宇宙世紀英雄伝説~一年戦争史~   作:Wave

1 / 10
人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、既に半世紀が過ぎていた。
地球の周りの巨大な人工都市は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を産み、育て、そして死んでいった。
U.C.79年、地球から最も遠い宇宙都市サイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に独立戦争を挑んできた。
この1ヶ月あまりの戦いでジオン公国と連邦軍は総人口の半分を死に至らしめた。
人々はみずからの行為に恐怖した。
戦争は膠着状態に入り、8ヶ月あまりが過ぎた。


Ⅰ砂の十字架編
第1話「ガンダム大地に立つ!!」


 U.C.79年9月18日。当時、宇宙において地球連邦軍の唯一の勢力下であったサイド7の1バンチコロニーに一隻の白い船が入港した。馬が足を前後に伸ばしたような形が特徴的なペガサスのような形をしている。

 ペガサス級強襲揚陸艦2番艦ホワイトベース。地球連邦軍の戦艦で初のMS運用能力を持った新造艦だ。RX計画のV作戦において製造された3機種のMSを受領すべくサイド7へ入港した。

 そこに東洋系の若い士官がいた。体格は中肉中背、黒髪黒目。容姿は実年齢より2~3歳若く見え、軍人というよりは学者のような印象を受ける。

 ヤン・ウェンリー中尉。年齢は22歳。

 ホワイトベースがコロニーに入港するとヤンは当直の最後の仕事として、艦長であるパオロ・カシアス中佐に報告をする。

 

「パオロ艦長、ホワイトベース、サイド7へ入港いたしました」

「ん、了解した。ヤン中尉、ジオンの船はどうなった?」

「入港中もレーダーで確認されましたので、恐らく……」

「そうか、ファルメルからは逃げられなかったか……」

 

 パオロは深い溜息をつく。今後の事を考えれば憂鬱になる。

 ホワイトベースは9月1日に地球連邦軍の総司令部であるジャブローにて竣工され、15日にテストを兼ねルナツーへ向けて出港したが、同日の大気圏突破時にジオンのムサイ級ファルメルに発見されてしまい、ルナツー寄港後も補足されたままだった。

 これがただのムサイ級だったら振り切る自信はあったのだ。しかしファルメルはジオン公国宇宙攻撃軍特務部隊であるため、一筋縄ではいかなかった。

 結局、目的地であるサイド7まで追尾されてしまったため、連邦軍が極秘にMSを開発している事が露見される可能性は高い。最悪の場合はMSとホワイトベースを奪取もしくは撃破されるであろう。

 しかし、生き残るためにはそんな事ばかり考えている暇はない。

 ここから先はパオロを始めとする指揮官達の仕事だ。そう気持ちを切り替え、ヤンを下がらせる。

 

「ヤン中尉、君は当直終わりだな。交代しなさい」

「はっ、失礼します」

 

 

 食堂に入ると先に来ていた二人の後輩士官がいた。

 ヤンの士官学校時代の二年後輩、ブライト・ノア少尉とダスティ・アッテンボロー少尉だ。偶然同じ艦に配属となり、非番の時はよく会っていた。

 

「お疲れ様です」

「お疲れ様です」

「やあ、ブライト少尉、アッテンボロー少尉」

 

 ヤンが座ると、アッテンボローは褐色の液体が入ったカップをヤンに差し出す。

中身は軍用品のインスタントコーヒーだ。

 

「コーヒーはいかがです?」

「いやぁ、遠慮しておくよ。コーヒーがあって紅茶がないのは不公平の極みだな」

「相変わらずの紅茶好きですね」

 

 士官学校からの変わらない好みにブライトは苦笑する。

 

「ここに紅茶があっても、きっとまずいですよ」

「それもそうか」

「ところで、ジオンの船は?」

 

 話題を切り替えるブライトの質問に、アッテンボローはカップを置く。

 ヤンは頭に手を置き、顔をしかめながら口を開く。

 

