止まった時間は動かない   作:DEKKAマン

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ほんとは前の話で終わりの予定だったんですけれど続けます。そのため短編から連載に変えます。
短編物を楽しみにしてた人はごめんなさい。


羽沢つぐみはとても怖がりである

 風が強く吹いた。さっきまで無風だったのが嘘だったかのように。今屋上にはアタシ一人、つぐみ以外のみんなはもう帰ってしまった。

 アタシはこの思いを、アイツを好きだということに気づいてから一人で過ごす時間が増えた。一週間も経ったのにこの思いは収まらない、それどころか日に日に強くなっていくのを感じる。

 好きだという気持ちが、後悔が積もっていく。折れてしまいそう、潰されてしまいそう、この気持ちに。

 

「雨降りそう……」

 

 なんとなく空を見つめる。あの雲の向こうはどうなっているのだろう、空の向こうにはアイツがいるのだろうか、そんなことを考えていると時間は流れるように過ぎていく。

 風がより強くなってきて少し寒く思ったし、雨に打たれるのは嫌だから校舎内に戻った。校舎内はもうだいぶ遅いせいか電気はあんまり付いてなくて暗い。

 雨は嫌いだ、濡れるし傘を指さなきゃいけない、頭も少しだけ痛くなる。だけど雷はもっと嫌いだ、あの時を思い出すから。あの音が、光が、アタシ達とアイツを引き裂いて、どこか遠くに投げ出してしまった気がする。

 アタシは今日傘を持ってきていないから出来れば雨が降りだす前に帰ってしまいたい。だけどまだ学校にはつぐみがいる。最近生徒会が忙しくなってきたらしくてバンドの練習も休むことが少しある。

 つぐみは雷が嫌い、過剰と言ってもいいくらいに。それは小学校の頃からずっとだったけど、アイツがいなくなってからは余計に悪化した。アタシ達の誰かがいればそこまで酷くはならない、だけど誰もいなかったら、一人だったら、部屋の隅でちっちゃくなって泣いてしまう。

 小刻みに震えて、怯えている。だからアタシ達の中では雷の降りそうな時つぐみは一人にしちゃ駄目、なんて決まりが出来てしまった。

 

「生徒会そろそろ終わったかな」

 

 そう思い生徒会終わった? とメッセージを送って教室に向かう。向かう途中何やら聞き覚えのある音が外からしたので窓を見ると、水滴が付いていた。それはどんどん増えていって、最終的には上から水が流れ落ちるようになってしまった。

 

「雨降ってきちゃった……」

 

 つぐみは傘持ってるのかな、そう考えていると丁度終わったとこ、教室で待ってるね、とメッセージが返ってきた。屋上から教室までは結構距離があるためゆっくり歩いていたら、暗い廊下を一瞬で白く染め上げる光が襲ってきて、その数秒後、耳をつんざくような爆音が襲ってきた。

 何があったかなんて考えずともわかる。雷が降ってきた、それもかなり大きめで、わりと近い。一瞬だけ呆けてしまったがアタシは廊下を進む、全力で、走って。

 階段は残り5段くらいなら飛び降りて、部活帰りの人とぶつかりそうになっても謝ってる余裕はない。二回目の爆音、この学校は中高一貫なだけあってそれなりに大きい、そのせいで教室までが遠い。結局教室にたどり着くまでに雷は三回鳴った。

 

「つぐみ!」

 

 教室に着く頃には息は切れ切れ、バンドとはまた違った疲れがアタシを襲っていた。電気は消えていて真っ暗、そんな教室の隅につぐみは座り込んでいた。つぐみの顔は少しだけ安心したような顔をして、少しだけ泣いているような気がした。

 

「蘭ちゃん……」

「早く帰ろ、これ以上雨が強くなると困るし」

 

 アタシは近寄って右手を伸ばす。これはアイツが雷でちっちゃくなってるつぐみを連れ出すためにやってたこと。つぐみは震える手でアタシの手を掴む。立たせようと引っ張るがつぐみは立ち上がらない。

 

「どうしたの?」

「あはは、蘭ちゃん見たら安心しちゃって……」

 

 つぐみはいつもアタシ達を支えてくれてる、助けてくれてる、だけどつぐみはこういう面が結構多い、勇気があって、意思がある、だけど実は怖がりで寂しがり。思わず笑ってしまうとつぐみには笑わないでよ、と怒られてしまった。

