寮杯
ホグワーツの特徴たる寮に分けられた学閥、その年に於ける最も優秀なものに与えられる杯
若き学徒達はその栄誉を求めて競い合う
亜細亜の魔術に於いて、それを蠱毒と云う
かくして、その時は来た。
やはりというべきか、ドロテアの減点が反映されていたものの、蛇寮が他の追随を許さずに総得点首位であった。
広間の壁は緑と銀に覆われ、上段には蛇寮の横断幕が掲げられていた。当然ながら蛇寮は大いに騒ぎ、ジェラルドは感涙に咽ぶ。ヤーナムの狩人とて、7年も過ごした学び舎に思うところはあるのだろう。
その喧噪が静まったので何が在ったかと見回してみれば、広間の入り口にポッターが居た。あの後、何日も医務室で寝たきりだったらしい。そんなにも強く蹴り飛ばした覚えはないのだが。
直後、校長が入室し、腰かけた。
「また1年が過ぎたのう!
君たち、宴の前に老いぼれの戯言を聞いてもらおうかの。何という1年じゃったか。君たちの頭に詰め込まれたものは、この夏休みに全て消え去ってしまうことじゃろう。
それでは、ここに寮対抗杯の表彰を行おう。
4位 グリフィンドール 312点
3位 ハッフルパフ 352点
2位 レイブンクロー 426点
1位 スリザリン 482点」
爆発の如き歓声が蛇寮から上がる。勝利は既に分かっていたことだが、それでもなお、実際にそれが確定するという喜びは大きいらしい。自分自身としては別段思うところはないが、ジェラルドを7冠の栄光と共にヤーナムに帰らせるのは喜ばしい。
「よくやった、スリザリン。じゃが、最近の事情も勘定に入れねばなるまいて」
困惑と共に、静けさが広間を覆った。隣に居るダフネに目をやると、蒼白な顔をしていた。視界の端では、ヘルマンが驚愕に目を見開いていた。
「まずは、ロナルド・ウィーズリー君」
まさか。
「この何年か、ホグワーツの中で見る事の無かった最高のチェスゲームを見せてくれたこと。これを讃え、グリフィンドールに50点を与える」
獅子寮から歓声が上がった。
見せてくれた、とはやはり、見ていたのだろう。最奥の部屋ではなく、最初から。
「次に、ハーマイオニー・グレンジャー嬢に、火に囲まれながらも冷静な論理によって正解を導いたことを讃え、グリフィンドールに50点を与える」
またも、獅子寮から歓声が上がる。
その中に居るハーマイオニーは、顔を抑え、震えていた。
「3番目に、ハリー・ポッター君。その完璧な精神と、卓越した勇気を以って困難に立ち向かったこと。これを讃え、グリフィンドールに60点を与える」
その精神とやらは、それを讃える本人の狂気とハーマイオニーの悲哀、そしてこの広間に居る全ての人間を贄とした冒険によってもたらされたものだ。あれは一体、何を言っているのか分かっているのだろうか。
ダフネの唇からは、血が零れていた。白磁の肌に、鮮やかな紅が一筋。それを拭うこともなく、ただ怒りに染まった眼を壇上の校長に向けている。
だが、校長がその冒険者に花を持たせようと、蛇寮の得点には至らない。それが分かっているからこそ、蛇寮の生徒達は曖昧な拍手を贈った。
「勇気にも様々なものがある。敵に立ち向かうことだけではなく、味方に立ち向かうことも大いなる意志が必要となる事じゃろう。その勇気を讃え、ネビル・ロングボトム君に15点を与えよう」
その言葉は、理解されるまで時間がかかった。誰もが、あのロングボトムに加点があるとは考え難いものであり、また、その加点対象となる行為も具体的ではなかった。ポッターについては、ウィーズリーが喧伝した禁じられた廊下の冒険、それが評価されたのだろうと分かる。だが、ロングボトムに何が有ったというのか。そして、その加点の意味するところは、獅子寮の勝利である。
