ホグワーツと月花の狩人   作:榧澤卯月

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時計

今もなお狩人が初めて手にする狩装束「異邦」に添えられる懐中時計
意匠は狩人自身が選び、工房から支給され、そのどれもが技術の粋を集めたものとなる
これを持たせることは、時を忘れて狩りに酔う事の無い様にと王が定めたものだが
夜明けまでに費やした時間を競い合い、そして叱られるまでが幼い狩人達の常である



1992年
時計


 ドロテアに連れ出されて工房の試験場に向かった。

 現代の多くのヤーナム民にとって忌まわしき土地、それは漁村ではなくヤハグルである。住民は拉致され、血肉をトゥメルの神、その再誕の贄とされた。僅かながら正気を保っていた住民達が夜明けと共に目にしたものは、反吐と腐臭に塗れた人とも獣ともつかぬ何かの死骸である。

 隠し街の壁に施された彫刻は脅威から逃げる民衆を象る。嘆き、叫び、ある者は別の者を踏み越え、ある者は子を護る様に抱え、そのどれもが生の感情を克明に表している。

 その一方で、民衆という群体ですらなく、一つの生物が如く混じり合った悍ましいものもある。救いを求めて手を伸ばしている様にも、或いは救うために手を差し伸べている様にも見えるそれは何を意味するのか。

 悪夢で見えた人頭蜘蛛、鴉と犬の掛け合わせは身体と頭部の繋ぎ替え、そしてメンシスの檻は脳の保護と交信を表す。即ち、隠し街ヤハグルの開闢は、神との一体化を目的とするメンシス学派の狂気と共に在った。

 メンシス学派に服従している様に思われるトゥメル人達は、おそらく従っている様に振る舞いながらも、神を降誕させ、それによって開かれた孔、赤い月を通して夢に渡り、女王を奪還するつもりであったのだろう。赤い月とは悪夢から現実への産道だったのではないか、とするのが現代の狩人の仮説の内の一つである。

 その様な経緯故にヤハグルは徹底的に破壊され、現在は実験場や訓練場として扱われている。歴史を忘れる為ではなく、忌まわしい歴史が故にそれを改める為に破壊された、そう信じたいところである。

 そしてその一画に、ドロテアによって連れ出されたのだった。

 

「で?」

「自由研究の成果のお披露目ってとこ。来年はルーン学取るから、その予習も兼ねてさー」

「そうか、三年生になると選択科目があるんだったな。して、その予習が、これか?」

「そ。工房のみんなに作ってもらったの。マリアが王様に「ドロテアはよくやってくれました」なんて言ってくれたから、王様からお小遣い貰えてさー」

「何も起きなかったとはいえ、迅速に行動していたんだ。あの状況に対して呆けていた私からすれば、よくやった以外に言葉は無いさ」

 

 終わってみればあっけない獣狩りの夜。賢者の石の恩恵を受けていたにしては、クィレルという殉教者の獣はさして強くなかった。それでも、闘争の熱とハーマイオニーの無事に高揚していた。そして緩み切った理性のまま、同胞達に後始末を全て任せてしまっていた。

 

「それに、そもそもボーン家の姫様なんて扱われているが、敬われるべきはお父様だけで私はその娘というだけだ。そのお父様も「成り行きでそうなった、どうしてこうなった」と、ここ数日は毎日の様に頭を抱えてぼやいているんだが」

「そりゃー、医療教会は崩壊してたし、関係者は恨まれてるし、頼れるのは無所属の狩人だけ。その狩人の中で狩人狩りのアイリーンにも信用されてる最強の狩人ってなったらそうなるでしょ。誰もそんな立場を引き継げるなんて思わないし?」

「娘としてはじっくり休んで頂きたいものだが」

「その娘が学校で騒動に巻き込まれたことも忙しい理由の一つだと思うけど。ま、とにかくこれを見てどう思う?」

 

 ドロテアが指し示すのは、ルーンが刻まれた架脚と、コイルの巻かれた筒。コイルは架脚にハンダ付けされているが、電子機器に有るはずの回路基盤がない。代わりに、筒にはびっしりと見慣れぬ記号が刻まれていた。

 

「どうもこうも……なんだこれは」

「コイルガン」

「……コイルガン?」

「そー。磁力を使って、磁性体を撃ち出す装置。とりあえず見てなって。

おじさーん! いっくよー!」

 

 工房の職人が遠くから手を挙げて応えた。壕の中に退避したのを確認してから、ドロテアは装置に触れ、魔力を流した。瞬間、何とも気の抜けた音が鳴った。

 

「いいねー、だいせーこー」

「もう終わったのか?」

「そだよー。

 ……あちゃあ、的には当たんなかったみたい。まぁ目的は達成出来たからいいでしょ」

 

 職人は的中せずとの表示を掲げていた。

 