 

「そういえばつぐみ、傘ある?」

「えっと……」

 

 玄関で靴を履き替えながらそう問いかけると目を逸らされる。アタシはと大きくため息をつく。

 

「……走るよ」

「……うん」

 

 雨に打たれながら、雷を恐れながら全力で走る。格好としてはアタシがつぐみを引っ張っている形になっている。

 そういえば昔もこんなことがあった、立場は逆だけど。雨の中アタシの手を、アイツが引っ張って帰ったあの時。ああ、思い出すと悲しくなる、辛くなる。雨はこんなにも強いのに、アタシの気持ちを洗い流してはくれなかった。

 

 

「蘭ちゃんちょっとだけ待ってて、すぐお母さんがタオル持ってきてくれるから」

 

 アタシ達は『羽沢珈琲店』に逃げ込んだ。体はびしょびしょだし服も重く感じる。出来ればさっさと脱いでしまいたい。そう考えながらつぐみのお母さんからタオルを受けとって体と服を拭く。

 外はまだまだ雨が弱まる気配はなく、暴力的までに強く黒い雨が降っている。たまに鳴る雷も健在だ。つぐみは珈琲とミルクを持ってきてアタシに珈琲を渡す。

 

「はい、珈琲だよ」

「ありがと」

 

 近くの椅子に座って受け取ったそれを飲む。冷えた体がゆっくりと内側から暖まる気がする。今この店にはアタシ達以外にはつぐみの両親しかいない、まぁこんな大雨だから仕方ないか。

 つぐみの両親は何をしているのかわからないけど奥の方にいるから今はつぐみと二人きり、今ならあの事を聞けるかもしれないと思い、聞いた。

 

「……つぐみは、アタシがアイツの事好きなの気付いてたの?」

 

 その言葉には何を含んでいただろうか、疑問、怒り、それと……ほんの少しの探求心。いったいなんで気づいたのか、どうして教えてくれなかったのか、それを知りたい。知らなくちゃいけない気がする。

 

「……蘭ちゃん、やっぱり好きだったんだ」

「気付いたのは最近なんだけどね」

「……ごめん」

 

 謝って欲しい訳じゃない、単純に知りたい。理由を。

 

「なんで気づいたのか教えて欲しいんだけど」

「……蘭ちゃんは彼のことずっと目で追ってたし、他の人には向けない目をしてた」

 

 でも蘭ちゃんは気付いてなさそうだし、気付いて欲しくなかった、と言った。つぐみは続けるように教えてくれなかった理由も答えてくれた。

 

「ほら、蘭ちゃんって可愛いでしょ、だからもし蘭ちゃんまで彼に寄り添って行ったら、彼は私のこと見てくれなくなるんじゃないのかって……」

 

 つぐみの声はだんだんと小さくなっていった。アイツと一番仲がよかったのは間違いなくモカで、アイツが一番好意を持っていたのも多分モカなのだと思う。

 つぐみもつぐみなりに色々してたけど空回りで、届いてなくて、そこにアタシまで入ったら自分のチャンスが無くなってしまうんじゃないかと思った、ということなのだと思う。

 

「最低、だよね……軽蔑した?」

「全然、アタシがつぐみでも多分言わなかったと思う」

 

 言ってくれて嬉しいと思う、もしこれで嘘だったりをつかれた方がずっと嫌だったから。アタシはわかりきってる問いを聞く、答えなんて決まっている。それでも聞かなきゃいけない気がしたから。

 

「つぐみはさ、アイツの事、好き?」

「うん、好きだよ、今でも」

 

 つぐみの目はモカとは違う。モカは今を見ていない、つぐみは今を見ている。モカはアイツを見ている、つぐみはアイツを思っている。まっすぐで、しっかりと。アタシはその目に眩しささえ感じてしまう。

 

「つぐみは、強いね」

 

 それだけ言ってアタシは席を立つ。雨は決して弱いわけではないがさっきに比べれば全然まし。お金を払って今のうちに帰ってしまおう、傘は頼めば貸してくれるだろうか、そう思ってるとつぐみのお母さんにある提案をされる。

 

「泊まっていったらどう、明日休みなんでしょ?」

「そういうわけには……迷惑がかかりますし、着替えもないですし」

「迷惑なんかじゃないわ、こんな雨の中帰られる方が心配だし、着替えはつぐみのを使えばいいわ」

 