獅子寮は爆発の如き、否、事実杖先から火花を噴き出しながら狂気の歓声を上げ、それを祝った。
「……馬鹿な。こんなことが赦されていいのか」
「これが、ホグワーツ」
ディルクお兄様とイングリットお姉様は、ただ愕然として獅子寮の狂乱を眺めていた。
自らの手を見れば、握り潰した杯の破片が皮膚を食い破り、血を迸らせていた。
「あたしの……あたしのせいだ。あたしが先生に軽口を言ったから。あの5点が無ければ……先輩……先輩ごめんなさい……何が誇れだ……私が、私が……ッ」
ドロテアは身を震わせ、涙を流していた。あの5点さえ無ければ、寮杯は得られずとも、敗北は無かった。そう悔悟している。
滂沱の涙を流すドロテアに、かける言葉は無い。
校長の言う冒険には、最初から校長が帯同していたのだ。
ならば、自分さえ征かなければただの期末試験慰労会で在ったのだ。
それに狩人を逸らせ、ドロテアの心を乱したのは、自分のせいではないか。
「違う。得点に根拠などない。あれはただ、得点に合わせて帳尻を合わせただけだ。何故君が減点されたかは知らないが、君が気に病むことはない。仮に君が10点減点されていれば、ロングボトムに10点が与えられただろう。僕が言ったのはそういう事だ」
ヘルマンは、ドロテアの頬を撫でた。
「さて、飾り付けを変えねばならんのう」
校長が手を叩く。
広間の端から、緑と銀が、赤と金に塗り替えられていく。
紅く染め上げられていく蛇の旗は、血を噴き出し死にゆくそれの様だった。
「どうなってやがる」
「こんなことで……こんなことで、俺達の7年間が、ここで終わるのか……?」
「邪悪すぎる。あれは人間なのか?」
「こんなのってないよ」
「畜生、ちっくしょぉぉおお!」
7年生達はあまりの事に恐慌を起こしている。それもそうだろう。栄光の7冠は、蛇寮どころか学徒の大半にとって意味の分からない理由で奪われたのだ。
「ボーン家の狩人。あれを止めてください。神秘に優れる者が必要になるとは、そういう事です」
そう、ヘルマンはこれを予見していた。
言われるがままに、ディルクお兄様とイングリットお姉様が杖を振り、蛇の尾を食らう獅子の動きを止めた。
「未だ清算するべきものは残っております」
横断幕の抵抗にどよめく広間に、ヘルマンの声は、朗々と響く。それは、獣達の叫びの中に轟く声。
「勇敢なミスター・ポッターの介添えとなったマリア・アイリーン・ボーンの行いは、いかほどになりましょうか。未だ加点されていませんが」
「確かに彼女は力を示した。じゃが、わしが評価したものは、恐れに向き合い、恐れに打ち克った勇気じゃ。
自らの身を投げ打ち、友を護る勇気。
自らの答えを信じ、友に託す勇気。
未知に立ち向かい、先に進む勇気。
友の敵となろうとも、信念を貫く勇気。
ミス・ボーンに力がある事は認めよう。おうとも、それは間違いのないことじゃて。だが、力を持つ者が為すこと以上に、力及ばぬ者が示す勇気にこそ、わしは敬意を表したい」
ジェラルドが、ゆらりと立ち上がった。
「校長よ、眼前の獅子寮生を見るがいい。理由も分からず、蛇寮にもたらされた理不尽に快楽を得る愚昧さを。故に勝利を逃し続けてきたのだ。
我らスリザリンは卑怯だから6年もの間、杯を得てきたのか。
否! 断じて否!
我らは吹き荒ぶ嵐の中を、我等だけで生き延びてきた。成功は讃えられず、失敗は嘲られ、それ故に我らは勝利しなければならなかった! 勝利は追い求めるものではなく、義務に成り果てた! 魔法界の醜悪な統治が生んだ公共の敵、それが我等だ。
個人の意志などなく、血を問わず、生まれを問わず、属する者は全て悪となるとされる毒沼の蛇。だが、そこに属する者が、他寮の生徒の為にその力を振るい、勝利を得た。何故それが、当然の事だとされなければならない!