「で? 当初の目的とは?」

「うん、ホグワーツ城って電子部品が動作しないでしょ? だからね、ルーンやカレル文字でそれを代用して、魔力を電力に変換したらどうなるかっていう実験。ホグワーツの機構は分からないけど、もらったお小遣いで実験場に同じ様な状況を作ってもらったの。この状況下でもちゃんと動作したから実験成功だよ」

「おめでとう、でいいのか?」

「うん。電子回路に魔術で保護をかけるっていう先行研究はあったし、現に実用化されてるけど、魔術的な記号で回路を作って、電子回路に見立てて動作させるってのは実証されてなかったはず。保護をかけ続けるよりも、そもそも保護する必要がないっていう堅牢性が利点かなー」

「詳しくはないが、実用化の目途が立ちそうな試みとしては初、ということか」

「初といっても、そんなあたしが凄い事したわけじゃないんだなー。大して必要が無かったからだね。ほぼほぼホグワーツに特化した技術なんて開発も研究もする意味無かったし。あそこでENIAC動かしたい人なんていないでしょ?」

 

 ドロテアは謙遜するでもなく、自分の業績を腐してみせた。普段は「えへへーすごいでしょー褒め称えたっていいんだよー」と些細な事で絡んでくる一方で、こうした分野では真剣である。

 

「だが、必要になったから考えたのだろう? 本当に無為であれば無聊の慰めにもならないだろう」

「まーね。工房も実験が成功したら回転ノコギリの改良が進むだろうって喜んでたよ。マリアの回転ノコギリは特注品でしょ。この前に壊したやつ、分解修理は魔術保護を一からかけ直しだってエーレンベルクのおじさんが嘆いてたよ」

「道理で時間がかかると連絡があったわけだ。ただ、費用と手間がかかるにしても、別段困るわけでもない。何故これを創ろうと思ったんだ?」

「コイルガンに成ったのはあたしと工房の趣味。

 仮にね、ホグワーツの防御を攻撃に用いるとしたらどう? 電子機器が使えない空間を任意に作れるとしたら? 通信は出来ない、発電機も動かない。非魔法族にとっては致命的だよねー。城の建造から仕込まれた魔術だろうからそう簡単には出来ないだろうけど、1000年も前のふっるい技術ならそれより強力で便利な術はその内できるでしょ。

 それにさー、別に電子機器の無効化は魔術だけが可能なわけじゃない。仮にねー、クィレルに憑いてたのが本当のヴォルデモート卿だとして、非魔法族界を壊滅させようとしたらどうすると思う? まずは米ソどちらかの大統領を服従させて、先制核攻撃するね。で、高高度核爆発でEMP攻撃して、電力供給と通信の遮断。それから連携の取れなくなった基地を一つ一つ潰していくかな。

だから、科学技術と同じ機構を持つ魔術的な機構ってのを作らなきゃならないなって」

 

 自分を含め、狩人達は先日公開された映画に大興奮だった。工房の職人たちも鑑賞したのか、それぞれが劇中に登場した銃器を推していた。ドロテアの語った内容はスカイネットによる審判の日と酷似したものだったが、恐ろしいのはスカイネットを魔術師に置き換えれば、それが現実として可能であろうという点だった。

 もちろん、米国にしてもソ連にしても、対魔術師部隊はあるのだろうし、魔法界自体にも警察機構がある。しかし、ヴォルデモートという稀代の犯罪者を生み出した英国魔法界、その政府たる魔法省と英国内閣とに密接な関係が感じられないというのは不安要素だ。

 

「そーゆーわけでさ、対ヴォルデモート卿についてみんな色々考え始めると思うよ。魔法大戦の頃だって技術革新が大分進んだし。こないだビルゲンワースの資料編纂室でバイトしてきたけど、グリンデルバルドの頃まで遡って資料を引っ張り出してたよ。第二次大戦が起きなきゃいいけど」

 

 夢の中に在るビルゲンワースと違い、現在のビルゲンワースは図書館兼学校兼研究所として復興した。教育を担っていた教会は大半が損壊しており、逆に現実の教室棟は多少の埃と黴に目を瞑れば綺麗なままであったという理由らしい。もっとも、夥しい眼球や臓器のホルマリン漬けが鎮座していたため、生き残った狩人達はまずそれらを処理しなければならなかったという。

 恐ろしい獣の居た風車も近代化改修が施された風力発電所となり、谷川を利用した小規模水力発電、沼から湧きだす石油による火力発電と、現在の森は電源地帯となっている。これだけ魔法界らしからぬ街がどこにあろうか。

 

「ああ、それで我が家の書斎が凄まじいことになってたのか」

「今度肩でも揉んであげたら? 学校と魔法省から色々面倒持ち込まれてそうだし」

「校長の策略が原因とはいえ、お父様や街の手を煩わせたのは私が関わりを持ってしまったから、か」

「結果的に獣狩りになったけど、そもそもは狩人が関わるべき話でもなかったからね。けど、マリアが友達の事で本気になったから、みんなも応援してるんでしょ。本当にマリアがやらかしたって話なら、自分で始末を付けろって王様もビルゲンワースの長老達も言うよ。そういう気持ちを考えないで、ただ自分のせいだって言うのはお姉さん感心しないよー?」

