姉は戦略級魔法師、その妹も戦略級魔法師!? 作:KIRAMERO
はい。古都内乱編の最終話前の話です。次で古都内乱編は終わり次は原作では四葉継承編になりますが、彩海奈は四葉家の人では無いので四葉継承編にはなりません。
論文コンペまであと3日に迫り、一高内では準備が本格的になってきた。今日は京都で使う物を事前に送る日になっており彩海奈とレナーテもその準備に駆り出されていた。それが一段落した時には既に夕刻になっており、彩海奈はレナーテが教室に帰ってくるのを待っていた。
「ごめん、待った?」
「ううん、帰ろ」
「うん」
彩海奈はレナーテと合流すると校舎を出て、帰ろうとしたところに達也と深雪から声をかけられ、帰り道にある「アイネブリーゼ」に連れていかれた。
「それで聞きたいことは何かしら?」
「以前言っていたことだが上の意見は変えられたりはしないか?」
「……どういうこと?」
「少々、厄介なことになってきた。先週の土日に京都に行った時一条からも協力してもらえることが出来たがそれでもやはり不安は拭いえないからな。それに古式に関しては幹比古以上の手練は彩海奈以外にいないからな」
「……家の人以外には言ってないけど、私今微妙な立場にいるのよ。先週私宛に手紙が届いてその内容を要約すると「論文コンペに来るな」ってね。そしていつも誰かに見られているような気がしてならないから。だから私は大っぴらに協力する事は出来ないけれど少なからず力にはなれるわ」
「それだけで十分だ」
「それなら帰ってもいいかしら?上のお達しで基本は学校にいる時以外はあまり外にいないで欲しいって言われてるのよ」
「それはすまないな。論文コンペの時は頼りにしているからな」
「ええ、それじゃあね」
私達は『アイネブリーゼ』を出て、家に向かって歩いていると九重 八雲さんに出会った。
「いやあ、久しぶりだねえ」
「お久しぶりですね。リーナの時以来ですか」
「そうだねえ。それで隣の子は初めましてだね、レナーテ・アルベルタさん」
「っ…どうして私の名前を知っているんですか?」
「君の名前を調べるのは容易だったよ。今年から一高に海外からの転校生が来ていて、夏休みにあのアルベルタ家の人が来ていることを考えてみればね」
「それで今日はどのようなご用件でしょうか?」
「なに、さっき達也君に誰からか見られてるって話をしていただろう?それは僕だ。気にしていたならすまなかったね。それにしても僕のことに気付けるのは中々だね。何かあるのかい」
「何かあったとしても、私のバックに誰がいるのかは貴方ならご存知ですよね?」
「それは理解しているよ。もちろんあの家だけじゃなくてそれを支えているのもね」
「理解していただけているのならそれで構いません」
「本題だ。今回の論文コンペ、君はどうするつもりだい?」
「私は一高の現地警備責任者ですよ?行かないわけないじゃありませんか」
「そうか、それなら1つだけ忠告しておくよ。決して達也君達の邪魔をしないことだ。そして彼ら「白日の夜」を信じることだ」
「前者は分かりました。しかし後者はどういう意味でしょう」
「彼らは与えられた仕事は必ずこなす。僕達の中ではそれくらい彼らは評価されている。だからこそそれを信じることを忘れないで欲しい」
「……分かりました」
それを言い伝えると九重 八雲さんは私の解答を待たずに闇の中に消えていった。私とレナーテは自宅へと戻り今日は家にいた紗綺さんに一応八雲さんとの事を話しておいた。