我が仕えるボーン家が令嬢、マリア・アイリーン・ボーンは、貴様らの小間使いとでも言うのか! 私の愛しき主、愛しき後輩、愛しき妹を英雄に侍る婢女などと貶めさせはしない!」
「先輩。落ち着いて。ここで怒号を上げれば、僕等は杯を恐喝した事になる。それは間違っている。貴方の意志は正しいが、誤った手段は誤った結果を産む。心配なさらずとも、先輩の花道、僕が作りましょう」
いつもは皮肉を投げるヘルマンだったが、故に誠実な言葉には重みがある。ヘルマンにとってジェラルドとは狩人として大いなる先輩であり、学徒としても先輩なのだ。
「なるほど、マリアはクィレル教授という獣を屠ったに過ぎない。どれ程恐ろしく、強大な獣であろうと、立ち向かうは狩人の義務。義務から生じる行動には道徳的価値がないといったところでしょうか。いずれにせよ、死と隣り合わせにある我らの業には敬意を払うべき勇気はないと仰せの様だ。
しかし、狩人としてではなく、マリアとしては何故加点されないのか。友を裏切ろうとも別の友の為に進む勇気。校長が先程示した基準であれば、マリアは加点される事になりましょう。しかし、加点は為されない。これはどういうことでありましょう。
次に、マリアには力がある故に加点をしないとされた。ならば、何故ミスター・ロングボトムが最高得点ではないのか。彼が立ち向かった者は、闇から生き延びたミスター・ポッター、学年一の英才であるミス・グレンジャー。決してミスター・ロングボトムを貶めるつもりはないが、彼にとって両名に対峙することは、加えて、対峙した事を寮内のみならず校内に触れ回りそうなミスター・ウィーズリー……そこで口を挟まないでくれたまえ、双子の諸君。とにかく、力及ばぬ恐るべき同輩に刃を向けるという勇気を持つ、ミスター・ロングボトムこそ、もっとも優秀で勇敢な獅子寮生ではありませんか。それにも関わらず、それを行った彼の得点は何故最も低いのか。
矛盾。ここには大きな矛盾がある。勇気を重んじる寮の内、最も勇気を持つ者が、最も低い評価をされる。その矛盾の解はどの様に為されるのか。単純です。加点に理由などない。加点する為に加点されたのだから。それは、誰かのための冒険譚を、華々しい栄光で結ぶ為の加点なのだから。
問おう、ミスター・ポッター。何故、校長の監視をすり抜け、宝にたどり着くことが出来る賊徒を、貴方の様な著しく箒に秀でただけの学生に対応できると思ったのか。
問おう、ミスター・ウィーズリー。何故、父君に連絡しなかったのか。貴方の父親は魔法省に勤務していると聞く。所掌が異なるとはいえ、同じ行政機関に属する者の言葉だ。闇祓いも警戒はするだろう。
問おう、ミス・グレンジャー。何故、彼らの行いを寮監に伝えなかったのか。マクゴナガル教授は厳格で公正な、教育者だ。何ら訓練のされていない未成年が犯罪者の撃退に挑む、そんな計画が愚かである事を、君の脳髄は見抜けなかったわけでもあるまい。少なくとも、伝え聞く貴女はその様な愚昧な人物ではない。
さて、愚昧と言えば、此度の実行犯も愚かなことです。相手が高潔であればあるほど、邪悪な手段は意味を大きくする。私が悪逆の徒であれば、まずはどこかの寮生を鏖殺するでしょう。グリンゴッツを破る程の力量があるのです。学生の200や300殺す程度、造作もない。その後、さらに殺されたく無ければ、宝を差し出せと告げるでしょう。
ところが、それは為されなかった。校長という存在は、確かに抑止力となっていたのだ。しかし翻っていえば、その程度の力量しかない無能なのだ。三つ首の犬如きに数ヶ月も手間取る雑魚が、馬脚を現すのに時間はかからなかったでしょう。だが、校長は闇祓いを呼ぶ事もなく、自ら手を下す事もしなかった。つまり、泳がせたのです。
