ホグワーツと月花の狩人   作:榧澤卯月

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木材と魔法生物の特定の部位を用いて作られる魔術道具
メンシス学派や聖歌隊と同じく、その本質は不可視存在との交信である





 ホグワーツは城であり、城とは外敵からの防衛施設である。内部を知らない者は身内ではなく、排除されるべき外敵となる。その防衛設備は学徒をも容赦なく迎撃対象とした。

 仕掛けの封印を解かなければ開かない扉。

 上っている内に下の段から消失していく階段。

 曜日によって接続先の異なる階段。しかも、この階段の接続先は禁忌の東側4階廊下である。不出来な新入生に対する殺意は本物の様だった。

 スリザリンでは、こういった脅威を新入生に教える為、授業に空きがある上級生が新入生の教室まで引率をしてくれるのだった。

 

「迷ったとき、基本的にゴーストは信じるな。あいつらは壁や床という概念を忘れている。親切心で教えているつもりらしいが、教えてもらえるのは直線的な経路だけだ」

「それと、他寮出身のゴーストはスリザリンに対する親切心なんて持ってないからね。いい? ホグワーツは3寮とスリザリンで構成されているの」

「そういう風潮の中、我々は6年連続で寮杯を獲得している。それは何故か」

 

「「「我らは家族だからだ」」」

 

 スリザリンの寮生は排他的であるが故に、身内は非常に強固な関係にある。元々、純血の家系の多くが集っていることもあり、実際としても血縁関係のある生徒が多い。パーキンソンが言うところでは、ボーン家はヴォルデモートに滅ぼされた家系であり、その傍系にあたるのだろうということだった。

 いくつかの世代を遡れば、確かにその滅ぼされたボーン家とヤーナムのボーン家は共通の祖先をもった。自分でも一切気にしたことはなかったが、広義の純血と言えば純血なのだろう。ただ、本家のボーンは聖血の一族に数えられていない為、おそらく遥か上の世代は魔法使いではないのだろう。

 これを知ったパーキンソンと彼女の同室のブルストロードと共に、一緒に行動することが多くなった。態度には出さなかったが、血によって付き合う相手を変えるのかと呆れた。ダフネが面倒に感じていたのはこういうところなのだろう。

 3人ともイングリットお姉様を「お姉様」と呼び、懐いているのは、姉を取られた様で少々面白くない。それを見てか、ディルクお兄様が構ってくるが、それに対してお姉様が苛立っているあたり、いい加減に妹離れをしてはどうかと思う。あるいは、お姉様もお兄様に構ってもらいたいのだろうか。

 

 

 多くの授業は他寮と合同授業となった。学年全体で授業を受けることもあるが、大抵は2寮で行われる。スリザリンはグリフィンドールとの合同となることが多い。スリザリンはマルフォイが妙に赤毛の生徒とポッターに絡む他は我関せずといった様子で、グリフィンドールは何かとこちらを目の敵にしていた。そういう具合であるから、獅子寮との授業が印象深く思われたのかと考えたが、数えてみればやはり多かった。ディルクお兄様に理由を問うた。

 

「確かかは分からないが、反目しあう寮を当てることで、お互いに切磋琢磨するだろうという教授陣の意向らしい」

「反目? 我らとグリフィンドールは分かりますが、ハッフルパフとレイブンクローもですか」

 

 お兄様は魚人に祭祀者の骨の刃を突き立てた後、魚人同士が傷付け合うのをのんびりと眺めていた。ホグワーツでの生活に不安を感じ、毎晩ヤーナムに戻っては、ヤーナムの聖杯に潜り、修行を積む事にしている。偉大なる聖杯文字、9kv8xiyiの聖杯では、夢遊病が如く意識が曖昧なまま歩き回ることが出来る為、修行にはならない。

 トゥメル、ローラン、イズの汎聖杯と呼ばれる、真なる聖杯を模した仮想世界。聖杯文字とは、その汎聖杯の有り様を規定する、いわば呪文である。

 