「……ありがとう」

「そーそー、そういう凹む時は凹むし、喜ぶときは喜ぶ素直さもマリアの良いところだよ。間違ってもヘルマンみたいにはならないでねー?」

 

 ドロテアと共に聖堂街に戻ると、お母様は菜園で木苺を摘んでいた。ドロテアはお母様から籠いっぱいのそれを受け取り、自宅へ帰っていった。収穫を手伝おうとすれば、お父様が書斎で待っていると言う。

 書斎には紙とインク、そして甘い葉巻の匂いが充満していた。ドロテアの考えている通り、お父様の忙しさは日に日に増していた。

 

「ジェラルド君やヘルマン君から聞いたよ。クィレルという教師が獣へ変態した。それについて、目の前に居た者から直接聞きたくてね。よっぽど強い力と想いがあったか、それとも何か特別な儀式を経たのかな」

 

 事件直後にあれこれと訊かれなかったのは既に報告があったからかと得心する。あるいは、狩人ではなく父と娘としての時間を優先していたのかもしれないが。

 

「んん……元々クィレルには巨大な獣に変態する様な才は無かったと思います。彼の変態の理由は力の渇望でしたが、であれば、逆説的にその様な力は持っていなかったという事になりましょう。

確かに賢者の石から成る生命の霊薬を与えはしましたが、それによって超常の力を手に入れられるのであれば、そもそも学祖ウィレームたちは上位者狩りなどしていないでしょう」

「ふぅん……続けて」

「となれば、やはりホグワーツには秘匿された何かがあると考えることが道理でしょうか。お父様の在学中は何かありましたか」

「秘匿かぁ……随分前に森に蜘蛛が居るってアウレリアから聞いたことはあるけど、別にただの大きいだけの蜘蛛だって話だったし」

「アウレリアお姉様はこう……物事の基準が……」

 

 同じ両親を持つ20程離れた姉、アウレリアお姉様。金を意味する名の通り、お母様譲りの美しい金髪を戦がせながら、斧槍を振るう狩人。「最上の戦士とは戦闘をし続けられる者である」との信念から、何より強靭である事に重きを置く狩人である。

 

「アウレリアはなぁ……ほんと嫁に行くときに心配したよ。行かせていいのか? って。初期型のガラシャの拳で聖杯制覇とか本気でやったのあの子が初めてだよ」

「何がお姉様をそうさせたのか……」

「俺にも分からないよ。とにかく、俺はホグワーツの事は何も分からないよ。訪問したことさえないし」

「ダームストラングで魔術を修めたのですか?」

「あれ? 言ってなかったっけ。俺無能者だったからどの学校にも通ってないよ。学歴一切なし」

 

 無能者。魔法族に生まれながら、魔術を使うことが出来ない人間。

 12年生きて来た中で、最大に近い衝撃である。お父様が無能者であったという事も、それを伝えられていなかったという事も。

 ヤーナムの民に無能者は居ないため詳しく調べたことはないが、そもそも無能者が後天的に魔術を使える様になるものだろうか。

 

「うーん、そっかぁ。ごめんね、あんまり思い出したくない事だったから伝えてなかったか。ホグワーツで訊かれたと思うけど、ヴォルデモートに滅ぼされたボーン家って聞いたことあるだろう? そこの数代前の当主から生まれた無能者が俺。話は長くなるし、そこ座って」

 

 お父様は椅子にまで散らばっている資料を、杖の一振りでまとめ、空間を作った。つい先程の自分は無能者であったという言葉が性質の悪い冗談にしか思えない程、魔力の揺らぎもない美しい精度だった。

 

「11歳の9月。いつまで経っても魔力の兆候は無くて、何時まで経ってもホグワーツの入学許可証が届かなくて、俺は夜に月を眺めて、梟を待ってた。梟は夜行性だから夜に来るのかも知れない、そう願って、庭でずっと月を眺めてたんだ。そうして、気付いたら朝になっていた。それ以来、夜明けってね、辛い時間だったよ」

 

 父の悲痛な過去を聞かされるとは思ってもおらず、相槌すら打つことが出来なかった。ただ黙して顔を伏せていると、お父様が続けた。

 

「家に入るのは嫌だったけどさ、庭に居たって仕方ない。昨日と変わりない今日、魔術師として生まれたのに魔術が使えない人間として生きていく、そういう絶望がちょっと増しただけ。そう強がって扉を開けたら、母さんは目を腫らしながら俺を待っててさ、抱きしめてくれたよ。

 でもそれは長く続かなかった。そもそも、名家で世継ぎが無能者一人きりだなんて状態が10年続いたのがおかしかったのさ。1年して、弟が生まれた。200年近く離れてるけど、マリアの叔父さんだ。父さん……君のお祖父さんに似た、淡い碧の目をしたかわいい子だったよ。12も歳の離れた子だからね、俺もあやしたり、おしめも替えたさ。