そして、護りとやらが設えてあると聞けば、1年生ですら破る事の出来る簡単なものでした。なんだったのですあれは。娯楽施設ですか? そして、その罠は悉くミスター・ポッターとその友人達にとって都合の良いものでした。親交のある森番が躾けた犬、箒で飛べば手に入る鍵、負ければ賊にすら道を開けるチェスの駒、ご丁寧に正解のある論理パズル。純粋に暴力による防衛機構は犬とトロールだった。
何故、呪詛と竜に阻まれるグリンゴッツすら破る程の盗賊に対し、この程度の護りしか置かないのか? これら全ての答えは簡単です。ハリー・ポッターが英雄になるためだけに、我が学び舎は利用されたのだ。
先程の疑問に立ち返りましょう。ミスター・ロングボトムが何故加点されたのか、何故友人達よりも少なく加点されたのか。
それは、もとより彼もハリー・ポッターの英雄譚に組み込まれるはずであったところを、逃してしまったからだ。聞けば、ミスター・ロングボトムは薬草学については並々ならぬ情熱を持ち、頭一つ抜けた才能を持っているそうですね。ならば、悪魔の罠が仕掛けられていたことも道理でしょう。熱と光に弱い、その程度の知識さえあれば、これを抜けるのに特別な才能は要らない。人より多く知識を蓄えておけば良い。
確かにミスター・ロングボトムには特別な才はないと聞きます。ですが、忍耐を持って学び、慈愛を持って植物にも他人にも接する、その様な人物であるとも。
そんな彼にうってつけの障害とは思いませんか、スプラウト教授。そういえば、スプラウト教授も石の守り人であったそうですね。例えば、正規の手段で入室しない場合、マンドラゴラが一斉に鳴き叫ぶといった罠を作る事が出来たはずでしょう、スプラウト教授。貴女はその職にかけて、我ら学生に仇なす者を捕えようとしたのですか、スプラウト教授。
誓って申し上げますが、私は蛇寮の同輩の為、我が友人の為だけに怒りを覚えているわけではありません。自分達の目論見の為、学び舎を危険に晒した貴方方全ての教員に怒りを覚えている。手法を選ばなかったことではなく、教育者の皮を被りながら、多くの学生を賭け金にして、たったひとりの英雄を作ろうとしたことに。
より大いなる善の為に。
分かりやすい功利主義的思想だ。
この思想に従えば、ミスター・ポッターを活かす事は残りのホグワーツ在校生が幾人殺害されようと清算出来る程の便益があるとお考えですか。
教え導く者として、その矜持に恥じぬ行いですか。教職者としての意志があるのですか。何が目的です。歳を重ねた貴方たちは、ハリー・ポッターという生き残った子供に、これ以上何を押し付けるつもりだ」
ヘルマンの憤怒は静謐で、凄絶な微笑みとなって表れた。
そう、加点などしなければ良かったのだ。本人さえも気づく事がなかった、ポッターの為に整えられた舞台であったとしても、それを讃える者達はいた。暴かれるまでは、ポッターは虚飾された栄光に浸っていられた。
だが、自らの為した事が単なる児戯であり、その時に覚えた恐怖も、生還の歓喜も全て造られたものであると識ってしまった。杯の得られぬ栄光どころか、全てが無為であった。自身が何の手出しもしなければ、クィレルは呪いによって死ぬだけの事であり、鏡の中に石は封じられたままのはずだった。
穴熊寮のテーブルから拍手が起きた。穴熊寮は本日3位となるはずであった。しかし、意味不明な理由によって獅子寮に加点され、最下位に転落した。穴熊寮が矜恃とする忍耐と誠実は素行に現れる。こうした事で加点されるということは好ましくないのだろう。