「ハッフルパフは学校生活によって勉学よりも友誼を学ぶべきという風潮がある。レイブンクローはその真逆。レイブンクローは寮としての連帯感は最も薄いが、ハッフルパフ生を馬鹿と蔑むことについては全会一致している」

 

 魔法族の教育機会はたった7年しかない。我ら時間と切り離された身と異なり、限られた学校生活を勉学に充てようとすることは、学生にとっては当然と言えよう。尤も、あれが学校であればという前提が付くが。

 しかし、友誼を結ぶこともまた、無価値ではない。特に、我らにとって友というものは、仲良しこよしの関係を指すものではない。どちらかがしくじれば、共に死ぬ。究極の合理的必然。協力しなければ、死ぬのだ。

 

「レイブンクロー生の人間性は昏い。おそらく、過去のヤーナムよりも。談笑のさなか、席を立った者がいれば、たちまちにその者の陰口を叩く。試験勉強では嘘を教え合い、ペンやインクは盗まれる。卵が先か、鶏が先かということになるだろうが、そういった風潮から、狭量な自助自立の精神が育まれるということだ」

 

 ダフネよ、貴女にレイブンクローは似合わない。

 

「ハッフルパフはどうなのです」

「ハッフルパフはハッフルパフで、レイブンクローを根暗ガリ勉クソぼっちと思っているな。あるハッフルパフ生は言った。

 ツルむダチもいないから、教科書がおホモダチなんだよ。あそこはあそこがついてないカマ野郎と股に蜘蛛の巣張った奴しか行かない寮だ。

 ああ、分からなければいい。酷く下品な表現だからな。むしろ分からなくて兄は安心したぞ」

 

 その様子では、血縁で固まっているスリザリンはさしずめマザーファッカーだろうか。

 呪詛の言葉が挨拶である悪夢のヤーナムで長い時間を過ごしたのだから、分からないということはない。むしろハッフルパフ生の罵倒の言葉の程度の低さに呆れる。だが、お兄様が安心していられるのなら、純粋な妹を演じよう。

 どうにも男子という者は、女子の発達について誤解がある様だ。マルフォイがポッター達に絡むのを見て、同輩の女生徒はどの様に見ているか。「可愛らしい」である。あるいは、赤毛を加えて、「尊い」である。

 男色に興味はないので、同輩たちが「いいよね」「いい……」などと超次元の思索を語り明かしているのは怖気が走る。

 

 

 薬草学の授業は新鮮だった。薬効や用途については知悉していたが、その栽培については全くの未知となる。墓所カビや死血花といった薄暗く、湿度の高い場所に生えるものについては分かるが、それ以外の薬草については知識として知っていても、実践となると知識だけではどうにもならないことがある。それを考慮すれば、知識だけで乗り切っているグレンジャーの努力には頭が下がる。

 一方で、知識だけが試される歴史学は退屈だった。ピンズ教授は教科書に書いてあることの一部のキーワードを板書するのみで、教科書の内容を補足するでもないのだから、授業を受ける価値はなかった。魔法族であれば、細かい年号は試験前に詰め込むとしても、おおよその文脈は分かる為、何が重要かそうでないか等、何となくわかってしまうのだ。

 そういった態度を見ていたのか、グレンジャーは魔法史の授業後に、自分の解釈があっているかどうかを確かめにくるのだった。断る理由もなかったので、口の中で飴玉を転がしながらそれを聞いている。初めの頃は、同じ寮にも魔法族生まれがいるだろうにと思ったが、どうやら獅子寮の中に親しい人間がいないらしい。別段こちらも親しいつもりはないが、頼られるのは悪い気がしない。パーキンソンとブルストロードは嫌な顔をし、ダフネはそれらが嫌な顔をするだろうから避けた方が良いと忠告してくれたが、憐れな少女に救いがあってもよいではないか。

 

 最初に杖を振るうことになったのは、変身術の授業だった。当初から感じていた通り、マクゴナガル教授は厳格な人間で、初回であるだろうから仕方がないだろうと大目に見ることはせず、遅刻したポッターとウィーズリーに説教をしていた。ここで赤毛の生徒がロナルド・ウィーズリーという名であることを知った。マクゴナガル教授は副校長であり、グリフィンドールの寮監である。自らの寮の生徒であっても厳しく接する態度には好感が持てるが、他寮の生徒にはより強く接する可能性もあるので、下手なことはしない様にしようと思った。

