ネタバレになりますが、サブタイ通りです
ガルマ・ザビがシャア・アズナブルの部屋を訪れたとき、彼はシャワーを浴びていた。珍しいことにシャアは仮面をとっていたが、素顔を知るガルマは気にせずに会話を始める。
木馬のことかと思ったが、今夜のパーティにシャアを招待するという内容だった。断る理由もなく、二つ返事で了承した。
すると、ガルマは神妙な面持ちになる。今度こそ本題かと身構えるシャアだったが、ガルマは意外な言葉を出す。
「イセリナに花を送ろうと思うのだが、何を送ればいい?」
「花?」
恋人へのプレゼントという個人的な相談にシャアは脱力しかけたが、ガルマは顔を真っ赤にしながら続けた。
「飛び切り綺麗な、イセリナが喜びそうなやつをプレゼントしたいのだ!」
この坊やは、木馬が最終防衛ラインであるシアトル付近に到達したというのに、色恋沙汰のほうが大事とは。
シャアは呆れ、嫌がらせのつもりである花を提案した。
それを聞いたガルマは歓喜し、部屋から飛び出して行く。
「まったく、だから坊やなんだ。花言葉も知らないのか」
直後、基地外の町にある花屋に血相を変えたガルマと彼を追いかけてきた副官や護衛も駆け込んだことで、大騒ぎになったという。
その頃、ホワイトベースはレビル将軍の特命を受けたミデア補給部隊と合流していた。
孤立無援で戦闘をし続け疲弊していたクルーにとって、物心両面においてまさに渇きを癒すオアシスともいうべきものと言えただろう。
補給物資と交換するかのように、今までの戦闘データとリード中尉以下のサラミスの乗組員、避難民の病人など35名が補給部隊に引き取られる。しかし、ホワイトベース、モビルスーツについては現状のままだった。
連邦軍から見捨てられていないことにヤンは安堵するが、次の補給はジオン北米方面軍の勢力圏を脱出しなければならないことに頭を抱える。
やる気が出ないヤンに補給部隊隊長のマチルダ・アジャン中尉は伝言を預かっていた。
「アレックス・キャゼルヌから伝言よ。生き延びることができたら酒を奢ってやる、と」
「キャゼルヌめ、私が酒で釣られるとでも思っているのか」
士官学校時代に世話になった先輩に毒づくが、無意識にやる気が出ていたヤンだった。
パーティーに出席したガルマは早々に媚びを売る政財界の要人に捕まり、不機嫌になる。
機嫌が回復したのは、恋人であるイセリナ・エッシェンバッハが出席した時だった。
ガルマとイセリナは相思相愛で婚約の約束を交わしていたが、ジオンを憎むイセリナの父の猛反対を受けていた。
パーティーを抜け出した二人はバルコニーでお互いの胸の内を語る。
イセリナはジオンも連邦も関係なくガルマを思慕し、ガルマは結婚を聞き届けてもらえないならジオンを捨ててもよいと、今追いかけている連邦軍の機密を手に入れれば父は無理を聞き入れてくれると語った。
沈んでしまった気分を変えようと、ガルマはプレゼントを取り出す。
「イセリナ、これを受け取ってくれ」
ガルマは黄色のバラの花束を持っていた。それを見たイセリナは驚いた表情を浮かべ、戸惑いながらも受け取る。
「君が喜ぶ綺麗な花を送りたくて、店にあるものの半分を買ってきた。そうだ、チョコレートケーキも……」
「まあ、ガルマ様。そういうことでしたのね。てっきりこのイセリナを袖になさるおつもりかと」
「え?」
「黄色いバラの花言葉は、愛情の薄らぎですわよ。でも、綺麗な花をありがとうございます。うれしいですわ」
ガルマはこの花を薦めた人物に目を向けた。仮面で表情はわからなかったが、笑いを堪えているのか体が小刻みに震えている。
「シャア、謀ったな! シャア!」
直後、木馬が最終防衛ラインであるシアトルに到達したという報告が届いた。
シアトルに隠れた木馬をいぶりだそうと、ガルマは絨毯爆撃を指示するも、成果が上がらず焦りを募らせていた。
度重なる木馬の追撃失敗でザビ家の面子を潰してしまったこと。
イセリナのために功績をあげなければならにこと。
痺れを切らしたガルマは自らザクに乗り込んで地上に降りようとした。それをシャアが止め、変わりに出ると申し出る。
「やってくれるか?」
「当たり前だろう、私は君の部下だ」
「今はそうだが、元々君はドズル兄さんの直属だ。私だって」
「いつになく興奮しているようだが、女性の為に功を焦るのはよくない。落ち着くんだ」
ガルマの内心を読み取っていたシャアだったが、本人は自覚してなかった。
「私がイセリナの為に焦っているだと? 馬鹿な。私は冷静だ」