 屋敷妖精は居たし、俺と一緒に世話をしてたけど、無能者に合わせるのは大変だったろうね。魔力がないとはいえ長子は俺。いずれ主が代わったらこんな無能者に仕えなければならないって、口には出さなかったけれども絶望してたんだろうね。思うところはないでもないけど、屋敷妖精は名家に仕える事を誉れとする、そういう生き物だ。力の有る存在に仕え、その力の一つとなる事を喜びとする……それを変えろというのは生物としての在り方を変えろというものさ。

 弟はね、名家から生まれるべくして生まれた神童だったよ。1歳になる前には部屋中の物を浮かべて遊んだり、おしめが濡れたら周りを水浸しにしたり。それを見た父さんは柔らかな笑顔を見せる様になったし、母さんは狂喜したよ。それから、俺は家に居場所がなくなった。

 多分、純血の名家から生まれた無能者の存在は、妻の不貞を疑うには十分すぎるものだったんだろうね。父さんは母さんを信じきることが出来なかったし、母さんは魔法使いを産むことで赦しを乞うたんだろう。今となっては、俺が実際に不貞の子なのかどうかは分からないけれど。

 弟が話せる様になったら、母さんが付きっ切りで魔術の指導をする様になった。父さんも離れに連れて行って、色々と教えてたみたいだね。今にして思えば、離れに連れて行ったのはきっと俺を憐れんで、俺が弟と自分を比べて絶望する事が無い様にしていたんだろうけど、当時の俺からしてみれば疎外感が増すばかりだったよ」

 

 異母姉妹ではあれ、イングリットお姉様は憧れとするあのマリアに似る。故にお姉様との力の隔絶には悔しさどころか苛立ちまで覚える事もあった。だが、だからといってお姉様から遠ざけられれば、きっと今の自分は無かっただろう。今ではカインハーストの血の業も、お姉様が得意とする狩人の業の一つとして受け止められる様になった。

 ヤーナムの長の子は、炎を扱える事を望まれているのではない。どれ程の敗北を重ねても、どの様な手段を用いても、最後には夜明けを齎すと信じられる者である。

 だが、お父様はどうだったのだろうか。魔法界の名家の子として望まれたものを持たず、得る術も無く、故に存在を曖昧にされた。幼き少年であったお父様の苦しみは、推し量る事さえ出来ない。

 

「俺には何も無かった。当時、魔法界の名家が長子を非魔法界の学校に通わせるなんてありえない話だったから、今更学校に通うわけもない。農村であれば未だしも、生家はファルマスの割と近くにあった。当時の英国非魔法界では学も職能もない子供なんて、死ぬまで酷使されるか窃盗で生計を立てるくらいしか出来なかったんだ。今じゃ魔法界の子の方が酷い教育水準だけどね。

 幸い、生家は裕福で、俺は本を読んだりヴァイオリンを弾いたり、料理をしたり、父さんから会計を学んだり、今まで通りに過ごしていたよ。家庭教師はつかなかった。名家の長子が無能者だなんて、どんな噂が立つか分からないからね。

 後は体を鍛えたりだね。当時戦争はままあることだったから、軍人になる道も考えてね。ファルマスは港だから、戦争を思わせるものはいくらでもあった。母さんは「せめて、マグルの野蛮な球遊びは止めて頂戴」って懇願するから、軍人に成るのは思い留まったけど。

 弟が11歳になった。予定通りというか、弟には入学許可証が届いた。嫉妬が無かった訳じゃない。けれど、11年成長を見守ってきた、かわいい弟だ。嫉妬から憎悪するには時間が経ち過ぎた。その頃には俺もなんだかんだ薬草栽培と製剤で稼げる様になっていたんだ。もっとも、ボーンの名が有って売れていたんだろうけどね。

 ……あれはいい学問だよ。知識と研鑽を裏切らない、それでいてれっきとした魔術的学問だ。魔法への憧れを捨て切ってしまう程、俺は家族との関係を割り切る事は出来なかったし、割り切られたくもなかったんだろうね。

 とにかく、その稼ぎでささやかな入学祝いとして、幸運薬を渡したんだ」

「幸運薬……作れるのですか? 難度の高い物と聞いていますが」

「今はね。その時は既存の幸運薬を飲んでから作ったんだ。めちゃくちゃ高かったよ。改めて考えればそれを渡すのが合理的なんだろうけど、ほんの少しの幸運と努力で俺はどうにかやっていけることを示したかったんだろうな。それに、弟は11歳にして無能者の兄を心配出来る程、優しい心が育っていたんだ。俺は弟の優しさに応えたかった」

 

 幸福薬は服用者の能力を極限まで引き出す薬。それは奇跡を起こす薬ではなく、奇跡を起こせる様な全能感、つまり勘違いを齎す薬だ。それを飲むことで成功したのであれば、それはその成功を実現させるだけの能力が備わっていたことを表す。お父様は真に研鑽によって薬学の高みにたどり着いたのだ。

 

