混沌の魔女。   作:kame-3

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3話

「お願い…お父さん、お母さん…生きてて!」

少年のか細い声が木々の揺れる音と2人の足音でかき消される。

フィレスとクラーナは10分ほど森の中を駆けていた。

「もうそろそろです!」

見慣れた村のシルエットがフィレスの視界に入る。

「ハァハァ…」

息を荒らげながら自分の家まで駆け込む。

ドアを勢いよく開けフィレスは叫んだ。

「父さん、母さん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおフィレス、早かったな、どうした?」

 

 

「と、父さん…ごめん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「間に合わなくて…」

 

聞こえてきた声は幻聴だった。

分かってた。

クラーナさんの制止する声は聞こえてた。

遠目からの景色を見ても。

笑い声じゃなく、うめき声が聞こえてくる村の広場も。

漂う血の匂いと重たい空気。

僕は叫んだ。

「うあぁぁぁぁあ!!!」

 

「あ゛ぁ…」

 

呼応するようにうめき声が目の前の父さん“だった”ものから零れる。

 

「だから止まれと言ったんだ…」

 

クラーナさんの声が聞こえた。

 

「なんでこんな…酷いじゃないか…」

 

「なんでボクだけ生きてるんだ…」

 

ボクの存在がブレていくような感覚…

少しずつ…少しずつ…ボクが無くなっていくような。

 

「フィレス!!」

 

『火球』

 

クラーナさんの口から短い物語が紡がれる。

 

「あ゛ァ…」

 

父さんは一瞬で燃え吹き飛んだ。

テーブルと共に吹っ飛ぶ父さんを眺めながら僕はただ呆然としていた。

突然起こった出来事に脳の処理が追いつかない。

 

「あれ?父さんは?」

「逃げるぞ!この村はもうダメだ!」

「うぇ…?」

うなだれていた僕をクラーナさんが横腹に抱えて走り出した。

「まっ…て…お父さんが…お母さんが…」

「あんな所にいたらお前もああなるぞ!!ぐっ…邪魔だ!」

 

火球の音で集まってきた亡者を焼き払いながらクラーナさんは森に向かって駆けた。

 

「一旦逃げるぞ!確か篝火が向こうの方に…」

 

抱えられた僕の目に、燃え上がる家がうつった。

 

 

「なん、で…」

 

フィレスの意識はここで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

森の中

 

フィレスの寝息と、篝火の音だけがクラーナの耳に入ってくる。

日は陰り、辺りは暗く風もない。

フィレスはうなされていて苦しんでいる。

あまりに急な出来事。

10歳になってすぐの子供が許容できるものじゃない。

 

「それでもお前は逃げられないだろうな。」

 

手の甲を見ると不死人の証であるダークリングが刻まれていた。

 

「…亡者になんかなるんじゃないぞ。」

 

フィレスの頭を撫でながらそう呟くと、

 

「…んぁ…?お母、さん?」

 

フィレスが目を覚ました。

クラーナを見ると周りを見渡す。

目に映るのは家では無く木と篝火の火のみ。

 

「あ、れ?また…森?」

 

フィレスの脳がだんだんと、状況を理解していく。

化け物になってしまった父親の顔、そこには生気と呼べるものは宿っておらず、老衰したような肌にがらんどうの瞳。

 

「…………あぁそっか、いなくなっちゃったのか。」

 

涙が流れた。

 

「なっ…なんで…なんでぇ、」

「…」

 

泣くフィレスを優しく抱くクラーナの心中には、かつて

異形となってしまった姉妹の姿があった。

 

 

 

 

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