「ミスター・ポッター。何も気に病むことはありません。全ては予定された事だったのですよ。貴方は、悪くない。貴方は貴方の瞳で信ずべき者を見定め、そしてそれらに踊らされただけです。貴方はハリー・ポッターであるというだけで、期待され、失望され、妬まれ、嘲られてきた。それを理解し、憐れに思わない同輩はいないと思いたい。別段、私は貴方を責めてもいない。ただ貴方は貴方に見合った脅威に立ち向かい、そしてそれを剋してみせた。それは見事だと讃えましょう。ですが、その為に、蛇寮の敬愛する先輩たちのみならず、この1年を通し勉学に励んだ学徒全てが犠牲となろうとしている。それを貴方が無邪気に喜んでいいとは思えない」
校長は鷹揚に手を掲げ、各寮のテーブルを睥睨して言った。
「見事な推論じゃの。して、証拠はどこに」
「証言ならあります。ですが、貴方がここまで残酷だとは、思わなかった。証言者の名を開陳しようと思っていました。ですが、それはあまりに無慈悲だ。ここまでの悪意なき冷徹な暴虐が為されるとは、思いたくもなかった。故にこれを言う事は、不正無き邪悪に堕することだ。
これを言えないと分かっているからこそ、その様な態度が出来るのでしょう。しかし、これだけの状況証拠があって、他の生徒にはわけのわからない獅子寮への加点が為され、まだ言い逃れする気ですか」
「言い逃れとは言うがの、わしは何一つとして、言い逃れするべきことなどない。そうじゃろう。わしはポッター君達が4階の廊下に挑んだ勇気について加点したのじゃから、何もおかしな事はあるまいて」
「つまり、勇気を持って校則違反をすれば加点されると。あそこを立入禁止としたのは校長ご自身だ」
「わしの記憶が正しければ、酷く痛い死に方をしたくない人は、今年いっぱいは4階の右側の廊下に入ってはならんと伝えたはずじゃ。つまり、何も無闇矢鱈に禁じたわけではない」
「成程。
校長。我等がどの様に申し立てをしようと、貴方がマリアの行いに加点する事はないでしょう。ならば、非常に残念ながら、マグゴナガル副校長に責任を取ってもらう他ありません。
さて諸君。もうしばらくご静聴頂きたい。
獅子寮の卒業生である、アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア校長は驚くべき理由によって、何故か獅子寮にのみ加点された。ですが、その寮監であるミネルバ・マクゴナガル副校長は、非常に厳格だが、ある特定の遊戯を除いて、それも、ある特定の生徒をその遊戯の選手とするくらいには偏りのあるものの、概ね公平な人格者である事は周知の事実でしょう。
思い出して頂きたい。或る朝、獅子寮から150点が、蛇寮から20点が減じられた事を。その理由は、公表されていないが諸君の知る通り、夜間に外出をした事です。そして、つい先程、ミスター・ロングボトムが加点された理由は、さらに減点対象となる行いをしようとした、獅子寮の3名を引き留めるためです。校長は立ち向かった勇気に加点したと仰せですが、彼が対峙した理由については、獅子寮の者から聞き及んでおります。
お分り頂けたでしょうか。未だ清算すべき事柄は残っているのです。ミスター・ロングボトムが加点されましたが、その対となる減点が為されていないのです。
さぁ、マクゴナガル副校長。夜間外出の罰としてスリザリンに20点の減点を。グリフィンドールに150点の減点を。
無論、マリアを除けば、私達とミス・グリーングラスはスネイプ寮監に夜間にパーティーを行う許可を取っており、その上で夜間外出についてもフィルチ管理人から許可を得て、それを貴女が追認していますので何の咎もありません」
獅子寮生達はヘルマンに怒号を飛ばす事もなく、ただ縋る様に副校長を見ていた。彼ら自身、ウィーズリーの喧伝した冒険の事は知っているだろうが、その加点の経緯、加点の基準にはヘルマンの言に納得してしまっているのだろう。
「マクゴナガル副校長。どうしたのです。貴女の心と、口と、行いと、生活から、ミスター・ポッター達を減点しないという事は赦されざる事でしょう。さぁ、為すべきを為してください。
