混沌の魔女。   作:kame-3

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2話

化け物と対峙する。

 

(1分か… )

 

いつもなら少しの時間、けれども今は化け物の目の前、1秒1秒を意識してしまって全く時間が進まない。

自然と呼吸も荒くなり、脂汗が背中を伝う。

 

「アァ…」

 

化け物が唸り声を上げて近づいてくる

 

「く、くるなぁ…」

 

亡者の破けた衣服から見えるのは老婆のような腕、その手に持つのは折れた剣。

まるでその亡者の心を表したように

錆びて朽ちたその剣は空を切り、ただ振り回される。

空を切るのはただ力によって振り回されるだけのもので、

 

「あ …あぁ…」

 

なんの訓練もしていない村の子供が、亡者になったとはいえ大人の腕力にかなうはずもなく

斧を握っていた手の指は折れ

 

「ぁ…あぁ…」

 

小さく空いた口から溢れ出るのは絶望の音、

さきほどまであった生き残る自信なんて、どこかに霧散した。

その代わり、心を満たすのはただの恐怖。

目の前にいる亡者を見上げる力もなく、自然と斧に目線が落ちる。

 

下がった頭。

 

「…………」

 

絶望に飲まれるココロ。

 

先程までの威勢は消え

それはまさに深淵の闇に飲まれた残り火

 

それには周りに火を移す力も無くただ消えるのを待つのみ。

 

「ア、ァ……ァァァ」

 

亡者の声に顔を上げる

そこには、折れた剣を上段に高く振り上げ

今にもその剣を振り下ろさんとしている。

 

 

 

 

「先程の威勢はどこに消えた?少年。」

 

 

 

 

視界が白く染った。

その後に、身を焦がすような高熱と、

矮小な子供なら軽く弾き飛ばす衝撃が襲いかかる。

 

「ガハッ!?」

 

視界が晴れる前に背後の木に背中を打ち付け、肺の空気が全部抜ける。

 

(キーーーーン…………)

 

そこで、僕の意識は途切れた。

___________________________________________

 

 

 

 

「おい少年、大丈夫か?」

「ん…んぁ…」

 

ゆっくりと覚醒する。

おきるとすぐに体の至る所から激痛が走った。

「ッッッッ!!!!!」

 

「落ち着け、まだ周りに亡者がいる、気が付かれると面倒だ。」

 

「そ、そんなこと言われてもッッ!!!!!!」

 

痛みにのたうち回ると、頭になにかかけられた。

 

「あ…れ?」

 

不思議と痛みがきえていく。

それどころか謎の液体に触れた所の傷はたちまち治って行った。

「落ち着けと言っている」

「なんですか…?これ、金色に光ってる…」

「これはエスト、“不死に効く”万能薬だよ。毒には効果を持たないがな」

 

“不死に効く”

 

「それってどういう…」

「ん?自分が不死な事に気がついていなかったのか」

 

さっきの亡者がフラッシュバックする。

体はやせ細り人間性を無くしたもの。

 

「僕って、あんなのと同じなの…?」

 

「少し違うな。全てを失い、全てを欲す人間の成れの果て、それが亡者さ。」

 

「な、なるほど…?」

 

抽象的過ぎて僕にはあまりよく分からなかった。

そんな僕の呆けた顔を見てかクラーナさんは少し笑った。

 

「フフ…落ち着いたようだな。ところでいくつか質問があるのだが」

 

「は…い。なんですか?」

「お前…いやまずは名前だろうな。

少年、名前はなんと言うんだ?」

 

「フィレスです。」

「フィレス。まずお前はここで何をしていたんだ?」

「ええと…」

僕はクラーナさんにこの村の風習を話した。

折れかけていた心は少しづつ落ち着いた。

話を聞いてくれるクラーナさんはまるでお母さんのようだった。

「それでお父さんの斧で木こりの仕事に来ていました。」

 

「…その村はこの近くにあるのか?」

 

「はい、今からなら太陽がてっぺんに来る前に帰れますよ?」

 

と言って空の太陽を指さす。

空の太陽を見るとまだ8時くらいの所にあった。

 

(…?太陽が見える?)

 

太陽を直接見られたことに疑問を覚えた。いつも眩しすぎて見れない太陽が今日は全く眩しくない。

「その村の他に村はあるか?」

クラーナさんにそれを打ち消されてしまった。

「…あぁ!えーっと、僕の村とは逆方向の森の向こうに1つ小さな村がありますよ。そこの村はこの森をぬけたすぐ先ですね」

 

「なるほど…な。」

 

「???どうかしましたか?」

クラーナさんがいきなり顔をしかめた。

「恐らくこの亡者どもはその村から来た奴らだろうな。」

「この亡者って…あの村の人ってことですか…?」

「おそらくな。1番近い村はフィレスの村だろう。そこを察知したヤツらがこの森に迷い込んでいるんだろうな…」

考えるようにように腕を組むクラーナさん。

「それって僕の村も危ないんじゃ…」

「かなり危険だろう。いくら亡者でも1匹1匹なら大人ならば簡単に撃退できる。だがこいつらのタチの悪い所は群れるという事。

塵も積もればなんとやら、こいつらの群れを倒すのは一苦労だ。一般人なら簡単に殺されるだろうな」

「…」

息を飲む。僕の村もあまり大きいとは言えない。働ける大人もこの時間は仕事に行っているだろうし、村に今残っているのは…

「女の人と、子供だけ…」

「そういう事だ。あまり時間はかけられないな。すぐに村に向かおう」

 

_

 

森の向こうの村

 

クラーナとフィレスが亡者と戦う少し前。

この世界で初めての亡者がここで生まれた。

 

「頼むよぉ俺も死なせてくれよォ…………」

1人の男の泣き声が村に響いていた。

この男の子供は数日まえに死んでしまった。

生きる意味を失ったこの男は、自害しようと思ったのか、ナイフを喉元に突き刺し、血を吹き出しながらもまだ生きていた。

「なんで…なんで俺は死ねないんだよぉ…それなのによぉ…なんで俺の子は死んじまったんだ…」

絶望に飲まれる男の瞳にもう人間性は無い。

「あぁ…あぁ!!!」

ナイフを強く喉に突き立て、男は死んだ。

その代わりに居たのは。

ただの物だった。




先週投稿した2話は、まだ下書きだった事をいま気がついたので削除し、再投稿しました。
削除前の2話を読んでしまった方、申し訳ございませんでした。
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