翌々日、今日は論文コンペを明日に控えて一高代表チームと警備を含めたサポートチームは午後から京都へ向かう予定になっている。いつも一高が論文コンペで京都に来る時に定宿にしているCRホテルは高校生にとっては高級すぎるくらいだが、一度定着すれば変えるのも難しいしあえてグレードを下げたいと言う生徒もいないため昔からそのままになっている。彩海奈とレナーテはバスを降り、部屋へ向かうと部屋の机の上に手紙が置いてあった。彩海奈はそれを読むとレナーテに渡し、レナーテが読み終わったところで動きやすい服装に着替えてレナーテは自身に幻想魔法を施し、2人揃って京都の夜の街へと出かけていった。
彩海奈は横浜事変の時と同じ格好、レナーテは幻想魔法を施しているため普通の格好だが人目には姉のナフィーナの容姿を弄った格好に見えている。もちろん2人は誰にも止められずに目的の場所へと辿り着いた。
「お待たせしました」
「……誰だ」
「ああ、すみません。レナーテもう解いて大丈夫よ」
「ふぅ」
「あぁ、もう来てくれたか。すまないな、一高のこともあるのに」
「いえ、まだ本番では無いので少し外を見てくるって先輩にいえばどうにでもなります」
「……見た目と違ってえげつねえな、お姫様」
「お姫様なんて柄じゃありませんよ、私達は」
「いや、俺らにとってってことさ。主の孫娘にそのご友人で姉が国家公認戦略級魔法師ってなりゃそりゃお姫様以外ないっしょ」
「こいつ、こう言ってるけど本当はお嬢様とか色々考えてたんだぜ」
「おい!」
「あんた達、いい加減にしな。彩海奈ちゃんもレナーテちゃんも困っているでしょう?それとそろそろ時間よ。一条の坊やと九島の坊やまで動いてるんだから手短に終わらせるわよ」
「あいよ」
「…うん」
「そんじゃ、行くか。お姫様達には俺達の後方支援を頼む。といってもそんなにすることは無いと思うが念の為な。今日の案件は俺らでも滅多に無い案件だからな」
その言葉と共に私とレナーテそして「白日の夜」の人達がいた場所は無人の場所となった。私は伊吹さんに、レナーテは明日葉さんに手を引かれて辿り着いたのは……
その頃、周公瑾は九島 光宣との戦闘から抜け出し宇治川沿いに時速四十から五十キロの速さで逃げていた。道術の1つである「神行法」だ。しかしここで突如、周公瑾の行く道に空から少女が現れたのだ。
「擬似瞬間移動!?」
ボブカットの少女がジャンパースカートの裾をなびかせながら、拳にはめていたナックルダスターを突き出してきた。少女と周公瑾の間合いは十分離れていたが、周は右足に強烈な痛みを覚えた。それは立っていられなくなるほどに。そこで周は咄嗟に白いハンカチの陰で右足の感覚を遮断するツボに針を立て、予備に持ってきた最後の令牌を懐から取り出した。ハンカチが落ちた時、周の目の前にはボブカットの少女ではなく赤い拳銃形態のCADを構えた凛々しい顔立ちの少年が立っていた。
「一条将輝……」
「久しぶりだな、周公瑾。あの時は随分と虚仮にしてくれたものだな」
周は宇治川に飛び込もうとしたが、それを制するように爆発が起こった。
「一条家の『爆裂』を前にして水に入るのは、爆弾の山に飛び込むのと同じだ」
背後からの声に、周公瑾が振り向く。
「司波 達也……」
周は咄嗟に鬼門遁甲を行使し、達也の横をすり抜けようとしたが達也の手刀が迫った。それは鋼をも断ち切る妖刀の切れ味を持っていることを知っていたため、バックステップせざるを得なかった。
「何故、私の鬼門遁甲が通用しないのです?」
「鬼門遁甲、見事なものだ。至近距離では効力を失うと聞いていたんだが……お前の術は確かに通じていた。俺にはお前が横をすり抜けようとするのは分からなかった。だがお前の姿は見えなくても、お前の中にある名倉三郎の血の動きは分かった」
「名倉三郎の血……あの時の」