「そして、それを弟に渡した途端、母さんはそれを奪い取って床に捨てた」

「……えっ?」

「本気で恐れていたんだよ。俺が嫉妬に狂い、弟を毒殺するんじゃないかと」

「えっ」

「滅多に実家に帰ってこない忌み子が、自分より優れた弟の為にやってくるとしたら、やる事は間違いない。母さんはもう、自らの胎を痛めた子に心を鎖していたんだ。弟は青ざめた顔で、俺に謝っていたよ。自分が親の愛を奪い取ってしまったと。俺はそれ以来、弟に会っていない。彼が悪いわけでもないのに、彼は自分を責めるからね。

 むしろ、謝るべきは俺の方なんだよ。俺がもっと早く魔法使いとしての俺を諦めて、本当の次期当主を作る様にと言えていたら、父さんも母さんも俺をただの子供として扱っていただろうし、弟ももっと早く両親と逢えていたはずなんだ」

「……それは結果論としても正しくはないでしょう。親としての気持ちなど私には分かりませんが、それを言ったところでどの道お祖母様の心は壊れてしまうのではないでしょうか。もし私が狩人として不出来であるから義絶しろとお父様に訴えたとして、お父様はそれを善しとされるのでしょうか。

 私がどんな私で在っても、お父様や3人のお母様達が私を愛してくれると知っていますし、信じています。その愛を疑い、自分を諦めてより善い子を作れなどと、どの様な拷問を受けても言えるはずもありません。ましてや、ただの少年であった頃のお父様が何を言えたでしょうか」

 

 お父様は目を閉じ、噛みしめる様に幾度か首を振った。そこに在る感情は、喜びの様でも哀しみの様でもあり、納得した様でも諦念した様でもあった。

 

「父さんは床に散らばった液体が本当に幸運薬であると分かっていたよ。無能者であっても俺が生きていけるように、父さんは様々なきっかけをそれとなく用意していたんだ。音楽や芸術、それに会計学だって、魔術が使えなくとも身を助ける。料理だって、生きていくには必要だからね。父さんは俺の父親であることを疑っていた。けれど、俺を愛していないわけじゃなかったんだ。その父さんが、顔を歪めながら言った言葉は辛かったよ。「君は生まれるべきではなかった」と。

 俺を憎むでもなく、心の底から憐れんでいたんだ。その憐れみが、かえって辛かった」

「それは……」

 

 あんまりだ。

 愛していてなお、それを口に出してしまう程に、祖母の狂乱は凄絶なものだったのだろう。

 

「今になって思えばね、あれはボーン家に生まれるべきではなかったという事だと思う。元々家の中では口下手な人だったしね。

 普通の家に生まれた無能者であれば、誰も傷つける事無く、ただの人間として社会に溶け込むことが出来ただろう。あるいは、魔法界でも魔法を使わなくたって生きてはいける。どの様に生まれたかは、どの様に生きていくかを決定するものじゃない。なのに、ボーン家に生まれたから、ボーン家の長子として生きなくてはならなくなった。その運命を憐れんでいたんだと思うよ。もちろん、想像でしかないけれど。

 ただ、今なら父さんは弟と同じ様に、俺も愛していたと信じられる。家を出るときにこれを渡されたんだ」

 

 お父様は釦の孔に括りつけた鎖を引き、時計を取り出した。

 

「何の魔法もない、発条で動く、普通の懐中時計。純血の名家にあるまじき、非魔法の機構で動く、時を支配する叡智。それを俺に与えたんだ。弟にも入学祝いとして渡すつもりだったらしい」

 

 英国魔法界では、成人の祝賀として時計を贈る風習がある。だが、ヤーナムに於いては初めて狩りに赴く時、狩装束として与えられる。

 当然、お父様がお祖父様より時計を賜った時、お父様はとうに成人している。お父様は17歳の時、お祖父様から時計を贈られる事は無かったのだろう。お祖母様の話を伺う限り、お父様を魔術師として扱う事は禁忌となっていたのではないだろうか。

 

「つまり、魔術が使えるかどうかは関わりなく、兄弟は共に同じ時を生きていると?」

「多分ね。けど、俺はその時に何を得たのか分からなかった。その日の内に荷物をまとめて、東に向かった。薬学の探求のうちに知った、旧き医療の街とされる、ヤーナムを目指して。当時は別にヤーナムは秘匿されていなくて、とんでもなく排他的で外との交流がないってだけだったから、辿り着くのだけは楽だったよ。そして、輸血された。その時、無能者という病を克服して、狩人としての目覚めを迎えたんだよ。

 その後、幾度もの敗北で自分を失ったり、何故ヤーナムに来たのかも忘れたりしたね。自分宛ての手紙を残したり、アンナリーゼ陛下に協力してもらったり、様々な事があった。

 それで、マリアも知る通り、夥しい上位者の血を得ることで、魔法使いどころか上位者と呼ばれる存在になったってわけさ」

 

 ヤーナムに根付いて以来、お祖父様と顔を合わせることは無かったのだろう。父であり、最強にして最上の狩人とは思えないぼんやりしたヤーナムの実質的統治者、その表情がここまで悲愴と苦痛に歪むことは稀だった。