マリアが力を持つ者として当然を行った様に、貴女もそれを当然の事として為さなければならない。結果として石を護ったから免罪されるという事はないでしょう。結果だけ見るのであれば、マリアが加点されないという事はあり得ません。
校長は石を護った事に加点されていません。勇気を見せたという過程に対し加点されている。つまり、その過程に対しても責任が及ぶと仰せです。そこに内包される意思こそが、重要であると。この思考は一貫しています。ミスター・ロングボトムは、脱出しようとする寮生達を止められなかった。ですが、止めようとした意思を、自らの弱さを自覚しながらも獅子寮の為になろうとする意志を持っている事が加点対象となったのです。
一方で、その寮生達は制止を受けてまで脱走したのです。減点される事を理解した上で行ったことであり、つまりは減点されるという意思があるという事です。ところがそれを校長は何故かご指摘なさらない。ならば、その機構の予備装置に働きかける他ありません。私はマクゴナガル副校長の心に対して問いかけています。貴女だけを糾弾している様になって見えるでしょうが、指摘したいのは、評価制度が適切かつ公正に運用されていないという責任についてです。その能力によるものか、自身の極々個人的な事由からなのかは図りかねますが、その責任者がその職権をほしいままにしているという状況です。その責任ある立場の一端に在りてこれを見過ごすという事について、普段の副校長であればどの様にお考えになるか。その様に副校長の心に問いかけています。
もし、これを見過ごすというのであれば、今まで副校長に減点された生徒達に対する釈明を今から考えるべきでしょう。また、ホグワーツでは旧い文化は廃れ、新しい文化が根付くことになるでしょう。
則ち、『バレなければ犯罪ではない』から、『バレても犯罪ではない』です。加点は望まれた者にしか与えられず、減点は為されないというのであれば、あらゆる制約のない、完全な自然です。
それは、校長の仰る純粋な意思に拠るもので満たされる、罪を知らぬ者の楽園でしょう。自分より容姿の良い者の顔面を裂き、自分より成績の良い者の頭蓋を砕けば、自らにとって素晴らしい未来が拓かれる。罰せられる事はありません。それは、自らを高めるという意思の下に行われる、倫理観や遵法意識といった雑念なき手段なのですから。
そう、酒に酔って理性を失い、石の護りを暴露したとしても、そこには意思が無く、酒を飲みたいから飲んだまでのこと。竜が欲しいから卵を温める事も何ら問題はない。それが法に反する事であるから隠蔽しようとする事も、友人を助けるという意思に合致しますから何の咎となりましょう。
罪の意識がないのであれば、そこには罰もない。では、誰が罰を与えるのでしょうか。それは、神なる者だけです。全知全能にして至上、その暴虐に疑問を抱く事すら許されず、不信心者には死後の安息は得られない。
そして、ホグワーツの神は、自らを崇める者を罰さなかった。つまり、彼の者には何ら罪は無く、意思ではなく義務によって武器を振るったマリアよりも貴い存在であると言う事です。神がそう裁定するならば、仔羊達はそれに従うまで。物事の理非は神の御心のままに。心貧しき者のためにこそ神の国は在る。主の御名を讃えよ。其はダンブルドアなり。
結果、過程、いずれでもなく意志をこそ重んじる神は何を祝福するのか。それは、神を信じ、神の意のままに動く者。そして、神の見定めた者です。
カインが捧げた供物。それは捧げるという意志のみならず、見返りを求めるからこそ神の御心に適わなかった。そして、神に偽りを告げ、罪を覆い隠した事こそがカインの罪。ならばこそ、マリアの神からの見返りを求めない献身は加点が無くとも誉むべきでしょう。マリアにとって、友人のささやかな安息こそが此度に求めた夜明けなのです。故にその過程で振るわれた力は些事に過ぎないとし、それがなんら価値を持たないというのは、神の視座からすれば確かに道理でもありましょう。教育者としては自殺的主張であると思いますが。