「血で作った針を打ち込まれでもしたか? 名倉三郎の血が残っている限り、お前は俺から逃げられない」
「ここまでですか……」
そう言うと周公瑾は大きくため息を吐き、次の瞬間、将輝に向かって跳躍した。その瞬間、将輝はCADの引き金を引いた。タイムラグなく発動するのは『爆裂』。その瞬間、周公瑾の両足、ふくらはぎが内側から弾けた。ふくらはぎが弾け飛び、神行法は敗れ、周公瑾は道路に転がった。
「これまでだな」
「確かに、ここまでのようですね。ですが、貴方達に私を捕まえることは出来ない。私は滅びない。たとえ死すとも私は、在り続ける!」
「一条、下がれ!」
達也が叫ぶのと同時に後方へ跳躍する。将輝も同じように周公謹から距離を取った。次の瞬間、周の全身から血が噴き出し、赤い血が、赤い炎に変わる。
「ハハハハハハハハハ……」
燃え盛る炎の中、延々と続く哄笑。それは火が消えるまで続き、火が消えた後には、骨も残っていなかった。
「周公瑾は本当に死んだのか?」
「逃げられてはいない。間違いなく、周公謹はあの炎の中で燃え尽きた」
「そうか……これで、横浜事変の後始末は完全に終わったのか?」
「そうだ」
「そうか……危うかったな」
「何がだ?」
脈略の無い将輝のセリフは、達也にも理解できなかった。
「国防軍が操られて、戦車まで出てくるとは。危うく内戦になるところだった」
「市街地であれだけ派手に魔法を撃ち合ったんだ。内戦状態には既に足を突っ込んでいた」
「ならば、事態の早期収束、拡大前に内乱の鎮圧で『めでたしめでたし』ということか」
「そうも言えるかもしれんな」
達也の真面目腐った答えに将輝が笑いだし、達也もつられて笑い出した。二人の笑い声は、寂寞たる秋の風に溶けて消えた。そして暗闇の中から2人を呼ぶ声が聞こえた。
「いやぁ、お見事だ。司波 達也、一条 将輝」
今、彩海奈の目の前では非現実的な出来事が幾らも起こっていた。擬似瞬間移動、鬼門遁甲、爆裂等普通には見れない魔法が立て続けに乱発されていた。それはレナーテも同じようで幾ら幻想魔法を付与していてもその表情だけは読み取れた。
「さてと、ちょっくら挨拶してくるか」
「ああ、お嬢さん達はどうする?」
「少し待ってくれませんか?髪型を変えます」
「お?あん中に意中の奴でもいんのか?」
「違います。私の容姿一度見られたことあるんで変えるんです」
「なるほどな。確かにお姫様方にとっちゃ知られてるから仕方ないか」
「お待たせしました。それでは行きましょうか」
こうして、私とレナーテ、『白日の夜』の皆さんは達也と一条 将輝が立っている場所へと向かっていった。
「いやぁ、お見事だ。司波 達也、一条 将輝」
「!?何者だ。姿を表せ」
「嫌だ。と言ったらどうする?」
「無論、誘き出すまで」
そう言うと一条 将輝は周りに向かって『偏倚解放』を放った。しかし何かに当たった音や無効化された音は一切鳴らなかった。
「腕前は見事なようだが、もうちょっとだったな」
「1つ、聞いてもいいか?」
「もちろんだ、司波 達也」
「お前は俺達の味方か、それとも敵か」
「私はどっちにも付かぬ平等よ。我が主に歯向かわぬ限りは其方等の敵になるつもりは無い」
「そうか、それは同じ5人も同じということか?」
「……見えるのか、その眼は」
その瞬間、風が吹き達也と一条 将輝の周りには6人の男女の姿があった。全員が顔が見えないように仮面を付けており2人を取り囲むように立っていた。
「恐れ入ったよ、司波 達也。少々実力を侮っていたようだ」
「それは何よりだ。それで俺達をどうするつもりだ」
「何、今日は偶々巡り合わされただけで何もするつもりは無い。俺達が追っかけていたのも周公瑾だからな」