 1年生が吸収するには複雑な変身術理論を丁寧に板書した後、マクゴナガル教授は燐寸棒を生徒に配布した。

 

「皆さんには、これからこの燐寸を針に変えてもらいます。必要なのは、イメージをする事です。どの様な物に変身をさせるのか。具体的なイメージがなければ、たとえ何かに変わったとしても、それは何かでしかありません。変身術は高度な理論と、ほんの少しの才覚によって為される、学術たる魔法です。単に魔法的な能力によらず、かといって、一切の魔力を使わないということはありません。変身術の授業では、その機微を正確に理解し、調和させる術を学んでもらいます。不適切な呪文は危険を生みます。ですから、いい加減な態度で臨む者は、授業を受けさせるつもりはありません」

 

 その点、脳に文字を刻めば、望むと望まざるとに関わらず外見が変態する狩人の業の容易な事よ。

 マクゴナガル教授は手を叩き、実践する様にと告げた。皆一斉に杖を取り出し、振り回したり、燐寸をつつき回したりした。

 自分の杖はその様な動作は出来ないので、どの様にしたものかと思案したが、特に良い方法も思い当たらなかった。いつものやり方でやってみる他あるまい。

 懐から杖を取り出すと、マクゴナガル教授は目を見開いた。

 

「ミス・ボーン、それは?」

「は? 杖ですが」

「それはワンドではなく、ステッキではないですか」

「……スターリングシルバー、獣の腱。長さ不定、性質は高潔。地元では一般的なのですが」

 

 仕込み杖。鋸鉈、獣狩りの斧に次いで、初めに狩人が学ぶべきとされている獣狩りの仕掛け武器。

 懐に飛び込む事を覚える鉈。

 リゲインという狩人の生きる感覚を覚える斧。

 敵との間合いを図ることを覚える杖。

 この三種を扱える様になって初めて、狩人としての二歩目を踏むこととなる。杖は単純な火力では他の仕掛け武器よりも劣る為、その分丁寧な立ち回りを意識させられる。そうして敵の動きを覚えれば、別の武器に持ち替えたとしても、より的確に敵の弱点を抉ることが出来る。

 当時の仕込み杖は鋼線と歯車を用いた鞭剣であったが、今はその髄に獣の腱、つまり魔法生物の素材を用いることで、魔法使いの杖として使える様になった。獣狩りにおいて、木材から成る魔法使いの杖はあまりにも心もとない。この改良は、元は人であった獣を用いるという点で冒涜的であったが、故にそれは、戦いの内に高まる獣性を省みる戒めとなる。

 

「貴女のお兄さんもお姉さんも使っていません」

「そうなのですか? でしたら、私もその様にしましょう。こちらではいかがですか。材質は明かせませんが、浮遊や呼び寄せといった物体移動呪文に最適」

 

 星輪樹、エーブリエタースの触角。29センチ。

 狩りの内で切り取った星の娘の触腕と言うべきか、翼と言うべきか、ともかくそれに生える細長い肉。聖杯は無尽蔵の資源を生み出す。杖から水を生み出すことも出来るのだから、聖杯から物体を持ち帰ることも同様に可能である。まさに魔法。

 ヤーナムの財力を支えるのは、これら聖杯から取り出す希少な魔法薬素材と輝く硬貨である。獣狩りの夜明けを迎えたのだ、遂に硬貨の使い時となった。

 今すぐ用意できる杖として、最も現代魔法使いの杖に近い形、大きさをしているのはこの星輪樹の杖だろう。これでも不適とされたならば、一度ヤーナムに戻り、新しい物を作る必要がある。工房に頼めば茶でも飲んでいる間に作ってくれるだろう。

