9月23日、ホワイトベースは大気圏突入ポイントに到達した。
何事もなければジャブローへ一直線だが、ヤンは戦闘配備の命令を出す。
それを疑問に思ったアッテンボローは手が空いた時を見計らってヤンに質問した。
「どうして戦闘配備を? もう大気圏突入目前ですよ」
「このタイミングで戦闘を仕掛けたという事実は古今例がない。地球の引力に引かれ大気圏に突入すれば、ザクとて一瞬のうちに燃え尽きてしまうだろう。しかし、我々が大気圏突入の為に全神経を集中している今こそ、敵が攻撃するチャンスでもある」
「そんな馬鹿なこと、あのシャアがやりますか?」
ヤンとてこのタイミングで戦闘を仕掛けるなど、馬鹿なことだと承知している。
しかし、相手は赤い彗星のシャアだ。
ルウム戦役でMSの推進力の噴射と同時に、戦艦や隕石を次の標的へ向かう際の踏み蹴る足場として利用するといった、MSの人型兵器である利点を器用に使ったのだ。
そんなことを思いつくようなジオンの英雄が、ホワイトベースが無防備になる大気圏突入に目をつけない訳がない。
「わかってるさ。でも、用心するに越したことはないからな」
その予測は当たっていた。
サラミスの大気圏突入カプセルに追従していたホワイトベースが大気圏突入するタイミングでザク3機を率いてシャアが奇襲を仕掛けたのだ。
現在発進可能なガンダムを出すと、艦から離れないよう指示を送る。
「近づく必要はない。我々の目的は降りることだ。逃げ切れればいい」
時間稼ぎをしながら、厚くした対空防御で敵を寄せ付けず、撃ち漏らした敵を機動力のあるガンダムでピンポイントに撃破することでザクを2機撃破した。
防御に徹したまま、大気圏へ降下が始まる。
途中、サラミスのカプセルが被弾したことでホワイトベースに収容し、ザクに取り付かれたガンダムが単独で大気圏突入したはめになったものの、無事に地球に降下することが出来た。
しかし、これはシャアの罠だった。
シャアはホワイトベースを撃ち漏らしたが、戦闘によって突入角度をずらされ、ジャブローではない場所へ降下してしまう。
場所は北アメリカ大陸東海岸近辺。連邦軍の勢力下ではなく、ジオンの勢力下だ。
ホワイトベースは敵の真っ只中で孤立してしまった。
同じく大気圏をコムサイで降下したシャアは、ジオン軍北米方面司令官へと通信をつないだ。
モニターには長めの前髪をクルクルと指でいじる美男子が映し出された。
『よう、なんだい? 赤い彗星』
「その呼び名は返上しなくちゃならんようだよ、ガルマ・ザビ大佐」
シャアは珍しく陽気な口調になっている。士官学校の同期に久々に話したのだ。
対象的に同乗していたドレンは冷や汗をかいた。
モニターに映っている人物は、ジオン公国軍地球北米方面軍司令で、ジオン公国公王、デギン・ソド・ザビの四男であるガルマ・ザビ大佐だ。
下手をすればドレンのような一軍人の首など容易に切れるほどの影響力を持つ。
『はははは、珍しく弱気じゃないか』
「敵のV作戦って聞いたことがあるか?その正体を突きとめたんだがね」
『なんだと?』
「そのおかげで、私はザクを6機も撃破されてしまったよ」
『ひどいものだな、そんなにすごいのか?』
「そちらにおびきこみはした。君の手柄にするんだな。後程そっちへ行く」
『よーし、そのご好意は頂こう。ガウ攻撃空母で迎え撃つ。緊急出動だ! 私も出る!』
出撃を指示したガルマに副官であるダロタ・アムスドルフ中尉が口を挟む。
「ガルマ様、たかが一隻に何もガルマ様が出撃なさる必要はないのでは? バイエルライン少佐の分艦隊だけで十分ではありませんか?」
もっともな指摘だが、ガルマは意に介さなかった。
「友人を迎えに行くついでだよ。それに、敵は我が軍の領域に土足で踏み込んだ。ならば、司令である私がおもてなしすべきだろう?」
ガルマ・ザビ。ジオン公国軍地球北米方面軍司令にして、ジオン公国公王、デギン・ソド・ザビの四男。
彼は艦隊や部隊の機動力を十全に生かした高速移動を得意とし、追撃中の敵を追い越してしまうほどの用兵の速さからある異名を持っていた。
その名も──
「──
U.C.79年9月23日。一年戦争終結まであと100日。
宇宙世紀の歴史がまた1ページ。
原作からの変更点
・
勿論、中の人ネタです。
・ダロタ・アムスドルフ
ガルマの副官のダロタ中尉と、銀英伝のミッターマイヤーの副官であるアムスドルフを混ぜました。
・カール・エドワルド・バイエルライン
ミッターマイヤーの幕僚から。
階級はガルマに合わせて。