 それにしても、ヤーナムが当然の様に科学技術と魔術を融合させている理由が血の医療であったとは考えてもみなかった。科学技術を魔術師が取り込んだのではない、血の医療によって魔術が蔓延したという逆の経緯。

 

「つまり、血の医療とは血液感染する魔術師という病?」

「その辺りの詳しい話は未だマリアには早いかな。実感の伴わない言葉はただの呪縛だよ。ディルクも受け容れるのに時間がかかってたし、イングリットにも伝えてない。

 ま、そういうわけで、こうした経緯で妻を何人も娶り、君たちが生まれて来た。今は幸せだよ」

「そう仰せならば幸いですが」

 

 相好を崩すかと思えば、お父様の表情はまた厳しいものとなった。お父様が手ずから淹れてくださった茶だが、カップに口をつけるのは憚られた。

 

「俺の経験から言えばね、力への渇望というものは馬鹿にできない。それは英雄を産むこともあれば、咎人を産むこともある。ロンドンの私書箱にね、騒動の解決に立ち会ったということで、マリアに対する丁寧な感謝とヤーナムの子らに対する少しばかりの苦言が書かれた、ダンブルドア氏からの手紙が届いたよ。

 ……そう嫌な顔をするものじゃない。きっと、彼はヤーナムの民を闇に近しい者として恐れ、忌避している。だからといって、その全ての言葉がマリアを害するものじゃない。まぁ、ヘルマン君の行いは大いに反省するべきだとは思うけど、そのままだと7冠をひっくり返される事になるジェラルド君が可哀想だったから、やり方を考えなさいとだけ言っておいたよ。

 けれどね、ハリー・ポッターという少年の心を殺しかけた。それは事実だ」

 

 実際のところは校長の描いた戯曲を台無しにした、というところだが。1年をかけてハーマイオニーをはじめとする生徒らを贄とし、無知で無謀な少年を賢者であり勇者にする計画を暴露し、ポッター少年は単なる校長の傀儡であったことを全校生徒の前で示したのだ。彼自身がクィディッチの英傑であることは疑い様もなく事実であるが、クィディッチすらも英雄化計画に用いたとされ、校長への不満を口にする者は少なくなかった。

 とはいえ、その状況について彼自身に非があるとは言えない。ポッター自身は有名人であるが故に校長に引き立てられた可哀想な少年であるというのはヘルマンの言う通りである。それはそれとしても、彼の軽挙妄動によって振り回されたことには腹が立つし、実際に死の危険に晒されたハーマイオニーに臆面もなく接する無神経さには憎しみさえ覚える。

 それを理解してなお、ポッターは被害者の一人であるとし、ポッター自身はポッターに課せられた脅威に対峙したとするヘルマンの弁舌は見事なものだったが、お父様には何の不満があると言うのか。

 

「何の不満がある、そう言いたげだね。自分が努力してきたこと、それによって成功を掴んだと思ったこと、それをただの予定調和だとされたとき、それが事実であろうとなかろうと、12歳の少年にそれを受け止めきれると思うのかい。

 君たち狩人と違って、世の中の子供たちは自分に向けられる悪意や殺意に触れることはそうないよ。人の痛みを知るなんてことは本質的には不可能だけど、人を傷つけたことを当然と思う人間になってほしくはないよ」

「お言葉ですが、それは校長の咎です。ヤーナムの民とホグワーツの学徒たち、死体より生み出されたトゥメル人の神と番犬に護られた冥界から生還したポッター。無辜の民を贄とし神を再誕させる行いと全く同じではないですか」

「それはその通りだと思う部分はある。正直なところ、校長は俺の子供たちや一応はヤーナムの長として責任を持ってる子たちを巻き込んでおいて、どのツラ下げてこんな手紙書いてんだと思うよ。感謝はあっても謝罪は無かったし。まぁ謝罪したらポッター君の活躍が計画的な物だったと認めることになるから書けないんだろう。

 けれど、ヤーナムの子らにポッター君を辱める権利は無い。少なくとも、公衆の面前ではね。そして君たちがそうではないと思っているけれど、それを愉悦に感じたとするならば、邪悪だよ。人の不幸を悦び、それを望む。それがヤーナムの民の多くを獣に堕した。心を純真に、なんて言うつもりはないけれど、自らの心が今、善悪のいずれであるかを省みるようにね」

 

 賢愚は別にして、善く在れ。今更振り返るまでもない処刑隊の言葉。ジェラルドがダフネに伝えた、黄金の意志。それに適う狩人で在るだろうか。我が身を振り返り、顔を覆いたくなる場面は幾つもある。

 

「それにね、あの映画のダイソン一家を見てどう思った? 襲撃者から我が子を護ろうとする両親は、ポッター君の境遇と似ているとは思わないかい」

 