「そうか、それでは俺達は帰らせてもらおう」
「ああ、達者でな。司波 達也、一条 将輝」
達也と一条 将輝は彼らを背にして京都市内の自分達の高校が宿泊しているホテルへと戻っていった。そして、彼ら『白日の夜』と彩海奈、レナーテも京都市内へと戻っていった。
京都市内に戻ると、彩海奈とレナーテは『白日の夜』と別れた後京都市内を散策してからCRホテルへと戻った。戻るとまだ達也は戻っておらず私達は何食わぬ顔でホテルの中に入った。やがて自分達の部屋に着くと思わずベッドに倒れ込んだ。
「大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。全く、横浜事変の時に散々見てきた光景なのにね……」
「大丈夫だよ、彩海奈。彩海奈が辛くたって私はずっとそばにいるから。澪さんだって真唯さんだってそう思ってるから」
「……全く、私はどれだけの人に支えられているのかしらね…さ、明日は警備よ。レナーテも十三束君と一緒に気をつけてね」
「うん、彩海奈も気をつけてね」
彩海奈とレナーテは明日の用意をし、夜に行うことを一通りすませてから明日のために眠りについた。
彩海奈達が眠りにつき、時間は深夜帯と呼ばれる時間に「白日の闇」は京都新国際会議場のV.I.P.会議室にいた。本来であるならば魔法協会本部にある特別オンライン会議室にいるべきなのだろうが魔法協会本部は今日の営業は終了していたため京都新国際会議場のV.I.P.会議室にいることになった。
「以上が本日の顛末になります」
『分かった。後はこちらで処理しておく。既に四葉が色々手を回してるみたいだからすることも無さそうだけどとりあえずお疲れ様』
「はっ!」
『それでどうだった実際に一条の坊やと四葉の坊や、五輪とアルベルタのお姫様は』
「一条の坊やはやや実戦慣れはありましたがまだまだと言わざるを得ないです。四葉の坊やはありゃヤバいです。俺達以上のものを持っている。五輪とアルベルタは俺達と共にいてもらいましたがそれでも実戦感覚は恐ろしいものを備えていると言わざるを得ない」
『やっぱりあの『灼熱のハロウィン』はあの子かしらね』
「俺達の中じゃ、今日確信に変わりましたよ。国防軍の基地襲撃のとこから見ていたが四葉の坊やはこの世界ではごく稀な分解魔法を操る魔法師で、あの質量エネルギー変換魔法は分解魔法の究極形態だ。少なくとも最有力候補でしょうな」
『明日葉さんはどう思う?』
「私も同じ。伊吹、蓮華もそやろ?」
「ああ」
「…コクリ」
『全く、貴方達は……それじゃあ会場の警備お願いね』
「あいあいさー」
通信はそこで途切れた。
「それで警備って何するの?」
「うん?あぁ、事前に機材とかを持ち込んでる学校の機材の警備だ。他はここの人がやるけど機材だけはうちがやるらしい」
「なんでそんな雑用みたいなのやるのよ…」
「仕方ないだろ。上からの命令だ」
「……でも最近皆でいること無かったから」
「確かにな。明日葉と会うのなんて1週間ぶりくらいだな」
「そうね……でも皆、それぞれの家があるからね」
「だが俺達がいないとこの国の裏側は守れない。四葉なんてクソ喰らえだ」
「まぁ、私達は表に知られることは無いから、そこは安心よね」
「そうだな……」
如何でしたでしょうか?古都内乱編は色々な場面をカットしてやりましたが次の話で最終話です。最終話といっても当日の話と次の章へのプロローグ的なものになると思います。
今回の話で本格的に『白日の夜』が出てきたのでまた設定集に載せますので見ていただけたらと思います。
今回もご読了ありがとうございました。お気に入り登録、感想、評価よろしくお願いします。