 それに、と言われた瞬間にまた雷が降ってくる。大きな音と共につぐみは机の下に隠れる。

 

「つぐみと一緒にいてほしいの」

「……わかりました」

 

 父さんに今日はつぐみの家に泊まると電話をした。どういう事だと言われたけど答える前に電話を切る。誰かの家に泊まるのなんていつぶりだろう、少しだけ楽しみだ。

 

 

 夕飯は凄く美味しかった。お風呂は好きな入浴剤使っていいよ、と言われたが量が多すぎてわからなかったから結局使わなかった。

 アタシがつぐみにお風呂空いたよ、と言うと入れ替わるようにつぐみはお風呂に向かい、アタシはつぐみの部屋に向かった。

 

「つぐみの部屋に入るのひさしぶりだな……」

 

 少しだけ狭いけど探検家になった気分だ。何かないかなと周りを見渡していると二つの写真と、一つの紙飛行機が目に入った。

 

「これって」

 

 いつだったかのアイツの誕生日にアタシ達が全員で投げて送った物だ、中は手紙みたいに文を書けるようになっていて、ついでによく飛ぶ。写真はみんなで集まって撮った写真と、アイツとつぐみが二人で写ってる写真だった。

 

「探せばアタシもあるかな……」

 

 ひまりはよくアタシ達を撮ってくれてたから何かあると思う。でもアタシとアイツの二人の写真はあるだろうか、アタシはきっと無意識にアイツを避けていた。だからアイツと二人で写真を撮った記憶は殆んどない。

 

「蘭ちゃん、それの中身見てない……よね?」

「大丈夫、流石に見ないって」

 

 お風呂から上がってきたつぐみに聞かれたが流石にそこに踏み込める勇気はない。そういえばアタシ達の紙飛行機はアイツに渡してそのままの筈なのにここに一つあるんだろうか。聞いてみると以外とあっさり答えてくれた。

 

「ほんとは投げようと思ったんだけど、直前で恥ずかしくなっちゃって結局投げてなかったんだ」

「恥ずかしいって、つぐみ何書いたの?」

「別にたいした事じゃないよ、好きだってこと」

 

 そう言うとつぐみはその紙飛行機を手に取る。大切そうに、まるで壊れ物みたいに。

 

「ほんとはね、投げておきたかったって後悔してるんだ」

「どうして?」

「私はね、彼に好きって言えてないんだ」

 

 つぐみはベットに座って天井の明かりを見る。その言葉に私は疑問を持った、つぐみはアイツにアタックしていたから、伝えようとしていたから。

 

「確かに行動ではしてたよ、けどそれじゃ駄目なんだ」

 

 好きって言葉で言えてない、文字で伝えられていない。行動だけでどれだけ伝えても、それは文字より、言葉より遥かに劣る、つぐみはそう言った。

 

「……確かアイツの誕生日って、一ヶ月後だよね?」

「そうだね、もうすぐ」

「じゃあさ、その時みんなで投げようよ、伝えよう」

 

 アタシもつぐみも、伝えられてない思いをアイツに届けよう。そう言うとつぐみはとても喜んだ様子で、いいね、と同意してくれた。後でみんなにも伝えておかないと。

 

「私、そろそろ眠くなってきちゃった……蘭ちゃんは?」

「アタシもそろそろ限界……」

 

 時計を見るともうそろそろ日を跨ぎそうだった。アタシ達は電気を消してベットに潜り込んだ。カーテンを閉めているから光は入ってこないけど音はする。雷はまだまだ元気に鳴り響いている。

 

「ねぇ、蘭ちゃん」

「なに、つぐみ」

「蘭ちゃんは、どこにも行かないよね?」

 

 その声は震えていた、その声は怯えていた。つぐみは強い、だけど弱い。いつも一人で抱え込む。

 もっとアタシ達を頼って欲しい。アイツがいなくて寂しいのは一人じゃないのに、アイツに伝えられなくて後悔しているのはアタシもなのに。

 

「大丈夫だよ、アタシ達はずっと一緒にいる、アタシ達6人はいつも一緒だよ」

 

 震える手を掴んであげるとつぐみは安心したのか眠ってしまった。アタシもその後を追うようにして寝た。

 

 




つぐみちゃんはとっても強い子
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