止まった時間は動かない   作:DEKKAマン

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最終回です、短めになってしまいました。


Scarlet Sky

 アタシとモカは前を向くことが出来た、だけど歩くことはまだ出来てないかもしれない。それでも今までに比べたら大きな進歩だ。

 あの後弟君とは仲直りをすることはできた。ちゃんと彼の名前で呼んであげて、彼との違いをわかってあげると、すぐに険悪な仲ではなくなった。

 

「蘭~、いよいよ今日だね」

「そうだね、モカは書いてきたの?」

「もっちろ~ん、蘭は?」

「アタシは……まだ」

「放課後までだよ、大丈夫なの?」

 

 今日はアイツの誕生日。そして紙飛行機を飛ばす日、アイツに思いを伝える日。伝えられなかった思いを届ける日。伝えたいことが多すぎて、届けたい思いがわからなくて、書くべきことがなくて全然書けていない。

 

「授業中に書いててクラスの人に見られたから破いて捨てちゃった~、なんてやめてよね~?」

「流石にそんなことはないから……多分」

 

 もしクラスの人に見られちゃったら流石に破いて捨てるかもしれない、そんな事を話して教室に向かう。教室にはアタシ一人、他に人がいないというわけではない。幼馴染みのみんなが、アイツがいない。クラスが違うのだから当然といえば当然だけど。

 

「何書けばいいの……」

 

 全く思い浮かばない、歌詞の方がよっぽど簡単に思い付く。自分の心を文字にするのは簡単だ、思っていることを書くのは難しくない。

 でも好きという思いだけはどうしても慣れない、好きという感情だけは、文字にすることができない。

 

「……そろそろ授業始まっちゃう」

 

 結局何も思い浮かばず進まないまま授業が始まる。確か今日は授業変更だったかで一時限目に総合が持ってこられている。

 

「今日は手紙を書きたいと思います、家族や遠くに行ってしまった友人に書きましょう」

 

 最近あったことなどを書くといいですね、と先生は言った。そんなことでいいのか、いや、でもこの思いを伝えるように書いた方がいいのだろう。ああでも最近あったことも教えてあげたい。何を書こう、どう書こう。考えるだけで辛いけど、楽しい。

 本当にこの世界は残酷で、優しくて、生きづらい。ついつい眉間にしわが寄ってしまう。辛いことは乗り越えるものだと綺麗事ばかり言う人ばかりで本当にイラつかされる。そうイラつくアタシの指先には、知らず知らずのうちに文字が並んでいた。

 

 

「遅い」

「い~じゃん、夕焼けはまだ出てるんだしさぁ~」

「ごめん、生徒会が長引いちゃって」

「それでみんな、準備はいい?」

「あれれ~、蘭書けたの?」

「もう書けてるよ、ほら」

 

 そう言って紙飛行機を見せる、中身は見えないようにちゃんと止めている。壊れ物かのように、大切に手に取る。

 

「ほんとだ~、それじゃあみんな、行くよ~?」

「モカが号令かけるんだ」

「じゃあひーちゃんがやってよ~」

「えぇ、私!?」

「いいね、お願いね」

「ううぅ、じゃ、じゃあいくよ~、せーの!」

 

 そう言ってみんなで紙飛行機を投げる。いつもの屋上から、夕焼けに向かって投げる。遠くに遠くに飛んでいく。何処までも遠くに、遠くのアイツに届くように。紙飛行機はやがて夕焼けに吸い込まれるように見えなくなってしまった。

 

「だいすきだよ~!」

「わ、私も、ずっとずっと大好きだよ~!」

 

 モカは夕焼けに向かって叫ぶ、それにつられるようにしてつぐみが叫ぶ。アタシも叫ぼう。いないことを嘆くよりも声に出して叫んでしまおう。あの時を断ち切るわけではない。それでも新しい始まりを始めようと。

 

「アタシも、大好きだよ!」

 

 届いただろうか、伝えられただろうか。わからない、わからないけど凄くスッキリした。心の奥にあった荷物が片付いたみたいだ。

 見上げれば夕焼けは優しくアタシ達を照らしていた。まるでアイツみたいに微笑んで、包んでいた。

 

「ねぇ、蘭はなんて書いたの?」

「秘密、モカは?」

「蘭が教えてくれないならモカちゃんも秘密かな~」

「ふーん、つぐみは?」

「お、教えられないよ、恥ずかしい……」

 

 アイツはいない、遠くに行ってしまった。だけどこの思いは永遠のものだ。どれだけ遠くに行ってしまおうとこの夕焼けは、黄昏の空はアタシ達を繋いでいる。

 離れていてもいつまでも、この場所はアタシ達だけの場所、アタシ達六人の場所。いつまでも一緒。アタシ達の思いは、夕焼けの空に吸い込まれていった……

 

 

 ふらりふらりと紙飛行機が飛んでいる。夕焼けに照らされながら飛んでいる。誰が開いたという訳ではない、それでもその紙飛行機は自然に開かれた。誰かが笑った、それは誰だろう、神様だろうか、それとも夕焼けだろうか、もしくは……夕焼けに化けた彼だろうか。

 一つ、一つと紙飛行機が消えていく、誰かが手に取るように消えていく。それは地上の人ではなく、空が手に取っていく。

 そして最後に残った紙飛行機が一つ、その中に書かれている手紙を、夕焼け()は読んだ。

 

 

 

 貴方がいない毎日は私達にとってはとても悲しいものでした。貴方の大切さを改めて知ることができました。

 貴方の側には私がいません、でも私達の側には貴方がいます。貴方がいなくて私達の時間は止まったようにさえ思ってしまいましたが、今では私達はみんな前を向けています。

 こんな形ですが伝えたいことがあります、届いてくれると嬉しいです。

 

 大好きだよ。今も、そしてこれからも。

 

 

 その手紙の送り主のところには美竹蘭と書かれていた。

 

 




今までありがとうございました。
生存√は書くかわかりませんが、気分が乗ったら書きたいと思います。
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