「結局、逃げ切れなかったよ」

「ルナツーに寄港しても追ってきましたからね。しつこい奴だ」

「それだけの価値がこの船にあるってことさ。まあ、新造艦だから無理もない」

「敵は攻撃を仕掛けてくるのでしょうか?」

「いや、その可能性は低い」

「何故です?」

 

 ヤンは人差し指を立てると推測を淡々と語る。それはまるで数式を述べる学者の用だ。

 

「敵は一隻しかいない。それだけで性能も把握していない新造艦を攻撃するのは自殺行為だ」

 

 ヤンの推測に腕を組み、アッテンボローは頷きながら質問する。

 

「成る程。でも、偵察くらいはするんじゃないですか?」

「そうだな。情報がないんじゃどうしようもない。だが、問題はその後だ」

「その時はその時ですよ」

 

あまりの楽観的な態度にジロリとアッテンボローを睨む。ブライトは声を上げた。

 

「アッテンボロー、なんだその態度は! 敵がすぐ近くにいるんだぞ!」

「別にいいだろ、うるさいな」

「いい加減に自覚を持ってだな……」

「だからお前は老け顔なんだよ」

「何だと!」

「まあまあ、その辺で……」

 

 今にも掴みかかりそうなブライトをなだめようとした時だった。

 突如、轟音と振動がヤン達を揺らす。

 

「うおっ、何だ?」

「隕石か?」

「いや違う。この振動の伝わり方は、爆発だ」

 

 スピーカーから戦闘配備のアナウンスが鳴り響き、ブリッジへ走り出す。

 

 

 ブリッジは騒然となっていて、混乱状態になっていた。

 パオロ艦長はヤン達を目にすると簡潔に説明する。

 

「コロニーの中から攻撃を受けている」

「外のムサイに援軍は?」

「いや、先程と変わらず一隻だけだ」

 

(早すぎる。どういうことだ?)

 

 ヤンは疑問を抱く。

 WBが入港してから一時間もたっていない。そんな短時間で偵察が終わるわけがなかった。

 

「君達は後部ハッチで搬入作業だ」

 

 パオロ艦長の指示でヤン達は後部ハッチへ向かう。

 

 

 ノーマルスーツを着て後部ハッチで作業をしていると、コロニー内の民間人が逃げ込んできた。

 ブリッジに連絡を入れるとパオロ艦長が応答する。

 

「艦長、民間人が保護を求めて逃げ込んで来ました」

『収容しろ。それからヤン中尉、観測を命じる。駐留軍の本部がやられたようで、情報が錯綜している』

「私がですか? 了解しました」

 

 内心では躊躇したが、命令とあれば仕方がない。ブライトに避難誘導、アッテンボロー少尉に引き続き搬入作業を命じると、爆発のある方向へ走り出す。

 

 

 コロニー内にある基地は破壊されていた。

 民間人の移住区にも被害が出ている。

 その惨劇は二体の巨人が引き起こしていた。

 緑色の体と単眼が特徴的なジオン公国軍が誇る汎用主力量産型MS。

 MS-06ザクⅡ。

 ヤンは身を隠すと近くにいるザクを観察する。

 

「あのザクは新兵だな」

 

 ヤンはそのザクのパイロットが戦いなれていないことに気づいた。武装である120mmマシンガンを狙いも定めずにフルオートで撃っているからだ。目に付いたものを闇雲に撃っているようにしかヤンの目には映らなかった。

 次に後方にいるもう一気に目を向ける。

 

「向こうにいるもう一機は手慣れているな」

 

 そのザクは無駄弾を撃たずに狙いを定めてコロニー内にある基地の主要箇所を的確に撃っている。熟練兵であるのは一目瞭然だ。

 しかも、もう一機のザクを制止するかのようにしている。

 それだけで予想よりも早く攻撃が始まった理由が分かった。

 

「大方、戦功を焦った新兵が勝手な行動を取ったって事か。そしてもう一機はやむなく攻撃しながら制止しているのか」

 

