を照らす。アイツの
モカ、と名前を呼ぶとな~に~? とこちらを向いてくる。放っておくとモカは何処かに行ってしまいそうだ、アイツと同じ場所に行ってしまいそうだ。
「これからもいつも通り、一緒だよ」
「当然だよ~、アタシ達6人はずっと一緒、約束したもんね~」
モカの時間は少しも進んでいない、変わっているけど進んでいない。
きっとモカの止まった時間は、あの時からずっと、進んでいない。
次は未定