 お父様も妻達を連れてロンドンに赴き、映画を見ていた。その晩、お母様が不自然であったのは、狩人として死した自身の父親を重ねていたのだろう。街を護る為か、未来を護る為かの違いはあれ、父を喪った事は同じなのだ。

 

「そう……ですね。ポッターの傍にターミネーターが居たのか、あるいは彼自身がヴォルデモートに対するそれだったのかは分かりませんが」

「それとね、映画館を出た時に思ったんだよ。あの状況なら、マイルズ・ダイソン氏は犯罪者に屈したか、悪ければ犯罪者の一味として亡くなったと考えられてしまう。なら、遺族はどうなるのかって。確かに人類の未来は救われたのかもしれない。けれど、大多数が救われたからって、残された者にとっては救いがない。

 マリア、君がポッター君を嫌う理由もディルクから聞いたけれど、彼に不幸な過去があって、今もなお不遇である事もまた、忘れてはならないよ。彼のご両親は英国を救ったけれど、彼は今まで誰からも救われなかったんだ。彼に寛容になれだとか、仲良くしろなんて言うつもりは全くないけれど、感情だけではなく、彼を見定めた上で接することだね。

 そしてマリア。君の口から聞きたい。この事件の顛末を」

 

 ポッターの状況については、ヘルマンの演説によって理解したつもりではある。理解してなお、嫌い続けているのは自分の性向故か、幼稚さ故か。

 どこから話したものか。スコーンを齧り、脳に糖分を送る。

 

「長くなりますが……まず、はじめはポッター。ポッターの入学準備に帯同した森番が、校長の命で何か……後に賢者の石と判明する何かを銀行から受け取るのを見た様です。入学して、校長は4階東廊下への立ち入りを禁じました。いえ、正確には痛ましい死を望まぬならば、とのことでしたが」

「なんだか時計塔のマリアみたいだね」

「事実、そうなのでしょう。秘密を甘やかにちらつかせれば、暴きたくなるのが人の性。校長はそれを狙っていたのでしょう。事故ではあるとのことでしたが、ポッターがそこに入ると、三頭を持つ犬が居たとのことです。後日私が見たところではケルベロスではなく、実験の果てに作られた醜悪で憐れな犬でしたが。

 そしてハロウィンには、校内にトロールが侵入するという事件がありました。無論、これはクィレルの工作で、奴はトロールについて特別な智慧があると。その騒動の間に禁じられた廊下を調べるつもりだったようですが、スネイプ教授が死守した様です」

「ああ、ディルクから詳しく聞いてるよ。それで友達が増えたんだろう?」

「はい。良き友です。

 それからしばらくして、森番が口を滑らせ、4階の廊下に賢者の石が封じられているとポッター達が気づきます。話が飛ぶ様ですが、程なくして、森番が竜を孵化させました。そして夜間にその竜の処理を試み、夜間外出が発覚し、ポッター達は森で一角獣の死骸を探すという罰を受けます。その罰の最中に、一角獣の死骸から血を啜る何者か……つまりクィレルに襲われた様です。

 試験後にポッター達が森番に聞いたところでは、森番はその竜の卵を正体不明の者から受け取ったとのことですが、引き換えに、三頭犬の弱点を暴露したとのこと。そして、その日に私も同行し、4階の禁じられた廊下に侵入することになりました。

 その最奥部には確かにクィレルが居て、鏡の呪具に封じられた賢者の石を取り出そうとしていました。結局、それはポッターにしか取り出せない様になっていて、クィレルの後頭部に憑依していたヴォルデモートらしき人物はそれを看破していました。それが言うには、魂の影とやらで、ゴーストとも遺跡の悪霊とも異なる様でした。

 ポッターが取り出した石をクィレルは奪おうとしましたが、ポッターは当然抵抗しました。

 ポッターの手はクィレルにとって何らかの呪的性質を持っていた様で、ポッターに触れられた所から焼け爛れ、そして瀕死になりました。憑依していた存在はどこかに逃亡し、ポッターは意識を喪失。

 私はクィレルに対し賢者の石から成る生命の水を投与した後、尋問……と言っても仮称ヴォルデモートがアルバニアに潜伏していたことと、それが上位者ではなく単なる異常者である事くらいしか聴取出来ていませんが、とにかく尋問後にクィレルは獣化したため、狩りました。

 おおよそこの様なものでしょうか」

 

 結局、校長が描いた戯曲なのであるから、主人公はポッターである。自身が関わらない部分は伝聞となるため情報量は少なくなるが、かといって自身が関わった部分だけでは意味不明である。

 お父様は何も語らず、葉巻に火を着け、静かに吸い込んだ。ゆっくりと口内で煙を転がした後、吐き出す。それを3回。

 

「おそらく、君の言葉が最後の藁となって、獣にしてしまった、それが全てではないにせよ、少なくともその一因となる絶望を与えたことは事実だ。それは受け止めなさい」

「……確かに浅慮でした。粛々と然るべき処置を施し、然るべき機関に引き渡すべきでした」

 