 他の携行品としては、旧主の番犬を芯とした獣狩りの松明がある。火の魔法に優れる。小アメンの腕は、それそのものが杖となるが、あんな冒涜的な物を衆目に晒す事がどの様な結果を生むかは分かりきっている。

 

「良いでしょう。

 ミス・ボーン、申し訳ありませんが、学校として画一的に教える以上、先ほどの杖による最適の方法を教えることが出来ません。もちろん、貴女の変身術の才能が優れていて、いえ、そうでなかったとして、貴女が望むのであれば、個人的に教える時間を設けることはしましょう」

「ありがたいお言葉です。しかし、未だ若輩の身。教授のお時間を頂く前に、まずは私が何に向いているのか、どういう魔法使いになれるのか、見極めてからにしたいと存じます」

 

 至極自然に断ったつもりであるが、上手くいっただろうか。

 自分がイレギュラーであるとされ、個人授業の呼び出しとは、罠に決まっている。

 厳格な人物であることは分かっている。授業の規律や風紀を乱すものは排除すると先程言っていた通り、ホグワーツ教育の基準に合致しない者は、ホグワーツの為に削除するつもりだ。

 父王も、ガスコイン神父も、狩人狩りの狩人アイリーンも、外からヤーナムに来たりし者。月の魔物に魅入られる条件がどの様な物かは未だ分からない。だが、間違いなくヤーナム共同体の外にある者ということは共通項として見て間違いないだろう。即ち、ヤーナムにとっての異物であるのだ。

 幾つもの神話に於いて、異物とは何かの引き金になる。その影響の善悪に関わらず、もたらす変化は既存の秩序の変革を意味し、そしてそれは、秩序に重きを置く為政者である副校長からすれば、許されざるものなのだ。

 悪しき芽は摘み取らねばならない。マクゴナガル教授の目はそう語っていた。あるいは、あまりにも露骨な罠を示唆することで、二度は無いという警告なのだ。

 

 

 怯えながら燐寸を変化させようとしたが、中々難しいものだった。例えば、石ころを投げナイフに変えたり、瓶に変えたりといったことはしてきた。だが、それは模写に近いものであったし、その模写にしても幾度となく練習してきたから出来る様になったことだ。針に変化させようと試みたことはなかったし、針をまじまじと眺めたことはなかった。つまり、明確な針のイメージがない。

 

「うーん。理論は理解出来るんだけど、いまいち実感と合わないね」

 

 ダフネは杖を燐寸に向けるも、銀に変色したのみだった。

 他方、自分の燐寸は赤く着色された頭薬が栗の実の様に棘だらけとなった。

 

「何それ」

「瀉血の槌という。見れば見るほど精巧に出来たものだと思うぞ。全く授業の加点にはならないが」

「メイスね。見事じゃない。廊下に飾ってある甲冑に持たせるといいわ」

「皮肉か?」

「半々ね。この棘だけを折り取ったら?」

「糸通しの穴を付けなさい」

 

 マクゴナガル教授は後ろから覗いていたらしい。

 

 授業が終わる頃に燐寸を針に変身させられたのはグレンジャー1人。見事な針だった。

 ダフネは見事な銀の燐寸棒を作り上げていた。

 こちらは肥大し、メスが出来上がってしまった。これはこれで毒を塗り込めば実用に耐え得るものだろうが、偶然の賜物なので、次は期待できないだろう。

 マクゴナガル教授はグレンジャーを褒め称え、僅かな微笑みを見せた。

 グレンジャーは授業が終わった後に、満面の笑みを浮かべ、こう言った。

 

「歴史学じゃ教わってるけど、変身術は私が教えてあげるわ」

 

 成程、友人が居ないわけだ。




思考の次元が違うと会話にならないって言いますよね。
上位者の声が人ならぬ声としか分からないのと同様、グレンジャーの思考とその他の思考は違うわけです。
マリアちゃん、人の話をしっかり聞きなさい。

「(明確に問題点を指摘してあげれば、改善もしやすいはずよね)あなたのはレビオサー」
という声ならぬ彼女の声を聞くのです。

マグルの娘よ、トイレで泣いているのだろうか。
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