「ふぅん…」
僕はこの物語をよく聞いて育った。
百年前にあったっていうこの物語、正直言って現実味が無かった。
深淵に飲まれたっていう騎士アルトリウスの話とか、
それらと同じでただのおとぎ話だと思っていた。
今日が来るまでは…
「、……い!」
「おーい!起きろ!起きろフィレス!」
「…ふぁあ…はーい!」
目が覚めた。
(久し振りにあの話の夢を見た気がするなぁ…)
いつもと同じで階下からお父さんに起こされて一日が始まる。
でも今日はいつもと違ってお日様が登ってなくて、春なのにまだ肌寒い。
「早く準備して降りてこーい!今日はお前の初めての仕事の日だろう!」
「あっ、そっか…はーい!今行く!」
僕の村では男は10歳になると一人ひとりに仕事が与えられる。
でも仕事とはいってもお手伝いとか、そんなのが多い。
僕が与えられた仕事は木こりの仕事だった。
昨日10歳の誕生日のプレゼントで、お父さんの斧をプレゼントされた。
使い古しだったけど、ちゃんと手入れが行き届いていて手に馴染むいい斧だった。
朝の支度をして、家を出る。
「行ってらっしゃい」「頑張ってこいよ!」
「行ってきます!」
お父さんとお母さんの声を背に受けて家を出た。
(まだ日は低いけど朝焼けが綺麗だなぁ…)
こんなに早起きしたのは初めてで、肌寒い早朝の空気を全身で感じて村を駆け出す。
村の皆と死ぬほど走り回った森だから、目をつむってでも駆け回れる。
(ってことは無いんだけど…)
20分ほど歩いて森に到着。
「よし!始めよう!」
貰った斧で木を強く斬りつける。
「「カコン!」」
「痛った!」
昨日斧を貰ったときに練習したとはいえ、練習と実践は違うもの、
予想以上の反動に手を離してしまった。
「これは大変そうだなぁ…」
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「ふん…最近亡者が多くなってきた…
また"火"が弱まってきたか…」
森の中、一人の黒いローブのようなものを纏った女性が立っていた。
「馬鹿弟子が火を継いでから100年…か。
人間の体にまた呪いの印が浮かび上がってきている…
王のソウルと言えど流石にもう火が弱り出したか。」
彼女は、そう呟きながら森を歩いていると…
(ガサッ…)
背後に人ならざる何かが立っていた。
その姿はかろうじて人形を留めているが、筋肉は削げ落ちその瞳は
赤く染まっていて、焦点はどこにもさだまっていない。
その姿は物語の中の亡者に酷似していた。
『大発火』
女性が右手を亡者にかざし、そう呟くと
彼女の目の前が火で包まれた。
その火に巻き込まれた亡者は燃え尽きて、その跡には塵すら残らなかった。
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「ふぅ…つかれたぁ…」
僕は森の中で木こりをしていた。
「おじいちゃんも僕が10歳になったからってこんな辛い仕事させなくてもいいのになー木こりなんて大人の仕事じゃないかぁ…」
(ガサッ…)
背後で草の擦れる音がした。
「ヒエ…お父さん、べ、別にサボってた訳じゃ…」
後ろを向くとそこには
「ア…アァ…」
亡者が立っていた。
混乱して足が動かない。
「え…?」
亡者は僕ににじり寄ってきた。
「ァ ア…アァ… 」
亡者は右手の折れた剣を振り上げた。
「た…たす、け…」
声は届かない。亡者は何か訴えるようにこちらを見て、
「ア…アア…アァ…」
剣を振り下ろした。
不思議と最後は怖く無かった。
死ぬってこんなもんかと、そう思ったのかも知れない。
目を開けると、凄まじい熱気とともに亡者が燃え尽きていた。
「え…え?」
頭が追いつかない。
(なんで?なんで?なんで燃えて…え?)
僕は訳もわからず傍の木に持たれかかるようにへたりこんでしまった。
「……少年、大丈夫か?」
声をかけられ視線を上げるとそこに大人の女の人が立っていた。
黒いフードを深く被っているから顔は見えないけど、
雰囲気が大人びていて凄く綺麗だなと思った。
「本当に亡者が多い…これは宿を探すのは厳しそうだな…」
「え…えと…誰です…か?」
混乱してそんな事しか言えなかった。
「私はクラーナ」
「クラーナさん…えと…そ、その呪術って…」
「話は後だな。まずはこの雑魚共を蹴散らしてからだ。」
そう言われて、周りに注意を向ける。すると木の影から亡者が2体出て来る。
「ア…ア…ア…」
「アァ…ア…」
「…少年戦ったことはあるか?」
「ないです…」
「ふむ…そうか…まぁいい。
方法は問わん一分間生き延びろ、そうすれば私が焼き払おう。
ただし、逃げるな。」
「え?逃げるなって…」
「死にたいなら逃げるんだなこの森には多くの亡者が居る。
恐らく近くの集落かなにかが潰れたんだろうな…
そんな場所を視界の悪い森で逃げたら囲まれて殺されるのがオチだろう。」
そう言って彼女は右側の亡者と対峙した。
(せっかく一人前の男になるための一歩を今日踏み出したんだ。
死ぬなんて絶対にゴメンだ…)
深呼吸を一回。
「一分で良いんですよね…」
「…いい返事だ。」
クラーナさんの口元が緩んでいた。
(よし…)
僕は左側の亡者と対峙した。