 無力に因って主君を裏切ることに絶望し、救済を求め、そして変態した。考えない様にはしていたが、その引き金を引いたのは誰の言葉であったか。

 賢者の石に望む事、それは死の間際に安らぎを与える事とハーマイオニーに語ったのではなかったか。自分がクィレルにしたことは、八つ当たりであった。

 

「そうだね。

 ……けれども、ポッター君にたとえ自衛という形でも、殺人を犯させなかった。それもまた事実だ。肉体に別人の魂を組み込み、一角獣の血に呪われ、おそらくは余命幾許もない欠片の様な生命だったろう。だから、ポッター君にかけられた何らかの術が致命的に作用したんだろうね。術者は……この状況を作り出したと思われるダンブルドア氏かな。その様に仮定したとして、加害者をポッター君とするべきなのか、ダンブルドア氏とするべきなのかはともかく、彼らが殺人を犯さなかったのは、君が蘇生をしたからだ。

 獣に成ったという過程を語るのであれば、そもそも氏は賢者の石など学校に持ち込むべきではなかったし、君にしてもポッター君達を止めて然るべき者に任せるべきだった。君がそう動いた理由についてもヘルマン君から聞いているけど、グレンジャーさんが脅迫されたと思っているだけで実際に脅迫されたわけじゃない。誰もが最善を目指して、誰もが間違えた。誰かが、じゃない。誰もが一つ一つの要素になっている。

 だからだろうね、手紙が届いたのは」

 

 お父様は皺だらけになっている羊皮紙を摘まみ上げ、手で包み、燃やした。おそらくは校長からの手紙だろう。

 

「苦言の内に、ヴォルデモート卿の情報が必要だったのになぜ殺したとか、獣に変態させてしまったとか、そういう事は書いていなかったよ。もっと寛容になれないのかとだけ」

「寛容ですか。それは、ポッターに対するものか、あるいはクィレルに対するものか。思い当たる事が多すぎて何とも言えませんね。ただ、申し上げるならば、校長に対しては決して寛容にはなれません。あれが脅迫ではないとしても、子供の心を惑わし、自らの思うままに誘う事は――」

「そうやって子供である事を反感の理由にしてはならないよ。子供で在ろうと、大人であろうと、それ一つはそれ一つの生命であり精神だからね。怒りを覚えるなら、人の意思を弄ぶことに怒りなさい。子供とは小さな大人ではないし、大人とは大きくなった子供でもない。どちらも変わらない、人だよ」

 

 本質を違えることは周りも自らも傷付ける。ハロウィンの事件でヘルマンに諭されたことだった。葬送の刃、慈悲の刃。最初期の狩道具に伝わる、狩りの元来の目的は葬送である。これを忘れた者は新たな惨劇を生む。

 

「はい。心します。ですが、やはり教育者ぶった人間がその教え子を弄ぶ様は不愉快と言いますか、怖いと言いますか……何とも冒涜的であると」

「そうだね。ヤーナムは復興してから150年間、幾人も子供をホグワーツに送ったし、そのいずれもが優秀な生徒として卒業してきた。彼らから聞くダンブルドア氏を考えると、世で言われる博愛や高潔な精神を持つ人物とは違う者なんだよ。

 彼は強大だからこそ自己完結していて、他者を諦めている。俺は寛容という言葉を、自分とは相容れず、自分には理解し得ず、自分にとって利益も興味も無いものに対して、価値を見出そうとする意思だと思っている。彼の考える寛容とはどういうものなのかは分からないけれど、彼の在り方は俺にとっての寛容とは言えないんじゃないかな。マリアや世間一般にとってどうだかは分からないけれど。

 まぁ、校長がどうあれ、俺が子供達をホグワーツに送る意味を考えて、学生生活を過ごしてほしい。単に勉学だけなら、ビルゲンワースで学んだ方がよっぽど高度で実用的で経済的だしね。実際、大体のヤーナムの子はホグワーツからの入学許可証を無視してビルゲンワースで学んでるわけだし。

 とにかく、俺はマリアが無事で居てくれて嬉しいし、君が狩りに酔っていない様で安心したよ。狩人は周りのヒトから恐れられる。ちゃんと狩人を分かってくれる友人も居て、その友人の為に武器を振るった。その結果もちゃんと受け止めた様で結構。後の事は親として、ヤーナムの一応の長として、俺の仕事だ。

 こちらの立場を端的に言えば、学内にテロリストが居て、それが獣化した。ちょうどそこに居たマリアが、狩人の義務を果たしたってだけだからね。これを魔法省や学校にあれこれと言われるのは非常に腹が立つ。けれど、こればかりは武器を振るえばどうこうとなる話でもないからね。

 だからマリアはみんなと来期の準備をしていなさい。特に変身術が苦手って事はみんなからよく聞いてるよ」

「お父様までそれを仰せですか……」

 

 お父様にしても、ポッターにしても、勉学の出来を親に叱られることもなかったのだろう。

 葉巻の匂いの着いた指で、頭を撫でられた。お父様の事を知って、その匂いがより愛おしく感じた。

 

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