降下準備の完了したシャアに通信を送る。なんとしても木馬なりモビルスーツを仕留めたかったからだ。
「頼んだぞ、シャア」
『勝利の栄光を、君に』
この時のガルマはまだ、これが最後だとは知らなかった。ただの親友として話せる最後の機会だとは。
地上に降りたシャアは、ガンダムと交戦を開始した。途中、雨天野球場に潜伏中の木馬を発見したシャアは敵の思惑に気付く。
そして、長年の陰謀を実行に移す時と判断した。ガルマと親友をやっているのに終止符を打つのに。
「モビルスーツが逃げるぞ。その先に木馬がいるはずだ、追えるか?」
爆撃を避けるために入ったドームの中で敵の接近を確認すると、ホワイトベースは即座に砲撃準備に取りかかった。
「ガンタンク、ガンキャノン、ホワイトベースの各砲座、銃撃手はおのおの照準合わせ。目標、敵艦隊旗艦。10秒後に一斉射撃」
ホワイトベースの射線上にはガウ攻撃空母の背後が見える。作戦は順調のようだった。
囮となってあらぬ方向へ逃走するガンダムで敵の旗艦を誘導し、爆撃を避けるためドームに隠れたホワイトベース及びガンキャノン、ガンタンクで背後から総攻撃を仕掛ける。旗艦を撃墜されて指揮系統の混乱を利用し、離脱する作戦だった。
ヤンはこの作戦がかなりの確率で成功すると確信していた。仮に撃墜できなくても、ジオン公国の中枢を担う一族のガルマ・ザビの乗る艦が攻撃を受ければ敵は混乱するだろう。
しかし、ガンダムに誘導される敵部隊を見て、ある疑念を抱いた。敵の進撃速度が予想以上に速い。
(妙だな? 何かの罠か? それとも疾風ガルマだから速いのか?)
疑念を抱いたままだったが絶好の機会であることには変わりはない。今攻撃しなければ、囮である
「撃てっ!」
腹をくくり、カウントダウン終了と同時に砲撃を開始した。火線は敵旗艦へと向かって行き、空中で爆発が発生する。
数秒間気絶していた意識を覚醒させたのは血と煙のにおいだった。ガルマ・ザビの副官ダロタ・アムスドルフ中尉が痛む体で立ち上がり、信じられない光景を目にする。
敬愛するガルマが爆発の際に剥き出しになった鉄骨と、壁に身体を挟まれていた。
「が、ガルマ様?」
「……騒ぐな。負傷したのは、私だ。卿では、ない。副官の任務に、上官に代わって悲鳴を上げるというのは、なかったはずだぞ」
何事もないかのように乱れた前髪を自由の利いていた方の手で整えているものの、口の端からは血があふれ、苦痛に顔を歪めている。
ダロタは鉄骨をどかそうとするも、重くビクともしなかった。人手を集めようにも、周りには負傷した者の方が多く、ダロタのように自力で立ち上がれる者は少数だった。
損傷で機体の高度が徐々に下がり始め、ガルマは最後の指示を出す。
「総員、退艦。艦隊、指揮を、バイエルライン、に。私は、いい」
地上では赤いザクのコックピットでシャアが狂ったように笑い声を上げていた。
ようやく復讐の第一歩を踏み出せた。
父の敵。
母の無念。
自分達兄妹が受けた屈辱。
それらすべての恨みを晴らす為に名前を変え、血を吐くような努力をしてきた。
通信を繋げると、虫の息のガルマが出る。
「ガルマ、聞こえていたら君の生まれの不幸を呪うがいい」
『……シャ、ア?』
「君はいい友人であったが、君の父上がいけないのだよ。フフフフ、ハハハハハ」
シャアは射精時にも似た快感と達成感、高揚感、感動を味わっていたが、刹那の出来事だった。
ガルマの最後の言葉は完全に予想の斜め上を行っていた。
「覚悟していたさ、キャスバル坊や」
指揮を委譲された分艦隊司令のカール・エドワルド・バイエルラインは木馬が制空権から離脱したことと、旗艦が撃墜され混乱と士気の低下が発生したことでこれ以上の作戦続行は不可能と判断し、撤退を指示した。
バイエルラインは
「あれを見たか。俺は一生、この光景を忘れられないだろう。
ガルマ・ザビの死は直ちにジオン公国へ急報された。
その報告を受けたジオン公国の公王、すなわちガルマの父デギン・ザビは、手にしていた杖を取り落としたという。
後世の歴史家はガルマ・ザビの死をこう語る。「
U.C.79年10月4日。一年戦争終結まであと89日。
宇宙世紀の歴史がまた1ページ。
原作からの変更点
・アレックス・キャゼルヌ
後々に出す予定です。
・黄色いバラ
中の人ネタです。
・鉄骨に挟まれたガルマ
OVA版のラップの最後と負傷したロイエンタールのセリフを混ぜてみました。
・知っていたガルマ
これがシャアに大きな影響を与えます。