 ヤンはホワイトベースに報告すると、ザクがライフルを撃った方角から火線が上がる。

 そして、ザクとは違う白いMSが大地に立つ。

 額にV字型のブレードアンテナ、人間の目を模した複眼式のセンサーカメラが特徴的で、ザク以上に人間に近い形状をしている。

 連邦軍が開発した試作MSだ。

 

「あれは、RX-78!」

 

 コロニー内で史上初のMS同士の戦闘が始まった。

 RX-78は頭部バルカンを撃ちながらザクに接近していくが、足取りはぎこちない。

 まるで赤子が初めて歩いているかのように、よろよろと歩く。

 その動きにヤンは首を傾げる。

 

「なんだあの動きは? あれも新兵なのか?」

 

 やがて弾が尽きると、RX-78は怯えたように棒立ちになった。

 ザクはRX-78に接近し、銃口をRX-78に押しつけようとする。しかし、マシンガンが近づいた時、RX-78が銃口を手で払う。そのままザクの顔にある動力パイプを掴み、引きちぎる。

 ザクはバランスを崩し、地面に倒れた。全高17.5m、本体重量56.2tもあるザクが倒れた衝撃はかなりのもので、コロニー内にも関わらず、地震が起きたように地面が揺れる。

 ヤンは振動に耐え、ザクを圧倒するRX-78のパワーに驚愕した。

 

「す、すごい。あれがRX-78?」

 

 ザクは不利と判断したのか、コロニーの出入り口に向かってジャンプする。

 RX-78はそれを追い、同じくジャンプした。

 バックパックにあるビームサーベルを起動させる。円筒形の柄から発振するピンク色の刃が、ザクを背後から真っ二つに切断した。

 ザクはエンジンまでやられたのか、各部でスパークが起きる。

 

「まずい!」

 

 ヤンは咄嗟に地面に伏せ、体を固定する。

 直後、ザクは大爆発を起こした。スパークによる火花が推進剤に引火したことによる誘爆だ。幸いにも核爆発ではなかった。

 しかし、その爆発はコロニーの壁に穴を開け、デブリが空気と共に流出する。デブリの中のジープ近くにノーマルスーツ姿の二人組がいたが、ヤンにそれを見ている余裕はなかった。

 

「ひどすぎる! 新兵どころか素人じゃないか!」

 

 ヤンはコロニーに穴を開ける原因を作ったRX-78のパイロットを罵る。

 核融合炉で動いているMSをコロニー内などの密閉空間で爆発させるなど、自殺行為にも等しい。下手をすれば核爆発もしくは放射能漏れで大惨事となる。

 残りのザクは僚機が撃破された為か、怒りに任せてRX-78に突進した。

 RX-78は姿勢を低くし、ビームサーベルでザクのコックピットを貫く。今度は爆発しなったが、パイロットは消滅しただろう。

 こうして史上初のMS同士の戦闘は終わった。

 

 デブリで穴が塞がったのか、空気の流出も停まる。

 ヤンはヘルメットを脱ぐと、おさまりの悪い黒髪をかきまわしながら、白い巨人を見上げた。

 

「RX-78……」

 

 地球連邦軍がV作戦に基づき開発した白兵戦用の試作MS。

 当時の最新技術がふんだんに採用され、一年戦争で圧倒的な戦果を上げ後のMSに多大な影響を与えた機体。

 後世でニュータイプと共に語り継がれるとある伝説の元祖。

 正式名称RX-78-2 ──

 

「──ガンダム……」

 

 

 直後、ファルメルからコロニーに向けての攻撃が開始された。

 

 

U.C.79年9月18日。一年戦争終結まであと105日。

 

宇宙世紀の歴史がまた1ページ。




原作からの変更点
・ヤン・ウェンリー
 ブライトの先輩に。
 個人的にブライトは非常識なトップに振り回される、苦労人なNo.2と考えてます。

・ダスティ・アッテンボロー
 ヤンとセットで。
 ブライトの同期。どちらも士官学校の同期が出てないので、そうしてみました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。