さて、震えるばかりでは仕方がありません。分かりました。ミスター・ポッター達の栄誉を夜間外出への減点で穢す事が憚られるならば、もう1つの加点対象を挙げましょう。
ミス・グリーングラスの事です」
「はい? 私?」
長く、ヘルマンの弁舌に聞き入っていた聴衆たち。広間中の視線が、小首を傾げるダフネに注がれた。
「『敵に立ち向かうことだけではなく、味方に立ち向かうことも大いなる意志が必要となる』ならば、彼女にも同じ様に、加点が必要なはずだ。
ミス・グリーングラス。貴女には得点を求める権利がある。マリアが得られなかったそれを、求める権利がある」
「私……私は……」
ダフネはしばらく俯いた後に、決然とした表情で声を上げた。
2022/09/19
今更ながら算数間違えてたのでめちゃくそ恥ずかしいですが修正
THE SEKKYOU
別に校長はマリアちゃんにわからせ的な目的は無いです。校長は本気で心の底から微塵もマリアちゃんに加点する点がないと思っています。
携帯に残っていたメモだと「ではこれからチェス大会を開きましょう。スネイプ教授のクイズ大会も。当然正解者には先般と同じ加点が為されるのですよね。年度内であるから、まだハッフルパフの皆さんにも優勝の機会はあります。それが公平というものでしょう」というのもあったんですが、原作で校長が何故ネビル君に加点したか、わざわざ彼に加点するくらいなら、そもそもロン・ハーを60点、ハリー70点とかにすればいいじゃないか、何故敢えて加点対象を増やしたのかって事を考え直した時に没にしました。
結果など伴わなくとも、その意志を持つことが重要であると。
悪魔の罠云々は多分ほんとにネビル君も勇者パーティー加入を検討してたと思うんです。予言もあるし、ネビル君に目をかけててもおかしくはないですから。結局彼は夜間外出の大量減点はされてますが、1年次終了までただの一度も加点されてませんから、成功体験を何かしら作っておかなければならなかったというのもあるでしょう。とはいえ、やはり意志(愛も包含する意味で)こそが、ハリー・ポッターという作品のテーマでしょうから、それをただのSEKKYOU装置として扱うよりは、より酷い形であっても浮き彫りにした方がいいかと思いました。
なので、別段ハーマイオニーが困るからというだけの理由で、実力よりも全く下の課題に対応してもそりゃあ校長からすれば「ほーん」って感じでしょう。トロール殺しについては、原作にしても拙作にしても、クィレルが護りの関係者になるためにゴリ押したっていうものだと思います。クィレルが獣への変態とかは計画外だったでしょうが、そもそもマリアちゃんが天に立つムーブで煽りまくったせいですからね。まあ闇祓いであれば有力な情報が得られたとも思えませんが。その程度にはお辞儀も策を練っているでしょう。
獣狩りについては、校長からすれば(狩人の)義務感によって作られる意思と、(個人の)意志によって作られる意思ではそもそもが評価ポイントが異なる。なので、校長からすればジェラルド君に対して「何言ってんだこいつ」だと思っています。
原作でもそもそも「校長は分からない人間の事が分からない人間」ですよね。多分ファッジ名誉死喰い人がガチで政権乗っ取られるっていう恐怖を抱いていることも情報として理解はするが実感はないし、「そもそもお前最初からわしの傀儡政権じゃろう」という発想なのではないかと。ゴシップ対策も下の下ですし、「まぁ……おぬしらじゃわからんかの、この領域の話は」という、ナチュラル見下しムーブ多いですよね。